今回の記事では、次のことについて弁護士が解説します。
- 親権の基礎知識
- 親権者を定める判断基準
- 親権についてのよくある疑問
ここを押さえればOK!
1.共同親権の導入
民法改正により、従来の「単独親権」に加え、離婚後も父母双方が親権を持つ「共同親権」を選択できるようになりました。協議で合意できない場合は家庭裁判所が判断しますが、DVや虐待のおそれがある場合は、子の利益のため単独親権とされます。
2.監護者と日常生活
共同親権でも、同居して日々の世話をする「監護者」を定めることが可能です。監護者は食事や身の回りの世話など日常的な事項を単独で決定でき、生活の安定が図られます。
3.親権がない場合の責任と権利
親権を持たなくても親子関係は存続します。法改正によって取り決めがなくても請求可能な「法定養育費」も新設されました。また、子には離れて暮らす親と交流する「親子交流(面会交流)」の権利があります。
4.判断基準と変更
親権者の指定や変更は、常に「子の利益」を最優先に、過去の監護実績や子の意思などを総合的に考慮して判断されます。
親権とは?知っておきたい基礎知識
親権は、未成年の子を一人前に成熟した社会人とするために養育する、親に認められた権利であり、また義務であると考えられています。そして、親は「子の利益のために」親権を行使すべきとされています(民法820条)。
日本の親権制度は、離婚後は必ず父母のどちらか一方が親権を持つ「単独親権」のみでしたが、民法改正により、現在は離婚後の「共同親権」も選択できるようになりました。
夫婦で話し合って離婚に合意する協議離婚の際には、離婚後の親権を「父母双方(共同親権)」とするか、「父母の一方(単独親権)」とするかを協議して定める必要があります(民法819条1項)。
もし父母間の話合いで親権について合意できない場合は、家庭裁判所に判断を求めることになります(調停・審判)。 裁判所は、父母双方を親権者とすべきか、一方のみを親権者とすべきかを判断します。その際、もし父母の一方によるDV(ドメスティック・バイオレンス)や虐待のおそれがあるなど、共同で親権を行使することが「子の利益」を害すると判断される場合には、裁判所は必ず単独親権としなければならないと定められています(民法819条7項等)。
親権の内容には「財産管理権」と「身上監護権」がある
親権の内容は、財産管理権と身上監護権(しんじょうかんごけん)とに分けられます。それぞれについて解説します。
(1)財産管理権
親権者は、子どもの財産を保護するため、子どもの法律行為の代理権や同意権を有しており、子どもの財産を管理する権利義務を負います(民法824条)。これを、財産管理権といいます。
未成年者は、原則として一人で法律行為をすることができません。未成年者が法律行為(契約など)をするためには法定代理人の同意が必要とされていますので(民法5条1項)、それに対応して親権者に同意権があることが定められています。
親権者は、子どもの財産管理について「自己のためにするのと同一の注意」義務を負います(民法827条)。これは、自分の財産を管理するのと同じ程度に、注意を払って管理しなければならないという意味です。
(2)身上監護権
身上監護権は、未熟な子どもを心身ともに健全な大人に養育するために認められる権利義務のことを指します。
具体的には、以下のような権利(義務)が含まれます。
- 監護教育権(民法820条):子を健全に育てるために必要な措置(しつけや教育)を取ること
- 居所指定権(民法822条):子の居所(住む場所)を指定すること
- 職業許可権(民法823条):子が職業を営むことを許可すること
なお、財産管理権と同様、離婚後に「共同親権」を選択した場合、転居や進学・就職といった子どもの人生に関わる重要な決定については、原則として父母が共同して行使する必要があります。
(3)共同親権と「監護者」の指定
民法上、離婚の際には、親権者とは別に、子どもと同居して日常の世話をする「監護者」を定めることができるとされています(民法766条)。
かつての単独親権制度の下では、親権と監護権をあえて分けるケースは実務上多くありませんでした。 しかし、新しい制度で「離婚後の共同親権」を選択した場合には、父母ともに親権(重要な決定権)を持ちつつ、どちらか一方を「監護者」と定めて、その親が子どもと同居して日々の養育を担うというケースが増えると考えられます。
監護者と定められた親は、身上監護権のうち、子どもの日常的な養育(食事や身の回りの世話、通常の教育など)について単独で決定し行う権限を持ちます(民法824条の2など)。これにより、共同親権であっても、日々の生活における細かな決定までいちいち別居親の合意を得る必要はなくなり、子どもの生活の安定が図られます。
親権がないと親はどうなる?

親権を持たないことになっても、戸籍上の親子関係が消滅するわけではありません。相続権もそのまま残りますし、子どもとの関係が断絶されるわけではありません。 子どもは、その利益に反する場合を除き、離れて暮らす親とも定期的に交流を持ち、愛情を感じて育つ権利があります(子どもの権利条約9条3項)。
たとえ離婚して親権者でなくなったとしても、子どもが離れて暮らす親と定期的に交流すること(親子交流(面会交流))が、子どもの健全な育成のために重要であると考えられています。
したがって、親権の有無にかかわらず、親と子が交流する機会を確保するよう、父母双方が協力する必要があります。 交流の頻度や方法については、まずは親同士の話合いで合意を目指しますが、もし話合いがうまくいかない場合には、家庭裁判所に「親子交流(面会交流)調停」を申し立てて、第三者(調停委員)を交えて話合うことができます。
そして、親権者でなくても、親として子どもに対する扶養義務を負うことに変わりはありません(民法877条)。
したがって、親権のない親は、子どもを現実に養育している親権者に対して、子どもの生活費として「養育費」を支払う責任があります。
【法改正の重要ポイント:養育費の取り決めがなくても請求可能に(法定養育費)】
これまでは、離婚時に養育費の取り決めをしていなかった場合、改めて協議や調停をする必要があり、支払いが開始されるまでに時間がかかるなどの問題がありました。
しかし、民法改正により、もし離婚時に養育費の取り決めをしていなかったとしても、法律で定められた標準的な金額(法定養育費)の支払義務が当然に発生するという新しいルールが導入されました(民法766条の3)。
これにより、親権を持たない親は「取り決めをしていないから払わなくていい」という言い逃れができなくなり、養育費支払いの責任はより明確化されました。
親権がなくとも、親としての責任(養育費)と愛情(親子交流(面会交流))を持ち続けることが、法律上も強く求められています。
親権者が決まるまでの流れ
親権者が決まる流れは次のとおりです。
夫婦の話合い(協議)
調停や審判
裁判(裁判所による判決)
それぞれの段階において、法改正により「共同親権(父母双方)」にするか、「単独親権(父母の一方)」にするかという選択が必要になります。
【1.夫婦間の話合い】
協議離婚の場合は、夫婦で話し合い、離婚後の親権を「共同親権」とするか、「単独親権」とするかを決めます。単独親権とする場合は、父と母のどちらを親権者にするかを決めます。
【2.調停や審判】
夫婦の話合いで決まらない場合は、家庭裁判所に申し立てを行います(調停・審判)。 中立的な第三者である調停委員の仲介や、裁判官の判断を仰ぐことになりますが、ここでは「父母の対立が激しくないか」「DV(ドメスティック・バイオレンス)や虐待のおそれがないか」といった点が重視されます。
- 調停:父母双方が話し合い、共同親権とするか、単独親権とするか、単独親権にする場合、どちらを親権者にするかについての合意を目指します。
- 審判:話合いで決着がつかない場合、裁判所が決定を下します。裁判所は、家庭裁判所調査官による調査結果などを踏まえ、「子の利益」のために共同親権とすべきか、単独親権とすべきか、単独親権にする場合にはどちらを親権者にするかを判断します。
※調停で離婚すること自体には合意できたが、親権のあり方だけ合意できない場合、離婚だけを先に成立させ、親権者の指定のみ審判で争うケースもあります。
【3.裁判(裁判所による判決)】
調停不成立などで離婚訴訟(裁判)になった場合、最終的には判決で裁判所が親権について判断します。
改正民法では、裁判所は「子の利益のために、父母が共同して親権を行うことが困難であると認めるとき」(例:DVや虐待のおそれがある、父母の人間関係が破綻しており子の不利益になる等)には、単独親権としなければならないと定められています(民法819条7項)。
親権者を定める判断基準
親権者について話合いで合意できず、審判や裁判になった場合には、どのような判断基準で親権者が指定されるのでしょうか。
収入が少ないので、一人では子どもを育てることができません。親権者になれますか?
親権は、子の利益のために行使されるべきものですので、親権者を父母どちらに指定するかどうかの判断も、どちらに指定すればより子の利益になるかという観点からなされます。
収入は一つの考慮要素にすぎず、収入が低く子どもの生活費が足りなければ、基本的に離婚する配偶者から養育費をもらって手当することが可能です。
したがって、収入が低いということだけで親権者になれないということはありません。
むしろ、今まではどちらが主に子の世話をしていたかという実績、離婚後も子どもの世話をする時間や場所、協力が得られるかという事情の方が重要視されます。
具体的には、次のような父母側の事情や子どもの事情が考慮され、父母どちらがより親権者としてふさわしいかを判断します。
(1)父母側の事情
- 過去及び現在の監護状況(過去実際に子どもをどの程度世話していたか)
過去及び現在の監護状況が子の利益の観点から問題がないのであれば、監護状況を変更することは望ましくないと考えられています。 - 離婚後の監護能力(年齢、健康状態など)・監護意欲
- 子どもを養育する環境(資産、収入、職業、住居、生活スタイルなど)
ただし、資産や収入、職業は離婚の際の財産分与や養育費などで解決されるべきですので、そこまで重要視されるものではありません。 - 教育環境
- 子どもに対する愛情
- 親族の援助(経済的支援や自分が病気や仕事で子育てできないときに代わりに子育てを手伝えるかなど)
(2)子ども側の事情
- 子の年齢や性別
子どもが幼い場合には、母性優勢の原則から母親に親権を認めるべきとする考え方もありますが、子どもが父親と母性的繋がりを有していることもありますし、過去及び現在の監護を主に父親が担っていることもあります。母親だから必ず親権が認められるかというと、決してそうではありません。 - 兄弟姉妹の関係
兄弟姉妹はできるだけ分離しない方がよいと考えられています。 - 従来の環境の適応状況
- 環境の変化への適応性
従来の環境が子の利益の観点からして問題がなく、子どもが適応している場合には、一般的に、子どもの環境を変化させることは望ましくないと考えられています。 - 子どもの意向
親権は子の利益のために行使されるべきですから、当然子どもの意向は考慮されます(家事事件手続法65条、258条1項)。言葉で表現される意向だけではなく、父母といるときの態度など、非言語的なコミュニケーションからも意向を読み取ります。特に15歳を越えると、一般的に自分の意思で自分の意見を伝えられると思われますので、子どもの意向は重視される傾向にあります。
親権に関するQ&A
親権に関して、よくある疑問に回答します。
(1)親権も監護権もなく、同居もしていない場合でも子どもに会える?
父母の離婚により、子どもと共に住む監護者(「監護親」といいます)ではなく、子どもと離れて暮らしている父または母(「非監護親」といいます)も、定期的・継続的に子どもと交流することを求めることができます。
これを、親子交流(面会交流)といいます。
親子交流(面会交流)の方法としては、実際に子どもに会って一緒に遊んだり食事をしたりするだけでなく、電話やメール・手紙などで連絡を取りあうこと、監護親が子どもの写真や様子を送るなどして子どもの状況を連絡するなどが挙げられます。
協議離婚の際に、親子交流(面会交流)についても話し合って合意することができます。子どもの状況は父母が最も理解しているはずですので、親子交流(面会交流)については、父母がその内容についてよく話し合い、納得したうえで取り決めることができれば理想的です。双方納得の上での合意であれば、自主的に合意内容を守ろうという意識も働きます。
話合いで合意すべき親子交流(面会交流)の条件としては、親子交流(面会交流)の場所、子どもの受け渡し場所、親子交流(面会交流)の頻度や時間などです。
後々争いとならないよう、できるだけ具体的に決めておくべきですが、子どもの意向や体調などで変更が必要なこともありますから、代わりの日を設定することも話し合っておくとよいでしょう。
しかしながら、夫婦関係が破綻しており、父母がお互いに信頼関係を失ってしまい話合いが困難になると、父母間の話合いによって親子交流(面会交流)を取り決めることは簡単ではありません。父母間での話合いが困難な場合は、家庭裁判所に対して、親子交流(面会交流)についての調停や審判を申立てて、親子交流(面会交流)についての話合いや裁判所の審判を求めることができます。
(2)一度決まった親権を変更することはできる?
離婚の際に親権者を決めた後であっても、事情の変化により「子の利益」のために必要があるときは、家庭裁判所の手続きによって親権者を変更することができます(民法819条6項)。
これまでは「父から母へ」のように親権者そのものを交代することしかできませんでしたが、法改正により、以下の変更も可能になりました。
- 人の変更: 親権者を父から母へ(またはその逆)変更する
- 形態の変更: 「単独親権」から「共同親権」へ変更する、またはその逆
【変更には家庭裁判所の手続きが必要】
親権者の変更は、たとえ父母の間で合意があったとしても、当事者だけの話合い(契約)で勝手に変更することはできず、必ず家庭裁判所の「調停」または「審判」を経る必要があります。 これは、親権の変更が子どもの生活環境に多大な影響を与えるため、家庭裁判所が「本当に子の利益になるか」を公的にチェックする必要があるからです。
調停においても、父母の合意があれば即座に変更が認められるわけではありません。家庭裁判所は、監護の状況や子どもの心身の状態などを調査し、変更を許可するかどうかを最終的に判断します。
【子どもの意思の尊重】
親権者変更の審判をする場合には、満15歳以上の子どもの意見を必ず聞かなければならないとされています(家事事件手続法169条2項)。
親権者の変更は、子どもにとって重大事ですので、特に過去の監護状況に問題がなく、子どもが現状に安定している場合には、あえて環境を変える必要はない(現状維持)と判断されることもあります。
しかし、今回の法改正により「別居親も親権を持ち、共同で子育てに関わる(共同親権への変更)」という選択肢も生まれましたので、今後は「現状の生活環境は変えずに、親権の形だけ共同にする」といった柔軟な変更も増えてくる可能性があります。
(3)子どもが小さい場合、父親が親権者になることは難しい?
かつては、「乳幼児には母親の存在が不可欠」という考え方(母性優先の原則)があり、母親が有利だと言われることもありました。
しかし、現在は家庭裁判所の実務も変化しており、性別そのものよりも、「これまで誰が主に子どもの世話をしてきたか(監護の継続性)」や「子どもと安定した関係を築けているか」が重視されるようになっています。
さらに、今回の民法改正により、離婚後も共同親権を選択できるようになりました。
これにより、必ずしも「父か母か」のどちらか一人を選ぶ必要はなくなり、離婚後も父母双方が親権者として協力して子育てを行うことが可能です。
もし、父母の対立が激しい等の事情で裁判所が「単独親権」と定める場合であっても、父親がこれまで主たる監護者として育児を担ってきた実績があれば、父親が単独親権者として指定される可能性はあります。
【まとめ】親権とは、子を一人前にするための親に認められた権利義務
離婚の際には、子どもに対する精神的な影響が心配になりますが、親権について争いが続くことも子どもにとって大きな精神的負担になる可能性があります。
話し合っても親権について合意できない場合には、そのような問題を取り扱っている弁護士に相談することをおすすめします。

























