離婚を検討する際、慰謝料と養育費について「どちらももらえるのか」「どう違うのか」といった疑問や不安を抱える方は少なくありません。
慰謝料と養育費は、双方とも貰えるお金に変わりはありませんが、法的根拠や、性質が全く異なります。
慰謝料は、離婚せざるを得ない原因を作り出した配偶者に対して、精神的苦痛を慰謝するために請求できるお金です。一方、養育費は、基本的に離婚後も子どもを監護する親が、他方の親に請求できるお金です。
それぞれの意味や相場、そして確実に受け取るための方法を正しく理解しておくことは、離婚後の生活を安心してスタートさせるために不可欠です。
この記事では、慰謝料と養育費の関係や請求できるケース、金額の目安、そして「なし」にすることのリスクまで、あなたが抱えるお金の問題を解決するためのポイントを弁護士が分かりやすく解説します。
ここを押さえればOK!
慰謝料は不倫やDVなどの有責行為により、離婚の原因をつくった相手に精神的苦痛への償いとして請求するもの。一方、養育費は子どもの養育に必要な費用で、離婚の原因に関係なく、親として子どもを扶養する義務に基づき支払われるものです。
離婚慰謝料の金額は数十万円から300万円程度が裁判上の相場とされていますが、個別の事情によって変動します。
養育費は裁判所が公表する算定表を目安に決めるのが一般的です。
どちらも、相手が「支払えない」と主張しても、安易に諦めてはいけません。特に養育費は子どもの将来に関わる重要なお金です。
口約束ではなく書面で合意内容を残すことが大切で、強制執行受諾文言付き公正証書を作成すれば、一定の期間支払いがない場合に、裁判を経ずとも給料や財産を差し押さえる強制執行手続が可能となります。
2024年5月の民法改正により、改正法施行後に離婚した場合には、合意がなくても一定額の養育費を請求できるようになるなど、養育費の受け取りを強化するための法整備も進んでいます。
慰謝料や養育費の問題は、弁護士に相談することで、適正な金額の算定や相手との交渉、書面作成などのサポートを受けることができますので、お悩みの方は一度アディーレ法律事務所にご相談ください。
慰謝料と養育費は別物?それぞれの目的と違いを解説
離婚を検討している方は、養育費と慰謝料の違いをきちんと理解する必要があります。
この2つは全く異なる性質を持つお金です。両者の違いを正確に理解することは、離婚後の生活設計を立てる上で非常に重要となります。
ここでは、それぞれの目的と違いを解説します。
(1)慰謝料は「精神的苦痛」への償い
慰謝料とは、離婚の原因を作った側(有責配偶者)が、相手に与えた精神的な苦痛を償うためのお金です。たとえば、肉体関係を伴う不倫やDV、悪意の遺棄などが原因で離婚に至った場合に、被害者側が請求できます。
慰謝料は、有責配偶者が離婚の原因を作り夫婦関係を破綻させたことに対して認められる損害賠償であり、あくまで相手が法的に責められるべき行為(不法行為)をした責任がある場合にのみ発生するものです。
そのため、お互いの合意で離婚する場合や、性格の不一致などどちらに責任があるか明確でない場合など、離婚しても慰謝料が発生しないケースも多く見られます。
(2)養育費は「子の監護」に必要な費用
一方、養育費は、子どもの監護に必要な費用を指します。具体的には、衣食住の費用、教育費、医療費などが含まれます。
親である以上、離婚後離れて暮らしたとしても、子どもを経済的に扶養する義務があります(民法877条)。通常は、子どもの親権がない側が親権者であり子と同居する側に養育費を支払います(※)。
夫婦間の問題や離婚の原因とは関係なく、子どものために支払われるお金である点が慰謝料と大きく異なります。
子どもを引き取って監護する相手に不倫やDVなどの離婚原因があったとしても、子どもがいる限り、監護していない親は養育費の支払義務を負います。
※離婚する際には、今までは単独親権しか認められていませんでしたが、2024年5月の民法改正により、離婚時に単独親権か共同親権かを選べるようになります。この改正法は、2026年5月までに施行予定です。
慰謝料・養育費はどちらももらえる?請求できるケース
慰謝料と養育費は性質が異なるため、それぞれが請求できる条件も異なります。慰謝料と養育費は別々に請求することが可能です。
(1)慰謝料を請求できるのはどんなとき?
慰謝料を請求できるのは、配偶者に、不貞行為(肉体関係を伴う不倫)、DV(身体的・精神的暴力)、悪意の遺棄(一方的に家を出ていき残された家族が困窮しているにも関わらず生活費を一切出さないなど)などの有責事由がある場合です。
請求する際は、これらの事実を客観的に証明できる証拠(不貞行為であれば、肉体関係がわかるLINEの履歴や写真や動画、ラブホテルを出入りする写真など)が必要となります。
証拠が不十分な場合、相手が事実を認めなければ、交渉を優位に進めることは難しくなります。
裁判を起こしても、相手が否定している以上、証拠がなければ慰謝料は認められないでしょう。
(2)養育費は離婚の原因にかかわらず請求できる
養育費は、基本的に子どもを引き取って監護する側は、離婚の原因がどちらにあろうと、たとえ相手に「お金がないから支払えない」と言われたとしても、請求できます。
養育費の支払い義務は、民法で定められた親の義務だからです(民法766条1項)。
ただし、相手に収入がない場合は、現実的な支払いが困難になることもあります。
養育費の支払い確保に向けた法改正のポイント
2024年5月の民法改正により、養育費の支払い確保が強化されました。
以前は、養育費を請求するためには、まず養育費の合意をする必要がありました。そのため、合意できない親が子の養育費をもらえないという事態が生じていました。
また、合意しても自主的な支払いがなければ、相手の財産を差し押さえるためには、強制執行受諾文言付きの公正証書や調停調書などの債務名義が必要で、手間と時間がかかるという問題がありました。
しかし2024年5月民法改正により、改正法施行後に離婚した場合、養育費の取り決めをしていなくても、離婚時から子どもを主として監護する親は、他方の親に対して、一定の法定養育費を請求できるようになります(※改正法施行前に離婚した場合は、法定養育費は発生しません)。
ただし、養育費はあくまで自主的な話し合いにより決めることが望ましいので、話し合いが可能であれば話し合いをした方がよいでしょう。
また、改正法施行後は、養育費債権に「先取特権」という優先権が付与されるので、養育費の合意書面に基づいて(調停や裁判を経ずとも)、差押えができるようになります(※改正法施行前に養育費の合意がある場合には、改正法施行後に生じる養育費に限る)。
この改正法は、2026年5月までに施行される予定です。
参考:父母の離婚後の子の養育に関するルールが改正されました|法務省
慰謝料と養育費の金額相場と決める際のポイント
慰謝料と養育費の金額はどのように決まるのか、それぞれの相場と、金額を決める際のポイントを解説します。
(1)慰謝料の相場と金額を左右する要素
離婚した場合の裁判上の慰謝料の相場は、数十万円〜300万円程度です。
慰謝料の金額は、離婚の原因となった行為の回数や期間など悪質性、婚姻期間の長さ、幼い子どもの有無等さまざまな要素を考慮して算定されますので、個別具体的事情によって変動します。
合意で慰謝料を取り決めるときは、裁判上の相場より高くなることも低くなることもあります。裁判となると、事実を証明するための証拠が必要となりますし、時間と労力もかかります。まずは、合意での解決を目指すとよいでしょう。
相場や慰謝料の金額の決め方、高額な慰謝料が認められた裁判例など、より詳しくはこちらの記事をご覧ください。
(2)養育費の相場は算定表で確認できる
養育費の金額は、夫婦間の話し合いで自由に決めることができますが、裁判所が公表している「算定表」を目安に決めるのが一般的です。
算定表は、支払う側と受け取る側のそれぞれの年収、子どもの人数と年齢を考慮して、養育費の目安額がわかるようになっています。
算定表はあくまで目安ですので、話し合いによって別途金額を合意することできますが、実務上使用されている算定表を基準にすると、双方合意しやすくなるでしょう。
「慰謝料・養育費は払えない」と言われたら?
相手から「慰謝料や養育費は払えない」と言われた場合、その言葉を安易に鵜呑みにするのは危険です。
慰謝料と養育費は、あなたの今後の生活や子どもの将来に直結する重要なお金だからです。
慰謝料と養育費をあきらめるリスク
慰謝料は、相手の不法行為によって受けた精神的な苦痛を慰謝するためのお金で、法律上、請求できる権利があります。あなたが苦しんだ分、お金で償いを求めたいと思うのは当然のことですし、相手にはしっかりと法的な責任を果たしてもらいたいものです。
たとえ慰謝料が相場より低い金額となっても、何もないよりは、今後の生活に役に立つはずです。
また、養育費を貰わないということは、将来の子どもの生活や教育の費用をすべてご自身で負担することになります。経済的な負担が大きくなるだけでなく、子どもの進路や選択肢を狭めてしまうリスクもあります。養育費は、子どものためのお金です。
相手も親である以上、養育費を支払う義務がありますので、毅然と請求して支払ってもらうようにしましょう。
自分での交渉が難しい場合には、弁護士への相談・依頼をお勧めします。
慰謝料と養育費を確実に受け取るための方法
せっかく合意した慰謝料や養育費も、相手が支払いを怠る可能性があります。
確実に受け取るためには、どのような対策があるのでしょうか。
(1)口約束ではなく書面を作成する
離婚の際、慰謝料や養育費について口約束だけで済ませてしまうと、後から「言った、言わない」の水掛け論になりがちです。
必ず、合意内容を明確にした書面を作成しましょう。
書面には、当事者、誰が誰に支払うのか、支払い金額、支払い方法、支払期日などを具体的に記載します。合意書は2通作成してそれぞれ当事者が署名押印し、それぞれ保管します。
弁護士に依頼すれば、弁護士が本人の代わりに相手と交渉し、合意書面を作成してくれます。
(2)公正証書を作成するメリット
公正証書とは、公証役場で公証人が作成する公文書のことです。強制執行認諾文言付きの公正証書は「債務名義」となりますので、万が一相手が支払いを滞納した場合でも、裁判手続きを経ることなく、相手の給料や財産を差し押さえる(強制執行)手続きをとることが可能です。
ただ、改正民法が施行されれば、養育費を取り決めた合意書があれば、先取特権が付与されるので、債務名義がなくても、合意書に基づいて差押えの手続をとることが可能になります。
※改正法施行前に養育費の合意をした文書がある場合、施行後に生じる養育費に限り、先取特権が付与されることになります。
慰謝料・養育費の問題は弁護士に相談しよう
慰謝料や養育費をもらえるかもらえないかは、離婚後の生活を左右する非常に重要な問題です。
しかし、法律的な知識がないまま相手と交渉すると、不安や心配が伴うのも当然です。また、相手と直接交渉するのは精神的な負担になるから避けたい、という気持ちもよくわかります。
しかし、「不安やストレスになるから請求をあきらめる」ということはしないでください。
弁護士は、あなたの状況を丁寧にヒアリングし、適正な慰謝料や養育費の金額を算定します。また、相手との交渉を代わりに行ったり、公正証書の作成をサポートしたりするなど、あなたの法的権利を守りながら、より良い条件で離婚できるようサポートします。
1人で悩まず、一度弁護士にご相談ください。
【まとめ】
慰謝料と養育費は、それぞれ異なる目的を持つお金であり、離婚の原因にかかわらず、子どもを引き取って監護する側は、基本的に他方の親に養育費を請求できます。
離婚のお金の問題は、離婚後の生活を大きく左右する重要な事柄です。
少しでも不安や疑問がある場合は、一人で悩まず弁護士に相談することをおすすめします。
アディーレ法律事務所では、離婚に伴う慰謝料や養育費の適正額の算定から相手との交渉など、ご依頼者様の状況に応じてサポートいたします。
離婚でお悩みの方は、1人で悩まず、一度アディーレ法律事務所にご相談ください。