夫婦が別居する理由は様々です。
単身赴任のため別居している夫婦もいますし、喧嘩した後に冷静になるために一時的に別居する夫婦もいれば、将来離婚することを前提として別居する夫婦もいます。
ただ、別居したからと言って夫婦であることをやめるわけではありません。
別居中に恋愛(浮気)をしたり、生活費を渡さなかったりということはNGです。
夫婦である以上、守らなければいけない線引きがあります。 別居を検討中の方、別居中の方、別居中にしてはいけないことを知っておきましょう。
今回の記事を読んでわかること
- 別居中にしてはいけないこと(恋愛・生活費・子供のこと)
- 夫婦の別居についてよくある質問(住民票・児童手当・配偶者の家への訪問)
ここを押さえればOK!
別居中にしてはいけないことには、次の4つです。
恋愛(浮気):別居中でも不貞行為をすれば、原則慰謝料が発生します。肉体関係を伴わない行為でも、夫婦関係を破壊するものであれば慰謝料の対象になる可能性があります。
生活費の不払い:別居中でも夫婦は生活費(婚姻費用)を分担する義務があり、不払いは裁判で調停や審判を求められる可能性があります。
子供に会わせない:父母は子供と会う権利があり、子供の利益に反する例外的事情がない限り、父母と子供が会うことを拒否することは難しいです。
子供を無理やり連れ去る:相手の同意なく子供を連れ去る行為は未成年略取罪に該当し、親権争いでも不利になります。
特に、離婚に向けた別居の場合には、今回の記事で紹介すること以外にも「財産分与」「慰謝料」「親権」など悩みが尽きないことと思います。離婚について悩みがある方は、一度弁護士への相談をおすすめします。弁護士があなたの味方となって、アドバイスをくれるでしょう。
法政大学、及び学習院大学法科大学院卒。アディーレ法律事務所では、家事事件部にて、不貞の慰謝料請求、離婚、貞操権侵害その他の男女トラブルを一貫して担当。その後、慰謝料請求部門の統括者として広く男女問題に携わっており、日々ご依頼者様のお気持ちに寄り添えるよう心掛けている。第一東京弁護士会所属。
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@ikeda_adire_law
夫婦の別居とは
別居とは、夫婦の同居義務に果たしていない状態、すなわち夫婦が別々の家に住んでいる状態のことをいいます。
そもそも民法では「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」(民法752条)と定められており、夫婦には同居義務があるのです。しかし、夫婦が別居状態にあるということは、この同居義務を果たしていないことになります。
ただ、同居していないからといって、ただちに同居義務違反にはなりません。次のように正当な理由のある別居については、同居義務違反にはならないのです。
- 仕事で単身赴任中、子どもの学校のために夫婦が別に暮らしている
- 既に夫婦仲は破綻しており離婚の話や離婚調停を行っている
- 夫婦の一時的な喧嘩から頭を冷やす必要性がある
- 配偶者がDVをする など
一方、正当な理由のない別居は、同居義務違反になる可能性があります。例えば、夫婦の一方が配偶者や子どもを捨てて一方的に別居をして生活費を送らなかったり、相手方が別居をせざるを得ないように仕向けたりする場合です。
このような場合は「悪意の遺棄」といって法が定める離婚事由にもあたります。法が定める離婚事由に当たる場合には、離婚を拒んだとしても裁判で離婚を認められる可能性があります。
別居中にしてはいけないこと|恋愛

別居中にしてはいけないことの1つ目は、「恋愛(浮気)」です。
別居中なら恋愛(浮気)をしても、慰謝料を支払わなくてもいいと聞いたことがあるかもしれません。
しかし、別居中であっても、恋愛(浮気)をすれば慰謝料を支払う必要があるのが原則です。
ここでは、浮気の線引き、慰謝料を支払うべきケース・支払わなくてもいいケースなどを知っておきましょう。
慰謝料を支払う「浮気」はどこから?
浮気であれば、全て慰謝料請求の対象となるというわけではありません。
浮気が慰謝料の対象となるのは、原則浮気が「不貞行為」にあたる場合です。
例えば、隠れて連絡を取ったりすることも「浮気」だという人がいます。しかし、それだけでは「不貞行為」にはあたらず、慰謝料の対象とはなりません。 なぜなら、「不貞行為」とは、配偶者以外の異性と自由な意思で肉体関係を持つこととされているからです。
つまり、配偶者がいるにもかかわらず、配偶者以外の異性と肉体関係を伴う浮気をすることが「不貞行為」にあたると考えるのが原則です。
ただし、次のような行為も「不貞行為」にあたるかは別としても、「不法行為」として慰謝料の対象となる可能性があります。
- 肉体関係に至らないような前戯などの性交類似行為(例えば、一緒に風呂に入る、愛撫するなど)
- 婚姻関係を破綻させるような異性との交流(例えば、キスやハグなどを繰り返すなど)
別居中に異性と二人きりで会うのはあり?
異性と二人きりで会うだけあれば慰謝料請求の対象にはなりません。
しかし、だからといって別居中に異性と二人きりで会ったり、デートに行ったりするような行為をすることは控えた方がいいでしょう。 なぜなら、別居中に異性と2人きりで会ったり、デートに行ったりする行為は、浮気を疑われるばかりか、夫婦関係にも悪影響を及ぼす可能性があるからです。
また、将来離婚をしたいと調停や裁判となった場合に、それが明らかになると調停委員や裁判官に「別居中に異性と遊ぶ人」との悪印象を持たれ、不利な離婚条件となってしまうおそれもあります。
慰謝料を払わなくてもいい「浮気」って?
「不貞行為」にあたる浮気であっても、次のようなケースであれば、慰謝料を支払わなくてもいい可能性があります。
例えば、浮気が始まった時点で、夫婦関係がすでに破綻している場合です。
そもそも浮気の慰謝料とは、浮気によって夫婦関係が壊したことを償うためのお金です。そのため、浮気によって壊された夫婦関係がない場合には、浮気の慰謝料は払う必要がないと考えられているのです。
特に、浮気が始まった時点で夫婦が長期間別居し、夫婦で全く連絡も取っていないなど夫婦関係がすでに破綻していた場合には、浮気の慰謝料を払う必要がない可能性があります。
「夫婦関係の破綻」についてくわしく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
別居中にしてはいけないこと|生活費不払い
別居中にしてはいけないことの2つ目は、「生活費の不払い」です。
別居中であっても、夫婦にあることには変わりありません。そのため、夫婦で生活費を分担する必要があります。別居中であれば、収入の多い方が少ない方に対して、生活費を支払う必要があります。
(1)婚姻費用ってなに?
法律上、その生活費のことを「婚姻費用」と呼びます。別居中の生活費の不払いがある場合には、「婚姻費用分担請求」といって、生活費の分担を裁判所で調停や審判という形で求めることができます。
そのため、別居中に生活費の不払いをしていても、相手から婚姻費用を払うように調停や審判を起こされてしまうおそれがあるのです。そして、調停や審判となってしまうと、その分時間も手間もかかってしまうことになります。
あなたが婚姻費用を払う側である場合、基本的に婚姻費用は払っておいた方がよいでしょう。もし今後、離婚を考え、調停や裁判になった場合、婚姻費用の不払いは調停委員や裁判官に悪印象を与え、あなたに不利な離婚条件となってしまう可能性があります。
なお、子供がいる場合には、子供の生活費も「婚姻費用」として分担します。養育費とは離婚後の子供の生活費のことをいい、別居中の「婚姻費用」とは区別されます。
(2)婚姻費用って絶対に払わないといけないの?
別居中の生活費(婚姻費用)の分担を求められない場合もあります。
例えば、浮気相手と暮らすために別居したなど、別居の主な理由が生活費(婚姻費用)の請求者側にある場合です。 この場合、たとえ生活費(婚姻費用)の分担を求めても、「権利の濫用」にあたるとして認められません。
(3)婚姻費用の相場はいくら?
別居中の生活費(婚姻費用)の金額は、あくまでも夫婦が話し合って決めることです。 これまでどれくらいの水準の生活をしてきたのか、子供がいる場合には子供の養育のいくらいるのかを踏まえて金額を決めるべきでしょう。
ただ、話し合いで別居中の生活費(婚姻費用)が決められず、調停や審判となった場合には、双方の収入を踏まえた婚姻費用の相場があります。
例えば、夫婦の一方が専業主婦(夫)で収入がなく、子供がいない場合に支払うべき婚姻費用は次のようになります
。
<算定表による婚姻費用(夫婦のみのケース)>
夫婦の収入額の例 | 婚姻費用の相場 |
---|---|
400万円(給与所得者)と0円 | 6万~8万円 |
800万円(給与所得者)と0円 | 12万~14万円 |
なお、別居時に無職であれば、必ず収入が「0」として婚姻費用が計算されるわけではありません。 ケガや心身の病気がなく、幼児がいるなどの事情がない場合は、働けば収入が得られるとして、一定の収入があるとみなすことがあります。
別居中にしてはいけないこと|子供に会わせない

別居中にしてはいけないことの3つ目は、「子供に会わせない」ことです。
別居中であっても、子供の父母は子供と会うことを求めることができます。
父母と子供の交流は、子どもの心身の健全な成長に望ましいという理解が一般的です。そのため、父母と子供との交流を認めることが子の利益に反するなどの例外的事情がある場合を除き、父母と子供の交流は原則として行うとされています。
つまり、「子どもに会わせたくない」という理由だけで面会交流を拒否することは難しいのです。
ただし、次のような事情がある場合には、別居中に子供を会わせないことが認められる可能性があります。
- 子どもを連れ去る危険性が高い場合
- DVや子供への虐待が理由で別居になった場合
- 子供がある程度の年齢(特に15歳以上)に達しており、交流を明確に拒否している場合 など
別居中にしてはいけないこと|子供を連れ去る
別居中にしてはいけないこと4つ目は、「子供を無理やり連れ去ること」です。
別居中に子供を自分のところに連れていきたいばかりに、相手(親)の同意なく、連れ去ろうとする人がいますが、それは絶対にやってはいけません。
相手(親)の同意なく、子供を無理やり連れ去る行為は、たとえあなたも親だとしても、未成年略取罪(刑法224条)として3ヶ月以上7年以下の懲役刑(※改正法施行後は拘禁刑)に処せられてしまうおそれがあります。 また、未成年略取に当たらないとしても、このような行為は、親権を争うことになった際に、調停委員や裁判官に「親権者としてふさわしくない」との印象も与えることになりますので、注意してください。
なお、別居中に子供の引き渡しをしてほしいという場合には、裁判所に「子の引き渡し調停」を申し立てることによってできます。
親権についてくわしく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
夫婦の別居についてよくあるQ&A
最後に、夫婦の別居に関してよくある質問に回答いたしますので、ぜひ参考にしてください。
(1)別居中の住民票はどうしたらいい?
住居が変わった場合、14日以内に住民票を移すのが原則です。 正当な理由がなく住民票の変更をしない場合は5万円以下の過料を科されるおそれがあります。
ただし、一時的な別居であったり、単身赴任などで別居中も行き来しあったり、連絡をとったりする場合には、正当な理由があるとして、住民票を移さないことも許されています。
なお、DVなどで相手に別居中の住所を知られたくない場合には、住民票は移した上で、住民票の閲覧と交付を制限してもらうこともできます。
別居中の住民票についてくわしく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
(2)別居中の児童手当はどうなるの?
離婚を前提に別居中で、家計も別という場合には、児童手当の受給者を子供と同居している人に変更することができます。
また、配偶者のDVや虐待が理由で別居している人も児童手当の受給者を変更できる可能性があります。
児童手当の受給者を変更したいという場合には、お住いの役所の窓口にお問い合わせください。
参照:児童手当Q&A(配偶者と別居されている場合の取扱いについて)|子ども家庭庁
(3)別居中に配偶者の家に勝手に行くのはOK?
別居中に、自分の物を取りに行きたいなどでの理由で勝手に家に入る行為は、「住居侵入罪」(刑法130条)にあたる可能性があります。「住居侵入罪」にあった場合、3年以下の懲役刑(※改正法施行後は拘禁刑)または罰金に処せられるおそれがあります。
その家が誰の名義であるか、家賃を払っているのは誰かなどは関係ありません。たとえ、前に住んでいたとしても同じです。
特に、別居してから期間が経ち、相手があなたの訪問を拒んでいる場合(例えば、鍵をかえる、あなたに家への訪問を拒んでいることを事前に伝えているなど)には、「住居侵入罪」に当たる可能性が高いといえるでしょう。
別居中にどうしても配偶者の家に行かなければならない際には、配偶者の許可を得て入るようにしましょう(物の受け取りであれば、配達で送ってもらうこともできます)。
【まとめ】別居中に恋愛や生活費の不払いはしてはいけない!
今回の記事のまとめは次のとおりです。
- 別居中であっても、婚姻中である以上は、肉体関係を伴う不倫をした場合には不貞行為として慰謝料を支払う責任を負う可能性がある。
- 別居中であっても、生活費は夫婦で負担する。収入が多い方が少ない方に婚姻費用(生活費)を支払う。
- 別居中であっても、子どもと別居中の父母は、子供との交流を求めることができる。原則、子供との交流は拒めない。
- 別居中に、相手(親)の同意なく、子供を無理やり連れ去るのは犯罪となってしまうおそれがある。
別居は、様々な理由で行われます。 例えば、単身赴任や喧嘩した後に冷静になるために一時的に別居するなどです。
しかし、特に離婚に向けた別居の場合には、別居が無事に始められたとしても、「財産分与はどうするのか」「親権はどうするのか」など悩みがつきないことでしょう。
離婚に向けた別居を開始し、離婚について悩んでいるという方は、一度アディーレ法律事務所の弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。
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