個人再生を検討する際、「仕事や生活に不可欠な車を手放すことになるのでは?」という不安は非常に大きいものでしょう。
安易に手続きを進めてしまうと、残せるはずの車を失ってしまう可能性もあります。
このコラムでは「個人再生で車を残す方法」に焦点を当て、車を残せる条件から、ローン返済中の車を具体的に守るための3つの方法、注意点、そしてよくある質問まで、弁護士が網羅的に解説します。
個人再生で車を残すための条件
個人再生は、裁判所を介して借金を大幅に減額し、分割で返済していく手続きです。
自己破産とは異なり、一定要件のもとで自宅や車などの財産を手元に残しながら生活再建を目指せるのが大きな特徴といえるでしょう。
特に、仕事や生活に車が不可欠な方にとって、車を残せるかどうかは非常に重要な問題です。具体的にどのような条件であれば車を残せるのか、詳しく解説します。
個人再生とは財産を残しつつ借金を減額する手続き
個人再生は、裁判所に再生計画の認可を受けることで、借金を元本ごと大幅に減額できる債務整理手続きで、原則として、住宅や車、保険などの財産を維持したまま、減額後の借金を3年から5年で分割返済していきます。
自己破産のように財産をすべて手放す必要がないため、生活への影響を最小限に抑えながら再出発を図りたい方に適した方法です。
手続きの条件として、特に安定した収入があり、法律で定められた最低限の返済額を支払える見込みがあることが求められます。
車のローン返済状況が残せるかを決める
個人再生で車を残せるかどうかは、主に自動車ローンの返済状況によって決まります。
ローンがすでに完済されていれば、その車はご自身の財産として扱われるため、原則として手元に残すことが可能です。
一方で、ローンがまだ残っている場合は、車検証に記載されている「所有者」が誰になっているかが重要な判断基準となります。所有者がご自身であれば残せる可能性があり、信販会社になっている場合は、原則として車は引き上げられてしまいます。
【状況別】個人再生で車がどうなるか
個人再生手続きにおいて、ご自身の愛車がどう扱われるかは、ローンの完済状況や所有者名義といった個別の状況で大きく異なります。
ここでは、代表的な3つのケースに分け、それぞれ車がどうなるのか、その理由とあわせて具体的に見ていきましょう。ご自身の状況と照らし合わせながらご確認ください。
ローン完済済みの車は残せる
自動車ローンをすでに完済している場合、その車の所有権は完全にご自身のものになっています。
そのため、個人再生手続きで車が引き上げられることはなく、原則としてそのまま乗り続けることが可能です。
ただし、その車の評価額(時価)が高い場合は、個人再生における返済総額に影響を与える可能性があります。これは、所有している財産の総額以上は返済するという「清算価値保障の原則」が適用されるからです。
ローン中でも所有者が自分名義なら残せる
自動車ローンが返済中であっても、車検証の「所有者の氏名又は名称」の欄がご自身の名義になっている場合は、原則として車を手元に残せます。
これは主に、銀行のマイカーローンを利用しているケースが該当します。
この場合、ローンを提供している銀行は、個人再生手続きにおける他の債権者と同様に扱われます。したがって、再生計画に基づいて減額された借金を分割で返済していくことになり、車が引き上げられることは通常ありません。
ローン中で所有者が信販会社なら引き上げ対象
ディーラーローンや信販会社のローンを利用して車を購入した場合、ローンを完済するまで車の所有権が信販会社やディーラーに留保されていることが一般的です。
この場合、車検証の所有者欄には信販会社などの名前が記載されています。
個人再生手続きを開始すると、ローン会社は契約に基づき車を引き上げる権利を行使するため、原則として車は手放すことになります。これは、車がまだご自身の完全な財産ではなく、ローンの担保になっているためです。
ローン返済中の車が引き上げられる理由
「ローンを払っているのに、なぜ車が引き上げられるのか」と疑問に思う方も多いでしょう。
その理由は、ディーラーローンなどで一般的に結ばれている「所有権留保」という契約にあります。この仕組みを理解することが、車を残す対策を考える第一歩です。
ここでは、所有権留保の仕組み、ご自身の車の所有者を確認する方法、そして車が引き上げられる時期の目安を解説します。
ローン完済まで所有権が信販会社にある「所有権留保」
所有権留保とは、自動車ローンを完済するまでの間、車の所有権を販売店や信販会社(債権者)に留めておく契約上の取り決めです。
これは、万が一ローンの返済が滞った場合に、債権者が車を引き上げて売却し、残りのローン返済に充てるための担保として機能します。
個人再生を申し立てると、債権者はこの所有権留保に基づき車を引き上げる権利を行使するのが一般的なため、所有者が信販会社名義の車は引き上げの対象となるのです。
所有権は車検証で確認できる
ご自身の車の所有者が誰かは、車検証(自動車検査証)を見ればすぐに確認できます。
車検証の中ほどにある「所有者の氏名又は名称」という欄をご確認ください。この欄にご自身の名前が記載されていれば、所有権はご自身にあります。
一方で、ディーラーや信販会社の名前が記載されている場合は、所有権が留保されている状態です。個人再生を検討する際は、まず車検証でこの所有者欄を確認することが非常に重要といえるでしょう。
車が引き上げられる時期の目安
弁護士に個人再生を依頼し、弁護士が各債権者へ「受任通知」を送付した段階で、ローン会社は車の引き上げ準備を始めます。受任通知の送付によってローンの返済が一時的にストップするためです。
通常、受任通知の送付後、数週間から1ヶ月程度でローン会社から連絡があり、引き上げの日程調整が行われます。
具体的な時期はローン会社の方針によって異なりますが、手続きを開始すると、比較的早い段階で引き上げが実行されると認識しておくとよいでしょう。
ローン返済中の車を残す3つの方法
所有権が信販会社にあり、原則として引き上げ対象となる車でも、諦める必要はありません。
いくつかの法的な手続きや交渉によって、例外的に車を手元に残せる可能性があります。仕事や家族の送迎などで車が生活に不可欠な場合は、これらの方法を検討する価値があるでしょう。
- 第三者による一括返済(第三者弁済)
- ローン会社との交渉(別除権協定)
- 自動車ローンを対象外にできる任意整理の検討
第三者にローンを一括返済してもらう(第三者弁済)
親や兄弟といった第三者に協力してもらい、残っている自動車ローンを一括で返済してもらう方法です。
ローンが完済されれば、所有権留保は解除され、車の所有者をご自身の名義に変更できます。これにより、車はご自身の財産となるため、引き上げを回避できるのです。
ただし、個人再生手続きの直前に特定の債権者にだけ返済する行為は「偏頗弁済(へんぱべんさい)」と見なされるリスクがあるため、弁護士に相談し、適切な手順で行うことが重要です。
ローン会社と交渉し返済を続ける(別除権協定)
別除権協定とは、特定の財産(この場合は車)を維持するため、そのローンだけは従来通り返済を続けることをローン会社と合意し、裁判所に認めてもらう手続きを指します。
この協定が認められれば、車を引き上げられることなく、そのまま使用し続けることが可能です。
ただし、ローン会社との交渉が必要であり、協定を結んでもらえるかはケースバイケースといえます。また、車がなければ事業の継続が困難であるといった特別な事情がなければ、裁判所の許可を得るのは容易ではありません。
車のローンを対象外にできる任意整理を検討する
もし、自動車ローン以外の借金の金額がそれほど大きくなく、他の借金が返済の主な負担となっている場合は、個人再生ではなく任意整理を検討するのも有効な手段です。
任意整理は、整理する債務を自分で選べます。
そのため、自動車ローンはそのまま返済を続け、他のカードローンなどだけを対象に交渉することで、車を手元に残したまま借金問題を解決できる可能性があります。
個人再生で車を残す場合の注意点
車を残すことができたとしても、それに伴う注意点がいくつか存在します。
これらを知らないまま手続きを進めると、かえって返済総額が増えたり、最悪の場合、個人再生手続き自体が認められなくなったりするリスクも考えられます。
車を守りつつ、スムーズに生活を再建するためにも、これから解説する3つのポイントを押さえておきましょう。
- 価値の高い車は返済額が増える可能性がある
- 車のローンだけの優先返済は禁止されている
- 手続き直前の名義変更は認められない
価値の高い車を残すと返済額が増えることがある
個人再生には「清算価値保障の原則」というルールがあります。これは、もし自己破産した場合に債権者に分配されるであろう金額(清算価値)以上の額は、個人再生でも返済するというものです。
車の評価額が高い場合、その価値が清算価値に加算されます。
その結果、法律で定められた最低弁済額よりも清算価値の方が高くなり、最終的な返済総額が増加する可能性があります。
車のローンだけを優先して返済しないようにしましょう
返済が苦しい状況で、「車だけは手放したくない」という思いから、自動車ローンだけを優先して返済してしまう方がいます。
しかし、これは「偏頗弁済(へんぱべんさい)」という、債権者平等の原則に反する禁止行為にあたります。
特定の債権者だけを優遇する行為と見なされ、再生計画が認められない原因にもなりかねません。自己判断で特定のローンだけを返済することは避けるようにしましょう。
手続き直前の名義変更は認められない
車の引き上げを回避する目的で、個人再生を申し立てる直前に車の名義を家族などに変更する行為は、財産隠しと見なされる可能性が非常に高いです。
このような行為は、債権者の利益を不当に害するものとして、裁判所から厳しく判断されます。
発覚した場合、個人再生手続きが認められないだけでなく、詐欺再生罪(さぎさいせいざい)という刑事罰の対象となる可能性すらあります。財産状況は正直に申告し、安易な名義変更は行わないようにしましょう。
個人再生と車に関するQ&A
ここまで個人再生で車を残すための条件や方法を解説してきましたが、手続き中や手続き後に関する疑問をお持ちの方も多いでしょう。
例えば、「個人再生後に新しくローンを組めるのか」といった質問は非常によく寄せられます。ここでは、そうした個人再生と車にまつわる代表的なQ&Aにお答えします。
個人再生後に自動車ローンは組める?
個人再生を行うと、その情報が信用情報機関に登録されます。
登録されている期間は、再生計画の返済完了から5年程度が目安です。
この期間中は、金融機関などの審査に通るのが極めて困難になるため、新たに自動車ローンを組むことは難しいでしょう。将来的にローンを組むには、まず再生計画通りに返済を完了させ、その後、信用情報が回復するまで待つ必要があります。
手続き中に車を購入できる?
個人再生の手続き中に、新たにローンを組んで車を購入することは原則としてできません。ローン審査に通らない可能性が非常に高いためです。
現金一括で購入する場合であっても、高額な買い物は「浪費」と見なされたり、返済能力を疑われたりして、再生計画の認可に悪影響を及ぼす可能性があります。
やむを得ない事情で車が必要になった場合は、購入する前に、まずは依頼している弁護士に相談しましょう。
リース契約中の車はどうなる?
リース契約中の車は、所有権がリース会社にあるため、ご自身の財産ではありません。
リース契約は法的に賃貸借契約と同様に扱われるため、個人再生を申し立てると、多くの場合、リース会社は契約を解除し、車の返却を求めてきます。
リース料の支払いが滞っていなくても、個人再生の申し立て自体が契約の解除事由となっていることがほとんどです。そのため、リース契約中の車を手元に残すことは極めて困難といえるでしょう。
車の問題は弁護士への相談が解決の近道
個人再生における車の取り扱いは、ローンの契約内容や車の価値、そしてご自身の生活状況など、さまざまな要因が複雑に絡み合います。
自己判断で進めると、残せるはずの車を失ったり、手続きで不利になったりするリスクがあります。
車に関する悩みや不安を抱えているなら、債務整理を専門とする弁護士へ速やかに相談することが、解決への近道となるでしょう。
複雑な手続きや交渉を専門家に任せられる
個人再生で車を残すためには、ローン会社との交渉(別除権協定)や、裁判所への適切な書類作成・説明など、専門的な知識と経験が不可欠です。
弁護士に依頼すれば、これらの複雑で時間のかかる手続きをすべて任せることができます。
特に、ローン会社との交渉は一般の方には精神的な負担も大きいですが、法律の専門家である弁護士が代理人となることで、より良い条件で交渉を進められる可能性が高まります。
ご状況に合った解決策が見つかる
車を残したいというご希望に対し、弁護士はご自身の具体的な状況を詳細にヒアリングした上で、適した解決策を提案します。
第三者弁済が可能か、別除権協定を目指すべきか、あるいは個人再生ではなく任意整理の方が適しているかなど、法的な観点から多角的に検討し、メリット・デメリットを丁寧に説明してくれるでしょう。
一人で悩み続けるよりも、専門家の客観的なアドバイスを受けることで、安心して手続きを進められます。
まとめ
本記事では、個人再生で車を残すための条件や具体的な方法を解説しました。ローンが完済済み、または所有者名義がご自身であれば原則として車を残せます。
ローン中の車でも、第三者による一括返済やローン会社との交渉次第で手元に残せる可能性がありますが、専門的な判断が不可欠です。
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