「慰謝料について話し合いもせずに離婚してしまったけど、離婚した後でも慰謝料は請求できるの?」
離婚の原因が元配偶者の行為(有責行為)にあり、かつ時効の成立前であれば、離婚後であっても慰謝料請求は可能です。
また、慰謝料請求には原則として証拠が必要ですが、元配偶者が自分の責任を認めているのであれば、たとえ証拠がなくても慰謝料を支払ってもらえる可能性があります。
この記事が、離婚後の慰謝料請求を成功させるために役立てば幸いです。
この記事を読んでわかること
- 離婚後でも慰謝料請求できる条件
- 不貞行為における慰謝料請求の時効
- 慰謝料請求に必要な証拠
- 自分で証拠集めする際の注意点
- 有力な証拠がない場合の対処法
法政大学、及び学習院大学法科大学院卒。アディーレ法律事務所では、家事事件部にて、不貞の慰謝料請求、離婚、貞操権侵害その他の男女トラブルを一貫して担当。その後、慰謝料請求部門の統括者として広く男女問題に携わっており、日々ご依頼者様のお気持ちに寄り添えるよう心掛けている。第一東京弁護士会所属。
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離婚後の慰謝料請求の可否と時効について
離婚後の慰謝料請求が可能な場合と、時効について詳しく説明します。
(1)離婚後でも慰謝料請求できる
離婚後であることだけを理由に、一律に慰謝料請求ができなくなることはありません。
そもそも離婚慰謝料とは、離婚原因となる有責行為が存在し、それが原因で離婚せざるを得なくなったために生じた精神的苦痛を償うために支払われるものです。
有責行為とは、夫婦間において離婚原因となった、配偶者の肉体や精神にダメージを与える行為のことです。慰謝料請求の対象となる主な代表例としては、不貞行為や悪意の遺棄、DVなどが挙げられます。
また、不貞行為とは、基本的に肉体関係を伴う不倫のことを指します。
不貞行為の判断基準について詳しくはこちらの記事をご覧ください。
ただし、離婚の際に、相手に有責行為があったことを知りながら、離婚時に取り交わした書面(離婚協議書など)に「慰謝料を請求しない」旨の記載がある場合、原則として慰謝料請求は認められません。
(2)離婚後の慰謝料請求における時効
離婚慰謝料を請求する権利は、「離婚した日」から3年で時効が完成し、原則として時効完成後は慰謝料を支払ってもらえなくなります(時効完成後であっても、相手が任意に支払うのであれば、慰謝料を支払ってもらうことは可能です)。
ちなみに、協議離婚の場合には離婚届の提出日、調停離婚の場合は調停成立日、裁判離婚の場合は判決確定日が、それぞれ「離婚した日」となります。
離婚後慰謝料請求を思い立ち、必要な証拠を集めたりしていると、3年は意外とあっという間に過ぎてしまいますので、くれぐれも時効にはご注意ください。
離婚慰謝料の時効について詳しくはこちらの記事をご覧ください。
(3)慰謝料請求の時効を止める方法
離婚からもうすぐ3年が経つという方は、早急に時効の完成を阻止する必要があります。
時効完成を阻止する方法には、「更新」と「完成猶予」の2つがあります。
時効の更新とは、新しく時効が進行することをいいます。時効の更新事由が生じると、経過していた時効期間がリセットされ、再びゼロからカウントし直されることになります。
時効の完成猶予とは、一定時点まで時効が完成しないようにする仕組みのことをいいます。
例えば、時効の完成前に、時効の完成猶予事由(例:訴えの提起)が生じれば、一定期間(例:判決の確定まで)時効完成が猶予されることになります。
主な時効の更新事由と完成猶予事由は次のとおりです。
更新事由
- 確定判決などによって権利が確定した
- 相手が慰謝料の支払いを認めた
など
完成猶予事由と完成猶予の期間
- 裁判所に訴えを提起した(判決の確定まで)
- 内容証明郵便で相手に慰謝料を請求した(請求から6ヶ月間)
- 協議を行う合意をした(原則、合意から1年)
など
民法改正により、2020年3月31日までに発生した慰謝料請求権については、時効につき少し異なるルールが適用されます。不貞行為がそれ以前に行われていた場合には、ご注意下さい。
民法改正による時効のルール変更について詳しくはこちらの記事をご覧ください。
(4)不貞行為における慰謝料請求の時効
不貞行為があった場合、配偶者だけでなく、不倫相手にも不貞行為の慰謝料(不貞慰謝料といいます)を請求することができます。
もっとも、不貞行為が原因で離婚する場合には、配偶者には不貞慰謝料ではなく、離婚慰謝料を請求することが一般的です。
なお、離婚慰謝料は、原則として不倫相手に請求することはできません。
不倫相手に対しては、不貞慰謝料を請求することになります。
まとめると、配偶者の不貞行為が原因で離婚をした場合の慰謝料請求は、一般的には次のとおりです。
・(元)配偶者に対する請求➡離婚慰謝料を請求する
・配偶者の不貞相手に対する請求➡不貞慰謝料を請求する
では次に、配偶者、不倫相手のそれぞれとの関係における時効の考え方の違いをご説明します。
(4-1)不倫相手に対する時効
不倫相手に対する慰謝料請求は、「不貞の事実と不倫相手が誰なのかを知ったとき」から時効のカウントが開始されます。
時効の期間は3年で期間は離婚慰謝料と同じですが、不倫相手の名前や連絡先などが分かっていなければ、時効のカウントは開始されません。

なお、不倫相手が誰なのか分からなかったとしても、不貞行為から20年が経つと時効が完成します(※2020年3月31日までに20年が経過している場合は,改正前の民法が適用され,除斥期間の経過により慰謝料は請求できません。)
元配偶者に経済力が無く、慰謝料の支払いが現実的に厳しい状況であれば、不倫相手に対する請求を検討することもあります。
ただし、不倫相手に対する請求の場合、「不倫相手がこの人物である」という証拠や、元配偶者が既婚者だったことを知りながら不貞行為に及んだ(または不注意で気付かなかった)という点についても証拠が必要になります。
(4-2)元配偶者に対する時効
先ほど述べたように、元配偶者に対する慰謝料請求権の時効は離婚日から3年です。
つまり、不貞行為の発覚から3年以上経過していたとしても、離婚原因が不貞行為であるといえるかぎり、離婚日から3年以内であれば離婚慰謝料請求の時効は完成していません。
慰謝料を獲得できる有力な証拠

次に、慰謝料請求のための証拠についてご説明します。
元配偶者が自身の有責行為について認め、任意に慰謝料を支払うのであれば、証拠は必要ありません。
ただ、裁判になった場合には証拠が必要になりますが、決定的な証拠があり、元配偶者も裁判では勝ち目がなさそうだと感じれば、裁判になる前の交渉段階で支払いに応じさせられる可能性が高いでしょう。
したがって、たとえ裁判までするつもりがなかったとしても、証拠を獲得しておくことは重要だといえます。
(1)不貞行為の証拠
不貞行為で慰謝料請求するためには、原則として肉体関係を裏付ける証拠が必要です。
例えば、次のようなものが挙げられます。
- メールやLINEのやり取り
- 写真や動画
- 不貞行為を自白した録音や書面(念書)
- 探偵の調査報告書 など

不貞行為の有力な証拠や証拠集めについて詳しくはこちらの2記事もご覧ください。
(2)悪意の遺棄の証拠
民法上、夫婦は同居して互いに協力し、扶助する義務があるのですが、正当な理由なく、この同居義務や扶助義務をはたさなければ、悪意の遺棄となる可能性があります。
ちなみに、単身赴任や親の介護のための別居であれば、正当な理由があり、同居義務や扶助義務違反にはなりません。
悪意の遺棄の証拠としては、生活費が振り込まれていないことがわかる通帳や、別居していることがわかる住民票や賃貸借契約書などが挙げられます。
また、悪意の遺棄が認められるためには、単に生活費を支払っておらず、正当な理由なく別居しているだけでなく、それにより夫婦関係が破綻することの認識まで必要とされています。
(3)その他婚姻を継続しがたい重大な事由の証拠
その他婚姻を継続しがたい重大な事由に該当し、離婚慰謝料を請求できる可能性があるものの代表例としては、DVやモラハラ、セックスレスなどが挙げられます。
DVやモラハラの証拠としては、次のようなものが考えられます。
- 怪我の写真
- 怪我の診断書や、心療内科の受診記録
- DV行為や暴言を吐いている映像・録音
- DV・暴言の内容やその経緯などを具体的に記載した日記
- 第三者に相談していた事実があれば、その人の証言
など
セックスレスを証明するのは難しいことですが、その証拠としては、夫婦関係について記載した日記やメモなどが考えられます。
セックスレスが原因で夫婦喧嘩をすることがあったのであれば、その録音が証拠になる可能性もあります。
DVについて詳しくはこちらの記事をご覧ください。
セックスレスについて詳しくはこちらの記事をご覧ください。
証拠集めの注意点&証拠がない場合の対処法
自分で証拠を集める場合の注意点や、証拠を集めることが難しい場合の対処法をご説明します。
(1)自分で証拠集めをするときの注意点
不貞行為が原因で離婚し、元配偶者に離婚慰謝料を請求する場合を例に説明します。
不貞行為はDVやモラハラなどと異なり、自分の知らないところで行われるうえ、基本的に密室で行うものであるため、決定的な証拠を集めるのが難しいといえます。
しかし、自分で証拠集めをする場合に、行き過ぎた行為をしてしまうと法律に違反してしまう可能性がありますので注意が必要です。
例えば、盗聴や盗撮、窃盗などをして違法に収集した証拠は、裁判になった場合に証拠として認めてもらえない可能性があります。
また、他人のIDやパスワードを用いて、勝手に他人のSNSなどにログインすると、不正アクセス禁止法(正式名称:不正アクセス行為の禁止等に関する法律)に違反するおそれもあります。

(2)有力な証拠がなくても慰謝料請求できるケース
証拠がない場合であっても、元配偶者が自発的に不貞行為などの有責行為を認めており、任意に慰謝料を支払うのであれば、証拠は必要ありません。
不貞行為の場合、発覚時に話し合いなどをしており、不貞行為の存在について共通の認識があれば、証拠がなくても交渉を進められるでしょう。
しかし、元配偶者が事実そのものを否定したり、慰謝料の支払いを拒否したりしている場合には、証拠が必要になってきます。
元夫は離婚する際の話し合いで、不倫について認めて謝罪してきました。
ただ、書面にしたわけでもないし、録音も取ってないんですよね…
そのような場合、今から証拠を作ることができるかもしれません。
例えば、元夫にLINEやメールで、「離婚原因があなたの不倫だったことは、親族には伝えないようにしてください。」などと送り、それを肯定するような内容の返信があれば、不倫の自白として証拠になる可能性があります。いきなりではなく、何かの用事にかこつけて連絡した際のついでに話を振ると自然でしょう。
一般的なポイントは、元夫が自白したことを当然の前提として話を振ることです。
「認めたよね?」「不倫したことは間違いないよね?」などと強く念を押すような伝え方だと、怪しまれたり、慰謝料請求の目的を悟られたりして、否定されてしまう可能性があります。
(3)証拠集めが難航する場合は弁護士に相談・依頼
証拠がない場合、合法的な証拠集めについてアドバイスしてもらえまずので、まずは弁護士に相談してみることをおすすめします。
また、慰謝料請求を弁護士に依頼すると、代わりに元配偶者と交渉してくれますし、裁判になった場合の手続きも任せられます。
そのため、時間的な負担だけでなく、精神的な負担の軽減も期待できます。
【まとめ】離婚後でも元配偶者に有責行為があり、かつ時効の成立前なら慰謝料請求は原則可能
今回の記事のまとめは次のとおりです。
- 離婚後でも慰謝料請求は原則として可能だが、離婚原因となった有責行為が存在し、時効完成前であることが必要
- 離婚時に取り交わした書面(離婚協議書など)に「慰謝料を請求しない」旨の記載がある場合、慰謝料請求は困難
- 時効完成が迫っている場合、更新・完成猶予のための手続きが必要
- 配偶者に対する離婚慰謝料の時効は、離婚の日から3年で完成する
- 慰謝料請求には原則として、離婚原因となった有責行為の証拠が必要
- 慰謝料請求の対象となる有責行為の代表例としては、不貞行為、DVやモラハラ、セックスレスが挙げられる
- 相手が自発的に有責行為を認めれば、証拠がなくても慰謝料請求は可能
- 証拠が必要だが手元にない場合、証拠集めのアドバイスがもらえ、交渉や裁判まで任せられる弁護士に相談・依頼すると良い
離婚後に少し落ち着いてから、慰謝料を請求すべきであったと気付いた場合でも、手遅れではない可能性があります。
ただし、元配偶者に対する離婚慰謝料の請求は、原則として離婚の日から3年以内に請求する必要があります。
また、離婚の原因が不貞行為である場合、元配偶者だけではなく、その不倫相手に慰謝料を請求できる可能性があります。
元配偶者の経済力に不安がある方は、不倫相手に対する慰謝料請求を検討すると良いでしょう。
アディーレ法律事務所では、不貞行為の慰謝料請求につき、相談料、着手金をいただかず、原則として成果があった場合のみ報酬をいただくという成功報酬制です。
原則として、この報酬は獲得した賠償金等からのお支払いとなりますので、あらかじめ弁護士費用をご用意いただく必要がありません。また、当該事件につき、原則として、成果を超える弁護士費用の負担はないため費用倒れの心配がありません。
(以上につき、2023年7月時点)
離婚後の慰謝料請求でお悩みの方は、不貞行為の慰謝料請求を得意とするアディーレ法律事務所へご相談ください。