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破産管財人が否認権を行使するケースとその効果を解説

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「覆水盆に返らず」との言葉があるように、一度起きてしまったことをなかったことにはできないのが原則です。しかし、法律の世界では、一度生じた効果をなかったことにできる場合がいくつかあります。

  • 自動車を売却したところ、お金が払われなかったので、自動車を返してもらった。
  • みかんを買ったところ、みかんが腐っていたので、お金を返してもらった。

今回、弁護士が解説する破産法上の「否認権」も法的効力を失わせる1つの手段です。

破産者の財産は適切に管理!

自己破産の手続きには、同時廃止事件と管財事件(通常管財・少額管財)の2種類があります。管財事件では、破産管財人と呼ばれる弁護士が裁判所から選任され、財産の調査(資産調査)・管理・処分、債権者への配当などを行い、さらに、免責を認めても問題ないか(免責不許可事由がないかなど)を調査します。もし本来あるべきものが破産者の財産として存在しなければ、管財人は回収も担当します。

破産管財人に認められている「否認権」とは?

私たちは、自分の所有物について自由に処分することができます。しかし、法律に則って自己破産をしようとする以上、その処分権についても一定の制約を受けます。

詳しく「否認権」についてみていきましょう。

(1)否認権の目的

たとえば、次のような状況を想定してみてください。

あなたは、10年来の友人であるAさんに、就職以来貯金してきた100万円を貸しました。Aさんは涙を流して感謝し、「絶対に返すから!」と約束したにもかかわらず、その1年後、裁判所から「Aさんが自己破産の申立てをした」旨を記載した書類が届きました。驚いてAさんに電話をしたあなたに、Aさんは「弁護士に自己破産を依頼したから、何かあるならそっちに連絡して」と冷たく返事をしたのです。
呆然と過ごす中、Aさんとの共通の友人であるBさんと食事をしたところ、「まさかAが自己破産するとはね……。でも、私が貸していた30万円は全額返してもらえたんだよね」とまたしても衝撃の事実を聞かされました。

「なんでBに返して私に返してくれないの!?」、それが当然の疑問です。
このような状況を許してしまうと、債権者間で不平等が生じ、破産制度に対する国民の信頼を損なうでしょう。そこで、一定の場合に、破産者の行為またはこれと同視できる第三者の行為の効力を否定することができるとされているのです。破産管財人が否認権を行使することで、本来であれば債権者に配当されるべきであったにもかかわらず流出してしまった財産を回復し、配当の原資に充てることができます。

(2)否認権を行使する方法

否認権の行使は、破産手続においては破産管財人にのみ認められています。
裁判上で「否認の訴え」や「抗弁」として否認権を行使することもありますが、一般的には裁判外における任意の交渉による方法で、否認権を行使しています。

(3)否認権を行使する効果

破産管財人によって否認権が行使されると、その対象となった破産者またはそれと同視できる第三者の行為の効果が否定され、流出した財産が原状に復することになります(破産法167条1項)。

具体的には、破産管財人が、財産を受け取った相手方(受益者)と交渉し、その財産の返還を受けたり、その財産の引渡しなどを求める強制執行をしたりすることになります。
上記の例では、AさんがBさんにお金を支払った時期などによっては、偏頗行為に該当するとして否認権を行使されるおそれがあります。破産管財人に否認権を行使されると、BさんはAさんの財産を管理する破産管財人に30万円を返さなければならなくなる可能性があります。

破産管財人が否認権を行使するケース

破産管財人が否認権を行使するケースは、「詐害行為否認」と「偏頗行為否認」の2つに分けることができます。

(1)「詐害(さがい)行為」として否認対象となるケース

否認の対象となる詐害行為(債権者を害する行為)は、破産法では、次のように類型化されています。

  • 一般的な詐害行為
  • 詐害的債務消滅行為
  • 無償行為
  • 相当な対価を得てした財産の処分行為

(1-1)一般的な詐害行為

ここでいう「詐害行為」、つまり破産債権者を害する行為とは、破産者の財産を絶対的に減少させる行為をいい、財産の廉価売却などが典型です。次の2つの条件を満たす場合には、時期を問わず、財産の廉価売却などの効果が否認されます(破産法160条1項1号)。時期を問わないといっても、詐害行為に該当するかを判断するにあたっては、その行為をした時期が債務超過状態に陥った後かなどが考慮されます。

  • 破産者が詐害意思をもって破産債権者を害する行為をしたこと
  • その行為の当時、受益者が破産債権者を害することを知っていたこと

支払の停止または破産手続き開始の申立てがあった後に行われた破産債権者を害する行為については、破産者の内心が問題とならず、受益者がその行為の当時、支払の停止などがあったこと及び破産債権者を害することを知っていたことが条件となります(破産法160条1項2号)。ただし、破産手続開始の申立ての日から1年以上前にした行為は、支払の停止があった後にされたものであることまたは支払の停止の事実を知っていたことを理由として否認することができません(破産法166条)。

(1-2)詐害的債務消滅行為

たとえば、100万円の借金を返済するのに100万円相当の時計を渡したとすれば、100万円相当の時計がなくなるとともに100万円の借金もなくなります。そのため、全体でみると財産は減少していません。

これに対し、100万円の借金を返済するのに1000万円の車を渡したとすれば、100万円の借金がなくなった一方で1000万円の車もなくなっているので、全体でみると900万円の財産が減少していることになります。

このような行為を詐害的債務消滅行為といい、その典型が上記のような過大な代物弁済です。詐害的債務消滅行為は、上記の詐害行為と同様の枠組みで、否認権の対象か判断されています(破産法160条2項)。ただし、否認の対象となる場合、過大な部分に限ってその行為の効力が否定されることになります。

(1-3)無償行為

借金の返済ができなくなったにもかかわらず、お金を誰かに贈与したとすれば、債権者は黙っていません。また、お金を貸していた第三者に対して「もう返さなくていいよ」と債務を免除したり、売却すればそれなりのお金になる財産の所有権を放棄したりすることなども許されないでしょう。
そこで、破産法160条3項で無償行為が否認の対象とされています。

破産者が支払の停止等があった後又はその前六月以内にした無償行為及びこれと同視すべき有償行為は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。

引用:破産法160条3項

無償行為またはそれと同視すべき有償行為であれば、行為の相手方は何ら損をせずに、利益だけを得たことになります。その行為を否定したとしても、相手方は本来受け取るべきでなかった利益を返すだけであり、何ら損失はありません。そこで、無償行為を否認する場合には、詐害行為や詐害的債務消滅行為のケースなどと異なり、受益者の内心状態は問題とされません。

(1-4)相当な対価を得てした財産の処分行為

財産を処分するときに相当の対価を受け取っていても、破産法161条1項の条件を満たす場合には、詐害行為となります。

破産者が、その有する財産を処分する行為をした場合において、その行為の相手方から相当の対価を取得しているときは、その行為は、次に掲げる要件のいずれにも該当する場合に限り、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
一 当該行為が、不動産の金銭への換価その他の当該処分による財産の種類の変更により、破産者において隠匿、無償の供与その他の破産債権者を害することとなる処分(以下「隠匿等の処分」という。)をするおそれを現に生じさせるものであること。
二 破産者が、当該行為の当時、対価として取得した金銭その他の財産について、隠匿等の処分をする意思を有していたこと。
三 相手方が、当該行為の当時、破産者が前号の隠匿等の処分をする意思を有していたことを知っていたこと。

引用:破産法161条1項

たとえば、不動産を所有している人が財産を隠匿する意思で不動産を売却してお金に換えた場合、詐害行為として否認される可能性があります。
破産者が、親族などの一定の関係にある人に対して行為をしたときには、相手方は破産者が財産の隠匿等をする意思を有していたと知っていたと推認されます(破産法161条2項)。

詐害行為で否認されないために注意すべきポイントは、次の3つです。

  • 破産債権者を害する意思で財産を処分してはならない
  • 支払停止状態に陥ってしまったならば自分の財産が減少するような取引をしない
  • 借金を返済できないかも知れない状況で他人に無償で財産を渡さない

借金の返済を滞納しそうになったらなるべく早く弁護士に相談し、自己破産を弁護士に依頼して以降は、弁護士の指示に従って行動するようにしましょう。

(2)「偏頗(へんぱ)行為」として否認対象となるケース

偏頗行為否認とは、破産者による偏頗行為の効力を否認することです。
簡単にいうと、偏頗行為とは特定の債権者にのみ借金を返済したり、担保を供与したりすることです。

詳しくはこちらの記事もご確認ください。

偏頗(へんぱ)行為とは?自己破産における扱いと否認について解説

否認の対象となる偏頗行為は、原則として、次の3つの条件を満たすものです(破産法162条1項)。

  1. 特定の債権者への返済等であること
  2. 支払不能になった後または破産手続申立てがあった後の行為であること
  3. 債権者(受益者)が債務者の支払不能状態などを知っていたこと

破産法上、支払不能状態、つまり支払能力がないために弁済期にある債務を継続的に弁済できない状態になったならば、複数いる債権者を平等に扱わなければならないとされています。とりわけ裁判所に自己破産の申立てをしたならば、債権者間で不公平が生じないようにしなければなりません。
弁護士に自己破産を依頼して各債権者に対して受任通知を発送することは「支払停止」に該当し、支払停止があると「支払不能」になったものと推定されます(破産法162条3項)。
なお、コンビニで雑誌を買うケースのように債務発生と同時にされる弁済行為は、「同時交換的取引」として、原則否認の対象となりません。

たとえば、次のようなケースが偏頗行為に該当する可能性があります。

Cさんは自己破産を弁護士に依頼したところ、これまで返済に充てていたお金を自由に使えるようになったので、これまでお金を貸してくれていた友人に3万円返済した。

支払不能前30日以内の非義務偏頗行為

支払不能になる前でも例外的に否認権が行使されることがあります。
それが破産法162条1項2号に規定されているケースです。

破産者の義務に属せず、又はその時期が破産者の義務に属しない行為であって、支払不能になる前三十日以内にされたもの。ただし、債権者がその行為の当時他の破産債権者を害する事実を知らなかったときは、この限りでない。

引用:破産法162条1項2号

支払期限が到来していない借金を期限前に返済するなど、支払う必要もないのに支払ったのであれば、他の債権者を害する程度が大きいので、支払不能になる30日以内の行為に限ってその効力を否定するというわけです。

【まとめ】自己破産についてはアディーレ法律事務所にご相談ください

破産管財人が否認権を行使するケースの中には、破産者が「いつもお世話になっていたから」と悪気なく特定の債権者を優遇しているケースがあります。しかし、その行為をほかの債権者からみたとき、不公平・不平等と感じられることがあるのです。
自己破産をする以上、破産法などの法律をしっかり守って行動しなければなりません。しかし、破産法を知らない人にとって、破産法は複雑難解な法律でしょう。弁護士にかみ砕いて説明してもらうことをおすすめします。
自己破産についてお悩みならば、アディーレ法律事務所にお気軽にご相談ください。