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個人事業主が破産するとどうなる?事業継続の可能性や売掛金はどうなるのか解説

作成日:更新日:
リーガライフラボ

※アディーレ法律事務所では様々な法律相談を承っておりますが、具体的な事情によってはご相談を承れない場合もございます。予め、ご了承ください。

「個人事業主が自己破産する場合、どんな影響があるんだろう?」

自己破産というと、全ての終わりのように聞こえてしまうかもしれません。

しかし、事業に収益が見込め、金融機関から資金を調達する必要がなければ、自己破産の手続きをしても事業継続できる可能性はあります。

ただし、個人事業主の方の場合、一般の人よりも借金が高額で債権者数も多いことなどの理由から、手続きが複雑になり、費用も高額になることが多いです。そのため、手続きやかかる費用について事前に把握しておく必要があります。

この記事では、

  • 個人事業主と自己破産の概要
  • 自己破産後に個人事業主が事業継続できる可能性
  • 個人事業主の自己破産の手続きの流れ
  • 個人事業主の自己破産にかかる費用
  • 売掛金の扱い
  • 買掛金の扱い
  • 個人事業主が自己破産する際気をつけること3つ

について弁護士が解説します。

この記事の監修弁護士
弁護士 谷崎 翔

早稲田大学、及び首都大学東京法科大学院(現在名:東京都立大学法科大学院)卒。2012年より新宿支店長、2016年より債務整理部門の統括者も兼務。分野を問わない幅広い法的対応能力を持ち、新聞社系週刊誌での法律問題インタビューなど、メディア関係の仕事も手掛ける。第一東京弁護士会所属。

目次

個人事業主(自営業者)の自己破産

個人事業主が自己破産する背景を解説します。

(1)新型コロナウイルス感染症による事業倒産の増加

新型コロナウイルス感染症の影響で、売上げが大きく減り、倒産に追い込まれている事業者が少なくありません。
2021年9月の倒産件数は505件でしたが、そのうち154件が新型コロナウイルス感染症の影響によるものでした。

新型コロナウイルス感染症が沈静化していない現状にあって、万一の場合に備えて、個人事業主が、自己破産の手続きの概要を知っておくことは有益と思われます。

参考:新型コロナウイルス感染症関連情報:新型コロナが雇用・就業・失業に与える影響|独立行政法人 労働政策研究・研修機構

(2)原則、管財手続となる(手続きが複雑、費用高め)

自己破産の手続きには、大きく分けて、管財手続と簡易な同時廃止があります。

管財手続は、裁判所に選任された破産管財人が、換金して債権者に分配するために破産者の財産を調査したり、免責つまり自己破産者を借金の支払いから免れさせることが相当かを調査したりします。そのような管財人の仕事の報酬も破産者が支払わなくてはなりません。

個人事業主の場合、一般的に、店舗や事業所を借りていたり、リース物件があったり、在庫・売掛金といった財産があったりするため、管財人による調査が必要です。そのため、原則として、簡易な手続きである同時廃止でなく、管財手続になります。

自己破産後、個人事業主(自営業者)の事業継続可能性はある!

自己破産をしたからといって、その後に必ずしも事業ができなくなるというわけではありません。

しかし、一定の財産は、お金に換えられ、債権者に分配されるのが原則です。
個人タクシーの事業主が車両を換価されて分配されたり、個人経営のピアノ教室のピアノが換価されて分配されたりする場合もあります。そのような場合、事業を継続することは事実上困難になります。
事業を継続できるケースについては、後の項目にて詳しく解説します。

個人事業主(自営業者)の自己破産手続きの流れ

個人事業主の自己破産手続きの流れは、次のようになります。

法律相談・依頼

受任通知の発送・必要書類の収集

申立て

債権調査・破産管財人による調査

債権者集会

免責許可決定

それぞれについて詳しく解説します。

(1)法律相談と委任契約の締結

借金問題について相談できる法律事務所を探します。
相談に無料で応じてくれる法律事務所もありますので、そういった事務所を探すのもいいでしょう。
相談の結果、自己破産の手続きを取らずに、任意整理や個人再生といった、財産を基本的に処分しなくてよい手続きで済む場合もあります。

自己破産に決めたら、自己破産の手続きを弁護士に任せる内容の契約を交わします。

(2)受任通知の発送と必要書類の収集

依頼を受けた弁護士は、貸金業者等の各債権者に受任通知すなわち依頼を受けたことを知らせるための通知を発送します。
受任通知を発送したことの効果として、貸金業者や債権回収業者は取立てをストップします。

ですから、弁護士に依頼した自営業者は、

貸金業者や債権回収業者による催告や取立ての悩みから解放

されます。

受任通知を受け取った債権者は、債務の金額を記した債権調査票やそれまでの貸付や返済の記録を記した取引履歴を弁護士に送ります。
弁護士は取引履歴を元に払いすぎた利息等がないかを調べます。払いすぎた利息等が債務を上回っている場合には負債がなくなるだけではなく、過払い金の返還を業者に求めることができます。

このような債権の調査と並行して、住民票や給与明細、通帳の写しなどの自己破産の申立てに必要な資料の収集も行います。

(3)自己破産の申立て

裁判所に自己破産を申立てます。
自己破産を申立てると、破産管財人が、裁判所により選任され、自己破産する者の一定の財産を管理したり処分したりする権限は破産管財人に専属することとなります。

(4)債権調査と破産管財人による調査

裁判所により定められた債権調査期間内に、債権者は債権の金額などを届け出ます。
破産管財人は、通帳を精査するなどして、個人事業主の契約関係や財産関係を調査します。
必要に応じて、リース契約やテナントの賃貸借契約といった契約関係を解消したり、また、財産を換金して自己破産財団すなわち債権者への配当にあてられる財産に組み込んだりします。

破産管財人が選任されると、自己破産する個人事業主宛ての郵便物はすべて破産管財人に転送されます。
その目的は、破産者から申告の漏れていた財産や債務や契約関係を把握することなどにあります。

(5)債権者集会

債権者集会とは、破産管財人に破産手続きの状況や免責についての意見を報告させたり債権者の意見を反映させたりするために裁判所が開催する集会をいいます。

債権者の意見を反映させることを目的としていますが、銀行や貸金業者といった債権者は、ほとんど参加しません。債権者集会に来る債権者は買掛先や知人などの個人債権者がほとんどです。
配当の見込みがない場合には、一回で終わりますが、個人事業主が所有する不動産の換価や未回収の売掛金を回収するために提起した訴訟に時間がかかる場合には、期日が続行されます。

(6)免責許可決定

債権者集会の際、破産管財人は免責の可否について意見を述べます。
問題がなければ、裁判所により免責許可決定が下ります。
免責許可決定が覆らずに確定した場合、手続きは終結となります。

個人事業主(自営業者)が自己破産する場合にかかる費用

個人事業主が自己破産する場合にかかる費用は、主に、次の3種類です。

  • 引継ぎ予納金
  • 弁護士費用
  • 手続き費用等

それぞれについて解説します。

(1)引継ぎ予納金

裁判所によって選任される破産管財人は、無償で調査などの業務を遂行してくれるわけではありません。また、テナントの明け渡し、残置物の撤去など、管財人の業務に関する費用が発生する場合もあります。そのような費用や管財人の業務に対する報酬は、自己破産を申立てる者が用意しなければなりません。

自己破産を申立てる者は、通常、この管財人の業務に要する費用や管財人への報酬を、代理人弁護士を通じて管財人に引き継ぎます。
このお金を引継ぎ予納金といいます。

(2)弁護士費用

弁護士費用は、事務所によって異なりますが、40万~60万円くらいが一般的です。

(3)手続き費用等

申立てに際し、収入印紙、郵送料、官報公告料などの手続き費用がかかります。

自己破産後に個人事業主(自営業者)が事業継続する際の2つの注意点

自己破産後に個人事業主が事業を継続するための、ポイントとなる点を解説します。

(1)事業による収益の確保が必須

事業で売上げを確保できるかどうかがポイントとなります。
負債を増やした主な原因が事業であった場合、せっかく免責許可決定が出てもまた同じ事業で借金を負うこととなりかねません。そのため、事業はやめざるを得ないでしょう。

そうでなかったとしても、「あの人は一度自己破産をしたから、取引してもまた自己破産されてしまうかもしれない」と、取引先が取引から手を引いてしまうおそれがあります。
取引先が債権者の場合、その取引先が取引を継続してくれる可能性は極めて低いでしょう。

(2)5~10年程度、新たな融資は受けられない

自己破産をすると、新たな融資は受けられなくなります。 信用情報機関に自己破産の手続きをしたという情報が登録されている間(いわゆるブラックリストに載った状態)は、銀行等の金融機関は、通常、融資をしてくれなくなります。
そのため、自己資金で事業を継続できることを要します。

個人事業主(自営業者)が自己破産をする場合の売掛金の扱い

自己破産をするまで事業を継続していたのであれば、通常まだ支払いを受けていない商品やサービスの対価(売掛金)もあるでしょう。

自己破産は、自己破産する者の財産をお金に換えて債権者に分配し、それでも賄いきれない分の返済を免れさせてもらうという手続きです。そのため、売掛金も財産である以上、破産管財人に引き継ぎ、債権者への分配に充てられるのが原則です。

売掛金を引き継がなくてもよいケース

回収した売掛金は、原則として破産管財人に引き継がなければなりません。
ただし、自己破産手続きの開始決定前に回収した売掛金のうち一定の範囲の金額や、開始決定後に契約をして売掛金を回収した場合は、引き継ぐ必要はありません。

個人事業主(自営業者)が自己破産をする場合の買掛金の扱い

売掛金とは逆に、商品やサービスの提供を受けたにもかかわらず代金を支払っていないこと(買掛金)もあるでしょう。この場合、すべての取引先に対して受任通知が送られ、買掛金の支払いをストップする必要があります。取引先には経営状態がひどく悪いことも知られてしまいますので、それ以後、取引を続けてもらうのは事実上難しくなるでしょう。

自己破産の手続き中は、後払いにして取引先から商品やサービスを受け取ることもできません。後払いにしてもその支払いはできませんし、場合によっては「詐術による借入れ」(破産法252条1項5号)として免責不許可事由(※)に該当します。

※免責不許可事由とは、免責許可決定が出ない可能性のある一定の事由です。もっとも、免責不許可事由があっても免責許可決定が出るケースは少なくありません(裁量免責)。

免責不許可事由にどのようなものがあるのかについて、詳しくはこちらをご覧ください。

生活が困難になる場合は「自由財産の拡張」で手元に残せるものを増やせる可能性も

自営業者にとっての売掛金は、サラリーマンにとっての給料に相当する場合もあります。そのため、破産管財人に売掛金を引き継がせてしまうと、自己破産する個人事業主の生活が困窮するおそれがあります。

このような場合に、 「自由財産拡張の申立て」と呼ばれる制度があります。
自由財産とは、自己破産において、生活の維持のために破産者が保有できる財産のことをいいます。

「自由財産拡張の申立て」を裁判所が認めれば、本来は自由財産ではなく処分されるはずだったものが自由財産となり、手元に残せるようになります。

売掛金は、原則として、自由財産拡張申立ての対象になりませんが、破産者の生活の状況等の事情により、例外的に拡張の対象になることがあります。

自由財産にはどのようなものがあるか、どのような場合に自由財産の拡張が認められるのかについて、詳しくはこちらをご覧ください。

自由財産とは?自己破産をした後でも残せる財産について解説

個人事業主(自営業者)が自己破産をする際に気をつけること3つ

個人事業主が自己破産する場合には、次の点に気をつける必要があります。
まず、取引先などへの適切な連絡や対処に気をつけなければなりません。自己破産することを知った債権者が事業所に押し寄せたり、商品等を持ち出そうとする場合もあるからです。

次に、従業員への対応にも気をつける必要があります。未払い賃金がある場合には、従業員が什器・備品を持ち出して自力救済を図ろうとするおそれもあるからです。

(1)個人再生も併せて検討すること

自己破産を選択すると、事業資産や事業そのものが処分される可能性があり、事業を継続できなくなるおそれがあります。

しかし、継続的に安定した収入があれば、個人再生を選択できる場合もあります。
個人再生の手続きであれば、原則として事業資産や事業そのものを処分されないため、事業を継続できる可能性が高まります。

※自己破産の手続きにおいて、事業に必要なものが自由財産に含まれず、自由財産の拡張も認められなかった場合でも、当該財産の代金相当額を支払うなどの方法で手元に残せることもあります。

詳しくはこちらをご覧ください。

自己破産しても事業を継続したい個人事業主なら知っておくべきポイント

(2)弁護士費用を準備しておくこと

管財人の報酬は、管財人の仕事が多くなればなるほど高くなります。
個人事業主の自己破産の場合、什器・備品をお金に換えたり、テナントを明け渡したり、従業員の未払い賃金を計算したりするなど、一般的な会社員の自己破産に比べて管財人の業務が多いことがあります。
そのため、管財人の報酬も高くなる場合が多いです。

裁判所に自己破産の申立てをしても、管財人の報酬を用意できるまで、手続きを進めてもらえません。
そこで、自己破産を検討する場合には、費用を用意しておく必要があるといえます。

(3)消費税等の税金は非免責債権

自己破産をしても、すべてのお金の支払いを免除されるわけではありません。
法人税などの税金は「非免責債権」なので、税金の支払いを滞納している場合、免責許可決定が出たとしても、支払い義務は免れません。

無事に免責許可決定が出ても支払い義務が残る「非免責債権」にどのようなものがあるか、詳しくはこちらをご覧ください。

非免責債権とは?自己破産しても支払い義務があるものについてくわしく解説

【まとめ】自己破産後に、個人事業主が事業を継続できる可能性はある

今回の記事のまとめは次のとおりです。

  • 新型コロナウイルス感染症の影響で、倒産する事業者が増えている。個人事業主の自己破産の場合、手続きが複雑で費用も高くなりがちな「管財手続」で進められるのが原則。

  • 自己破産後に個人事業主が事業継続できる可能性はある。

  • 個人事業主の自己破産の手続きは、通常次のような流れになる。

    法律相談・依頼→受任通知の発送・必要書類の収集→申立て→債権調査・破産管財人の調査→債権者集会→免責許可決定

  • 個人事業主の自己破産では、基本的に「引継ぎ予納金」「弁護士費用」「手続費用等」がかかる。

  • 個人事業主が自己破産後に事業継続する際の主な注意点は次の2つ。

    • 事業による収益の確保が必須であること
    • 5~10年程度は、基本的に金融機関から融資を受けられないこと

  • 個人事業主の自己破産で、売掛金は破産管財人に引き継がれるのが原則。

  • 個人事業主の自己破産で、買掛金は支払いをストップするのが原則。

  • 個人事業主の自己破産で気をつけるべきことは、主に次の3つ。

    • 個人再生ができないか検討する
    • 弁護士費用を準備しておく
    • 税金の支払い義務は残る

自己破産をお考えの個人事業主の方は、個人事業主の自己破産を取り扱っている弁護士にご相談ください。

この記事の監修弁護士
弁護士 谷崎 翔

早稲田大学、及び首都大学東京法科大学院(現在名:東京都立大学法科大学院)卒。2012年より新宿支店長、2016年より債務整理部門の統括者も兼務。分野を問わない幅広い法的対応能力を持ち、新聞社系週刊誌での法律問題インタビューなど、メディア関係の仕事も手掛ける。第一東京弁護士会所属。

※本記事の内容に関しては執筆時点の情報となります。

※¹:2024年4月時点。拠点数は、弁護士法人アディーレ法律事務所と弁護士法人AdIre法律事務所の合計です。