「借金をとうてい返済できなくて自己破産を考えてるんだけど、滞納してる税金も無くなる?」
裁判所が「免責許可」を出してくれれば、原則全ての支払義務が免除される「自己破産」。
しかし、たとえ免責許可が出ても、税金の支払義務は残ります。
そのため、自己破産の手続きを進めるとしても、税金を支払えないまま放置していると、財産を差し押さえられてしまうおそれがあります。
差押えを避けるためには、差押えに至るよりも前に役所に連絡して、滞納分を分割払いにできないか相談することがおすすめです。
この記事では、次のことについて弁護士が解説します。
- 税金を滞納すると起こること
- 自己破産や消滅時効で税金から逃れるのは難しいこと
- 税金が払えない場合の対処法

早稲田大学、及び首都大学東京法科大学院(現在名:東京都立大学法科大学院)卒。2012年より新宿支店長、2016年より債務整理部門の統括者も兼務。分野を問わない幅広い法的対応能力を持ち、新聞社系週刊誌での法律問題インタビューなど、メディア関係の仕事も手掛ける。第一東京弁護士会所属。
税金を滞納するとどうなるか
国税庁の発表によると、滞納されている国税の金額(滞納残高)は1998年をピークとして、2019年に至るまで減少し続けてきました。2020年には若干の増加に転じていますが、ピークだった1998年の滞納残高の3分の1にも満たない額です。
また、2019年は滞納発生割合(申告などにより課税されたものの額のうち、新規発生滞納額が占める割合)も国税庁発足以来最も低い数値となりました。期限内納付に関する広報や納期限前後の納付指導の実施などによりきちんと滞納前に税金が支払われていること、滞納した税金がきちんと徴収されていることによると考えられます。
税金を滞納した場合の流れは、法律に明記されています。
ここでは、国税を滞納した場合の流れをみてみましょう。
滞納
原則として納期限から50日以内に督促状が送付
(手紙や自宅訪問などにより納付を催告されることも)
滞納者の財産に関する財産調査
(財産調査に滞納者の同意は不要)
督促状を発した日から10日を経過した後に差押え
※税金などの滞納をしていると行われる、差押えなどの処分のことを「滞納処分」と言います。消費者金融からの借金などを滞納した場合の差押えは、「強制執行」の一種です。
また、一定の条件の下で、元々の納期限よりも早く払うよう求められる「繰上請求」を受ける可能性もあります(国税通則法38条)。
自己破産や消滅時効によって税金の支払義務を免れる?
何らかの支払義務を合法的に免れるための手段として、多くの人が思い浮かべるのが「自己破産」や「消滅時効」ではないでしょうか。
しかし、税金の支払義務は自己破産では免除されず、消滅時効によって免れるのも現実的には難しいでしょう。
(1)税金は自己破産でもなくならない「非免責債権」
自己破産の手続きをして裁判所に免責が許可されると、借金の返済義務などは免除されます。
しかし、免責許可が出ても支払義務が免除されないものがあります。
それが「非免責債権」です(破産法253条)。
「租税などの請求権」の支払義務は、非免責債権に当たります。そのため、免責許可が出て自己破産の手続きが無事終わっても、免除されません。
何が「租税等の請求権」にあたるかというと、国税徴収法または国税徴収の例によって徴収することができるものです(破産法97条4号)。
たとえば、次のものは支払義務が免除されません。
- 所得税
- 贈与税
- 相続税
- 市町村民税
- 固定資産税
- 自動車税
- 国民健康保険料
- 国民年金保険料
とはいえ、滞納した税金以外に、消費者金融などからの借金もある場合、自己破産によって消費者金融などからの借金の返済が免除されるなど、債務整理によって借金返済の負担が軽減されれば、分納手続きをしたうえで滞納した税金を支払えるようになる可能性があります。
なお、非免責債権には、税金の他にも養育費などがあります。
非免責債権にどのようなものがあるか、詳しくはこちらの記事もご確認ください。
(2)税金の支払義務を消滅時効で逃げ切れる?
税金にも消滅時効が定められており、原則としてその税金の通常の納付期限から5年間で時効によって消滅します(国税通則法第72条)。
このように税金についても消滅時効が法律上定められているものの、実際に消滅時効によって税金の支払義務を免れられる可能性は低いです。そもそも消滅時効は、一定期間権利を行使しなかった以上、権利を失ってもやむを得ないと考えられているために存在する制度です。国や地方公共団体などは、誰がいくら税金を支払っていないのかをきちんと管理しているため、消滅時効が完成するまでの間に督促状を発送し、差押えを行うと考えられます。
また、督促状には、消滅時効をリセットする効果があります。
というのも、督促状が発送された日から10日は消滅時効のカウントがストップし(完成猶予)、その期間が経てばまたゼロから消滅時効期間がカウントされることになるのです(時効の更新、国税通則法73条1項4号)。
ですので、たとえ「あと何日かで税金の消滅時効が完成する」というときであっても、督促状が出されてしまえば支払義務は残るということになります。
国や地方公共団体は、消滅時効が完成するまでにきっちり督促状の発送などで時効を更新すると考えられます。そのため、消滅時効の完成は期待しにくいでしょう。
さらに、税金の支払いが遅れると、遅れた日数分の延滞税などが発生してしまいます。そのため、消滅時効の完成まで逃げ切ろうと思うと、支払総額が想像以上に高くなってしまいかねませんので、絶対にやめましょう。
参考:延滞税の計算方法|国税庁
(3)実はあった……?税金の支払いが免除される方法
病気で働けなくなってしまった場合など、どうしても税金を支払えなくなることがあります。そのようなときに利用されるのが「滞納処分の停止」です(国税徴収法153条)。次の3つのうち、どれかにあてはまる場合、財産の差押えの手続きが行われません(同条1項各号)。
- 滞納処分の執行などをすることができる財産がないとき
- 滞納処分の執行などによって、滞納者の生活を著しく窮迫させるおそれがあるとき
- 滞納者のいる場所と、滞納処分の執行などをできる財産が両方とも不明であるとき
そして、この停止が3年間継続したときには、税金の支払義務は消滅します(同条4項)。
さらに、状況次第では3年経過することなく、税金の支払義務がなくなることがあります(同条5項)。
たとえば、3年間生活保護を受給し続けたときには、税金の支払義務が免除されるでしょう。

税金が支払えない場合は税務署や市区町村役場で相談
自己破産を考えて法律事務所に相談に来る方の中には、税金の支払いが滞ってしまっている人もいます。税金の支払いができないまま放置してしまうと、差押えのおそれがあります。
しかし、差押えを受けるよりも前に対処すれば、差押えを回避できる可能性があります。それでは、税金の支払いが大変なときの対処法をご説明します。
(1)督促状が届いたら絶対に放置しないのが鉄則!
一番やってはいけないのが、役所から届いた督促状を放置することです。
税金の支払いがどうしても難しい場合は、早めに税務署や市区町村役場に相談しましょう。税金を支払う意思はあるけれども生活が苦しく支払いが難しいなどの事情を話せば、分割払い(分納)を認めてもらえるケースがあります。ただし、自己破産を検討していることや自己破産を弁護士に依頼したことまで税務署などに話すかどうかはケースバイケースです。
自己破産でも、既に始まってしまった税金滞納が理由の差押えは解除できない
借金滞納が原因の差押えなどであれば、差押えが一旦は始まっていても、自己破産の開始決定が下りると、差押えなどは効力を失います(破産法42条2項)。また、借金滞納が原因の差押えも、国税滞納が原因の差押えも、自己破産の開始決定後に新しく始めることはできません(破産法42条1項、43条1項)。
ところが、すでに税金の滞納を理由とする差押えがなされていると、自己破産の開始決定がされても差押えは効力を失いません(破産法43条2項)。そのため、場合によっては自己破産の手続開始決定の前に差押えの手続きをしようとすることがあるのです。
税務署などに相談するときには、自己破産をいつ申立てられそうかなどを自己破産を依頼した弁護士に聞き、分納について税務署などと相談するのがいいでしょう。
(2)税金のことはどこに相談すればいい?
税金の種類によって相談窓口が異なるので、どこで相談すべきかあらかじめ調べておきましょう。主な税金の相談先は次のとおりです。
税金の種類 | 相談先 |
---|---|
国税(所得税、復興所得税、相続税、贈与税、消費税、酒税、自働車重量税など) | 住所地を管轄する税務署 |
地方税のうち、固定資産税、都市計画税、住民税、軽自動車税など | 各市町村の税務課 |
地方税のうち、個人事業税、法人事業税、自働車税、不動産取得税など | 各都道府県税事務所 |
ただし、東京都などお住まいの地域によっては相談先が異なることがあるため、あらかじめ税務署などに電話で確認してから行くのがスムーズでしょう。
【まとめ】自己破産でも税金の支払義務は無くならないが、役所に相談して分割払いなどにできる可能性はある
今回の記事のまとめは次のとおりです。
- 税金を滞納すると、督促状が届いたのちに、財産を差し押さえられてしまうおそれがある。
- 税金の支払義務は、自己破産の手続きで免責許可が出ても全額残る。
- 税金にも消滅時効はあるものの、時効が完成する前に差押えを受けるリスクがある。また、督促状の発送によって、消滅時効のカウントは一からやり直しになる(時効の更新)。さらに、元々滞納していた金額だけでなく、滞納した日数分の「延滞税」も発生してしまう。
- 税金を支払えない場合、早めに税務署などの役所の窓口で相談すれば分納にできる可能性がある。
税金は、国民ならば誰もが等しく支払わなければならないものです。税金の支払いが滞ってしまうと、延滞税が発生したり差押えを受けてしまったりするなど、さまざまなデメリットが生じます。もし支払いが苦しいのであれば、分納にできないか、なるべく早めに相談することをおすすめします。
また、税金を支払えない理由が膨れ上がってしまった借金にあるのであれば、借金について「債務整理」をすることがおすすめです。
債務整理とは、借金などの支払義務を軽減するための手続きです。自己破産以外にも、「任意整理」や「個人再生」といった方法もあります。
債務整理では税金の支払義務を軽減することはできません。しかし、毎月の借金返済の負担を軽減することができれば、その分家計に余裕ができて、税金も以前より楽に支払えるようになる可能性があります。
税金に延滞税が上乗せされるのと同様、借金も放置していれば利息や遅延損害金が上乗せされてしまいます。
これ以上借金を抱え込んでしまわないうちに、弁護士に相談してみませんか。
アディーレ法律事務所では、自己破産を始めとする債務整理のご相談を承っております。
また、アディーレ法律事務所では、所定の債務整理手続きにつき、所定の成果を得られなかった場合、原則として、当該手続きに関してお支払いただいた弁護士費用を全額ご返金しております(2022年10月時点)。
借金の返済についてお悩みの方は、債務整理を得意とするアディーレ法律事務所にご相談ください。
