「今日までに渡してもらえるはずだった商品が届かない……どうしよう?」
このように、法律上負っている義務(債務)を果たさないことを、「債務不履行」と言います。
債務不履行をされてしまった場合には、履行を求めたり、損害賠償を請求することなどが可能です。
この記事では、
- 債務不履行とは何か
- 債務不履行には、どのような種類があるか
- 債務不履行をされた場合、どのように対処すればよいか
- 例えばどんな場面で債務不履行による損害賠償請求ができるか
について弁護士が解説します。
早稲田大学、及び首都大学東京法科大学院(現在名:東京都立大学法科大学院)卒。2012年より新宿支店長、2016年より債務整理部門の統括者も兼務。分野を問わない幅広い法的対応能力を持ち、新聞社系週刊誌での法律問題インタビューなど、メディア関係の仕事も手掛ける。第一東京弁護士会所属。
債務不履行(さいむふりこう)とは
債務不履行とは「債務(義務)を果たさないこと」をいいます。
詳しく解説します。
(1)債権・債務とは
例えば、オーダーメイドのウェディングドレスを注文する場面を想定してみましょう。
お店は、注文通りのドレスを提供する義務を負い、代金を受け取る権利を有します。
一方、お客は代金を支払う債務義務を負い、注文通りのドレスを受け取る権利を有します。
このような相手方に対して負う法的な義務を「債務(さいむ)」、相手方にその法的義務を請求できる権利を「債権(さいけん)」といいます。

(2)債務不履行とは
ところで、全ての契約が当事者の思いどおりにいくわけではありません。
たとえばオーダーメイドのドレスを仕立てる契約で、注文した色と異なる色のレースをつけてしまい、結婚式までにドレスが完成しなかったとすると、お店は債務を果たせなかったことになります。
このように約束した債務を果たさないことを「債務不履行」といいます。
債務不履行の3つの種類
債務不履行には、次の3種類があります。
- 履行不能
- 履行遅滞
- 不完全履行
債務不履行がどれにあたるかによって、債権者の採りうる手段は異なってきます。
それでは、債務不履行の3つの種類について説明します。
(1)債務の履行が不可能な「履行不能」
約束を果たすことが不可能なケースを「履行不能」といいます(民法412条の2)。
例えば、オーダーメイドのドレスが結婚式当日に間に合わなければ「履行不能」です。
そのほか例えば一品もののイラストを燃やしてしまった場合も「履行不能」です。
(2)債務の履行が遅れる「履行遅滞」
債務が期日までに履行されないことを「履行遅滞」といいます(民法412条)。
例えば、オーダーメイドのドレスを結婚式の1週間前に完成させる契約であったにもかかわらず、実際に仕上がったのが結婚式の3日前であれば、それは「履行遅滞」です。また、代金を約束の日に支払わないことも「履行遅滞」にあたります。
(3)履行の内容が不完全な「不完全履行」
不完全履行とは、一応債務は履行されたものの、その履行の内容が不完全なことです(民法415条1項)。
例えばオーダーメイドのドレスが注文したレースと異なるレースで作られた場合、注文どおりのものが提供されておらず、不完全な履行であるため、「不完全履行」にあたります。
不完全履行は、具体的な事情に応じて、履行不能か履行遅滞に振り分けられます。
最終的に結婚式に間に合わなければ「履行不能」になります。一方、約束の納期に遅れても結婚式に間に合えば、「履行遅滞」にとどまります。
債務不履行を受けたときの4つの対応策
債務不履行をされてしまったときの対応策には、主に次の4つがあります。
- 債務不履行に対して損害賠償を請求する
- 債務不履行に関して契約の解除を申し出る
- 完全な履行を求める
- 強制執行する
それぞれについて説明します。
(1)債務不履行に関して損害賠償を請求する
1つめの対応策が、損害賠償の請求です(民法145条2項)。
債務者のせいで、債務不履行となり何らかの損害が生じている場合、債務不履行をされた相手方は損害賠償を請求することができます。
損害として認められるのは、主に次の2つです。
- そのような債務不履行があれば通常生じるといえる損害
- 特別な事情によって生じた損害ではあるものの、その特別な事情を債務者があらかじめ知ることができた場合の、その損害
また、契約どおり債務が履行されていれば将来得られていたはずの利益(逸失利益といいます)も対象になる可能性があります。
もっとも、天変地異によって債務不履行が起きた場合のように、債務者に何らの落ち度もなく、不可抗力によって債務不履行となった場合には、原則として損害賠償請求をすることができません(民法415条1項但書。債務者に何ら落ち度がないことについては、債務者が証明する必要があります)。
ただし、借金の支払義務などお金を支払う債務については、たとえ不可抗力による債務不履行だったとしても損害賠償(遅延損害金の支払い)をしなければなりません(民法419条1項3項)。
(2)債務不履行に関して契約の解除を申し出る
2つめの対応策が、「契約の解除」をして、契約を始めからなかったことにすることです(民法541条、542条など)。
契約には法的な拘束力があるため、通常、契約を解除するには相手方の同意が必要です。
しかし、債務不履行の場合には、相手方(債務不履行をした側)の同意は必要ありません。
債務不履行の場合には、原則として、相当の期間以内に履行するよう相手に求め(「催告」といいます)、それでも債務を履行してもらえない場合には基本的に解除が可能です(民法541条)。
また、次の場合には「催告」もせずに、いきなり解除することができます(民法542条1項)。
一 債務の全部の履行が不能であるとき。
引用:民法542条1項各号
二 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。
四 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。
五 前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。
契約を解除することによって、代金を支払う等の債務から解放されます。
(3)完全な履行を求める
3つめの対応策が、完全な形での履行(追完)を求めることです。履行不能の状態になっていなければ、追完を求めることができると解釈されています。
たとえばケーキを10個注文したのに9個しかもらえなかった場合には残り1個を求めることはできますし、ケーキの種類が違えば注文したケーキを求めることができます。
(4)強制執行する
4つめの対応策が、裁判所での手続を通じて「強制執行」をすることです。
強制執行とは、強制的に債務の履行を実現するための法律上の手続です。
例えば、約束どおりにお金が支払われない場合、まず相手方が自らの意思で支払うように促します。
それでも相手方が支払わない場合には、裁判を提起して、「○○円支払え」との判決をもらいます。
それでも支払ってもらえない場合には、最終的には「強制執行」をすることになります。
たとえば、相手方の銀行を知っている場合には預金から、相手方の勤務先を知っている場合には給与から強制的にお金を受け取るのです。
参考:判決等はもらったけれど(強制執行の概要)|裁判所- Courts in Japan
損害賠償請求できる可能性がある債務不履行の事例(ケーススタディ)
それでは、日常生活において損害賠償請求のできる可能性のあるケースをいくつかご紹介します。
(1)引っ越し業者が作業中に物を壊してしまった

引っ越し業者は、作業中、物を壊さないように最善の注意を尽くす債務を負っています。
そのため、何らかの不注意で物を壊された場合には、損害賠償請求できます。
(2)不動産の売買契約後に物件を引き渡してもらえない
不動産の売買契約をした場合、売主は買主に不動産を引き渡す債務を負っています。
それにもかかわらず、約束の期日になっても物件の引渡しが行われない場合には、買主は損害賠償を請求できます。
(3)二重譲渡で約束の期日までに引渡しが行われない

例えばインターネットで注文したものが既に別の人に売却されており、約束の期日までに届かなかった場合、履行遅滞にあたるので、損害賠償を請求できます。
もしも一品ものであれば履行不能となります。
【まとめ】債務を果たしてもらえない場合には損害賠償請求などを検討!
今回の記事のまとめは次のとおりです。
- 債務不履行とは、債務(義務)を果たさないこと。
- 債務不履行には、次の3種類がある。
- 履行不能:債務の履行が不可能になってしまった状態
- 履行遅滞:債務の履行が遅れている状態
- 不完全履行:一応の債務の履行はあったものの、不完全な状態
- 債務不履行を受けた場合の主な対処法は、次の4つ。
- 損害賠償を請求する
- 契約を解除する
- 完全な履行を求める(不完全履行の場合)
- 強制執行を行う
- 例えば日常生活の次のような場面でも、債務不履行について損害賠償を請求できる可能性がある。
- 引っ越し業者が作業中に物を壊してしまった
- 不動産の売買契約後に、物件を引き渡してもらえない
- 購入した物を、二重譲渡で渡してもらえない
何が債務不履行にあたるか、債務不履行だとしても損害賠償請求などができるかどうか判断するのは、困難な場合もあります。
債務不履行をされてお困りの場合は、民事事件を取り扱っている弁護士に相談することをおすすめします。
※本記事の内容に関しては執筆時点の情報となります。