「情報商材に書いてあるとおりにしたのに、元手を回収できずに借金だけが残った……」
主にインターネット上で売買される、儲けるためのノウハウを謳う「情報商材」。
情報商材の宣伝は誇大広告に近いものも少なくありません。実際に、情報商材についての消費生活相談件数は、2018年をピークに減ってきているとはいえ、2020年には6866件と依然として多いです。
また、
情報商材の購入費が原因で返しきれないほどの借金を抱え、自己破産を検討される方も少なくありません。
しかし、
自己破産の手続きにおいて情報商材の購入は「浪費又は賭博その他の射幸行為」(浪費・ギャンブルなど)として扱われ、裁判所が「本当にこの人の支払義務を免除してもよいのか?」と問題視するおそれがあります。
支払義務を免除してもらえる(免責)可能性を上げるためには、情報商材の購入を繰り返さない、自己破産の手続きを誠実に進めるなどの注意が必要です。
情報商材の購入で300万円の借金を抱えてしまった(仮称)Bさんが、法律事務所で相談した事例をもとに解説します。
参考:第1部 消費者問題の動向と消費者の意識・行動 44頁|消費者庁

早稲田大学、及び首都大学東京法科大学院(現在名:東京都立大学法科大学院)卒。2012年より新宿支店長、2016年より債務整理部門の統括者も兼務。分野を問わない幅広い法的対応能力を持ち、新聞社系週刊誌での法律問題インタビューなど、メディア関係の仕事も手掛ける。第一東京弁護士会所属。
情報商材の購入で借金が300万円に!
転職後に、月給が下がってしまったBさん。
今までどおりの支出では家計に余裕がなくなってしまい、手っ取り早い副収入が欲しくなりました。
「すぐに儲けで返済できるはず」と、Bさんは消費者金融から40万円借りて投資の情報商材を購入しました。
しかし、情報商材どおりに投資をしても利益が出ませんでした。
損した分を取り返そうと焦ったBさんは、藁にもすがる思いで別の情報商材を購入し、サポートを受けるための有料プランにも入りました。購入費用には消費者金融2社から借りてきた100万円を充てました。
それでも利益を上げることができず、Bさんには借金と役に立たなかった情報商材だけが残りました。
Bさんは「情報商材に頼っても無駄だ」と感じ、それ以降は情報商材を購入しませんでした。しかしその後も新型コロナウイルスなどの影響で月給は増えず、家計はギリギリの状態が続きました。借金への抵抗感が薄れていたBさんは「毎月数万円くらいなら、借りても大丈夫だろう」と考え、生活費を借金で補填し、給料日に少しだけ返済していました。
こうして毎月借金を繰り返すうちに、Bさんはいつの間にか300万円もの借金を抱えてしまいました。このころには、もうどこからもお金を借りられなくなっていました。
法律事務所に電話
Bさんは家計を見直しましたが、今の月給19万円では借金返済を抜きにしても月2万円くらいしか余りません。
「これでは自力で完済するのは無理だ」と感じたBさんは、自己破産を検討し始め、無料相談できる法律事務所に電話をかけました。
電話口で、Bさんは次のようなことを聞かれました。
- 借入先
- それぞれからの借入額
- 借金を始めた時期
- 収入や支出額
- 浪費(遊興費や高額な商品の購入など)の有無
Bさんはそれぞれについて答え、相談予約を取りました。
弁護士に相談
相談当日、Bさんは全ての借入先のカードや利用明細などを弁護士に見せました。
- 消費者金融W社 80万円 2年前から
- 消費者金融X社 110万円 2年前から
- 消費者金融Y社 70万円 3年前から
- 銀行Z社 40万円 1年前から
(※会社名は全て仮称)
次に、弁護士はBさんに借金の経緯について聞き始めました。
情報商材を購入したことがあると伺っておりますが、どんなものを購入されたんですか?
投資についてのものを2回購入しました。
初めて情報商材を買ったのは、3年くらい前です。Y社から40万円借りて購入しました。
次に買ったのは、2年前だったと思います。W社とX社から大体100万円くらい借りてきて購入しました。
投資には、どれくらいお金を使いましたか?
大体、100万円くらいだったと思います。
Z社からの借金も、情報商材を購入したものですか?
いいえ、情報商材にはもう懲りていたので、この2回で辞めています。Z社からお金を借り始めたのは、生活費を補うのと3社の返済期日を乗り切るためでした。
その他にも、Bさんは次のような質問にも答えました。
- 現金や預貯金はいくらあるか
→現金は約1万円、預貯金は銀行Z社の約5万円 - 高額な財産を持っているか
→20万円を超えるようなものはない - 過去に自己破産の手続きをしたことがあるか
→ない

情報商材の購入が原因の借金でも、自己破産の可能性はある
Bさんから事情を聴き終えた弁護士は、次のようなことを言いました。
借金300万円のうち、140万円が投資についての情報商材の購入のためだった場合、自己破産の手続きをしても支払義務を免除してもらえないリスクがあります。
それでは、私は自己破産は無理なんでしょうか?
支払義務を免除してもらえないことを、「免責不許可」というのですが、100%免責不許可となってしまうとは限りません。
情報商材の購入で借金を抱えた場合であっても、裁判所が支払義務を免除してくれるケースもあります。
それでは、Bさんと弁護士のやり取りをもう少し詳しく見ていきます。
(1)情報商材購入の場合、支払義務を免除してもらえないリスク
情報商材を購入していたら、自己破産は無理かもしれないというのはどういうことですか?
自己破産の手続きのゴールは、裁判所が出す「免責許可決定」です。
免責許可決定が出れば、原則全ての支払義務(※)を免除してもらえます。
しかし、「免責不許可事由」というものがあると、裁判所が免責許可決定を出してくれない可能性があるのです。
免責不許可事由にはいくつか種類があるのですが、浪費やギャンブル性の高い射幸行為がもとで過大な負債を抱えてしまうことは、免責不許可事由のうちの1つに当たります(破産法252条1項4号)。
情報商材は、一般的には購入価格に見合った成果を上げられないことの多いものととらえられています。
そのため、情報商材の購入のために多額の借金を抱えた場合、浪費と言われ、免責不許可事由があると判断されるおそれがあります。
また、情報商材の内容に従って投資を行っていた場合、投資にお金を使ったことも「射幸行為」と判断されるおそれがあります。
ですので、自己破産の手続きがうまく行かない可能性があるのです。
※税金など、一部の支払義務は免責許可決定が出てもそのまま残ります。
(2)情報商材を購入していても、借金を免除してもらえる可能性はある
とはいえ、ケースにもよりますが、免責不許可事由があっても裁判所が免責許可決定を出すことがあります(裁量免責)。
裁量免責が出れば、原則全ての支払義務が免除になります。
たとえ情報商材の購入などが原因の借金であっても、いくら情報商材の購入に使ったのか、いくら投資したのかなどの事情は人によって異なります。
借金で情報商材を購入して、投資などをしている場合であっても、その他の事情を総合的に考慮すると、免責許可を出してもよいだろう、と判断されるケースもあるのです。
そのため、免責不許可事由がある場合でも、裁判所が裁量で免責許可を出す場合があります(破産法252条2項、裁量免責)。
裁量免責を出すかどうかは、次のような事情などを元に、裁判所が総合的に判断します。
- どのような事情で借金などの負債を抱えるに至ったのか
- どのような経緯で自己破産を申立てるに至ったのか
- どのくらいの金額を情報商材の購入に使ったのか
- 情報商材の購入について反省しているか
- 自己破産の手続きを誠実に進めているか
- 家計を再建するために、意欲的に努力しているか
Bさんも、もう情報商材を買わないと決めて誠実に手続きをすれば、免責許可が出る可能性はあります。
(3)浪費などをしていても、無事自己破産の手続きが終わるケースは少なくない
実際、免責不許可事由があっても免責許可となる人は少なくありません。
2017年の調査結果によると、自己破産の免責申立てをした人1238人のうち、免責不許可となった人は約0.6%にとどまっています。
一方、この調査によると、浪費や投資が原因で債務を抱えて自己破産を申立てることになった人は、申立てた人のうちの約4.42%です。
このことから、浪費や投資が原因で自己破産の申立てをしても、免責許可となったケースもあると言えます。
そのため、 情報商材を購入したケースでも免責許可の可能性はあるといえます。
※なお、免責不許可の可能性が高い場合には、裁判所から勧められて、申立て自体を取り下げているケースもあります。
参照:2017年破産事件及び個人再生事件記録調査 17、42頁|日本弁護士連合会
(4)自己破産の費用が高くなる可能性に注意
情報商材の購入などの免責不許可事由がある場合、裁判所での手続きが「管財事件」という複雑なものになる可能性があります。
今回の場合、借金のうちの半分近くが情報商材の購入などに充てられているという理由で、管財事件になる見込みが高いです。
管財事件になった場合には費用が高くなることについてご了承ください。
免責不許可事由がある場合、免責許可決定を出してよいのかどうかの慎重な調査が必要となります。
そのため、
免責不許可事由がある場合には、裁判所が免責不許可事由の調査などのために「破産管財人」を選任することがあります。破産管財人が選ばれるのが、管財事件です。
管財事件となった場合、破産管財人の報酬等(引継予納金)が必要な分、自己破産の手続きに際して支払うべき金額が高額になるからです(東京地裁の場合、引継予納金は20万円~)。
また、管財事件となった場合、弁護士費用も高くなることが一般的です。自己破産の手続きを依頼する弁護士の負担も、破産管財人への対応などで重たくなりがちだからです。
弁護士費用と、予納金などの裁判所費用を合わせた額を、毎月少しずつ積み立てていく方式をとっている法律事務所が少なくありません。
ですので、一括でこれらの費用を支払わなければならないことは、回避できることが多いです。
自己破産を弁護士に依頼すれば、通常はその時点で債権者への返済はストップできます。今まで返済に使っていたお金を、費用の積立てに回すイメージです。
自己破産の手続きにどれくらい費用がかかるかについて、詳しくはこちらをご覧ください。
自己破産に当たって注意を受けたこと
「裁量免責となる可能性もある」と聞いて安心したBさんは、この弁護士に自己破産を依頼することにしました。
依頼の際、Bさんは次のような注意を受けました。
- もう情報商材や投資には手を出さないこと
- 手続きを誠実に進めること
それぞれについてご説明します。
(1)二度と情報商材を購入しないこと
まず、Bさんは
「大丈夫だとは思いますが、もう情報商材や投資には手を出さないように」と弁護士から言われました。
自己破産の依頼後にも情報商材の購入などを続けていては、免責不許可となるリスクが上がるからです。
繰り返しになりますが、裁量免責を出すかどうかを裁判所が判断する際には、次のような事情も考慮されます。
- 情報商材の購入について反省しているか
- 家計を再建するために、意欲的に努力しているか
既にBさんは情報商材の購入はやめたと言っています。
しかし、もしも自己破産の依頼後も情報商材を買ったり、過去に購入した情報商材を元に投資などをしていては、「情報商材の購入で借金を抱えたことを、反省していない」と判断されるおそれがあります。
また、情報商材の購入が主な原因となって返しきれないほどの借金を抱えたにもかかわらず、情報商材や投資をやめられていないというのでは、生活を立て直す意欲があるとは言いにくいです。
そのため、「このような人には、裁量免責を出したとしてもまた同じことを繰り返して、生活を立て直せる見込みがない」と判断されて、免責不許可となってしまうおそれがあるのです。
ですから、 自己破産の手続きをすると決めたからには、情報商材も投資もきっぱりとやめることが肝心です。
「投資で損した分のお金を取り戻したい」「返済するにもお金がない、別の情報商材だったら利益が出るかもしれない」と思って情報商材の購入を繰り返してしまった人もいることと思います。
情報商材や投資には二度と手を出さないようにしましょう。
(2)手続きは誠実に進めること
また、Bさんは 「借金の理由を誤魔化したりせずに、手続きを誠実に進める必要があります」とも言われました。
先ほどご説明したように、手続きを誠実に進めているかどうかも裁量免責を出すかどうかの判断において重視されます。
また、裁判所や破産管財人の調査に協力しなかったり、説明を拒否した場合などには、高額な情報商材の購入とは別の免責不許可事由になってしまうおそれがあります(破産法252条8項、9項、11項)。
自己破産を申立てて以降も免責不許可事由に当てはまることをしていると、深刻に受け止められて、免責不許可となることが少なくありません。
免責不許可となる可能性を下げるためには、誠実に手続きを進めることが肝心なのです。
【まとめ】情報商材で借金を抱えた場合でも、自己破産の可能性はある
今回の記事のまとめは次のとおりです。
- 情報商材の購入が原因の借金だと、免責許可が出ず負債が全て残ってしまうリスクは確かにある
- しかし、情報商材を購入していた場合でも、支払義務を免除してもらえる可能性はある(裁量免責)
- 裁量免責の可能性を上げるためには、次の2つを心がけておくことが肝心。
- 二度と情報商材を購入しないこと
- 手続きを誠実に進めること
情報商材に高額のお金を使った場合、確かに裁判所や破産管財人から破産の経緯などについて念入りな調査を受ける可能性があります。
しかし、もう情報商材には引っかからず、家計を立て直そうという意思で誠実に手続きを進めれば、支払義務を免除してもらえる可能性はあります(実際の事例や、手続きをする裁判所などによって異なります)。
本当に裁量免責すら見込めない場合であっても、このまま借金を抱え続けて状況がよくなる可能性は低いです。
自己破産が厳しい場合でも、借入理由が基本的に問題とならない「民事再生」などで負担を軽減できる可能性が残っています。
このまま借金を抱え込まずに、まずは弁護士に相談してみませんか。
アディーレ法律事務所では、自己破産を始めとする債務整理についてのご相談を承っています。
また、アディーレ法律事務所では、万が一個人の破産事件で免責不許可となってしまった場合、当該手続きにあたってアディーレ法律事務所にお支払いいただいた弁護士費用は原則として、全額返金しております(2022年8月時点)。
※ただし、免責不許可・再生不認可が、次の場合に起因する場合などは、返金対象外です。
- アディーレ法律事務所へ虚偽の事実を申告し、又は事実を正当な理由なく告げなかった場合
- 法的整理の受任時に、遵守を約束いただいた禁止事項についての違反があった場合
情報商材で借金を抱えてしまってお悩みの方は、破産を得意とするアディーレ法律事務所にご相談ください。
