「家庭内別居で様子を見ようと思っているけど、起こりやすいトラブルがあれば知っておきたい」
家庭内別居とは、一般的に、離婚するほどに夫婦関係が悪化しているにもかかわらず、離婚はせず同居を続けていることをいいます。
経済的な負担が少ない、子どもへの影響が少ない等のメリットがあることから、離婚ではなく家庭内別居を選ぶ方がいます、しかし一方で、家庭内別居には、夫婦での同居関係が継続するので、離婚と比較して精神的なストレスが大きい等のデメリットもあります。
ここを押さえればOK!
家庭内別居を選ぶ主な理由は、経済的負担の軽減、子どもへの配慮、対外的な体裁の維持です。
しかし、精神的ストレスが増えるおそれ、子どもへの悪影響、財産分与の基準時が家庭内別居時とはされないリスクがあるには注意が必要です。
家庭内別居は、「離婚に向けた準備期間」と捉え、財産分与やリスクについて弁護士に相談するなど、計画的に進めることが推奨されます。
離婚、浮気・不倫の慰謝料に関するご相談はアディーレへ!
自宅でらくらく「おうち相談」
「誰にも知られずに相談したい」「仕事や家事が忙しく時間がない」
アディーレならお電話・オンラインでの相談が可能です!
家庭内別居とは?法的位置づけと「仮面夫婦」との違い

「夫婦関係は冷え切っているが、すぐに家を出るわけにはいかない」
このような状況で選択されるのが「家庭内別居」です。法的な定義はありませんが、家庭内別居とは、一般的に、物理的には同居を続けているが実質的には別々に暮らす状態を指します。
具体的には、次のような状態です。
- 夫婦が自宅で顔を合わせないように生活する
- 夫婦としての会話がない
- 夫婦の食事は別々
- 寝室や居間など生活範囲が分離されている
- 子どもは父母のいずれかが全面的に世話をしている(家族としての交流がない)
- お互い家事の協力をしない(自分の家事は自分で行う) など
(1)家庭内別居の法的位置づけ
法的に考えると、「別居」は夫婦が生活の本拠を別にする(物理的に離れた別々の家に住む)ことを指します。
そのため、家庭内別居は厳密には「同居」にあたりますが、実態として夫婦の協力関係が失われているため、婚姻関係が破綻していることの考慮要素となる可能性があります。
離婚は夫婦の同意があれば可能ですが、どちらかが離婚に同意しなかった場合、最終的に裁判で離婚を認めてもらうには法定の離婚事由が必要です。その離婚事由のうちの一つが、「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」(民法770条1項4号)です。婚姻関係破綻の事実は、この法定事由が存在することの考慮要素となります。
第七百七十条 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
引用:民法771条1項|e-gov
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
ただし、物理的に別居していませんので、家庭内別居しているからといって直ちに「重大な事由がある」とはされないでしょう。裁判で離婚が認められるためには、完全別居による数年の別居期間が存在するとか、相手の不貞行為などの離婚事由を主張し、証拠で明らかにしていく必要があります。
※「強度の精神病で回復の見込みがない」という離婚事由は、2026年4月1日に施行される改正民法により削除されます。
(2)仮面夫婦との違い
似て異なるのは、「仮面夫婦」という言葉です。
仮面夫婦は、一般的に、対外的・社会的な体裁のために、人前では仲のいい夫婦を演じる状態の夫婦関係のことをいいます。家庭でも仮面夫婦を演じるパートナーとしての会話があったり、家事をしたりすることもある一方で、お互いに愛情もなく他人と同じような立ち位置ということもあります。夫婦としての愛情はなくなっており、利害関係が同じという限りで協力関係にある夫婦関係にあるといえるでしょう。
離婚ではなく家庭内別居を選ぶのはなぜ?
夫婦関係が悪化していて、会話や協力を一切避けるほどなのに、離婚せずに家庭内別居を選ぶ背景には、主に以下の3つの理由があります。
- 経済的な負担を避けるため
- 子どもへの影響を減らすため
- 対外的な体裁を守り、手続を煩雑さをさけるため
具体的に以下で説明します。
(1)経済的な負担を避けるため
離婚して別居する場合、家計が完全に分かれるため、住居費、光熱費、生活費、通信費など生活費を個人でそれぞれ支払わなければならず、経済的な負担が大きくなります。
家庭内別居であれば、生活費を共同で負担し続けられるため、経済的な負担を抑えられます。
特に、収入の少ない側(専業主婦・夫など)にとっては大きな理由となるでしょう。
(2)子どもへの影響を減らすため
子どもの通学や生活環境を変えたくない、あるいは、夫婦の離婚が子どもに与える精神的ショックを考慮し、「子どもが成人するまで」という期限付きで家庭内別居を選ぶケースもあります。
(3)対外的な体裁を守り、手続きの煩雑さを避けるため
離婚となると、仕事や学校など、対外的な関係で離婚の事実を伝えざるを得ない場合がありますが、家庭内別居であればあえて対外的に伝える必要はありません。
そこで、離婚の事実を会社や親族、知人に知られたくない場合や、離婚に伴う名義変更や住所変更手続などの煩雑さを避けたい場合に、家庭内別居を選択することがあるようです。
家庭内別居中に起こりやすいトラブルと法的リスク
家庭内別居は、お互いに干渉しないとしても、一つの家で生活するので、次のようなトラブルやリスクが生じることがあります。
- かえって子どもに悪影響が及ぶリスク
- 精神的ストレスが増えるリスク
- 財産分与の対象財産が増えるリスク
- 夫婦関係が戻らないリスク
具体的に説明します。
(1)かえって子どもに悪影響が及ぶリスク
子どもは夫婦間の関係や異変に敏感です。親同士が会話をしない、家族で出かけることもない、食事も一緒にしないなどの事情があれば、家庭内の重苦しい雰囲気を子どもが感じ取ってしまうでしょう。そのため、子どもが精神的に不安定になり、学業や生活に悪影響が生じてしまうかもしれません。
(2)精神的なストレスが増えるリスク
離婚せず同居を続けているため、常に不仲となった配偶者の存在を感じながら生活しなければなりません。愛情があればこそ受け入れられた配偶者との価値観との違いも、不仲になるとイライラの原因となってしまうこともあるでしょう。
「同じ屋根の下で暮らさなければならない」という状態は、通常の別居より、精神的なストレスが大きくなる可能性があります。
(3)財産分与の対象財産が増え続けるリスク
後述しますが、家庭内別居だと、財産分与の基準となる「(物理的に離れた)別居時」と言えるかどうかが曖昧になりやすいです。
そのため、家庭内別居を続けている間も財産が増え続けると、それが財産分与の対象とされて配偶者に分与しなければならない可能性があります(逆に相手の財産が増えれば、自分が分与を受けられる財産が増える可能性があります)。
(4)夫婦関係が戻らないリスク
歩み寄りや理解し合う姿勢を失い、家庭内別居を継続すると、お互いに嫌悪感を有してしまい、良好な夫婦関係を取り戻すことが困難になることがあります。
離婚せず、夫婦関係を修復したいという気持ちがあるのであれば、家庭内別居を長引かせることはせず、早いうちに「話し合いたい」という意思を相手に伝えて話し合うようにしましょう。
家庭内別居から離婚へ|知っておくべき財産分与の注意点
将来的に離婚を視野に入れているのであれば、家庭内別居中に、財産分与に関する基本的な知識と準備をしておいた方がよいでしょう。
(1)財産分与の対象となる「共有財産」
財産分与とは、夫婦が婚姻期間中に協力して形成した財産(共有財産)を、離婚に伴って分与することをいいます(民法768条1項)。
どちらに属するか不明な財産は共有財産と推定され(民法768条2項)、財産が夫婦一方の名義であっても、夫婦が協力して形成した財産という実質があれば財産分与の対象となります。
具体的には、不動産、車、家具、家電、現金、預貯金、有価証券、保険解約返戻金、退職金、年金などです。
一方、財産分与によって分けられず、自分のものとして残せる財産のことを「特有財産」といいます。具体的には、婚姻前から有していた個人名義の預金、婚姻後に相続や贈与によって得た預貯金・不動産などです。
基本的には、財産分与には2分の1ルールが適用されますので、共有財産の半分の財産分与を受けることができます。

家庭内別居の場合、財産分与をしたくない側が、「家庭内別居をしていたから配偶者の寄与はなく、夫婦で協力した財産とは言えない」として、2分の1ルールは適用されるべきではないと主張してくる可能性があります。
しかし、家庭内別居は別居と異なり、客観的に夫婦関の協力関係が存在しない、ということは一見して明らかではありません。当事者に家庭内別居の事実について争いがあり、家庭内別居の証拠もない場合には、やはり2分の1ルールが適用されるものと考えられます。
(2)家庭内別居における財産分与の基準時
財産分与の対象となる共有財産が確定する基準時(いつまでに形成された財産を分けるか)は、原則として「別居時」です。
しかし、家庭内別居は同居を続けているため、「いつから財産形成の夫婦の協力関係が失われたか」が争点になりやすいです。
客観的な証拠により、物理的な別居と同様に夫婦の協力関係が失われたと認められない限り、家庭内別居をしていたとしても、同居中は財産分与の基準時と認められにくいといえるでしょう。
離婚の流れ
家庭内別居を経て離婚する場合、通常、次のような流れで進んでいきます。
- 離婚後の生活の準備をする
- 話し合いで離婚を目指す
- 離婚調停を申し立てる
- 離婚裁判を提起する
それぞれについて、説明します。
(1)離婚後の生活の準備をする
離婚すると、自分一人で(子どもがいる場合は子どもと)生活することになりますので、その準備をします。具体的には、次のような準備が必要です。
☑離婚後の住居を決める
☑仕事と収入の見通しを立てる
☑慰謝料請求の可能性を調べる
☑年金分割について調べる
☑離婚後の姓をどうするか考える
☑離婚までに物理的に別居する場合、別居中婚姻費用を取り決める
☑離婚届の証人をお願いする人を検討する
また、並行して、財産分与の希望などの離婚条件も考えてまとめておくようにします。
離婚準備について詳しくは、次の記事を参考にしてください。
(2)当事者間の話し合いで離婚を目指す(協議離婚)

夫婦で話し合うことによって、離婚に合意すれば、どのような理由でも離婚が可能です。
話し合いの場では、感情的に相手を責めたりせず、冷静に理論的に自分の気持ちを伝え、離婚条件について説明するとよいでしょう。
合意できたら、財産分与の詳細などについても誤解の内容にする必要がありますので、離婚協議書を作成しましょう。
その後、離婚届を提出することで、離婚が成立します。
離婚協議書の作成方法について、詳しくはこちらの記事をご覧ください。
(3)離婚調停を申し立てる

当事者間で話し合いをしても離婚や条件について合意できない場合には、配偶者の住所地を管轄する家庭裁判所に離婚調停を申し立てます。
一定の費用や資料を準備する必要がありますので、事前に、弁護士に相談・依頼したり、調停を申し立てる家庭裁判所のホームページなどを確認するようにしましょう。
調停の期日では、夫婦が顔を合わせずに済むよう、別の待合室で待機し、別々に部屋に入って30分から1時間程度調停委員と話をします(かかる時間は次案によって異なります)。調停委員は、お互いの話を聞き、仲介して話し合いでの解決を目指します。
裁判所が必要と判断した場合、調停に代わる審判が行われることがありますが、非常にまれです。
調停の結果、合意できれば調停成立となり、調停調書が作成されます。
調停成立後10日以内に、離婚届と調停調書を市区町村役場の窓口に提出する必要があります。
調停を申し立てても、配偶者が出席しないこともあります。また、話し合っても合意できないこともあります。そのような場合には、調停は不成立となり、離婚するために離婚裁判を提起することになります。
(4)離婚訴訟を提起する
訴状や資料、費用を準備したうえで、夫婦どちらかの住所地を管轄する家庭裁判所に訴状を提出します。
事前に弁護士に相談・依頼したり、訴訟を提起する家庭裁判所のホームページを確認しましょう。
裁判所により裁判期日が指定されますので、その日は裁判所に出廷し、お互いの意見を主張し、証拠を提出します。この裁判期日は、月1回程度指定されるのが一般的で、期日で争点や証拠が整理されると、当事者への尋問が行われることがあります。
裁判を提起しても、話し合いにより和解し、離婚することは少なくありません(和解離婚)。
和解しない場合には、裁判所が離婚を認める判決を出せば、離婚が成立します(判決離婚)。
判決が確定したら、10日以内に離婚届、判決謄本、確定証明書を市区町村の担当窓口に提出します。
離婚や離婚条件で揉めてしまったら弁護士に相談を

離婚の際、財産分与で揉めることは少なくありません。特に家庭内別居のように夫婦関係が悪化している場合、当事者間の話し合いが困難なケースもあります。
そのような場合には、弁護士に相談・依頼して代わりに交渉してもらうことを検討しましょう。
弁護士に相談・依頼すると、次のようなメリットがあります。
- 財産分与の範囲確定:
相手方が財産の開示に非協力的でも、弁護士は調停を申し立てて調査嘱託などの法的な手続きを通じて財産を調査すべく尽力します。 - 適正な主張:
あなたの希望を踏まえて、法的な観点から財産分与などの争点について適切に主張します。 - 幅広いサポート:
弁護士は、財産分与だけでなく、慰謝料、親権、養育費など、離婚に伴う法的問題の解決を目指して、法律の知識や経験をもとにサポートします。
【まとめ】家庭内別居はメリットもあるが、離婚準備のための期間ととらえる
家庭内別居は、経済的なメリットや子どもへの配慮から選ばれることが多いですが、精神的ストレスや、財産分与などのリスクを伴う選択肢であることを理解しておく必要があります。
家庭内別居を選ぶ場合は、「一時的な回避」ではなく、「離婚に向けた準備期間」と捉え、以下の準備を進めることをおすすめします。
- 法的な情報を整理する
- 財産のリストアップと証拠の確保を行う
- 弁護士に相談し、リスクと対処法を把握しておく
離婚に伴う財産分与、慰謝料、養育費などでお悩みの方は、1人で悩まず、一度離婚問題を取り扱うアディーレ法律事務所にご相談ください。
























