「別居中の生活費を請求したいけど、新しく借りた家の家賃(居住費)まで夫に負担してもらえるのだろうか?」「もし私が別居の原因を作ったとしたら、一切生活費はもらえない?」
離婚前の別居中であっても、夫婦には互いの生活を支え合う「生活保持義務」があり、収入の少ない側は、家賃などの居住費を含めた生活費(婚姻費用)を請求する権利があります。しかし、実際に請求できる金額や、別居に至った経緯によって、その権利が制限されるケースがあるため、注意が必要です。
この記事では、別居中の婚姻費用に家賃が含まれるかという基本から、「婚姻費用算定表」に基づいた適正額の考え方、さらには請求する側に別居の原因がある場合の例外的な取り扱いについて弁護士が詳しく解説します。
婚姻費用は原則として「請求したとき」からしか認められないため、適切な額を迅速に獲得するためには、速やかに弁護士に相談し、法的手続きを進めることが重要です。別居後の生活を安定させるため、知っておくべき法的なポイントを確認しましょう。
ここを押さえればOK!
別居中であっても、婚姻関係が継続していれば生活保持義務があり、収入や資産の少ない側は、家賃などの居住費も含めた生活費を婚姻費用として請求できるのが原則です。
ただし、婚姻費用を請求する側に別居の原因がある場合、例えば不倫をして一方的に別居を始めた場合などは、請求が認められないことがあります。
その場合であっても、子どもがいる場合は子どもの生活費分については請求可能です。
婚姻費用の請求方法は、まずは話合いで金額を決めることが一般的ですが、合意できない場合には婚姻費用分担請求調停を申し立てることになります。
なお、婚姻費用は一般的に「請求したとき」から認められるため、婚姻費用分担請求調停の申立てはなるべく早く行うようにしましょう。
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離婚前に別居する理由と婚姻費用について
夫婦が別居しているケースは多数存在します。
例えば、夫婦仲が険悪になり、関係修復のための冷却期間を設けることを決めた場合や、離婚することが決まったので一足先に別居を開始する場合などです。
(1)離婚前に別居する理由
離婚前の別居には、一旦冷静になって夫婦関係の修復に努められたり、じっくりと離婚協議を進められるようになったりする可能性があります。
早く離婚したい一心で、焦って不利な条件での離婚に応じてしまうことは少なくありません。
また、自分は離婚したいと考えているけれど、夫が離婚を拒否しているといった状況であれば、離婚前の別居には次のようなメリットがあります。
- 別居に踏み切ることで、離婚の意思が強いことを夫に伝えることができる
- 協議離婚が困難で裁判になった場合に、別居期間が長くなれば離婚が認められやすくなる
(2)婚姻費用とは
夫婦には、お互いの生活を同じ程度に維持する「生活保持義務」があります。
そのため、収入などの生活費負担能力に応じて、生活費を分担する義務があり、この生活費のことを「婚姻費用」といいます。
そして、一般的に収入や資産の少ない方が、多い方に対して婚姻費用を請求することになります。
別居中であったとしても、離婚していなければ、不仲であっても法律上は夫婦です。
そのため生活保持義務は継続して存在しており、婚姻費用を請求することが可能です。
また、裁判所の一般的な考え方によると、婚姻費用は「請求した時」から認められる(※)ため、「請求しなかったから何年ももらってないけど、過去の分もまとめて請求したい」ということは基本的に難しいです。別居したらすぐに請求し、合意ができないときは、すみやかに婚姻費用を取り扱っている弁護士に依頼して法的手続きをとってもらうようにしましょう。
※「請求した時」がいつなのかを証明できるように、婚姻費用の請求書面は、配達証明付きの内容証明郵便で送付することをおすすめします。
事前に本人に請求せず、調停を申し立てた場合(請求した時点を証明できない場合を含む)は、原則として「調停を申し立てた時」からの婚姻費用が認められることになります。
(3)婚姻費用に別居中の家賃は含まれる?
婚姻費用は、夫婦で分担すべき家族の生活費ですので、子どもの生活費も含まれます。
生活費には居住費や食費、水道光熱費だけでなく、子どもの学費も含まれています。
したがって、夫婦のうち収入などが少ない方が、別居してアパートなどの賃貸住宅に住んでいる場合、必要な生活費には、その家賃も居住費に含まれます。
そのため、家賃を負担していることも考慮して、相当と認められる金額の婚姻費用を配偶者に請求することができます。
「相当と認められる金額」とは、いくらなのですか?家賃全額は請求できませんか?
夫婦で家賃全額支払うとの合意をすれば、請求することができます。ただ、話し合いで金額が決まらない時は、通常裁判所が公開している「婚姻費用算定表」を基準にして、譲歩し合うことになるでしょう。
この算定表では、婚姻費用を請求する側とされる側の収入や、子どもの数や年齢によって居住費を考慮した婚姻費用相当額が定められています。基本的に調停ではこの算定表の金額を基準に婚姻費用が決定されるでしょう。
参考:平成30年度司法研究(養育費、婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について|裁判所 – Courts in Japan
ただし、別居をする原因が婚姻費用を請求する側にある場合など、例外的に婚姻費用分担請求が認められないケースがあります。
例えば、婚姻費用を請求している側が不倫をして、一方的に別居を開始した場合などです。
しかし、このような場合であっても、請求が認められないのは請求している配偶者の生活費分であって、子どもがいるのであれば、子どもの生活費分については請求することが可能です。
【妻が夫に婚姻費用を請求する場合の考え方】

婚姻費用を請求したら、夫は自分名義の住宅ローンを支払っているから、払えないと言ってきました。この言い分は認められるのですか?
自分が住んでいる家の、自分名義の住宅ローンを支払うことは、単に自分にかかる居住費を支払っているに過ぎず、婚姻費用を分担していることにはなりません。そして、住宅ローンやその家については、離婚の際の財産分与で清算すべきで、婚姻費用とは別に考えるべきとされています。
夫の方が高い収入を得ており、妻の居住費を分担すべき場合であれば、自分名義の住宅ローンを支払っていることは、婚姻費用を支払わなくて良い理由や婚姻費用を減額する理由にはならないでしょう。
婚姻費用の請求方法
婚姻費用を請求するなら、まずは請求する旨を伝え、金額などについて話し合うことになるでしょう。
具体的な金額は、合意さえできれば自由に決めることができますが、前述した裁判所の「婚姻費用算定表」を参考にして決めることが一般的です。
話し合いによって合意できない場合には、裁判所に婚姻費用分担請求調停を申し立て、調停委員の仲立ちのもと、話し合いを進めることになります。
調停でも合意できなければ、裁判官の審判により金額が決定されることとなります。
裁判所に調停を申し立てるためには、申立書や戸籍謄本だけでなく、給与明細などの収入に関する資料が必要になります。
先述のとおり、婚姻費用は一般的に「請求したとき」から認められ、さかのぼって請求することはできないのが通常であるため、婚姻費用の分担請求調停の申立てはなるべく早く行うようにしましょう。
そのためには、婚姻費用の分担請求など夫婦問題の経験が豊富な弁護士に、あらかじめ相談しておくことをおすすめします。
【ケース別】別居後の婚姻費用の考え方
別居後、実家に戻った場合など、家賃の支払いが必要な賃貸住宅に住む以外のケースでは、婚姻費用はどうなるのでしょう。
そのようなケースが婚姻費用の請求に与える影響についてご説明します。
(1)別居して実家に住んだ場合
別居後、婚姻費用を請求する側が実家に戻った場合には、居住費の負担がないことも多く、食費などの生活費も少なく済むことがあります。
しかし、そのような影響は実家の好意によるものであるため、婚姻費用の減額や免除にはつながらないと考えるのが一般的です。
もっとも、夫婦間の話し合いや調停の場においては、請求する側が実家に住んでおり、実家に生活費などを支払っていないのであれば、そのことを考慮し、多少減額した金額で合意するケースもあるようです。
(2)婚姻費用を請求する側が夫婦の家に住んでいる場合
婚姻費用を支払う側が、夫婦で住んでいた家を出て別居し、請求する側が引き続き夫婦の家に住む場合は、居住費の負担はないと考えられ、婚姻費用が減額されることがあります。
もっとも、住宅ローンの支払いがある場合は、住宅ローンを支払っているのが誰なのかによって結論は変わってきます。
- 婚姻費用を支払う側が住宅ローンを支払っている場合
婚姻費用を支払う側が住宅ローンと自分の居住費(家賃)を負担し、婚姻費用を請求する側は居住費を負担していないため、その分を考慮し婚姻費用から減額されることが多いです。
- 婚姻費用を請求する側が住宅ローンを支払っている場合
「自分が住宅ローンを支払っているのだから、その分婚姻費用に加算して支払ってほしい」と思うかもしれません。
しかし、住宅ローンの支払いは、「家(マンション含む)」という夫婦の資産を形成するといった意味合いが強く、実務では離婚時の財産分与によって清算すべきものと考えられています。
したがって、月々の生活費として支払われる婚姻費用とは性質が異なるため、原則として、このケースで住宅ローンの支払いが婚姻費用の金額を決める際に考慮されることはありません。
(ただし、別居後の住宅ローンを自分の収入から支払っていたことが、財産分与の際に考慮される可能性はあります)
なお、夫婦一方の単独名義の財産であっても、夫婦が協力して形成した財産という実質があれば離婚時の財産分与の対象となるため、住宅の所有名義は、婚姻費用や養育費の算定には影響しないと考えられています。
財産分与と住宅ローンについて詳しくはこちらをご覧ください。
【まとめ】別居中の家賃も、原則として婚姻費用に含まれる
別居中の家賃も婚姻費用に含まれ、夫婦のうち収入などの少ない方が、多い方に対して請求できるのが原則です。
離婚を前提に別居することを検討中の場合は、離婚を弁護士に相談する際に、婚姻費用についても相談するとよいでしょう。
婚姻費用の請求をお考えの方、離婚をお考えの方は、1人で悩まずに一度アディーレ法律事務所にご相談ください。
















