「借金を滞納していたら『期限の利益喪失通知』という紙が届いた。どういう事態になっているの?」
期限の利益とは、支払期日までは支払わなくていいという、債務者にとっての利益です。
しかし、期限の利益は、支払が遅れたときなど、一定の場合には無くなってしまいます(期限の利益の喪失)。期限の利益の喪失が起こると、債権者から「一括で支払うように」との通知が来ます(期限の利益喪失通知)。
そして、期限の利益喪失通知を放置していると、財産を差し押さえられてしまうおそれがあります。そのため、早めに債権者と交渉する、弁護士に相談するなどの対処が必要です。
この記事では、
- 期限の利益とは何か
- 期限の利益の喪失が起こると、どうなるか
- 期限の利益の喪失はどのような場合に起こるか
- 期限の利益を喪失しないためには、どうすればいいか
- 期限の利益喪失通知が届いたら、どうすればいいか
を弁護士が解説します。
早稲田大学、及び首都大学東京法科大学院(現在名:東京都立大学法科大学院)卒。2012年より新宿支店長、2016年より債務整理部門の統括者も兼務。分野を問わない幅広い法的対応能力を持ち、新聞社系週刊誌での法律問題インタビューなど、メディア関係の仕事も手掛ける。第一東京弁護士会所属。
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期限の利益とは
期限の利益とは、支払期日まで支払を待ってもらえる利益のことです。
例えば「3月31日までに10万円返す」と約束する場合借主は3月31日まで返済しなくて済みます。
民法136条1項には、期限の利益について、次のように規定されています。
期限は、債務者の利益のために定めたものと推定する。
引用:民法136条1項
つまり、返済期日を定めると、その期間借主がお金を返さなくて済むのです。
その結果、貸主から突然「明日全額返済してください」と言われても、「返済期日まで返さなくていいことになっています」と断ることができます。
期限の利益は、いわば返済までの猶予期間と捉えることができるでしょう。
(1)期限の利益によって分割払が可能になる
期限を定めることによって、借主は期限まで返済を待ってもらえるようになります。
また、あらかじめ合意しておけば、分割で返済することもできます。
たとえば、「2020年8月1日から100万円に満つるまで毎月10万円ずつ返済する」と合意している場合、2020年8月1日にいきなり100万円を求められることはありません。
2020年8月1日から毎月10万円ずつ10ヶ月順調に返済できれば、特に問題ありません。
多額の借入れやショッピングをして一括での返済が難しい場合、期限の利益によって支払が可能となるのです。
債権者が得るメリットとは?
債務者(借主)には返済を待ってもらえるメリットがある一方、債権者(貸主)にはどのようなメリットがあるのでしょうか。
民法136条1項にあるように、期限の利益は債務者のためのもので、債権者に直接生じるメリットはありません。
もっとも、利息の支払を約束したときには、期限の利益が債権者にもメリットをもたらします。
たとえば、1年後に10%の利息をつけて100万円を返済すると約束した場合、債権者は1年後に返済を受けると1万円の利息を受け取ることができます(元金×金利)。
分割払いやリボ払いのときも同様に、債権者は一定の手数料を受け取れます。
(2)期限の利益は放棄することもできる
3月31日に返済することになっていても、借主が期限よりも早く返済したいのであれば、あえてそれを止める必要はありません。
この場合、債務者は期限まで待ってもらえる利益を放棄します(期限の利益の放棄)。
利息のある借金の期限の利益を放棄するときの注意点
ただし、早めに返済しても利息は減らない可能性があります。
民法136条2項には、次のように規定されています。
期限の利益は、放棄することができる。ただし、これによって相手方の利益を害することはできない。
引用:民法136条2項
相手方である債権者の利益とは、期日までの利息を受け取れることです。
それを害することはできないと規定されているので、借主は繰り上げ返済をしたとしても、約束分の利息を支払わなければならないというのがこの規定です。
もっとも、契約は民法よりも基本的に優先されるので、異なる合意があれば話は別です。
金融機関からの借入れの場合、基本的には返済期日までの利息を支払うだけでよいことが少なくありません。
詳しくは、金融機関に直接問い合わせてみるか、契約書・約款を確認してみましょう。
「期限の利益の喪失」が起こると一括請求される

期限の利益の喪失が起こると、
返済期日まで待ってもらえず、請求を受ける
こととなります。
この一括請求を受けても、支払えない場合、基本的に債権者は債権を回収するために裁判所での手続を進めます。
手続の流れは、債務について担保があるかどうかで異なります。
詳しくご説明します。
(1)担保が設定されているとき
自宅など、不動産を担保にしているケースでは、債権者が抵当権を実行することで、競売が行われます。
裁判所から命じられた執行官が物件の調査に来たり、競売物件として公開されたりします。
その後、競売によって買い手が見つかると、不動産から立ち退かなければなりません。
参考:執行手続・書式等のご案内【不動産執行手続】|裁判所- Courts in Japan
また、(連帯)保証人がいる場合には、基本的に保証人に対しても請求がいきます。
(2)担保が設定されていないとき

一括請求されてもなお返済できずにいると、債権者は民事訴訟や支払督促といった裁判上の手続きを利用して債権の回収を試みるでしょう。
最終的には、給料の一部や預貯金などの財産を差し押さえられるなどして、強制的にお金を返済させられる可能性があります。
差押えまでの流れや対処法について、詳しくはこちらをご覧ください。
期限の利益の喪失はどんな時に起こる?
期限の利益の喪失は、支払が滞った場合に起こることが多いですが、それ以外の場面でも起こる可能性はあります。
期限の利益の喪失が起こる場合は、次の2つに大きく分けることができます。
- 法律上、期限の利益が喪失すると定められている場合
- 契約で、期限の利益が喪失すると定められている場合(期限の利益喪失条項)
それでは、期限の利益の喪失が起こる具体的な場面を説明します。
(1)法律上、期限の利益が喪失する場合
民法137条では、期限の利益の喪失が起こる3つのケースを規定しています。
次に掲げる場合には、債務者は、期限の利益を主張することができない。
引用:民法137条
一 債務者が破産手続開始の決定を受けたとき。
二 債務者が担保を滅失させ、損傷させ、又は減少させたとき。
三 債務者が担保を供する義務を負う場合において、これを供しないとき。
いずれも債権者が約束どおり期日を待つのが不安だと感じるケースです。
(2)契約で「期限の利益の喪失条項」を設けている場合
民法で規定されているのは、上の3つのケースだけです。
しかし実務上、債権者がお金を払ってもらえないのではないかと考えるケースは多くあります。
そのため、「期限の利益喪失条項」を契約で定め、当てはまった場合には期限の利益が喪失するようになっていることが少なくありません。
期限の利益喪失条項で定められていることが多いのは、次の8つです。
- 分割払の返済が遅れたとき
- 債務整理をしたとき
- 不渡り手形を出したとき
- 財産状況の悪化や虚偽が発覚したとき
- 差押えを受けたとき
- 債務者が死亡したとき
- 債務者の住所が不明なとき
- 債務者が反社会的勢力だったとき
この中でも特に日常生活で起こりがちなのは、「分割払の返済が遅れたとき」と「債務整理をしたとき」、「差押えを受けたとき」です。
それでは、この3つのケースについて説明します。
(2-1)分割払の返済が遅れたとき
一般的な契約では「一回でも支払を怠ったとき」に期限の利益を喪失するとされています。
そのため、なるべく期日どおりに返済していくことが望ましいのはいうまでもありません。
もっとも、数日の遅れであれば、一括請求されずに分割で返済を続けていけることが多いです。
しかし、この遅れが長くなればなくなる程、一括請求される可能性がどんどん高くなっていきます。
特に、2~3ヶ月以上滞納した場合には、一括で請求される可能性が高いばかりでなく、いわゆるブラックリスト(※)に載る可能性があります。
※金融機関にブラックリストという名称のリストはありません。もっとも、信用情報に滞納などの事故情報が載ることを、一般にブラックリストに載るといいます。
何をすると事故情報が登録されるのか、いつまで登録されるのかについて詳しくはこちらをご覧ください。
(2-2)債務整理をしたとき
自己破産の場合、先ほど見たように、法律上期限の利益が喪失することとなっています。
一方、自己破産以外の債務整理(任意整理や個人再生など)の場合にも、期限の利益を喪失条項が設けられているのが一般的です。
任意整理とは、返済期間を長くすることで毎月の返済額を減らしたり、今後発生するはずだった利息を無しにすることなどを目指して債権者と交渉する手続きです。
任意整理について詳しくはこちらをご覧ください。
個人再生とは、負債を返済できなくなってしまいそうな場合に、裁判所の認可を得て、基本的に減額された金額を原則3年間で返済していく手続きです。
条件を満たしていれば、住宅ローンの残った家を手放さずに済む可能性があります。
個人再生について詳しくはこちらをご覧ください。
(2-3)差押えを受けたとき
別の債権者に預金口座を差し押さえられたり担保物件の競売手続きを開始されたりしたということは、債務者がその債権者に対して長期間返済できていないことを意味します。
約束の期日が来ていないからといって悠長に待っていては、ほかの債権者が債務者の財産から回収し終わってしまい、自身はお金を回収することができません。
そのため、差押えや仮差押えがあると、期限の利益を喪失するとされています。
期限の利益の喪失を防ぐ2つの方法
期限の利益を喪失しないためには、きちんと収支を管理して、期日までに返済しなければなりません。
期限の利益の喪失を防ぐための主な方法には、次の2つがあります。
- 返済を自動引落しにする
- 収入と支出をしっかり把握する
それぞれについて説明します。
(1)返済を自動引落しにする
自分で振り込みの作業をするのが億劫になってしまうならば、最初から自動引としにしておきましょう。
勝手に返済期日にお金が引き落とされていくので、返済し忘れる心配がありません。
(2)収入と支出をしっかり把握する
もっとも返済を自動引き落としにしていても、口座の中に入れるお金がない状態では滞納になってしまいます。
そこで、返済する資金を確保するため、銀行口座やクレジットカードの利用履歴を含めて管理できる家計簿アプリを導入して、家計の収支を常に管理するとよいでしょう。
お金を使い過ぎない・借り過ぎない、ということが大切です。
期限の利益喪失通知が届いたらどうすればいい?
どうしても支払ができなくなってしまった場合には、期限の利益の喪失が起こります。
期限の利益を喪失すると、債権者から「期限の利益が喪失したから、一括で支払うように」という内容の通知が来ます(期限の利益喪失通知)。
それでは、債権者から期限の利益喪失通知が届いたときの対処法をお伝えします。
(1)債権者と交渉する
少し待ってもらえば支払うことが可能な状態であるならば、債権者に支払を待ってもらえないか交渉してみましょう。
そのとき給料からいくら支払えるのかを具体的に伝えられると説得力が増します。
ただし、契約条件が悪くなったり遅延損害金の支払いを求められたりするかもしれません。
自分で交渉するのが不安ならば、弁護士に相談することをおすすめします。
放置していると、財産を差し押さえられてしまうおそれがあります。必ず債権者か弁護士に相談しましょう。
(2)弁護士に相談する
自分で交渉してうまくいかなかった場合や自分で交渉したくない場合には、弁護士に相談します。弁護士に依頼することで、自身で交渉するよりも有利な条件を引き出せる可能性があります。放置するほど、利息や遅延損害金で総支払額が膨らんでしまいます。なるべく早く相談することがおすすめです。
【まとめ】期限の利益を喪失すると、一括請求を受けることになる
今回の記事のまとめは次のとおりです。
- 支払が遅れたなど、一定の場合には期限の利益がなくなってしまう(期限の利益の喪失)。期限の利益の喪失が起こると、一括請求を受けることとなる。
- 期限の利益の喪失は、主に次のような場合に起こる。
- 法律上、期限の利益が喪失すると定められている3つの場合
- 債務者が破産手続開始の決定を受けたとき
- 債務者が担保を滅失、損傷、または減少させたとき
- 債務者が担保を供する義務を負っているのに、担保を供しないとき
- 契約で、期限の利益の喪失条項が定められている場合
(例えば)- 分割払の返済が遅れたとき
- 債務整理をしたとき
- 不渡り手形を出したとき
- 財産状況の悪化や虚偽が発覚したとき
- 差押えを受けたとき
- 債務者が死亡したとき
- 債務者の住所が不明なとき
- 債務者が反社会的勢力だったとき など…
- 法律上、期限の利益が喪失すると定められている3つの場合
- 期限の利益の喪失を防ぐためには、主に次のような対処法がある。
- 返済を自動引落しにする
- 収入と支出をしっかり把握する
- 期限の利益を喪失し、債権者から期限の利益喪失通知が届いた場合、放置は禁物。次のような対処法がある。
- 債権者と交渉する
- 弁護士に相談する
期限の利益は債務者のために設けられているものなので、なるべく喪失しないように注意したいところです。しっかりと収支を管理して使い過ぎに注意しましょう。
借金について期限の利益喪失通知が届いてお困りの場合には、債務整理によって返済の負担を減らせないか検討することがおすすめです。
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