「自宅を残すなら自己破産より個人再生って聞いたけど、成功するかな?」
個人再生では、自己破産と異なり、手続き終了後、3~5年間支払いを続けていかなければなりません。どれくらい支払いの負担を減らせるかということに限れば、個人再生より自己破産のほうが経済的メリットが大きいでしょう。
それでも住宅など手放したくない財産があるとき、警備員などの「制限職種」(自己破産だと、従事できない期間がある)に就いているときなど、自己破産ではなく個人再生を選択したいと考える人が多くいます。しかし、もし途中で再生計画に沿った支払いができなくなれば、そのような個人再生をしたい目的を遂げることができません。また、その他にも個人再生の失敗のパターンがあります。
そこで、今回は個人再生を成功させたい方に向けて、弁護士が「個人再生の成功率と個人再生が失敗する4つのパターン」をお伝えします。

早稲田大学、及び首都大学東京法科大学院(現在名:東京都立大学法科大学院)卒。2012年より新宿支店長、2016年より債務整理部門の統括者も兼務。分野を問わない幅広い法的対応能力を持ち、新聞社系週刊誌での法律問題インタビューなど、メディア関係の仕事も手掛ける。第一東京弁護士会所属。
2020年度の個人再生の成功率は90%超え!
そもそも個人再生には、小規模個人再生と給与所得者等再生の2種類があります。小規模個人再生の方が、支払うこととなる金額が基本的に低くなることが多いです。
多くの人が小規模個人再生で手続きを進めることができます。もっとも、小規模個人再生では債権者による決議があります。
次のいずれかに該当する場合には、決議が否決となって小規模個人再生はできなくなってしまいます。そこで、このような場合には債権者による決議のない給与所得者等再生を検討することになります。
一 議決権を有する債権者の2分の1以上が再生計画案に反対である
二 再生計画案に反対した議決権者の議決権の額が、全議決権者の議決権の合計額の2分の1を超えている
ここで具体的なケースを想定してみましょう。
Aさんは、X社、Y社、Z社から1200万円を借りていたところ、返済できなくなったため、個人再生をすることになりました(住宅ローンはありません)。その金額は、X社300万円、Y社250万円、Z社650万円です(名称は全て仮名です)。
- X社が反対した(議決権額300万円)
- Z社が反対した(議決権額650万円)
- X社とY社が反対した(議決権額550万円)
1~3のうち、小規模個人再生をすることができないのは、
- 反対した議決権者(Z社)の議決権の額の合計(650万円)が全議決権者の議決権の合計額(1200万円)の2分の1を超えている2と、
- 議決権者の2分の1以上(X社とY社)が反対した3です。
1については、一、二のいずれにも該当しないため、書面決議は可決されることになります。
消費者金融や銀行などは、決議において反対しない運用のところが少なくありません。ですので、小規模個人再生を選べることが多いです。
<2020年度司法統計第109表を元に作成>
事件総数 | 再生手続終結 | 成功率 | |
---|---|---|---|
個人再生の合計 (小規模個人再生+給与所得者等再生) | 1万2712件 | 1万1870件 | 約93.4% |
小規模個人再生 | 1万1948件 | 1万1172件 | 約93.5% |
給与所得者等再生 | 764件 | 698件 | 約91.4% |
参照:第109表 再生既済事件数―事件の種類及び終局区分別 ―全地方裁判所|裁判所 – Courts in Japan
裁判所の作成した2020年度司法統計(第109表)によると、小規模個人再生の成功率は約93%(事件総数1万2712件のうち「再生手続終結(1万1172件)」した割合)、給与所得者等再生の成功率は約91%(事件総数764件のうち「再生手続終結(698件)」した割合)となっています。
当該統計においては、「再生手続終結」に「取下げ」は含まれていません。「取下げ」により申立てが終結した場合には、家族などからの援助の目処がつくなどして個人再生をする必要がなくなったケースも含まれています。
一方で、「取下げ」には個人再生を申立てたものの要件を満たさずに裁判所から取下げを促されたケースも含まれています。
一般に個人再生の「失敗」と評価されるのは、次の4つのどれかに該当する場合です。
裁判所の決定 | 主な事情 |
---|---|
棄却又は却下 | 個人再生を申立てたものの、手続開始の要件を満たさない |
再生手続廃止 | 再生計画案が提出されない、提出された再生計画案が否決されたなど |
再生計画不認可 | 再生計画の履行可能性がない、再生手続や再生計画に重大な法律違反があったなど |
再生計画取消し | 返済期間中に返済ができなくなった |
(1)失敗パターン1|個人再生の申立てが棄却・却下される
個人再生の申立てが棄却・却下されるのは、次のようなケースです。
- 申立人が個人ではない場合
- 「再生計画の対象となる支払義務の総額」が5000万円を超えている(※)場合
住宅ローンがあっても「住宅資金特別条項」(住宅ローンの残った自宅を手放さずに済む可能性がある制度)を利用できる場合には、住宅ローンの残高は「再生計画の対象となる支払義務の総額」に含まれません。
※特に個人事業主の方の場合、買掛金などがかさむことで支払義務の総額が5000万円を超えてしまうこともあります。このような場合には「個人再生」はできませんが、事業の継続が非常に難しくなる「自己破産」を回避できる可能性は残っています。「通常の民事再生」という方法があるからです。
「通常の民事再生」について、詳しくはこちらをご覧ください。
また、民事再生法25条では、個人再生の申立てを棄却するケースが定められています。
- 再生手続の費用の予納がない場合
- 裁判所に破産手続または特別清算手続が係属し、その手続によることが債権者の一般の利益に適合する場合
- 再生計画案の作成・可決・認可のいずれかの見込みがないことが明らかである場合
- 不当な目的で申立てがされたとき、申立てが誠実にされたものでないとき
個人再生の申立てが棄却・却下されたケースは、2020年度だと、約0.2%にとどまります。申立てが棄却や却下になるケースが非常に少ないことには、主に次のような理由があると考えられます。
- 棄却や却下をされる前に、裁判所の求めに応じて取り下げているケースが多いため
- 弁護士などの専門家を通じた個人再生の申立てが多く、要件を満たさない個人再生の申立てがそもそも少数にとどまっている(個人再生が難しい場合は、その他の方法を弁護士などが提案する)
たとえば、個人再生に関する知識・経験があれば、次のような失敗は防げるはずです。
- 住宅資金特別条項の利用要件を満たせず、住宅ローンの残額が上乗せされて、支払義務の総額が5000万円を超えてしまった
- 納付期限内に再生手続の費用を納めることができなかった
個人再生には専門知識を要するため、弁護士に依頼することをおすすめします。
(2)失敗パターン2|個人再生の手続きが途中で打ち切り(廃止)になる
個人再生の廃止とは、再生手続が開始した後、裁判所の決定により、目的不達成のまま再生手続を打ち切ることです。個人再生が廃止される代表的なケースとしては、次のものが挙げられます(民事再生法191条、237条など)。
- 債権者の書面決議で、再生計画案を否決されてしまった(小規模個人再生の場合)
- 提出期限までに再生計画案を提出できなかった
- 再生手続き開始決定後に支払不能のおそれがないことが判明した
- 債務者が裁判所の命令や法律上の重大な義務に違反した
- 財産目録への不記載や不正記載など財産隠しが発覚した
先ほどもご紹介した2020年度司法統計(第109表)では、「廃止」によって個人再生が失敗したケースは約2.8%にとどまります。
法律上、個人再生の廃止が確定した際、裁判所の職権により「破産手続開始決定」(自己破産の手続きを始める決定)をできることになっています(民事再生法250条1項)。これを「牽連(けんれん)破産」といいます。
簡単にいうと、個人再生が失敗したら、裁判所の判断で自己破産に移行してくれる制度があるということになります。もっとも、実務では「個人再生をしたい」という債務者の意向を尊重することなどから、この制度はあまり利用されていません。
財産隠しをするとペナルティを課される可能性がありますので、保有財産を正直に裁判所や弁護士に申告してください。
(3)失敗パターン3|再生計画に不認可の決定が下る
再生計画が認可されなければ、借金の総額が圧縮されることがなく、個人再生の手続きを進めた意味がなくなります。
再生計画が不認可となる代表的なケースとしては、次のものがあります(民事再生法174条、231条など)。
- 履行テスト中に滞納してしまった、勤務先が倒産してしまったなど、再生計画を遂行する返済能力がないと判断された
- 再生手続きや再生計画に補正不可能な法律違反があった(再生手続きの違反が軽微な法律違反であった場合を除く)
- 再生計画の決議が不正の方法によって成立した(小規模個人再生の場合)
- 手続内で確定した支払義務の総額が5000万円を超えていた
- 再生計画上の返済総額が法律で定められた弁済額を下回っていた
- 住宅資金特別条項を利用する旨を申述していたのに再生計画にその定めがない
なお、前提として、小規模個人再生であれば再生計画案が可決されていないと先ほどご説明したように「廃止」となります。
2020年度司法統計(第109表)では、「不認可」によって個人再生が失敗したケースは約0.2%と非常に低いです。
弁護士に依頼しても、再生計画案の作成段階で勤務先が倒産して収入確保の目途が立たない場合など、個人再生の手続きが不認可で終了してしまうことを避けられないことがあります。
もっとも、弁護士に依頼すると、法律違反のせいで不認可にならないようにするなど、個人再生の成功率を上げることができます。
(4)失敗パターン4|再生計画の不履行によって再生計画の認可が取り消される
再生計画が認可決定されると、その約1ヶ月後から再生計画に従って、3~5年間返済をしていくことになります。もし予期せぬ家計状況の変化などによって再生計画どおりに支払わなかった場合には、所定の要件を満たす債権者からの申立てにより、再生計画が取り消されることがあります。
再生計画が取り消されると、減額された支払義務は元の額に戻ってしまいます。
ただし、勤務先の業績不振で給与が減額されたなど、「再生計画認可の決定があった後やむを得ない事由で再生計画を遂行することが著しく困難となったときは」、再生債務者の申立てにより再生計画を変更して、返済期間を延長できることがあります(ただし、延長の上限は、再生計画で定められた債務の最終期限から2年で、延長には裁判所の認可決定などが必要です。民事再生法234条1項)。
また、既に再生計画に定められた返済金額のうち、4分の3以上の金額を支払い終わっている場合、一定の要件を満たすと、残りの支払義務について免除を受けることも可能です。これを「ハードシップ免責」といいます(民事再生法235条、244条)。
2020年度司法統計(第109表)では、「取消し」で個人再生が失敗したケースはありませんでした。

個人再生が失敗してしまったら……?
小規模個人再生で失敗しても給与所得者等再生で進められることがあります。
しかし、小規模個人再生のみならず給与所得者等再生でも手続きを進められない場合、自力で完済できない限り、自己破産を選択することになるでしょう。
パチンコや競馬が原因で借金を抱えてしまったなど、「免責不許可」(裁判所が、支払義務を一切免除してくれないこと)になるリスクを避け個人再生に挑戦した場合には、一度個人再生の手続きを進めて失敗したことが自己破産にあたって有利に考慮される可能性もあります。
しかし、マイホームを残すために、個人再生をしたかった場合には、自己破産となるとマイホームを諦めざるを得なくなる可能性が高いでしょう。
自己破産において、持ち家に住み続けるための方法について詳しくはこちらをご覧ください。
【まとめ】個人再生の手続きは複雑だが、成功率は90%超え!
今回の記事のまとめは次のとおりです。
- 2020年度の司法統計によると、個人再生(小規模個人再生+給与所得者等再生)の成功率は約93.4%
- 個人再生の主な失敗パターンは次の4つ。
- 個人再生の申立てが棄却・却下される…約0.2%
- 個人再生の手続きが途中で打ち切り(廃止)になる…約2.8%
- 再生計画に不認可の決定が下る…約0.2%
- 再生計画の不履行によって再生計画の認可が取り消される…0%
(※割合は2020年度のもの)
- 小規模個人再生ができなかった場合には給与所得者等再生に挑戦する余地がある。給与所得者等再生が無理だった場合には、基本的には自己破産を検討することとなる。
個人再生は、少なくとも申立てに至った事件でみる限り、成功率の高い債務整理手続きということができます。そのまま自力で無理やり借金の返済を続けるよりも個人再生をした方が、大幅に総支払額を減らせることが多いため、支払いの負担は軽減されることでしょう。
個人再生も、自己破産と同様、債務者が自力で手続きをすることは法律上は可能です。
もっとも、個人再生では、再生委員面接や債権認否一覧表・再生計画案の提出等、申立て後の手続きが複雑ですので、債務者が自分で申立てをするケースは非常に少ないというのが実情です。
相談したからといって、必ず依頼しなければならないわけではありません。まずは、弁護士に相談だけでもしてみませんか?
アディーレ法律事務所では、個人再生を始めとする債務整理についてのご相談を承っております。
また、アディーレ法律事務所では、万が一個人の再生事件で再生不認可となってしまった場合、当該手続きにあたってアディーレ法律事務所にお支払いいただいた弁護士費用は原則として、全額返金しております(2022年10月時点)。
個人再生をお考えの方は、個人再生を得意とするアディーレ法律事務所にご相談ください。
