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アスベスト被害で死亡した方の遺族に対する年金&救済制度について

作成日:更新日:
kiriu_sakura

※この記事は、一般的な法律知識の理解を深めていただくためのものです。アディーレ法律事務所では、具体的なご事情によってはご相談を承れない場合もございますので、あらかじめご了承ください。

アスベスト(石綿)被害で死亡した方の遺族にはどのような救済制度が設けられているのでしょうか。

アスベスト(石綿)被害で死亡した方の遺族に対しては、労災保険給付、または、石綿健康被害救済制度による給付の2つの救済制度が設けられています。

また、アスベスト(石綿)工場での労働が原因でアスベスト(石綿)被害に遭った場合には、遺族は、国を被告として国家賠償請求訴訟を提起し、和解要件を満たすことで、国と和解を成立させ、賠償金(和解金)を受け取ることが可能です。

さらに、アスベスト(石綿)含有建材を用いて建設作業に従事していたことが原因でアスベスト(石綿)被害に遭った場合には、2021年6月9日に成立した『特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律(以下、「給付金法」といいます。)』により、訴訟手続によらずに、最大1300万円の給付金を受け取ることができる可能性があります。

本記事では、遺族に対する労災保険給付・石綿健康被害救済制度による給付について解説した上で、あわせてアスベスト(石綿)訴訟についても解説します。
本来であれば救済を受けることができたのに、知識がなかったばかりに受け損ねてしまったということがないよう、救済制度に関する知識をしっかりとつけておきましょう。

この記事の監修弁護士
弁護士 大西 亜希子

香川大学、早稲田大学大学院、及び広島修道大学法科大学院卒。2017年よりB型肝炎部門の統括者。また、2019年よりアスベスト(石綿)訴訟の統括者も兼任。被害を受けた方々に寄り添うことを第一とし、「身近な」法律事務所であり続けられるよう奮闘している。東京弁護士会所属。

アスベスト被害で死亡した方の遺族に対する救済制度

アスベスト被害で死亡した方の遺族に対する救済制度としては、大別して、労災保険による補償と、石綿健康被害救済制度による補償の2つがあります。

(1)労災保険による補償

労災保険とは、労働者の業務上の事由または通勤による労働者の傷病等に対して必要な給付を行う公的保険制度のことをいいます。

原則として労働者を一人でも使用する事業所は適用事業所とされ、労災保険の加入義務が事業者に課されます(労働者災害補償保険法3条1項)。
労災保険給付を受けることができるのは、このような適用事業所で使用される労働者や、労災保険に特別加入している方等です。

(1-1)労災保険の要件について

労災保険給付を受けるためには、石綿肺・中皮腫・肺がん・良性石綿胸水・びまん性胸膜肥厚を発症していて、これらが労働者としてアスベスト(石綿)ばく露作業に従事していたことが原因である(業務上疾病)と認められることが必要となります。

そして、それぞれの疾病について、業務上疾病であると認められる具体的な要件があり、業務上疾病であると認められるためには、罹患している疾病ごとにその具体的要件を満たす必要があります。

具体的要件の詳細については、厚生労働省発行のリーフレット『石綿(アスベスト)による疾病の労災認定』をご覧ください。

参考:石綿(アスベスト)による疾病の労災認定|厚生労働省

(1-2)労災保険の給付内容について

それでは、遺族が受けることができる給付の内容はどのようなものでしょうか。

【遺族補償給付】
アスベスト(石綿)被害者が亡くなられた場合に遺族が受け取ることができる主な給付は遺族補償給付です。
遺族補償給付には、遺族補償年金(遺族補償年金、遺族特別支給金、遺族特別年金)と、遺族補償一時金の2種類があります。遺族補償一時金は、労働者死亡当時、遺族補償年金の受給資格者がいない場合、または、遺族補償年金の受給資格者の最後順位者まですべて失権している場合に給付されます。

〈遺族補償年金〉
遺族補償年金の受給資格者は以下のようになります。

順位遺族
1妻又は60歳以上か一定障害※の夫
218歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか一定障害の子
360歳以上か一定障害の父母
418歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか一定障害の孫
560歳以上か一定障害の祖父母
618歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか60歳以上または一定障害の兄弟姉妹
755歳以上60歳未満の夫
855歳以上60歳未満の父母
955歳以上60歳未満の祖父母
1055歳以上60歳未満の兄弟姉妹

※一定障害とは、障害等級5級以上の身体障害をいいます。

遺族補償年金の給付内容は以下のようになります。

遺族数
遺族補償年金
遺族特別支給金
遺族特別年金
1人
給付基礎日額の153日分(ただし、その遺族が55歳以上の妻または一定の障害状態にある妻の場合は給付基礎日額の175日分)
300万円給付基礎日額の153日分(ただし、その遺族が55歳以上の妻または一定の障害状態にある妻の場合は給付基礎日額の175日分)
2人
給付基礎日額の201日分
給付基礎日額の201日分
3人
給付基礎日額の223日分
給付基礎日額の223日分
4人
給付基礎日額の245日分
給付基礎日額の245日分

〈遺族補償一時金〉
遺族補償一時金の受給資格者は次のようになります。

順位遺族
1配偶者
2労働者の死亡当時その収入によって生計を維持していた子、父母、孫、祖父母
3労働者の死亡当時その収入によって生計を維持していなかった子、父母、孫、祖父母
4兄弟姉妹

遺族補償一時金の給付内容は以下のようになります。

遺族補償年金遺族特別支給金遺族特別年金
給付基礎日額の1000日分(ただし、遺族補償年金の受給権者が失権した場合は、給付基礎日額の1000日分からすでに支給された遺族補償年金及び遺族補償年金前払一時金の合計額を差し引いた額)300万円給付基礎日額の1000日分(ただし、遺族補償年金の受給権者が失権した場合は、給付基礎日額の1000日分からすでに支給された遺族補償年金及び遺族補償年金前払一時金の合計額を差し引いた額)

【葬祭料】
アスベスト(石綿)被害者が亡くなられた場合に遺族が受け取ることができる給付には葬祭料もあります。
受給資格者は、葬祭を行うにふさわしい遺族や、遺族がいないなどで葬祭を行った会社や友人等です。
給付の内容は、31万5000円に給付基礎日額の30日分を加えた額(この額が、給付基礎日額の60日分に満たない場合は、給付基礎日額の60日分)が支給額となります。

(2)石綿健康被害救済制度による補償

アスベスト(石綿)被害者が亡くなられた場合で、労災保険給付を受給できないときであっても、「石綿による健康被害の救済に関する法律」(以下、「石綿健康被害救済法」といいます。)に基づく給付を受けることができる可能性があります。

この石綿健康被害救済法は、労災給付の対象とならない方(アスベスト(石綿)工場の周辺住民等)や、労災保険の対象であったが時効によって労災給付を受けることができなくなった方について、その迅速な救済を図るために制定されました。
そのため、労災保険の対象とならない方であっても、以下にある要件を満たすことによって石綿健康被害救済法に基づく給付を受けることが可能です。

なお、労災保険給付と石綿健康被害救済法に基づく給付を同時に受けることはできません。労災保険の対象となる方については、同法に基づく給付の対象とはなりませんのでご注意ください。

(2-1)石綿健康被害救済制度の要件について

「日本国内において石綿を吸入することにより指定疾病にかかった旨の認定を受けた」こと(石綿健康被害救済法4条1項)、または、指定疾病にかかって死亡した者の遺族である旨の認定を受けること(同法5条1項)です。

そして、「指定疾病」とは、アスベスト(石綿)を吸入することにより発症する疾病であって、次の4種類の疾病をいいます(同法2条1項)。

  • 中皮腫
  • 肺がん
  • 著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺
  • 著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚

(2-2)石綿健康被害救済制度の給付内容について

遺族が受け取ることができる石綿健康被害救済制度の給付内容は、指定疾病で療養中に機構による認定後に死亡した場合、救済制度に申請する前に死亡した場合で異なります。
また、救済制度に申請する前に死亡した場合については、指定疾病の種類によって、時効期間が異なります。

【指定疾病で療養中の方が救済制度で認定後に死亡した場合の給付】

給付の種類請求できる場合給付内容
葬祭料死亡した被認定者の葬祭を行う場合19万9000円
未支給の医療費・療養手当死亡した被認定者に支払うべき医療費・療養手当で、被認定者に未支給のものがある場合、被認定者が死亡した当時、被認定者と生計を同じくしていた二親等以内の親族のうち最優先順位の者に支給される。医療費については、死亡した被認定者が、療養を開始した日以降にかかった認定疾病にかかる保険医療費の自己負担分のうち、医療費として被認定者に支給していないもの。
療養手当については、対象月のうち、未支給となっているもの。
救済給付調整金被認定者に支給された医療費と療養手当および遺族に支給した未支給の医療費・療養手当の合計金額が280万円に満たない場合、その差額を、被認定者が死亡した当時、被認定者と生計を同じくしていた二親等以内の親族のうち最優先順位の者に支給される。被認定者に対して支給された医療費、療養手当および未支給の医療費・療養手当の合計金額が280万円に満たない場合、その差額。
なお、医療費には、石綿健康被害医療手帳を医療機関に提示することにより支給された医療費を含む。

【救済制度に申請する前に指定疾病で死亡した場合の給付(疾病が中脾腫・石綿による肺がんの場合)】

給付の種類請求できる場合給付内容
特別遺族弔慰金・特別葬祭料(2006年3月26日以前に死亡した場合)石綿健康被害救済法施行日(2006年3月27日)以前に、指定疾病に起因して死亡した者の遺族で、死亡した当時、その者と生計を同じくしていた二親等親族のうち最優先順位の者に支給される。特別遺族弔慰金として280万円。
特別葬祭料として19万9000円。
特別遺族弔慰金・特別葬祭料(2006年3月27日以降に死亡した場合)石綿健康被害救済法施行日(2006年3月27日)以降に認定の申請を行わず指定疾病により死亡した者の遺族で、その者と生計を同じくしていた二親等親族のうち最優先順位の者に支給される。特別遺族弔慰金として280万円。
特別葬祭料として19万9000円。

【救済制度の申請する前に指定疾病により死亡した場合の給付(疾病が著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺・著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚)】

給付の種類請求できる場合給付内容
特別遺族弔慰金・特別葬祭料(2010年6月30日以前に死亡した場合)改正政令施行日(2010年7月1日)より前に指定疾病により死亡した者の遺族で、死亡した当時、その者と生計を同じくしていた二親等親族のうち最優先順位の者に支給される。特別遺族弔慰金として280万円。
特別葬祭料として19万9000円。
特別遺族弔慰金・特別葬祭料(2010年7月1日以降に死亡した場合)改正政令施行日(2010年7月1日)以降に指定疾病により死亡した者の遺族で、死亡した当時、その者と生計を同じくしていた二親等親族のうち最優先順位の者に支給される。特別遺族弔慰金として280万円。
特別葬祭料として19万9000円。

労災保険給付&石綿健康被害救済制度に基づく給付には請求期限がある

遺族補償給付と特別遺族給付金には、それぞれ請求期限があります。
そのため、これらの受給をお考えの方は、請求期限を経過して受給することができないということにならないよう注意しましょう。

(1)労災保険給付の請求期限

遺族補償給付(遺族補償年金、遺族補償一時金)、葬祭料の請求期限は以下のようになります。

給付の種類請求期限
遺族補償年金被災労働者が亡くなった日の翌日から5年
遺族補償一時金被災労働者が亡くなった日の翌日から5年
葬祭料被災労働者の亡くなった日の翌日から2年

(2)特別遺族給付金の請求期限

石綿健康被害救済制度による特別遺族給付金の請求期限は以下のようになります。
【指定疾病で療養中の方が救済制度で認定後に死亡した場合の給付】

給付の種類請求期限
葬祭料被認定者が死亡した被の翌日から2年以内
未支給の医療費・療養手当医療費の支払いを行った日の翌日から2年以内
ただし、療養を開始した日から申請日の前日までの医療費については、申請日から2年以内
救済給付調整金被認定者が死亡した被の翌日から2年以内

【救済制度に申請する前に指定疾病で死亡した場合の給付(疾病が中脾腫・石綿による肺がんの場合)】

給付の種類請求期限
特別遺族弔慰金・特別葬祭料(2006年3月26日以前に死亡した場合)2022年3月27日まで
特別遺族弔慰金・特別葬祭料(2006年3月27日以降に死亡した場合)死亡した日の翌日から15年以内
ただし、中皮腫または肺がんにより、2006年3月27日から2008年11月30日までに死亡した者の遺族からの請求は、2023年12月1日まで

【救済制度の申請する前に指定疾病により死亡した場合の給付(疾病が著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺・著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚)】

給付の種類請求期限
特別遺族弔慰金・特別葬祭料(2010年6月30日以前に死亡した場合)2026年7月1日まで
特別遺族弔慰金・特別葬祭料(2010年7月1日以降に死亡した場合)死亡した日の翌日から15年以内

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石綿健康被害救済法や労災保険の給付を受けている方でも、賠償金の対象になります!

労災保険&石綿健康被害救済制度の申請方法

ここでは、労災保険や石綿健康被害救済制度への申請方法について解説します。

(1)労災保険の申請方法

労災保険給付が支給されるまでの流れは、

  1. 申請窓口に所定の請求書と必要な添付資料を提出する
  2. 労働基準監督署によって給付対象かどうかの調査が行われる
  3. 労働基準監督署によって給付対象と認められた場合、支給決定通知がなされる
  4. 請求した内容の労災保険給付が支給される

となります。

※なお、石綿肺については、じん肺法に規定するじん肺管理区分に基づき、業務上疾病であることの認定がなされるという仕組みとなっていますので、石綿肺の方については、労災保険の申請前にじん肺管理区分の決定を受ける必要があります。

事業者により実施されるじん肺健康診断を受け、事業者が申請手続きを行うことによってじん肺管理区分の決定を受けることができるほか、離職後については、自身で健康診断を受け、お住まいの地域を管轄する労働局へ申請することによってもじん肺管理区分の決定を受けることが可能です。

労災保険給付を受けるための請求書の様式と提出先は以下の通りです。
療養(補償)等給付については、労災病院や労災保険指定医療機関等で療養を受ける場合、療養を受ける労災病院や労災保険指定医療機関へ所定の請求書を提出することに注意しましょう。

給付の種類請求書の様式提出先
療養(補償)等給付【必要な療養の給付の場合】
療養補償給付及び複数事業労働者療養給付たる療養の給付請求書(5号)
療養給付たる療養の給付請求書(16号の3)
療養を受けた医療機関
【必要な療養の費用の支給の場合】
療養補償給付及び複数事業労働者療養給付たる療養の費用請求書(7号)
療養給付たる療養の費用請求書(16号の5)
所轄労働基準監督署長
休業(補償)等給付
休業補償給付・複数事業労働者休業給付支給請求書(8号)
休業給付支給請求書(16号の6)
障害(補償)等給付障害補償給付・複数事業労働者休業給付支給請求書(8号)
障害給付支給請求書(16号の7)
遺族(補償)等給付【遺族(補償)等年金の場合】
遺族補償年金・複数事業労働者遺族年金支給請求書(12号)
遺族年金支給請求書(16号の8)
【遺族(補償)等一時金の場合】
遺族補償一時金・複数事業労働者遺族一時金支給請求書(15号)
遺族一時金支給請求書(16号の9)
葬祭料等葬祭料又は複数事業労働者葬祭給付請求書(16号)
葬祭給付請求書(16号の10)
介護(補償)等給付
介護補償給付・複数事業労働者介護給付・介護給付支給請求書(16号の2の2)

(2)石綿健康被害救済制度の申請方法

石綿健康被害救済法に基づく給付を受けるためには、独立行政法人環境再生保全機構(以下、「機構」といいます。)から日本国内においてアスベストを吸入することにより肺がんにかかったもの又はかかって死亡した者の遺族である旨の認定を受ける必要があります。

申請から給付までの流れは

  1. 申請窓口へ所定の申請書と必要な添付資料を提出
  2. 機構が医学的判定を要する事項について環境大臣に申し出
  3. 2の結果に基づいて認定等の可否を決定し、認定がされた場合書面にて通知を行う
  4. 給付の支給を開始する

となります。

以下が、必要な提出資料、申請窓口となります。

提出書類
申請窓口
療養中の方の申請手続き
【申請書類】
・認定申請書
・戸籍の記載事項を確認できる書類(住民票、戸籍謄本、戸籍記載事項証明書のいずれか1つ)
・療養手当請求書
・アンケート
・環境再生保全機構
・各地の保健所
・環境省の地方環境事務所
【医学的資料】
《提出必須な資料》
・肺がん診断書
・エックス線検査、CT検査等の画像
《主治医の判断で添付する資料》
・石綿計測結果報告書
・病理診断書
・その他診断の根拠となった検査結果等
お亡くなりになった方についての請求手続き(2006年3月26日以前にお亡くなりになった方のご遺族にとる請求手続き)【請求書類】
・特別遺族弔慰金等請求書
・身分関係を証明できる戸籍類(戸籍謄本、改製原戸籍等)
・生計を同じくしていたことを証明できる書類
・死亡診断書等を法務局に照会することに関する同意書
・アンケート
【医学的資料】
・石綿が原因であることの根拠に関する報告書
・石綿が原因であると判断した根拠となる胸部エックス線・CT検査の画像等
お亡くなりになった方についての請求手続き(2006年3月27日以降にお亡くなりになった方のご遺族にとる請求手続き)【請求書類】
・特別遺族弔慰金等請求書
・身分関係を証明できる戸籍類(戸籍謄本、改製原戸籍等)
・生計を同じくしていたことを証明できる書類
・死亡診断書または死体検案書の写し等(死亡事実、死亡年月日、請求にかかる疾病に起因して死亡したことを証明することのできる書類)
・アンケート
【医学的資料】
・肺がん診断書
・エックス線検査、CT検査などの画像

遺族はアスベスト訴訟で賠償金(和解金)や給付金を受給できる可能性がある

ここまで、労災保険給付と石綿健康被害救済制度について解説してきました。
遺族が受けることができる救済方法は、この2つに限られません。
アスベスト(石綿)工場の労働者の遺族については、国と裁判上の和解を成立させることによって賠償金(和解金)を受け取ることができます。

また、アスベスト(石綿)含有建材を用いて建設作業に従事していた労働者の遺族については、給付金法の成立によって、訴訟によらずに、最大1300万円の給付金を受け取ることが可能となります。

ここでは、工場型アスベスト(石綿)訴訟と、建設型アスベスト(石綿)訴訟について解説します。

(1)工場型アスベスト(石綿)訴訟

工場型アスベスト(石綿)訴訟とは、アスベスト(石綿)工場での作業が原因で、アスベスト(石綿)粉じんにばく露し、その結果として健康被害に遭われた元労働者やその遺族が、適切な規制権限を行使しなかった国にその賠償を求める訴訟をいいます。
2014年10月9日、最高裁は、大阪泉南地域にあるアスベスト(石綿)工場の元労働者やその遺族が国を相手に提起した国賠請求訴訟について、

労働大臣は、昭和33年5月26日には、旧労基法に基づく省令制定権限を行使して、罰則をもってアスベスト工場に局所排気装置を設置することを義務付けるべきであったのであり、旧特化則が制定された昭和46年4月28日まで、労働大臣が旧労基法に基づく上記省令制定権限を行使しなかったことは、旧労基法の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、著しく合理性を欠くものであって、国家賠償法1条1項の適用上違法である

と判断し、国側敗訴の判決(以下、この判決を「泉南アスベスト(石綿)訴訟判決」といいます。)を言い渡しました。

現在、この判決をもとに、同様の状況にあるアスベスト(石綿)工場の元労働者及びその遺族については、国を相手に国家賠償請求訴訟を提起し、所定の和解要件を満たすことが確認されれば、国と裁判上の和解をすることにより賠償金(和解金)を受け取ることが可能となっています。

厚生労働省により公表されている和解要件は以下のとおりです。

(2)建設型アスベスト(石綿)訴訟

建設型アスベスト(石綿)訴訟とは、建設作業に従事していたことによってアスベスト(石綿)にばく露し、石綿肺等のアスベスト(石綿)関連疾患に罹患した元建設作業員やその遺族が、国および建材メーカーを被告として、その賠償を求める訴訟をいいます。

2021年5月17日、最高裁判所第一小法廷により、4つの建設アスベスト(石綿)訴訟(横浜訴訟、東京訴訟、京都訴訟、大阪訴訟)について、国及び建材メーカーの責任を認める判決が言い渡されました。
また、同月18日、この最高裁判決を受け、建設アスベスト(石綿)訴訟の原告団・弁護団等と国との間で、救済の要件等を定めた基本合意書が締結されました。

そして、2021年6月9日、『特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律(以下、「給付金法」といいます。)』が可決・成立しました。
この法律は、建設業務に従事したことによってアスベスト(石綿)にばく露し、中皮腫や肺がん等の疾病にかかった方に対して、訴訟手続によらずに、最大1300万円の給付金を支給するというものです。

これまで、建設業務に従事したことによるアスベスト(石綿)被害については、主に、国や建材メーカーを被告とする損害賠償請求訴訟を提起することで、金銭的な救済が目指されていました。

上記の法律案が成立することによって、国のとの関係では、このような損害賠償請求訴訟を提起することなく、金銭的な救済が図られることとなります。

(3)要件について

給付金の支給要件は、特定石綿被害建設業務労働者等であること、および、期間制限を経過していないことの2つです。

(3-1)特定石綿被害建設業務労働者等であること

『特定石綿被害建設業務労働者等であること』とは、労働基準法9条に規定される「労働者」やいわゆる一人親方等であって、特定石綿ばく露建設業務に従事することにより石綿関連疾病にかかったものをいいます(給付金法2条3項)。

【特定石綿ばく露建設業務について】
特定石綿ばく露建設業務については、給付金法2条1項に規定されています。
日本国内において行われた石綿にさらされる建設業務(土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊若しくは解体の作業若しくはこれらの作業の準備の作業に係る業務又はこれに付随する業務をいう。)のうち、以下の1、2の業務

  1. 石綿の吹付けの作業に係る業務(1972年10月1日~1975年9月30日までの間に行われたものに限る)
  2. 屋内作業場であって厚生労働省令で定めるものにおいて行われた作業に係る業務(1975年10月1日~2004年までの間に行われたものに限る)

【石綿関連疾病について】
石綿関連疾病については、給付金法2条2項に規定されています。
石綿を吸入することにより発生する次に掲げる疾病

(ア) 中皮腫
(イ) 気管支又は肺の悪性新生物(肺がん)
(ウ) 著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚
(エ) 石綿肺(じん肺管理区分の管理2、管理3、管理4、またはこれに相当するものに限る)
(オ) 良性石綿胸水

(3-2)期間制限を経過していないこと

給付金の請求には期間制限があります。そのため、期間制限を経過していないことも給付金の支給要件となります。
期間制限については、給付金法5条2項に規定されています。

[疾病][起算日]
(i)じん肺管理区分管理2、管理3及び管理4と決定された石綿肺管理区分の決定があった日から20年
(ii)(i)以外の石綿関連疾病罹患者※石綿関連疾病にかかった旨の医師の診断があった日から20年
(iii)死亡死亡日から20年

※じん肺管理区分の決定を受けていないが、じん肺管理区分管理2以上の石綿肺に相当する石綿肺の起算日ついては、(i)ではなく、(ii)となると考えられます。

(4)特定石綿被害建設業務労働者等が死亡した場合について

特定石綿被建設業務労働者等が死亡した場合、遺族が自己の名で給付金を請求することができます(給付金法3条2項)。
遺族が複数いる場合における、給付金の支給を受けることができる順位については、給付金法3条3項、同条4項に規定されています。

1位配偶者(事実婚の配偶者を含む)
2位
3位父母
4位
5位祖父母
6位兄弟姉妹

遺族が請求する場合について、注意点が2点あります。

まず1点目は、同順位の遺族が複数いた場合、1人の請求が同順位の遺族全員の請求とみなされるという点です。給付金法3条5項では、
「給付金の支給を受けるべき同順位の遺族が二人以上あるときは、その一人がした請求は、その全額について全員のためにしたものとみなし、その一人に対してした支給は、全員に対してしたものとみなす」
とされており、例えば、配偶者や内縁者が不在で、子が2人以上いる場合、複数の子のうち1人が給付金を請求した場合、子の全員が請求したものとみなされます。

次に、給付金の支給を受けることができる順位が民法の相続法の規定と若干異なっている点です。民法では、配偶者と子がいる場合、それぞれ法定相続人となり、2分の1ずつの法定相続分を有していることになります。
もっとも、給付金法では、配偶者または内縁者がいた場合、たとえ子がいたとしても、配偶者または内縁者しか請求権がないことになります。

(5)給付金額について

給付金額については、『疾病の類型によって基本的な給付金額を算出→減額事由の有無により減額』というプロセスで決定されます。

基本的な給付金額について

給付金額については、給付金法4条1項に規定されています。

[疾病][金額]
(a)じん肺管理区分管理2の石綿肺又はこれに相当する者で指定合併症にかかっていない者550万円
(b)じん肺管理区分管理2の石綿肺又はこれに相当する者で指定合併症にかかった者700万円
(c)じん肺管理区分管理3の石綿肺又はこれに相当する者で指定合併症にかかっていない者800万円
(d)じん肺管理区分管理3の石綿肺又はこれに相当する者で指定合併症にかかった者950万円
(e)中皮腫、肺がん若しくは著しい呼吸器障害を伴うびまん性胸膜肥厚にかかった者、じん肺管理区分管理4の石綿肺にかかった者若しくはこれに相当する者又は良性石綿胸水にかかった者1150万円
(f)(a)又は(c)により死亡した者1200万円
(g)(b)(d)(e)により死亡した者1300万円

なお、遅延損害金及び弁護士費用については支給されませんので、注意が必要です。

(6)減額事由について

減額事由は、石綿ばく露期間による減額、喫煙習慣による減額の2つです。

【石綿ばく露期間による減額(給付金法4条2項)】
下記表の石綿ばく露期間を下回る場合には、100分の90に減額されます。

[疾病][石綿ばく露期間]
肺がん又は石綿肺10年
びまん性胸膜肥厚3年
中皮腫又は良性石綿胸水1年

減額後の給付金額は下記表のようになります。

[疾病][金額]
(a)じん肺管理区分管理2の石綿肺又はこれに相当する者で指定合併症にかかっていない者495万円
(b)じん肺管理区分管理2の石綿肺又はこれに相当する者で指定合併症にかかった者630万円
(c)じん肺管理区分管理3の石綿肺又はこれに相当する者で指定合併症にかかっていない者720万円
(d)じん肺管理区分管理3の石綿肺又はこれに相当する者で指定合併症にかかった者855万円
(e)中皮腫、肺がん若しくは著しい呼吸器障害を伴うびまん性胸膜肥厚にかかった者、じん肺管理区分管理4の石綿肺にかかった者若しくはこれに相当する者又は良性石綿胸水にかかった者1035万円
(f)(a)又は(c)により死亡した者1080万円
(g)(b)(d)(e)により死亡した者1170万円

【喫煙習慣による減額(給付金法4条3項)】
肺がんにかかった特定石綿被害建設業務労働者等で、喫煙習慣がある者については、100分の90に減額されます。なお、石綿ばく露期間による減額事由も認められる場合、石綿ばく露期間による減額により算出された金額に、100分の90を乗じた金額が給付金額とされます。

[疾病]
[ばく露期間減額の有無]
[減額後の金額]
肺がんによる死亡ばく露期間による減額なし
1170万円
ばく露期間による減額あり
1053万円
肺がんばく露期間による減額なし
1035万円
ばく露期間による減額あり
931万5000円

【まとめ】アスベスト被害で死亡した方の遺族は、労災保険給付、または、石綿健康被害救済制度による給付を受給することが可能

本記事をまとめる以下のようになります。

  • アスベスト被害で死亡した方の遺族に対する救済として、労災保険に基づく遺族補償給付等と石綿健康被害救済制度による特別遺族給付金がある
  • 労災保険給付、石綿健康被害救済制度のいずれについても請求期限があるので注意が必要
  • アスベスト被害で死亡した方の遺族については、アスベスト訴訟で国と和解することによって賠償金(和解金)を受け取ることができる可能性や、給付金法に基づき、訴訟によることなく給付金を受け取ることができる可能性がある

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