「個人再生をしたいけれど、個人再生をする時って退職金はどうなるの?没収されたりする?」
会社勤めの方が個人再生をするからと言って、退職金が取り上げられたり、退職時にもらえなくなったりするわけではありません。
ただ、退職金は、個人再生の手続において、今後、債権者に弁済していく返済額を決める上で重要な意味を持つことがあります。
今回は、「個人再生と退職金」について、アディーレの弁護士がご説明します。
この記事を読んでわかること
- 個人再生における返済額の決まり方
- 個人再生をする際の退職金の扱い
- 退職金と個人再生の際の注意点

早稲田大学、及び首都大学東京法科大学院(現在名:東京都立大学法科大学院)卒。2012年より新宿支店長、2016年より債務整理部門の統括者も兼務。分野を問わない幅広い法的対応能力を持ち、新聞社系週刊誌での法律問題インタビューなど、メディア関係の仕事も手掛ける。第一東京弁護士会所属。
個人再生における返済額の決まり方とは?
個人再生とは、裁判所の認可決定を得た上で、負債の額を5分の1程度(負債や保有資産等の金額によって減額の程度は異なります)まで減額してもらい、減額された残りの負債を原則として3年(最長5年以内)ほどかけて返済していくという手続です(税金等、個人再生によっても減額できない負債もあります。)。
個人再生手続には、次のとおり、『小規模個人再生』と『給与所得者等再生』の2種類があります。

利用できるケース | 返済額 | |
---|---|---|
小規模 個人再生 | 次の要件をいずれも満たす個人が利用できる ①住宅ローン以外の借金の総額が5000万円以下 ②継続して収入を得る見込みがあること | 次の、いずれか多い金額 ①法律で定められた最低弁済額(*) ②保有している財産の合計金額(清算価値) |
給与所得者等 再生 | 小規模個人再生を利用できる人のうち、給与などの安定収入があり、収入の変動幅が小さい人が利用できる | 次の、いずれか多い金額 ①最低弁済額 ②清算価値 ③可処分所得(収入から所得税などを控除し、さらに政令で定められた生活費を差し引いた金額)の2年分 |
(*)最低弁済額…法律により、最低限返済しなければならないとされる金額
具体的には、次のとおり。
【最低弁済額】
借金総額 | 最低弁済額 |
---|---|
100万円未満 | 借金総額(※減額はされない) |
100万円以上 500万円未満 | 100万円 |
500万円以上 1500万円未満 | 借金総額の5分の1 |
1500万円以上 3000万円未満 | 300万円 |
3000万円以上 5000万円以下 | 借金総額の10分の1 |
750万円の借金がある方であれば、最低弁済額は750万円÷5で150万円ですね。
個人再生の要件やメリットについて詳しくはこちらの記事をご確認ください。
ところで、自己破産と個人再生を比較すると、自己破産は免責が認められれば、基本的には全ての借金の支払義務がなくなる(*非免責債権を除く)のに対して、個人再生は(減額されるとは言え)借金の支払義務自体は残りますので、通常は自己破産よりも個人再生の方が債権者にとっては有利です。
そのため、仮に自己破産をした場合に債権者が受けられる配当額が、個人再生で受けられる返済額を上回ると、むしろ個人再生をすることによって、債権者の利益が害されることになってしまいます。
そこで、民事再生法では、個人再生による返済額は、自己破産をした場合に債権者が受けられる配当額を下回ってはいけないというルール(*『清算価値保障原則』と言います)があります(民事再生法174条2項4号)。

要は、仮に自己破産をした場合に債権者が受けられる配当額以上は、個人再生によっても必ず返済しなければいけないということですね。
清算価値に計上される資産は、個人再生を申し立てる個々の裁判所によって、運用が異なります。
例えば、東京地裁では、次の財産に該当しない財産が清算価値として計上されます。
1.99万円までの現金
2.残高が20万円以下の預貯金(保有口座の合計が基準です)
3.見込額が20万円以下の保険解約返戻金
4.処分見込価額が20万円以下の自動車
5.居住用家屋の敷金債権
6.電話加入権
7.支給見込額の8分の1相当額が20万円以下である退職金債権
8.支給見込額の8分の1相当額が20万円を超える退職金債権の8分の7
9.家財道具
10.差押禁止動産または差押禁止債権
*ただし、退職金債権は退職間際であれば、4分の1が清算価値に計上されることがあります(退職金(見込額)の4分の1が20万円を超える場合)。
退職金について詳しくは、この後ご説明します!
例えば、750万円の借金がある一方で、時価200万円の車を所有している方が東京地裁で小規模個人再生をする場合、(最低弁済額:150万円/清算価値:200万円ですので)200万円は返済しなければいけないことになります。
個人再生の返済額について詳しくはこちらの記事をご確認ください。
個人再生をする場合、退職金はどうなる?
個人再生手続では、基本的に債務者の財産が処分されることはありません。
今ご説明した「清算価値保障原則」は、個人再生における返済額を決めるための基準であって、実際にそれらの財産が手続において没収されたり、換価されるわけではありません。
ですから、個人再生をしても、それにより退職金が受け取れなくなったり減額されるわけではないのです。
退職金は全額「清算価値」に含まれる?
個人再生をする場合、その時点で退職する予定はなかったとしても、その時に退職すれば受け取れるであろう「退職金の見込額」は、個人再生の手続において債務者の財産と判断されます。
ただし、将来の退職時に退職金を受け取ることができるかどうかは、確実とは言えません。
ですから、退職金見込額の全額が清算価値に含まれるわけではありません(*まだ退職していない場合)。
具体的には、個人再生の時点で近い将来退職を予定しているなどの事情がない場合には、基本的には『退職金の見込額の8分の1』が清算価値に含まれるとする裁判所が多いです。
ただ、退職金(見込額)が清算価値に含まれるかどうか、含まれるとしてその割合は、個人再生を申し立てる裁判所の運用によって異なります。
例えば、東京地裁に個人再生を申し立てる場合、退職金は次のように取り扱われます。
既に退職して、 退職金を受け取っている場合 |
全額が清算価値に含まれる (*ただし、合計99万円までの現金、合計20万円以下の預貯金は、清算価値に計上されない) |
|
退職しているが、退職金を受け取っていない場合 又は、近い将来、退職が確定している場合 |
退職金(見込額)が80万円以下 | 退職金は清算価値には含まれない |
退職金(見込額)が80万円を超える | 退職金(見込額)の4分の1が清算価値に含まれる | |
退職を予定していない場合 | 退職金の見込額が160万円以下 | 退職金は清算価値には含まれない |
退職金の見込額が160万円を超える | 退職金の見込額の8分の1が清算価値に計上される |
(*東京地裁以外については、各裁判所の運用に詳しい弁護士に確認することをお勧めします。)
近い将来、転職を検討しているのですが、その場合には退職金の4分の1が清算価値に含まれてしまうのですか?
退職することがもう決まっているような場合で、退職金の見込額が80万円を超える場合には、退職金の見込額の4分の1が清算価値に含まれます(*東京地裁の場合)。
退職時期や退職の可能性の程度などによって、清算価値に含まれる退職金の金額が変わってきますから、退職時期は弁護士と相談することをお勧めします。
退職金制度ではなく、確定拠出年金を導入している会社の場合は?
うちの会社は退職金はなく、代わりに確定拠出年金制度があります。このような年金は個人再生にあたってどうなりますか?
「確定給付企業年金」「確定拠出企業年金」、「厚生年金基金」、「国民年金基金」などのいわゆる私的年金は、その全額が清算価値には含まれません。
退職金であれば清算価値に含まれるのに、なぜ年金は清算価値に含まれないのですか?
年金は「差押禁止財産」として、基本的には差押えが禁止されています。そして、差押禁止財産は、個人再生の場面でも清算価値には計上されないのです。
差押禁止財産について詳しくは、こちらの記事をご確認ください。

退職金が支給される方が個人再生をする時の注意点
これまでご説明したとおり、退職済みですでに受け取っている退職金や、退職前であっても退職金の見込額は債務者の財産ですので、個人再生をする際、清算価値に含まれる可能性があります。
そこで、個人再生を申し立てる場合、次の資料を提出する必要があります。
退職金制度がない場合 | 就業規則や雇用契約書など、退職金がないことを証明する資料 |
退職金制度がある場合 | 退職金の見込額を明らかにする書面(退職金見込額証明書) |
退職金見込額証明書は、会社から発行してもらいます。
また、退職金がない場合にも、就業規則などから明らかでない場合には、会社から退職金がないことを証明する書面を発行してもらう必要があります。
就業規則には退職時に退職金が支払われるとありますが、どうやって計算するのかは書いていなかったので退職金の見込額は会社に聞かないと分かりません。
会社に個人再生をすることがバレたくないのですが…。
通常は、退職金の見込額の計算は退職金規定に書かれています。退職金規定が入手できて簡単に計算できるのであれば、会社から発行してもらわなくて済む可能性はあります。
ただ、それだけでは退職金の見込額が計算できない場合には会社に依頼するしかありません。
ご自身のケースで退職金の計算ができるかどうかは、弁護士に相談されることをお勧めします。
個人再生が会社にバレることが気になる方は、こちらの記事をご確認ください。
【まとめ】個人再生をしても退職金を受け取れなくなるわけではない!弁護士に相談して前向きに借金問題を解決しましょう。
今回の記事のまとめは、次のとおりです。
- 個人再生をしても、それによって、退職金が受け取れなくなったり減額されることはない。
- ただし、退職金の見込額の一部は清算価値に計上されるため、個人再生による返済額に影響がある。
- 清算価値に計上される退職金の割合は、個人再生を申立てをする裁判所によって異なる。東京地裁の場合、退職金の見込額が160万円を超える場合には、その8分の1が清算価値に計上される。
- 退職金でなく確定拠出年金制度を導入している会社の場合には、年金の見込額などは清算価値に計上されない。
- 個人再生を申し立てる際は、会社から退職金見込額証明書などを発行してもらう必要があることもある。
アディーレ法律事務所では、万が一再生不認可となってしまった場合、当該個人再生手続にあたってアディーレ法律事務所にお支払いいただいた弁護士費用は原則として、全額返金しております(2023年5月時点)。
個人再生でお悩みの方は、個人再生を得意とするアディーレ法律事務所にご相談ください。
