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先日、主人から「友人に20万円ほど借りている」と言われました。主人いわく、「1年前に給料が下がったことを言えなくて、生活のために友人からお金を借りてた」そうなんです。
主人は身勝手にも「友人は、毎月5000円ずつの返済でいい、利息なしでいいって言ってくれているから、一緒に返済していこう」なんて言うんです。でも、私は主人が借金していることなんて知らなかったんですから、私が支払う必要はないですよね?
夫の借金は、基本的に夫自身が返済すべきものなので、妻には返済義務がありません。ただし、妻が夫の借金の保証人になっていた場合や、夫の借金が「日常家事債務」に当たる場合などは別で、妻も返済義務を負います。
夫の借金を解決するためには、まずは支出や収入を見直しましょう。また、債務整理をすれば、返済の負担を減らしたり無くしたりできる可能性もあります。
この記事では、
- 夫の借金について、基本的に妻には返済義務がないこと
- 夫の借金への対処方法
- 夫の借金を返しきれなそうな場合の対処方法
について弁護士が解説します。

早稲田大学、及び首都大学東京法科大学院(現在名:東京都立大学法科大学院)卒。2012年より新宿支店長、2016年より債務整理部門の統括者も兼務。分野を問わない幅広い法的対応能力を持ち、新聞社系週刊誌での法律問題インタビューなど、メディア関係の仕事も手掛ける。第一東京弁護士会所属。
夫の借金を妻が返済・肩代わりする義務は基本的にない
基本的に、夫が作った借金を妻が返済したり肩代わりしたりする義務はありません。
自分の借金は自分で返すのが原則です。そのため、その借金について保証人などになっていない限り、原則として夫が作った借金を妻が返済する法的義務は発生しないのです。
今回のケースにおいても、夫の借金の理由が自分の飲食費や遊興費などだった場合、妻は「知らない!勝手にして!」と突っぱねることができます。
もっとも、夫婦の場合、本当にその借金が夫だけのものなのか考える必要があります。具体的には、夫が借金をした理由が「日常家事債務(にちじょうかじさいむ)」に該当すると、妻にも返済責任が生じます。
(1)妻も返済義務を負うケース:日常家事債務とは
日常家事債務とは、日常の家事から生じた債務(法的な義務)のことです。
日常家事債務については、夫婦の一方が負った場合でも、もう一方の配偶者も連帯して責任を負うこととなります。
例えば、夫婦が一緒に暮らしている場合、洗濯機やテレビ、冷蔵庫などの家具について同じものを2人で使うことが多いでしょう。そうであれば、その代金は2人で支払うべきです。
また、次のような日常生活に欠かせないものの代金も、基本的に夫婦で公平に分担すべきものでしょう。
- 家賃
- 食費
- 公共料金
- テレビ受信料
- 洗剤や歯磨き粉などの日常品代
- 子どもの教育費用
妻が買い物を担当しているからといって、家庭で使う全ての商品の代金を妻の収入から払うわけではありません。夫から預かっているお金で払うこともあるでしょう。つまり、夫婦のどちらが購入したものであれ、日常生活での支出に該当するのであれば、夫婦のどちらかがお金を支払う必要があるというのが「日常家事債務(民法761条)」です。
民法761条では、日常家事債務について次のように規定されています。
夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない。
引用:民法761条
なぜ日常家事の条文があるかというと、取引の相手方(商品・サービスの提供者)を保護するためです。
この規定によって、日常生活の支出について、取引の相手方は夫婦のどちらからお金が支払われるのかをあえて気に留める必要がありません。例えば、水道局は、妻名義の水道の契約について、妻と夫のどちらが実際にお金を出すのかを気にしなくて良いということです。
日常生活での支出といえるかについては、主に次のような事情から総合的に判断します。
- 購入したものや価格
- 夫婦のそれぞれの社会的地位や職業、経済状況
- 地域の慣習 など
例えば、車がないと不便な地方で購入する軽自動車なら夫婦2人のお金で購入すべきといえるでしょう。一方、都会で暮らす夫婦の一方が同じディーラーから3台目に趣味の外車を購入したとなれば夫婦2人で負担すべきとは言えないでしょう。
生活費名目で夫が借り入れたお金に要注意!
商品を購入する場合と異なり、借金の場合には、一般的に日常家事債務に当たらないと判断される傾向にあります。特に貸金業者からの借金であれば日常家事債務に当たらないと判断される可能性が高いでしょう。
しかし、今回の事案には次の3点のポイントがあります。
- 夫が借金をしたのは貸金業者ではなく友人
- 夫は従来の生活水準を維持するために借金をした
- 借入金額は20万円で、そこまで高額ではない
まず、借金の相手は貸金業者ではありません(1.)。
また、借金の目的は夫一人の遊興費などではなく、2人の生活水準を下げないために生活費として利用するためでした(2.)。
さらに、借入金は20万円で、そこまで高額ではありません(3.)。
そのため、今回の夫の借金は日常家事債務と判断される可能性があります。
友人と夫婦が話し合っても解決しないようであれば、弁護士に依頼して話し合いをまとめてもらうか、裁判所で妻に返済義務がないことを確認することを目指すほうがいいといえます。
(2)夫の借金を妻が知るきっかけとは
借金についてひた隠しにされると、家族でも容易には気づくことができません。
今回のケースでも夫は1年にもわたって給料が下がったことを打ち明けず、妻も気付きませんでした。
夫の借金を妻が知ったきっかけをご紹介しますので、怪しいと感じたらそれとなく夫に尋ねてみましょう。
- 自宅に貸金業者から督促状が届いた
- 貸金業者から自宅に電話がかかってきた
- 通帳に「ヘンサイ」の文字がある
- 夫の部屋から明細書を発見した
- 夫のタンス預金がなくなっていた
- 共通の知人や夫の会社の同僚から夫の借金に関する話を聞いた
- 夫の生活が急に派手になった
- 夫が急に切り詰めた生活をしはじめた など
一般的には借金を伺わせる事情でなくても、夫婦だからこそ気付けることもあります。

夫の借金への対処方法は?

まず、夫がどんな理由で借金をしたのか、どこからいくら借りているのかを聞きましょう。
深刻なケースだと自宅に抵当権をつけている、あるいは妻の印鑑を持ち出して保証人にしているケースなどもあるので、事態を正確に把握することは大切です。無断で印鑑を持ち出されたなど、勝手に保証人にされてしまった場合でも例外的に返済義務を負うことがあるので、民事事件を取り扱っている弁護士に相談しましょう。
(1)夫の両親に援助を求める
もし夫の両親が年金暮らしではなく収入や資産があるのであれば、夫の両親にいくらか援助を求めても良いでしょう。
夫の両親の援助で返済できた場合でも、今後夫が借金をしないように、借金の原因を把握することが大切です。
(2)夫の支出を見直す
夫の借金の理由が夫の個人的な理由の場合は、夫の支出を見直しましょう。具体的には、夫のクレジットカードや通帳・キャッシュカードを回収し、お小遣い制度にするのも有効です。クレジットカードを持たせる場合には限度額を生活に必要な限度に変更します。
ただし、極端に夫が自由に使えるお金を減らしてしまうと、場合によっては同僚からお金を借りるようになってしまい、ひいては会社での信用を損なうことになりかねません。夫の小遣いを減らす場合には、きちんと夫と話し合い、夫の了承を得てから行いましょう。
また、夫の交友関係やお金の使い方、生活習慣を見直すように話し合うことも大切です。夫が説得に応じない場合は夫の両親を頼り反省を促すなど、周りの人に協力してもらいましょう。ギャンブルなど何らかの依存症が理由であれば、カウンセリングを受けさせるのも有効です。
一方、夫の借金の理由が生活費など、生活に欠かせないものだった場合には家計全体で支出を見直す必要があります。次のような項目ごとに毎月かかるお金を書き出し、削れる支出がないか検討しましょう。
<支出の整理>
- 家賃や住宅ローンの金額
- 食費
- 水道光熱費
- 通信費
- 日用品の購入費
- 交通費
- 医療費
- その他、毎月必ずかかる費用 など
(2-1)貸金業者に「お金を貸さないで!」と伝える貸付自粛制度
貸付自粛制度とは、日本貸金業協会や全国銀行協会が提供している、強制的にいわゆる「ブラックリスト」(※)に載った状態を作り出す制度です。貸付自粛制度に申し込むと、撤回しない限り基本的に5年間は「ブラックリスト」に載った状態になります。
※貸金業者が「ブラックリスト」という名称の名簿を作っているわけではありません。返済が長期間遅れているなどといった情報(俗に「事故情報」といいます)が、信用情報機関に登録されている状態を「ブラックリストに載っている」と言います。
この制度を利用すれば、貸金業者に「お金を貸さないで!」と伝えることができます。
貸付自粛制度は、法的に貸付を禁止するわけではありません。もっとも、貸付自粛制度を使えば「この人は借金を返しきれない状況になっている」と貸金業者に伝わりますので、貸金業者がお金を貸さなくなることが期待できます。
ただし、病気で働けなくなった場合のように急遽お金が必要になっても、すぐにはお金を借りることができないので、貸付自粛制度を利用するかは慎重に考えましょう。

参考:貸付自粛制度について|日本貸金業協会
参考:貸付自粛制度のご案内|一般社団法人 全国銀行協会
(2-2)借金問題について相談できる窓口
先ほど出てきた日本貸金業協会を始めとして、借金問題について無料で電話相談できる窓口は少なくありません。
例えば、次のような窓口があります。
- 日本クレジットカウンセリング協会
- 全国銀行協会
- 自治体での無料法律相談 など
相談は無料でも、初回限定だったり時間制限がある場合もあります。そのため、事前に、借金や家計の状況を整理しておくことがおすすめです。
どのような相談窓口があるか、詳しくはこちらをご覧ください。
(3)収入を増やすことも検討
日常生活上、どうしても削ることのできない出費もあり、借金の額によっては、支出を削るだけでは解決しない場合があります。そこで、収入を増やすことを検討しましょう。
夫の借金だとは言え、夫だけが我慢する方法が必ずしも良いとは言えません。夫婦で暮らしていくための借金だった場合、夫婦で収入を見直した方が公平です。もしそれまで専業主婦であったならば、アルバイトやパートをすることも1つの選択肢です。収入を増やすことができれば、将来のための貯蓄をすることもできるはずです。
借金が返済しきれない場合の対処方法
上でご説明したような対処法でも返済しきれないと判断したら、弁護士に相談して債務整理を検討してみましょう。頑張れば何とか返済できそうな場合でも、債務整理をすれば返済の負担を減らせる可能性があります。
債務整理には主に自己破産、個人再生、任意整理の3つの手続きがあり、借金をした人が自ら弁護士と契約します。夫の借金であれば夫が手続きをしますが、妻が保証人になっていて、妻も支払うことができない場合には、妻も手続きが必要になってきます。
債務整理 | 特徴 |
---|---|
自己破産 | 生活に必要な範囲を超える財産を手放すことで、借金の返済義務を免除してもらえる手続き(一部の「非免責債権」の返済義務を除く) |
個人再生 | 住宅や車といった財産を所持したまま、借金を減額して返済する手続き |
任意整理 | 裁判所を通さず、弁護士が直接債権者(お金を貸した人)と交渉して、返済計画を立てる手続き |
債務整理をすればそれ以上借金が増えることはなく、債権者からの取立ても一旦ストップしますので、精神的に楽になれるはずです。
一方、夫に家計を立て直す意思がなく債務整理に応じない場合や、夫が借金を繰り返すため問題解決が難しい場合には、最終的には離婚を選択する方もいます。
【まとめ】夫の借金が生活費のためのものだと、妻も返済義務を負う可能性がある
今回の記事のまとめは次のとおりです。
- 夫の借金の保証人などになっていない場合、基本的に妻は返済義務を負わない。もっとも、夫の借金が遊興費などの個人的な出費のためのものではなく「日常家事債務」に当たる場合、妻も返済義務を負うこととなる。
日常家事債務とは、日常の家事から生じた債務のこと。例えば、生活必需品の購入費など。
生活費のための借金だと、日常家事債務として扱われる可能性があるため注意が必要。 - 夫の借金を解決するための主な方法には、次の3つがある。
- 夫の両親に支援を求める
- 夫の支出を見直す
- 収入を増やすことを検討
- 上の3つの方法では借金を返しきれない場合には、債務整理によって返済の負担を減らしたり無くしたりすることを検討する。
夫の借金が生活のためのものだった場合には、家計全体を見直すことも必要。
夫が個人的な理由で行った借金を妻が返済する必要はありません。夫の借金が発覚したら、夫婦でしっかりと話し合い、借金の返済計画を立てて、返済までの筋道を作りましょう。もし夫が返済できないほどの借金を抱えてしまっているなら、弁護士に相談して夫の債務整理を検討してみてください。
アディーレ法律事務所では、債務整理を取り扱っており、債務整理についての相談は何度でも無料です。
また、アディーレ法律事務所では、所定の債務整理手続きにつき、所定の成果を得られなかった場合、原則として、当該手続きに関してお支払いいただいた弁護士費用を全額ご返金しております(2022年7月時点)。
債務整理についてお悩みの方は、債務整理を得意とするアディーレ法律事務所にご相談ください。
債務整理のご相談は、借金をした本人にお願いしています。夫が一人で行かないと思う場合、夫についてきてほしいと言われた場合などには、一緒にご相談にお越しください。
