今回採りあげる法律相談はこちら―――。
先日、主人から友人に60万円ほど借りていることを聞かされました。主人いわく、1年前に給料が下がったことを私に言えなくて、私に生活費として渡していたお金のうち5万円を借金で補っていたそうなんです。主人は身勝手にも「友人は、毎月3万円ずつの返済でいいって言ってくれているから、一緒に返済していこう」なんて言うんですけど、私は主人が借金していることなんて知らなかったんですから、私が支払う必要はないですよね?だって、主人がきちんと給料を下がったことを言ってくれていれば、節約して、その収入の範囲内で生活しようと思ったはずですから。
この法律相談を要約すると「夫が生活費のために借り入れたお金を事情を知らなかった妻が一緒に返済しなければならないか」となります。この相談に関連する法律が「日常家事債務(民法761条)」。そこで、今回は「日常家事債務」について解説します。
夫が作った借金を妻が返済・肩代わりする義務はある?
自分の借金は自分で返すのが原則なので、その借金について保証人などになっていない限り、基本的に夫が作った借金を妻が返済する義務はありません。今回のケースにおいても、夫が飲食費や遊興費に使っていたお金の返済を妻に求めても、妻は「知らない!勝手にして!」と突っぱねることができました。
もっとも、夫婦の場合、本当にその借金が夫だけのものなのか考える必要があります。具体的には、借金をした理由が「日常家事債務(にちじょうかじさいむ)」に該当すると配偶者にも返済責任が生じます。
(1)日常家事債務とは
夫婦が一緒に暮らしている場合、洗濯機やテレビ、冷蔵庫などの家具について同じものを2人で使うことが多いでしょう。それであれば、その代金は2人で支払うべきです。
また、次のようなものの代金も基本的に夫婦で公平に分担すべきものでしょう。
- 家賃
- 食費
- 公共料金
- テレビ受信料
- 洗剤や歯磨き粉などの日常品代
- 子どもの教育費用
妻が買い物を担当しているからといって、家庭で使う全ての商品の代金を妻の収入から払うわけではありません。夫から預かっているお金で払うこともあるでしょう。つまり、夫婦のどちらが購入したものであれ、日常生活での支出に該当するのであれば、夫婦のどちらかがお金を支払う必要があるというのが「日常家事債務(民法761条)」です。
民法761条では、日常家事債務について次のように規定されています。
夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と法律行為をしたときは、他の一方は、これによって生じた債務について、連帯してその責任を負う。ただし、第三者に対し責任を負わない旨を予告した場合は、この限りでない。
引用:民法761条
なぜ日常家事の条文があるかというと、取引の相手方を保護するためです。
この規定によって、日常生活の支出について、取引の相手方は夫婦のどちらからお金が支払われるのかをあえて気に留める必要がありません。たとえば、スーパーの店長は、目の前の女性が自分のお金で買おうとしているのか、夫のお金で買おうとしているのかを気にしなくて良いということです。
日常生活での支出といえるかについては、購入した物、価格、その夫婦のそれぞれの社会的地位や職業、経済状況、地域の慣習などから総合的に判断します。たとえば、車がないと不便な地方で購入する軽自動車なら夫婦2人のお金で購入すべきといえるでしょうが、都会で暮らす夫婦の一方が同じディーラーから3台目に外車を購入したとなれば夫婦2人で負担すべきとはいえないでしょう。
生活費名目で夫が借り入れたお金に要注意!
商品を購入する場合と異なり、一般的に借金の場合には日常家事債務に当たらないと判断される傾向にあります。特に貸金業者からの借金であれば日常家事債務にあたらないと判断される可能性が高いでしょう。
しかし、今回の事案には次の3点のポイントがあります。
- 夫が借金をしたのは貸金業者ではなく友人
- 夫は従来の給料を維持するために借金をした
- その金額は月々3万円
もし夫が友人に対して「妻に借金が下がったことをまだ話せていない。この借金は妻じゃなくて自分が必ず支払う」と言っていたならば、妻が責任を負わない旨を予告しているので、妻が友人に対して支払う必要はありません。
しかし、この相談者の夫は「一緒に返済して欲しい」と言っているので、友人に「自分たち夫婦が支払う」と約束していた可能性も高いでしょう。
友人と夫婦が話し合っても解決しないようであれば、弁護士に依頼して話し合いをまとめてもらうか、裁判所で妻に返済義務がないことを確認したほうがいいといえます。
(2)夫の借金を妻が知るきっかけとは
借金を情けないと感じてひた隠しにされると、家族でも容易には気づくことができません。
今回のケースでも夫は1年にもわたって給料が下がったことを打ち明けませんでした。
夫の借金を妻が知ったきっかけをご紹介するので、怪しいと感じたら尋ねてみましょう。
- 自宅に貸金業者から督促状が届いた
- 貸金業者から自宅に電話がかかってきた
- 通帳に「ヘンサイ」の文字がある
- 夫の部屋から明細書を発見した
- 夫のタンス預金がなくなっていた
- 共通の知人や夫の会社の同僚から夫の借金に関する話を聞いた
- 夫の生活が急に派手になった、逆に夫が急に切り詰めた生活をしはじめた
一般的には借金を伺わせる事情でなくても、夫婦だからこそ気づけることもあります。
夫の借金を解決する手段は?
まず、夫がどんな理由で借金をしたのか、どこからいくら借りているのかを聞きましょう。
深刻なケースだと自宅に抵当権をつけている、あるいは妻の印鑑を持ち出して保証人にしているケースなどもあるので、事態を正確に把握することは大切です。無断で印鑑を持ち出された場合でも例外的に返済義務を負うことがあるので、弁護士に相談しましょう。
(1)夫の両親に援助を求める
もし夫の両親が年金暮らしではなく収入や資産があるのであれば、夫の両親にいくらか援助を求めても良いでしょう。夫の両親の援助で返済できた場合でも、今後夫が借金をしないように、借金の原因を把握することが大切です。
(2)夫の支出を見直す
借金の理由が夫の個人的な理由の場合は、夫の支出を見直しましょう。具体的には、夫のクレジットカードや通帳・キャッシュカードを回収し、お小遣い制度にするのも有効です。クレジットカードを持たせる場合には限度額を生活に必要な限度に変更します。ただし、極端に夫が自由に使えるお金を減らしてしまうと、場合によっては同僚にお金をせびることなどをするようになってしまい、ひいては会社での信用を損なうことになりかねません。夫の小遣いを減らす場合には、きちんと夫と話し合い、夫の了承を得てから行いましょう。
また、夫の交友関係やお金の使い方、生活習慣を見直すように話し合うことも大切です。夫が説得に応じない場合は夫の両親を頼り反省を促すなど、周りの人に協力してもらいましょう。ギャンブルなど何らかの依存症が理由であれば、カウンセリングを受けさせるのも有効です。
強制的に借金をやめさせる!貸付自粛制度
貸付自粛制度とは、強制的にブラックリストに載った状態を作り出す制度です。貸付自粛制度に申し込むと、撤回しない限り5年間はブラックリストに載った状態になります。
この制度を利用すれば、貸金業者に「お金を貸さないで!」と伝えることができます。
借金をやめたいのにやめられない人が強制的に借金をやめる方法です。
ただし、病気で働けなくなった場合のように急遽お金が必要になっても、すぐにはお金を借りることができないので、貸付自粛制度を利用するかは慎重に考えましょう。
(3)収入を増やすことも検討
借金の額によっては、支出を削るだけでは解決しません。そこで、収入を増やすことを検討しましょう。
夫の借金だとはいえ、夫だけが我慢する方法が必ずしも良いとはいえません。もしそれまで専業主婦であったならば、アルバイトやパートをすることも1つの選択肢です。収入を増やすことができれば、将来の貯蓄をすることもできるはずです。
借金が返済しきれない場合の対処方法
返済しきれないと判断したら、弁護士に相談して債務整理を検討してみましょう。
債務整理には自己破産、個人再生、任意整理の3つの手続きがあり、借金をした人が自ら弁護士と契約します。夫の借金であれば夫が手続きをしますが、妻が保証人になっていた場合には妻も手続きが必要になってきます。
債務整理 | 特徴 |
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自己破産 | 生活に必要な範囲を超える財産を手放すことで、借金の返済義務を免除してもらえる手続き(一部の返済義務を除く) |
個人再生 | 住宅や車といった財産を所持したまま、借金を減額して返済する手続き |
任意整理 | 裁判所を通さず、弁護士が直接債権者(お金を貸した人)と交渉して、将来金利をカットしてもらい、できるだけ長期の返済計画を立てる手続き |
債務整理をすればそれ以上借金が増えることはなく、債権者からの取立てもストップしますので、精神的に楽になれるはずです。夫が債務整理に応じない場合や夫が借金を繰り返すため問題解決が難しい場合には最終的には離婚を持ちかけてみるのも手段の1つです。
【まとめ】夫の借金に関するご相談はアディーレ法律相談所へ
夫が個人的な理由で行った借金を妻が返済する必要はありません。夫の借金が発覚したら、夫婦でしっかりと話し合い、借金の返済計画を立てて、返済までの筋道を作りましょう。もし夫が返済できないほどの借金を抱えてしまっているなら、弁護士に相談して夫の債務整理を検討してみてください。
借金のご相談なら、アディーレ法律事務所にお任せください。
借金をした人自身に一度弁護士とお会いしていただく必要があるので、夫が一人で行かないと思う場合には、一緒にお越しください。アディーレ法律事務所なら、土日や20時までの夜間(池袋のみ)でもご相談を承っています。