「離婚するんだし、引っ越し先を配偶者に知られたくない。」
様々な事情から離婚前後の住所を夫や妻に知られたくないという人がいます。
しかし、引っ越しをして住民票を変更すると、引っ越し先の住所がバレてしまうリスクがあります。
ただ、住民票を変更しないままにしておくということもいけません。
なぜなら、公的なサービスを受けづらくなるほか、子どもがいる場合には子供の転校がスムーズに行えないなどのデメリットもあるからです。
離婚前後の転居先を知られたくないという場合、離婚届の提出、住民票の変更の順番や方法について気を付ければ、夫や妻に離婚前後の転居先を知られずにすむことができます。
この記事では、次のことについて弁護士がくわしく解説します。
- 離婚後住民票を変更すると引っ越し先の住所がバレてしまう理由
- 離婚後の住民票を変更しない場合のリスク
- 離婚後の引っ越し先を知られたくない場合にとるべき方法
慶應義塾大学卒。大手住宅設備機器メーカーの営業部門や法務部での勤務を経て司法試験合格。アディーレ法律事務所へ入所以来、不倫慰謝料事件、離婚事件を一貫して担当。ご相談者・ご依頼者に可能な限りわかりやすい説明を心掛けており、「身近な」法律事務所を実現すべく職務にまい進している。東京弁護士会所属。
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離婚届を提出すると、住民票・戸籍はどうなる?
離婚届が提出されると、住民票や戸籍の記載が次のように変わります。
【住民票】
- 本籍欄及び氏の変更
- 住民票上の続柄が「妻」や「夫」から「同居人」に変更
【戸籍】
- 離婚したとの記載がされる
- 結婚時に氏を変更された方が、戸籍を除籍(配偶者と同じ戸籍から出ること)される
離婚後も同居される方もいらっしゃるため、離婚届を提出しただけでは、住所の変更は行えません。
住民票を変更すると、どうして相手に引っ越し先がバレてしまうの?
「戸籍の附票」を見ることによって、バレてしまう可能性があります。
「戸籍の附票」とは、戸籍に記載されている人(同一世帯に入っている人)の住所を記録したもので、戸籍と一緒に記録・保管されているものです。
その戸籍に入っている限り、転居履歴や住所も全て記録されています。
あなたと元配偶者が結婚していた時の戸籍・戸籍の附票は、離婚後も元配偶者も請求可能であるため、閲覧することができます。
そのため、「結婚していたときの戸籍・戸籍の附票」に離婚後の引っ越し先の住所の記録を残してしまうと、離婚後の引っ越し先の住所がバレてしまう可能性があるのです。
住民票を変更せずにそのままにしておくと、どうなる?
離婚の前後を問わず、引っ越しをしたなら、原則として住民票を変更する必要があります。
ここでは、住民票の変更のルールと変更しない場合の4つのリスクについて説明します。
(1)14日以内に住所変更を届け出なければならない
引っ越しをした場合は、14日以内に、住民票の異動(転居・転出・転入)を届け出なければなりません(住民基本台帳法23条)。
法律上、引っ越し後14日以内に住民票の異動を届け出なかった場合、5万円以下の過料が課される可能性があります(住民基本台帳法52条2項)。
(2)住民票をそのままにしておく4つのリスク
住民票の住所を変更せずに(異動を届け出ずに)そのままにしておくと、次の4つのリスクがあります。
- 公的サービスを受けにくい
- 選挙に参加しにくい
- 自分宛の郵便物が受け取れない可能性がある
- 子どもの転校をスムーズに行えない
それぞれのリスクを説明します。
(2-1)公的給付金や公的サービスを受けにくい
公的給付金や公的サービスは、住民票に記載されている住所を基礎として提供されています。
そのため、公的給付金や公的サービスの案内も住民票に記載される住所に郵送されます。また、公的給付金や公的サービスの受給をする手続も住民票に記載されている住所がある役所に行く必要があります。
(2-2)選挙に参加しにくい
選挙も、住民票に記載されている住所を基礎として選挙権が割り当てられています。
そのため、選挙の投票の案内は、住民票に記載されている住所に届き、住民票に記載されている住所近くの投票所において投票することが求められます。
ただ、不在者投票の手続きを利用して選挙に参加することも出来ますが、投票の案内は住民票記載の住所に届きます。そのため、住民票記載の住所に届く選挙の投票の案内を受けとらない限り、選挙に参加することができません。
(2-3)自分宛ての郵便物が受け取れない可能性がある
住民票を移さなくても、郵便局で転送手続きを行えば、自分宛ての郵便物を引っ越し先の住所に転送してもらうことができます。
しかし、「転送不要」とされている郵便物については、転送手続きがなされません。そのため、「転送不要」の郵便物は役所や金融機関から郵送される重要な書類が多いため、受け取れず困ってしまうこともあります。
(2-4)子どもの転校をスムーズに行えない
子どもの学校の転校手続きを行うには、住民票の住所を変更し、役所で「転入学通知書」を発行してもらう必要があります。
そのため、住民票の住所の変更をしないと、子どもの転校手続きをスムーズに行えません。
一時的な別居も、住民票の変更は必要?
一時的かつ短期間の別居の場合であれば、住民票の変更(異動の届出)をしないこともあります(例えば、単身赴任などの場合では、住民票を変更しないこともあります)。
しかし、これまで説明した4つのリスクは一時的な別居の場合でも生じます。
そこで、一時的な別居の期間にも、公的給付金や公的サービスを受けたいと考えるのであれば、元の住所に住む配偶者の協力が必要となります。配偶者の協力が期待できない場合には、住民票の変更を検討すべきでしょう。
離婚後に引っ越し先を相手に知られたくない場合の対処法
離婚後に転居先の住所を相手に知られたくない場合、次のような対処法をとる必要があります。
離婚届を提出
本籍地は転居先とは違う住所にする
住民票の住所を変更する
閲覧制限をかける(条件あり)
順番に説明します。
(1)離婚届を提出
住民票の住所を変更する前に、離婚届を提出します。
離婚届を提出することで、結婚していた時の戸籍(配偶者と同じ戸籍)から抜けることができます。
結婚していた時の戸籍から抜ける前に、住民票の住所を変更してしまうと、結婚していた時の戸籍の附票に、引っ越し先の住所が記録されてしまいます。この場合、離婚後も元配偶者が結婚していた時の戸籍の附票を見ることで、引っ越し先の住所がバレてしまいます。
(2)本籍地は転居先とは違う住所にする
次に、抜けた戸籍の本籍地を転居先とは違う住所にするようにしましょう。
ここで、離婚時の戸籍の扱いについて整理しましょう。
離婚した場合の戸籍は次のような扱いになります。
離婚届を提出することで、同じ戸籍にいた夫婦が
- 婚姻時に改正しなかった筆頭者(夫のケースが多い)
→そのままの戸籍のまま - 姓を変えて戸籍に入った人(妻のケースが多い)
→(婚姻前の姓に戻る場合)元々いた戸籍(両親の戸籍)に復籍する(戻る)
→(婚姻後も婚姻時の姓を名乗りたい場合)自身が筆頭者となる新たな戸籍を作成する
の変更が行われます。
あなたが戸籍の筆頭者の場合は、そのままの婚姻時の戸籍に残ることになりますので、新たに戸籍を作り、戸籍を変える(転籍)をしない限り、元配偶者が婚姻時の戸籍の附票を見ることで、あなたの住所や転居履歴がわかってしまうことになります。
一方、離婚後、復籍もしくは新たな戸籍を作成した場合には、婚姻時の戸籍に新たな本籍地が記載されることになります。
この場合、新たな本籍地を転居先の住所と同一しておくと、新たな本籍地を見ることで住所がわかってしまいます(戸籍を抜けると、新たな本籍地の記録が前の戸籍に残ります)。
なお、本籍地は、日本国内の番地がある場所であれば、どこにでも設定することができます(本籍地をあなたの住所と全く無関係の住所に設定することもできます)。
(3)住民票の住所を変更する
次に、転居先の住所に住民票を変更しましょう。
転居してから14日以内には、住民票の住所変更を届け出なければなりません。
(4)閲覧制限をかける
さらに、子どもがいて、あなたの同じ戸籍に入っている場合には、戸籍の閲覧・交付制限の手続きをすることも忘れてはいけません。
そもそも、住民基本台帳法20条によれば、戸籍の附票は、戸籍に記録されている者、その配偶者、直系尊属、直系卑属が請求することができるとされています。
「戸籍の附票に記録されている者又はその配偶者、直系尊属若しくは直系卑属は、これらの者が記録されている戸籍の附票(…)を備える市町村長に対し、これらの者に係る戸籍の附票の写しの交付を請求することができる。」
引用:住民基本台帳法第20条
そして、直系尊属とは、親、祖父母のことをいい、直系卑属とは、子、孫のことをいいます。
つまり、子どもがいる場合、離婚したとはいえ、親は子どもの戸籍を請求することができるとされています。
そのため、あなたの配偶者が子どもの戸籍取り寄せることで、子どもと同じ戸籍にいるあなたの戸籍を請求することができることになるのです。
しかし、次の場合には、あなたやあなたの子どもの住民票、戸籍の附票の閲覧を制限することができます。
- 配偶者の暴力(DV)
- 配偶者のストーカー行為
- 児童虐待及びこれらに準ずる行為の被害者
- その他上記3つの行為に準ずる行為
これらの場合に当てはまる場合には、住民票や戸籍の附票の閲覧制限を行いましょう(※)。
※なお、本人から依頼を受けた第三者(弁護士など)から住民票や戸籍の附票の交付などを求められた場合は、厳密な審査にもと請求事由に正当な理由(例:裁判で利用するなど)があると認められれば、交付などが認められることもあります。
子どもがいない場合(上記(1)、(2)のステップを行った場合)も、元配偶者に正当な理由(例えば、相手を養育費不払いで訴えたい等)の理由があると認められれば、元配偶者があなたの戸籍の附票や住民票を請求することができます。
そのため、子どもがいない場合であっても、配偶者の暴力(DV)、ストーカー行為などがあって、(元)配偶者に住所が知られたくないという場合には、あなたの戸籍や住民票の閲覧制限をかけておきましょう。
参考:配偶者からの暴力(DV)、ストーカー行為等、児童虐待及びこれらに準ずる行為の被害者の方は、申出によって、住民票の写し等の交付等を制限できます。|総務省
住民票だけじゃない!離婚前後の引っ越しで必要になる6つの手続
引っ越しには、住民票の変更以外にも、引っ越しに伴う変更手続(切替手続)が必要なものがあります。
主な手続としては次の6つのものがありますので、変更手続を忘れないようにしてください。
- マイナンバーカード
- 印鑑登録
- 国民健康保険、社会保険
- 児童手当
- 運転免許証やパスポート
- 金融機関やクレジットカード など
これの手続以外にもガス・電気・水道などの手続も必要となります。
【まとめ】離婚後の引っ越し先を知られたくない場合には、離婚後の住民票の変更や、一定場合は閲覧制限等がお勧め
様々な事情から離婚の際、転居先を相手に知られたくないという場合があります。
しかし、原則として、引っ越し後は速やかに住民票の異動を役所に届けなければならず、そこから、転居先を相手に知られてしまう可能性があります。
配偶者に転居先の住所を知られたくないという場合、どのような方法を採るべきか、最後に復習しておきましょう。
- 離婚届を提出
- 本籍地は転居先とは違う住所にする
- 住民票の住所を変更する
- 閲覧制限をかける(条件あり)
離婚前後の転居先の住所を知られたくないという場合は、離婚届を提出する前に、お近くの市町村役場に相談しましょう。
特にDV、児童虐待等を理由に転居先の住所を配偶者に知られたくないという場合には、警察や配偶者暴力相談支援センターへのご相談をおすすめします。
離婚をするにあたっては、離婚後の生活が成り立つかどうかも大事なことです。離婚後の生活のための住居や引っ越し費用とするためにも、配偶者と財産分与などについてしっかりと話し合って、離婚前に合意しておきたいところです。
ただ、「配偶者と話し合いたくない」「早く離婚したい」という気持ちもあることでしょう。このような場合には、弁護士への相談がおすすめです。
弁護士に依頼することで、配偶者との交渉は、あなたに代わり弁護士が行います。弁護士があなたの味方となり、盾となりますので、あなたにかかる負担やストレスを減らすことができるでしょう。
離婚したいけど、不安や悩みがあるという方は、離婚問題を取り扱うアディーレ法律事務所への相談をご検討ください。
アディーレ法律事務所では、離婚問題のご相談を承っております(※)。
(※なお、具体的な事情によってはご相談を承れない場合もございます。)
また、アディーレ法律事務所では、安心してご依頼いただけるよう、離婚問題について、ご依頼の目的を全く達成できなかったような場合には、ご依頼時にお支払いいただいた基本費用などを原則として返金いたしますので、費用倒れになることは原則ありません(2023年6月時点)。
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