「業務委託の取引先から報酬を受け取ったけれど、『源泉徴収』として一定の金額が天引きされていた。源泉徴収とは、具体的にはどのような制度なんだろう?」
せっかく受け取った報酬からよく分からないお金が天引きされていると、気になってしまいますよね。
「源泉徴収」とは、給与や報酬を支払う際に会社等が所得税等を天引きして、納税者の代わりに国等に納付する制度のことです。
法律で定められた所得税を納めるための仕組みのひとつであり、一定の場合に支払者に対して義務付けられています。
この記事を読んでわかること
- 「源泉徴収制度」とは何か
- 源泉徴収の対象となる所得とは何か
- 天引きされた源泉徴収税額の調べ方と手元に資料がないときの対処法
中央大学卒、アディーレ入所後は残業代未払いの案件をメインに担当し、2018年より労働部門の統括者。「労働問題でお悩みの方々に有益な解決方法を提案し実現すること」こそアディーレ労働部門の存在意義であるとの信念のもと、日々ご依頼者様のため奮闘している。東京弁護士会所属。
「源泉徴収制度」とは?
本来、所得税の納付については、原則として納税者の申告に基づいて納付するべき税額が決定する「申告納税制度」が採用されています。
申告納税制度の下では、納税者が自ら納付するべき税額を計算・申告し、その申告に基づいて税を納付します。
この例外として、特定の所得については、「源泉徴収制度」が採用されています。
「源泉徴収」とは、給与や報酬を支払う際に会社等が所得税等を天引きして、納税者の代わりに国等に納付する制度のことです。
源泉徴収された所得税の額は概算であるため、実際に支払うべき金額との差額を調整するために、年末調整(会社員等の場合)や確定申告などの制度が設けられています。
払い過ぎていた税金がある場合には、年末調整や確定申告の際にその分が還付されます。
確定申告について詳しくはこちらの記事をご覧ください。
源泉徴収の対象となる所得とは?
源泉徴収の対象となる所得には、主に次のようなものがあります。
- 給与所得・退職所得
- 一定の報酬・料金等
これらについてご説明します。
(1)給与所得・退職所得
給与や賞与、退職金、給与に類する手当などは、給与所得として源泉徴収の対象となります。
給与に類する手当として、具体的には、例えば次のようなものが源泉徴収の対象となります。
- 残業手当
- 地域手当
- 家族手当
- 住宅手当
※会社等によって手当の名称が異なることもあるため、あくまで一般的な場合の例示になります。
これに対して、例えば次のような手当は非課税とされ、源泉徴収の対象となりません。
- 一定金額以下の通勤手当
- 転勤や出張などのための旅費であって、通常必要と認められるもの
- 宿直や日直の手当のうち一定金額以下のもの
給与所得・退職所得に対する源泉徴収は、主に会社員など雇われて働く方に関わりのあるものです。
(2)報酬・料金等
一定の範囲の報酬・料金等についても、源泉徴収がなされます。
源泉徴収が必要な報酬・料金等の範囲は、支払を受ける者が個人か法人かによって異なります。
支払を受ける者が「個人」である場合に源泉徴収の対象となる範囲には、例えば次のようなものなどがあります。
- 一定の金額以上の原稿料や講演料など
- 弁護士、公認会計士、司法書士等の特定の資格を持つ人などに支払う報酬・料金
- 社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬
- プロ野球選手、プロサッカー選手、プロテニス選手、モデルや外交員などに支払う報酬・料金
- 映画、演劇その他芸能(音楽、舞踊、漫才等)、テレビ放送等への出演などの報酬・料金
- 芸能プロダクションを営む個人に支払う報酬・料金
など
例えば、弁護士に相談・依頼する場合について考えてみましょう。
法人又は給与等につき所得税を徴収して納付すべき個人(他人を雇用している自営業者など)が弁護士報酬を支払う場合、支払先が個人としての弁護士であれば、源泉徴収の対象となり、源泉徴収をしたうえで報酬を支払わなければなりません。
これに対して、支払先が弁護士法人である場合には、源泉徴収の対象とならず、報酬を支払う際に源泉徴収をする必要はありません。
※他人を雇用等していない個人が弁護士報酬を支払う場合は、支払先が個人の弁護士であっても弁護士法人であっても源泉徴収をする必要はありません。
報酬・料金等に対する源泉徴収は、主にフリーランス・個人事業主など、会社等に雇われないで働く方に関わりのあるものです。
天引きされた源泉徴収税額はどうやって調べる?手元に資料がないときは?
源泉徴収の対象となる所得等を支払う者(雇用主や原稿料の支払主など)は、支払の明細としての役割を持つ「源泉徴収票」や「支払調書」を、税務署に提出すると同時に納税者本人(支払いを受ける者)に交付します。
この「源泉徴収票」や「支払調書」を見ることで、天引きされた源泉徴収額が分かります。
源泉徴収票を交付することは、雇用主等の法律上の義務です。これに対して、法律上、支払調書の交付は義務とはされていません。もっとも、実際には支払調書が交付されるケースは多いです。
ここからは、「源泉徴収票」と「支払調書」について、詳しくご説明します。
(1)源泉徴収票
給与所得などを受けた人には、会社から「源泉徴収票」が交付されます。
源泉徴収票を受け取るのは、主に会社等に雇用されて勤務している会社員等の方です。
「源泉徴収票」とは、1年間に受け取った収入の額と、納付した所得税等の額が記載された書類です。
基本的には、年末調整(※)後、翌年1月31日までに交付されます。
また、年の途中で退職したときは、退職日から1ヶ月以内に交付されます。
源泉徴収票を見れば、源泉徴収された所得税等の額が分かります。
源泉徴収票の中の「源泉徴収税額」が、源泉徴収された所得税等の額です。
所得税法上、会社には、源泉徴収票を交付する義務があります(所得税法226条1項)。
なくしてしまったなどの理由で源泉徴収票が手元にない場合には、会社に対して源泉徴収票の再交付を依頼すると良いでしょう。
※年末調整とは、給与等から天引きされた所得税を再計算し、過不足があれば調整するための手続きです。
年末調整について詳しくはこちらの記事をご覧ください。
(2)支払調書
源泉徴収の対象となる報酬・料金等の支払を受けた人(納税者本人)には、報酬・料金等の支払者から「支払調書」が交付されるケースが多いです。
「支払調書」は、1年間に、誰にどんな内容でいくらの報酬等を支払ったかを記載した書類です。
支払調書を受け取るのは、主にフリーランスや個人事業主として働く個人の方です。
支払調書は、本来は報酬等の支払者から税務署へ提出されるものであり、源泉徴収票と異なり支払者から納税者本人に交付する義務はありません。
しかし、慣例として、支払調書が報酬等の支払を受けた人(納税者本人)にも交付されるケースは多いようです。
納税者本人に支払調書が交付される場合には、翌年1月31日までに交付されるのが一般的です。
支払調書に記載された「源泉徴収税額」が、源泉徴収された所得税額です。
【まとめ】源泉徴収は所得税納付の仕組みのひとつ。納税額は「源泉徴収票」や「支払調書」から調べられる
今回の記事のまとめは次のとおりです。
- 「源泉徴収」とは、給与や報酬を支払う際に会社等が所得税等を天引きして納税者の代わりに国等に納付する制度のこと。
- 源泉徴収の対象となる所得には、「給与所得・退職所得」や「一定の報酬・料金等」などがある。
- 「源泉徴収票」や「支払調書」を見ることで、天引きされた源泉徴収額が分かる。
源泉徴収の仕組みがよく分からないと、給与等から天引きされているお金が何のお金なのか分からなくて、「どうして天引きされているんだろう。この天引きされているお金は一体何なんだろう」と感じてしまいますよね。
源泉徴収は、所得税等を納めるための仕組みです。
源泉徴収される税額を把握して、自分がいくらの税を納めているのかしっかりと確認しましょう。
源泉徴収に関し、会社員の方など給与所得等の源泉徴収について分からないことがある方は、会社の人事労務・経理担当者に質問すると良いでしょう。
報酬・料金等の源泉徴収について分からないことがある方は、報酬・料金等の支払主に質問すると良いでしょう。