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偏頗(へんぱ)弁済とは?偏頗弁済の3つのリスクとその回避方法

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「自己破産をしたいけれど、親戚に借りたお金だけはどうしても返したい……。一人にだけ返済したらやっぱりマズいのかな。」

自己破産を弁護士に依頼すると、すべての債権者に対する支払をストップしなければなりません。
しかし、支払いをストップしたことで経済的に余裕がでると、お世話になった友人や親族に対していくらか返済したいと思うのが人間の性(さが)かもしれません。

しかし、実際に一部の人に借金を返済してしまうと「偏頗弁済(へんぱべんさい)」として次の問題が生じる可能性があります。

  1. 自己破産を申立てても免責が認められず、借金の返済義務が残ってしまう
  2. 破産管財人に弁済の効果を否定され、弁済分を取り戻されてしまう
  3. 破産管財人から弁済した分の積み立てを求められる

今回の記事では、

  • 偏頗弁済
  • 偏頗弁済のリスク
  • 偏頗弁済を回避する方法

などについてご説明します。

この記事の監修弁護士
弁護士 谷崎 翔

早稲田大学、及び首都大学東京法科大学院(現在名:東京都立大学法科大学院)卒。2012年より新宿支店長、2016年より債務整理部門の統括者も兼務。分野を問わない幅広い法的対応能力を持ち、新聞社系週刊誌での法律問題インタビューなど、メディア関係の仕事も手掛ける。第一東京弁護士会所属。

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免責不許可事由とは?

個人の自己破産手続における最終的なゴールは、借金の返済義務を免除してもらうこと(借金の帳消し)です。
これを「免責(許可)」と呼びます。

免責不許可事由がなければ、法律上、免責が認められます(破産法252条1項)。
そして、免責不許可事由の1つとして、次の通り「偏頗弁済」が定められています(破産法252条1項3号)。

裁判所は、破産者について、次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には、免責許可の決定をする。

特定の債権者に対する債務について、当該債権者に特別の利益を与える目的又は他の債権者を害する目的で、担保の供与又は債務の消滅に関する行為であって、債務者の義務に属せず、又はその方法若しくは時期が債務者の義務に属しないものをしたこと。

引用:破産法252条1項3号

では、この偏頗弁済とは何か、分かりやすくご説明します。

なお、免責不許可事由について詳しくはこちらの記事もご確認ください。

免責不許可事由とは?該当すると自己破産できないって本当?

偏頗弁済とは特定の債権者を優遇する詐害行為のこと

偏頗弁済とは、債務者が特定の債権者だけに返済したり、担保を提供したりすることです。

たとえば、次のようなケースが偏頗弁済にあたります。

1000万円の借金を抱えて弁護士事務所を訪れたAさん。
弁護士からは自己破産が相当であると案内されましたが、30万円分のローンが残っている自動車はローン会社に引き揚げられてしまうと聞き、その場で弁護士に依頼することができませんでした。
その後、Aさんは車のローン以外の借金の返済を止め、車のローンを繰り上げ自ら返済して完済し、再び弁護士事務所を訪ねました。

裁判所によって異なりますが、ローンを完済した自動車の価値が20万円未満の場合(※東京地裁の場合)、Aさんは自動車を手元に残せる可能性が高いです(このような、破産を申立てても手元に残しておける財産のことを「自由財産」といいます)。
Aさんはそれを狙って、車のローンだけ支払ったのです。
この期間、車のローン会社以外の債権者は借金の返済を受けられませんでした。
本来、破産手続では、全ての債権者が公平に扱われなくてはいけません(「債権者平等の原則」と言います)。

「偏頗弁済」は、「債権者平等の原則」という破産法上の重要なルールに反しますので、免責不許可事由の1つとして規定されているのです。

自己破産における偏頗弁済の3つのリスク

偏頗弁済をすると、次の3つのリスクがあります。

免責が認められない可能性がある

破産管財人に偏頗弁済を否認される可能性がある

弁済した分の積立てを求められる可能性がある

それぞれについてご説明します。

(1)免責が認められない可能性がある

偏頗弁済は、免責不許可事由なので、せっかく自己破産を申立てても借金の返済義務がなくならない可能性があります。

さらに、最終的に免責が認められるとしても、自己破産を申立てた段階で免責不許可事由があると、免責に関する調査が必要であると判断されます。
そうなると、破産手続が簡略化された同時廃止ではなく、裁判所に払う予納金(東京地裁の場合、少なくとも20万円)・弁護士費用の高額な管財事件で手続きを進めなければならなくなるという大きなデメリットがあります。

管財事件について詳しくはこちらの記事もご確認ください。

管財事件とは?手続きの流れや注意点についても解説

(2)管財人により偏頗弁済を否認される可能性がある

破産手続では、管財人が破産者の財産のうち比較的価値の大きい財産を処分してお金に換えて債権者に配当します。
もし本来あるべき財産が破産手続においてどこかにいってしまっているのであれば、管財人はその財産を取り戻さなくてはいけません。

たとえば、次のようなケースを想定してみましょう。

奥さんと一緒に弁護士事務所に訪れたBさんは、弁護士に自己破産手続を依頼しました。
弁護士から債権者に対して返済しないように言われていたにもかかわらず、その次の日、Bさんは奥さんに対して借金全額(50万円)を返済しました。

Bさんの行為は、奥さんだけにお金を返していますから、偏頗弁済です。
Bさんの行為がなければ、破産開始決定時に50万円以上Bさんは持っていたはずです。

そこで、管財人は他の債権者のために50万円を回収しなければなりません。
それを可能とする管財人の権利を「(偏頗行為)否認権」といいます(破産法162条1項)。
管財人が否認権を行使すると、50万円は管財人の管理する財産へと戻り、配当の原資となります。
否認の対象となる偏頗行為は、次の3つの条件を満たすものです。

  1. 特定の債権者への返済等であること
  2. 支払不能になった後または破産手続申立てがあった後の行為であること
  3. 債権者(受益者)が債務者の支払不能状態などを知っていたこと

弁護士に自己破産を依頼して各債権者に対する支払をストップすることを「支払停止」といい、支払い停止があると「支払不能」になったものと推定されます(破産法162条3項)。

今回のケースでは、弁護士に依頼した後、特定の債権者に対して返済しており、さらに奥さんはBさんの支払不能状態を当然知っていたので、否認権を行使できるというわけです。

否認権について詳しくはこちらの記事もご確認ください。

破産管財人が否認権を行使するケースとその効果を解説

(3)弁済した分の積み立てを求められる可能性がある

破産管財人が否認権を行使しようと思っても、何らかの理由で支払ったお金を取り戻そうとすると、厄介な問題が生じる場合もあります。

たとえば、次のようなケースを想定してみましょう。

自己破産を弁護士に依頼したCさんは、会社からお金を借り入れ、毎月給与天引きで返済していました。
弁護士から会社に対して自己破産の受任通知を送ったものの、給与天引きは止まらず、借金(15万円)を完済しました。

このケースで、管財人は会社に対して否認権を行使して、15万円を回収することができます。
もっとも、実際に回収されるとCさんの会社での立場は危うくなるかもしれません。
自己破産手続において大切なことは、破産者の財産を本来の状態にすることです。

このケースのように、わざと偏頗弁済したのではない場合、会社から15万円を支払ってもらわなくても、破産者が15万円を支払えれば基本的に問題ないとされる可能性もあります(ただし個別のケースによります)。
そこで、管財人から否認権を行使できる相当の金額について、破産者に対して積立てを求めることもあります。

よくある!?偏頗弁済にあたる返済

それでは、うっかりやりがちですが、偏頗弁済にあたることが多いケースをお伝えします。
自己破産手続を申立てるにあたっては、申立代理人である弁護士や裁判所、管財人が破産者のお金の動きを徹底的に調査するため、偏頗弁済を隠しておくことは不可能でしょう。

(1)知人や親族への返済

弁護士に破産手続を依頼した時点で、知人や親族からお金を借りている場合、知人や親族に「お金を返す必要はない」と一筆書いてもらって返済義務を免除してもらう(債権放棄をしてもらう)か、消費者金融などの他の債権者と同じように、債権者として破産手続に加わってもらう必要があります。
もし弁護士に依頼した後で知人や親族にのみ返済すると、偏頗弁済にあたります。
返済した相手が破産手続について知っていれば、管財人が返済した金額を回収することになります。

自分が困っているときにお金を貸してくれた知人や親族から「今、お金に困っているからあのお金を返して欲しい」と頼まれたら、心情的に断りづらいでしょう。しかし、自己破産が認められないことになりかねませんので、絶対に返さないようにしましょう。

自己破産をした後で経済的に余裕が出てくれば、恩返しとして援助してあげることはできます。

(2)車のローン会社への返済

ローンの残っている状況で自己破産を弁護士に依頼すると、車のローン会社は車を売却して、ローンの返済に充てるため、車を返して欲しいと要求してきます。

これを回避するため、弁護士に依頼する前に車のローンだけまとめて返済する人がいます。
しかし、これも偏頗弁済にあたる可能性があります。

偏頗弁済にあたらない返済

特定の債権者だけに返済をした場合であっても、偏頗弁済にあたらないと判断される傾向にあるケースがあります。ただし、ここで挙げるケースであっても、事案によっては偏頗弁済にあたると判断されるケースもあるので、あらかじめ弁護士に相談してください。

(1)滞納している家賃の支払い

滞納した家賃は、破産手続によって返済を免除されます。
しかし、家賃を支払わなければその家に住み続けることはできなくなり、破産することの目的の一つである破産者の生活の経済的再生という観点からは問題が生じます(※一般的に3ヶ月以上の家賃を滞納した場合には、裁判でも賃貸人による賃貸借契約の解除は有効とされています)。
そのため、一般的には裁判所に破産を申立てるまでに家賃の滞納を解消します。

この場合、大家という特定の債権者だけに払っていますが、偏頗弁済として問題視されない傾向にあります。
一方、転居前の家賃であれば退去を求められることもないので、他の債権と同様に扱います。
家賃を滞納した場合で、どうしても引っ越しができないという事情がある場合には、弁護士に相談して、今後の対応を検討しましょう。

(2)スマホや携帯電話に関する費用の支払い

家賃同様、生活に必要であるとの理由で支払えるのがスマホや携帯電話に関する費用です。
もっとも、家賃と異なり、滞納してしまった通信料を支払うと偏頗弁済となる可能性があります(※裁判所の運用によって、違いがあります)。
また、スマホ本体の代金を分割で支払っている場合には、本体代金も支払うと偏頗弁済にあたるので、注意しましょう。

本体代金を完済していない場合には、場合によっては解約になってしまうのを避けられないかもしれません。
スマホや携帯電話の通話料を滞納しており、どうしても解約されては困るという場合には、すぐに支払うのではなく、必ず弁護士に相談しましょう。

偏頗弁済を回避する方法と注意点

偏頗弁済を回避するための方法と注意点を解説します。
もっとも、偏頗弁済を回避する方法を取るにしても、100%の保証があるわけではありません。

独断で対応した結果、偏頗弁済にあたると判断され、免責不許可や否認権行使などの問題が生じる可能性があるので、支払う前には弁護士に相談しましょう。

(1)知人や親族に事情を説明する

何事もきちんと話をすることで、相手の理解を得られる可能性が高まります。
知人や親族との信頼関係を壊したくないと思うならば、お金を返せなくなった理由をきちんと説明するほうが良いでしょう。
また、破産手続中であり、今返済すると後々管財人から回収されてしまうことも伝えることが大切です。
後になって破産管財人から返済した分を取り戻されると、かえって迷惑がかかってしまうでしょう。

偏頗弁済はどうしてバレるんですか?
債権者一覧表に載せずにこっそり返済してもバレてしまうんですか?

自己破産をするときは、通帳や給与明細や家計収支表などいろいろな書類を提出しなければいけませんから、使途が分からないお金の流れがあれば、必ず破産管財人に追及されます。
また、債権者一覧表に嘘を書くことは別の免責不許可事由に当たりますから(破産法252条1項7号)、絶対にしてはいけません。

それでも、今後の付き合いもありますので、返したい場合にはどうしたら良いですか?

免責決定が出た後は、借金の「返済義務」がなくなるだけで、借金そのものが存在しなくなってしまうわけではありません。
どうしても返したいのであれば、免責決定後に少しずつでもその分は返せば良いでしょう。

(2)第三者による弁済(第三者弁済)

偏頗弁済は、他の債権者に支払いをしていない状況で、「破産者のお金」で特定の債権者にだけ支払うことです(要は、本来すべての債権者に平等にいき渡るべき破産者の財産が特定の債権者だけに渡ってしまうことが問題なのです)。

ですから、破産者の財産が減らない方法、つまり破産者の代わりに、破産者と生計をともにしない親族や知人など第三者が債権者に支払うならば、破産者の財産が減少しないので、偏頗弁済にあたりません。第三者弁済をしてもらう場合には、知人から直接債権者に支払ってもらうなど偏頗弁済にあたらないことを証拠化しておくことが大切です。

また、この場合、本当に破産者の財産から返したのではないかと疑わるおそれがありますから、第三者弁済を考えている場合には、必ず事前に弁護士に相談してください。
なお、破産手続きが終了していないのに、第三者が債権者に支払った分を、破産者が第三者に支払うというのは絶対にやめてください(これも免責不許可事由等にあたります)。

【まとめ】支払不能後の特定の債権者への弁済は「偏頗弁済」として免責不許可事由にあたる

今回の記事のまとめは、次のとおりです。

  • 特定の債権者に優先的に返済をする「偏頗」には、次のリスクがある。
    1. 自己破産を申立てても免責が認められず、借金の返済義務が残ってしまう
    2. 破産管財人に弁済の効果を否定され、弁済分を取り戻されてしまう
    3. 破産管財人から弁済した分の積み立てを求められる可能性がある
  • うっかりやってしまいがちな偏頗弁済は次のケースである。
    1. 親戚や知人に対する借金の返済
    2. 車のローンの返済
  • 次の返済は、事実上、偏頗弁済に当たらないとされる可能性が高い。
    1. 滞納している家賃の支払
    2. スマホや携帯電話に関する費用の支払
  • 偏頗弁済を回避する方法は、次のとおり。
    1. 親戚や知人に事情を説明する。
    2. 生計をともにしない親戚などに第三者弁済をしてもらう。

偏頗弁済は、場合によっては免責が認められない非常にリスクの高い効果です。
もしも偏頗弁済と知らずに弁済をしてしまった場合やどうしても特定の債権者への弁済がしたいという場合には、必ず弁護士に相談しましょう。

アディーレ法律事務所では、万が一個人の破産事件で免責不許可となってしまった場合、当該手続にあたってアディーレ法律事務所にお支払いいただいた弁護士費用は原則として、全額返金しております(2021年10月時点)。

※ただし、免責不許可が、次の場合に起因する場合は、返金対象外です。

  • アディーレ法律事務所へ虚偽の事実を申告し、又は事実を正当な理由なく告げなかった場合
  • 破産手続きの受任時に、遵守を約束いただいた禁止事項についての違反があった場合

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