「昔の借金について督促されたけど、これって時効では?時効援用は自分でできるのかな。失敗するリスクはある?」
借金をしてから一定期間が経過していると、その借金は時効が完成していて、返済せずに済む可能性があります。
借金の時効が完成している場合、時効を援用(※時効による利益を享受するという意思表示をすることです)すると、借金を返済しなくても良くなります。
ただ、時効期間は貸主(債権者)の行為によって完成が阻止されることがありますので、本当に時効期間が経過しているかは、慎重に検討しなければいけません。
また、時効を援用するつもりだったのに、貸主と話しているうちに返済義務を認めてしまって結局返済しなければならなくなるということもありますので、時効援用に際してはくれぐれも注意が必要です。
今回の記事では、
- 借金の時効期間
- 借金の時効完成が阻止される事情
- 時効完成後の債務の承認
などについてご説明します。
ここを押さえればOK!
しかし、債務者が債務を承認するなどの一定の事由があると、基本的に時効の援用はできなくなってしまいます。 時効の援用に失敗した場合、債権者と交渉して分割払いにできる可能性もありますが、債権者が応じない場合もあります。 請求金額を支払えない場合には弁護士に相談し、任意整理、民事再生、自己破産などの債務整理手続きを検討することが重要です。
また、弁護士に相談すれば適切なアドバイスが期待できるため、時効援用に失敗してからではなく、債権者から請求書が届いた段階で弁護士に相談するとよいでしょう。
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早稲田大学、及び首都大学東京法科大学院(現在名:東京都立大学法科大学院)卒。2012年より新宿支店長、2016年より債務整理部門の統括者も兼務。分野を問わない幅広い法的対応能力を持ち、新聞社系週刊誌での法律問題インタビューなど、メディア関係の仕事も手掛ける。第一東京弁護士会所属。
本来払わなければならないお金を支払わなくてよくなる?消滅時効制度の概略
消滅時効とは、債権者が権利を行使できる状態だったのに権利を行使しなかった結果、権利を失うことを定めた制度です(民法166条)。
簡単なケースを想定してみましょう。
Aさん(仮名)から1ヶ月後に返す約束で1万円を借りたBさん(仮名)。それからまもなくAさんとBさんは疎遠になってしまったので、AさんはBさんからお金を返してもらわないまま、15年の月日が流れました。
AさんがBさんに「あのときの1万円を返して」と請求したとき、Bさんは1万円を返すのか「もう時効だから払わないよ」と請求を拒むのかを選ぶことができます。
債務者(Bさん)の側からみると、消滅時効制度によって既に長期間経過していた債権についての不意打ち的な請求から保護されることになります。
民法改正で債権の消滅時効期間はどう変わった?
従来、債権の消滅時効期間は原則10年でした(改正前民法167条1項)。
ただし、消費者金融などの金融機関から借り入れた場合など商事債権にあたる場合には、5年とされていました(旧商法522条)。
これに対し、改正後民法においては、「債権者が権利を行使することができる時から10年」という規定に加えて(民法166条1項2号)、「債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき」にも時効消滅することになりました(民法166条1項1号)。
「権利を行使することができることを知った」というためには、「権利の発生原因」のほか、「権利行使の相手である債務者」を認識することが必要だとされています(参考:筒井健夫・村松秀樹『一問一答 民法(債権関係)改正』株式会社商事法務 57頁)。
かつて借金をしたのですが、改正前の民法と改正後の民法のどちらの時効期間になりますか?
消費貸借契約の締結時期によります。
基本的には、2020年3月31日以前に消費貸借契約を締結した場合には旧民法が、2020年4月1日以降に消費貸借契約を締結した場合には新民法が適用されます。
消費者金融などの金融機関は、返済期限が到来すれば権利を行使することができることを認識するはずですから、民法改正後も、消費者金融等からの借金は返済期日の翌日から5年の経過により消滅時効期間が満了すると考えられるため、実際上は法律改正による影響はないでしょう。
一方、奨学金の返済義務や個人間の貸し借りにおける返済義務は、民法改正前は消滅時効期間が10年でしたから、民法改正によって、消滅時効期間が早く経過するようになったといえます。
借金の消滅時効をまとめると、基本的には次のとおりです。
借金の消滅時効 | ||
2020年4月1日より前の借金 | 個人から借りた場合 | 貸主が権利を行使できる時から10年 |
金融機関から借りた場合 | 貸主が権利を行使できる時から5年 | |
2020年4月1日以降の借金 | 貸主が権利を行使することをできることを知った時から5年 (又は権利を行使できる時から10年のうちの、早い方) |
貸主が「権利を行使できる時」とはいつのことですか?
貸主が「貸したお金を返せ」と言える時です。
基本的には、約束した返済日と考えてください。
消滅時効は、債権の種類や契約内容、債権が成立した時期などによって時効の起算点や時効完成までの期間が異なります。
確実を期すために、個別のケースの時効期間については弁護士などの専門家に相談されることをお勧めします。

借りた覚えがあっても「返さない!」と言うのが時効援用
消滅時効は、消滅時効期間が過ぎれば自動的にお金を支払わなくてもよくなるわけではなく、「時効の援用」をして初めて義務を免れることになります(民法145条)。
「時効の援用」とは、時効による利益を享受する旨の意思表示のことです。
意思表示といっても、口頭で「時効を援用する」と伝えるだけだと、言った・言わないの水掛け論になりかねません。
また、債権者に電話をすると、債権者との会話のやり取りの中で支払を約束したとも取れる発言をしてしまうことがあります。
それによって時効の援用権を喪失してしまう場合がありますので、せっかく消滅時効期間が経過していたのに、時効を援用できなくなってしまう危険性もあります。
そこで、時効を援用する場合には、内容証明郵便にて「時効援用通知書」を発送します。
時効援用通知書とは、成立した時効を援用する旨の通知書のことです。
もっとも、寝た子を起こすことになりかねませんので、債権者から長期間返済を求められていない状態で、「そろそろ時効が完成したかな」と債務者から債権者に連絡を取る意味はあまりないでしょう。
基本的には、債権者から請求されたときに支払いを拒む理由として、消滅時効を主張するものです。
時効援用通知書の書き方について、詳しくはこちらの記事もご確認ください。
「時効援用」成功のカギは、消滅時効が更新(中断)されていないこと
時効を援用できるのは、消滅時効期間が経過しているときです。
法律上、債権者には、消滅時効の完成を防ぐために採りうる手段が定められています。
代表的なものは次の4つです。
- 催告
- 裁判上の請求、支払督促
- 強制執行
- 債務者の承認
このうち、債務者の行為によって時効が中断するのは、4の債務があることを認めてしまう、つまり「承認」をしたときです。
たとえば、債務者が次の行為をしたときには消滅時効期間の進行がリセットされてしまいます。このことを、「時効の更新」と言います(改正前民法では「時効の中断」と言っていました)。
- 全額または一部の金額を返済してしまう
- 「返済する」と連絡あるいは約束してしまう
- 返済期限の延長を求める
本来の時効が完成する前に債務者が債務を承認すると、そこから更に時効期間が経過しないと、時効は完成しません。
【時効完成前に債務を承認した場合】

さらに、消滅時効期間が経過していても、債務の承認をしてしまうと、信義則上、時効を主張することが基本的にできなくなってしまいますので、注意してください。
【時効完成後に債務を承認した場合】

時効完成後、時効が完成したことを知らずに債務を承認した場合、どうなるのですか?
債務を承認した時に時効の完成を知らなかったとしても、一旦承認してしまった以上、基本的には、もはや時効の援用は出来ず、新たな時効期間の経過まで改めて待たなくてはなりませんので、注意が必要です。
自ら債権者に接触することでかえって債務を承認してしまわないか不安な場合には、あらかじめ弁護士に時効援用を依頼することをおすすめします。
借金の「時効援用」は、失敗したときのリスクが高い
時効援用に失敗するケースとは、主に次のような場合です。
実は時効が完成していなかった
(起算日を間違えた、時効期間を間違えた、時効の完成が阻止されていた)
時効が完成していたのに、債務を承認してしまった
時効を援用するのであれば、できれば、あらかじめ弁護士に時効援用書面をチェックしてもらうことも検討されることをおすすめします。
手っ取り早いからといって、債権者に電話をして時効援用することにはリスクがなどありますので、おすすめできません。
時効が完成している場合、債権者としてはそのことを本人に伝えず、何としても債務を承認させたい(支払ってもらいたい)と思っているケースも多いです。
ご自身で対応される場合にはくれぐれもご注意ください。
借金の返済義務を免れるつもりで電話をしたのに、うまく言いくるめられてなぜか支払うと約束してしまう(債務の承認をしてしまう)というケースは実際に起こりえます。
そうなると、基本的に消滅時効を援用することはできないため、支払義務を負っている金額を支払わざるをえなくなってしまいます。
借りたお金を返さなければならないだけなら、それほどリスクではないと思うかもしれません。
しかし、当初の約束どおりにお金を支払わなかった場合には、遅延損害金を請求されることがあります。
遅延損害金について何ら約束していない場合でも、債権者は法定の利率に基づいて遅延損害金を請求することができます(2021年4月1以降に借りたお金なら3%、それ以前なら5%)。
貸金業者からお金を借りる場合の遅延損害金は、上限20%です。
貸金業者から100万円借りて遅延損害金が年利20%という場合、1年間返済しないと20万円もの遅延損害金が発生していますので、負担は大きいでしょう。
遅延損害金について詳しくはこちらの記事もご確認ください。
借金の「時効援用」に失敗したら、どうすれば良い?
時効援用に失敗してしまったら、他に支払いを免れられる理由のない限り、そのお金(借金の元金+利息+遅延損害金)を支払わなければなりません。
一括で請求されている場合、自分で債権者と交渉して分割払いにできる可能性があります。
しかし、自ら債権者と交渉しても債権者が分割払いに応じてくれるとは限りません。
請求金額を支払えない場合には、弁護士に債務整理を依頼することを検討することをおすすめします。
債務整理には、基本的に1.任意整理、2.民事再生(個人再生)、3.自己破産の3種類があります。
弁護士に相談する前に自分に適した方法を考える必要は必ずしもなく、自身の借金について申告していただいた上で「借金の負担を減らしたい」などと相談していただくだけでも問題ありません。
時効援用に失敗してから弁護士に相談されても有効なアドバイスを受けることができないかもしれませんので、債権者から請求書が届いた段階で弁護士に相談することをおすすめします。
最終的に自分で時効援用をしてみる場合でも、あらかじめ弁護士に相談しておくことで有益な情報を得られることもあるはずです。
【まとめ】時効完成後に債務を承認してしまうと、時効の主張ができなくなる
今回の記事のまとめは、次のとおりです。
- 借金の時効期間は、基本的には次のとおり。
借金の消滅時効 | ||
2020年4月1日より前の借金 | 個人から借りた場合 | 貸主が権利を行使できる時から10年 |
金融機関から借りた場合 | 貸主が権利を行使できる時から5年 | |
2020年4月1日以降の借金 | 貸主が権利を行使することをできることを知った時から5年 (又は権利を行使できる時から10年のうちの、早い方) |
- 時効の完成を阻止する事由は、主に次のとおり
- 催告
- 裁判上の請求・支払督促
- 強制執行
- 債務者の承認
- 債務者の行為により時効が中断されるのは4.承認。
- 借金の一部を支払ったり、支払期限の延長を求めることも「承認」にあたる。
- 時効完成前に債務の承認をすると、時効の完成が阻止され、その時点から新たな時効期間がスタートする。
- 時効完成後に、時効完成を知らずに債務を承認すると、基本的には、信義則上、時効の完成を主張することができない。
- 時効援用に失敗してしまうと、時効が完成していても借金(元金・利息・遅延損害金)を返済しなくてはいけなくなる。
- 時効援用に失敗して借金の返済が出来ない方は、債務整理を検討すべき。
長い間返済しておらず、連絡もなかった業者から突然督促されたときは、時効援用が可能かもしれません。連絡があっても、「わかりました、返します」というようなことは言わずに、弁護士に借金について時効援用が可能か相談するようにしましょう。
アディーレ法律事務所では、債務整理手続きを扱っております。債務整理をする中で時効援用が可能と思われる借金については、時効援用を行います。
アディーレ法律事務所では、所定の債務整理手続につき、所定の成果を得られなかった場合、原則として、当該手続に関してお支払いただいた弁護士費用を全額ご返金しております。
また、完済した業者への過払い金返還請求の手続きの場合は、原則として過払い金を回収できた場合のみ、成果に応じた弁護士費用をいただいておりますので、費用をあらかじめご用意いただく必要はありません。(2022年9月時点)
時効援用を検討されている方、時効援用に失敗して債務整理についてお悩みの方は、アディーレ法律事務所にご相談ください。
