「債務超過」という言葉を聞いたことがあるでしょう。
実は、債務超過とは、企業の経営において避けては通れない、非常に重要な概念なのです。
債務超過は単に負債が多いという状態を超えて、企業の存続に直結するリスクを孕んでいます。
あなたの会社は大丈夫でしょうか?
もしかしたら、日々の業務に追われているうちに、知らぬ間に債務超過の状態に近づいているかもしれません。
ここでは、債務超過とは何か、そのリスクや原因、そしてその解消方法まで詳しく解説します。この記事を読み終わる頃には、債務超過についての理解が深まり、企業の健全な経営に向けた具体的なアクションプランを考える手助けになるでしょう。
ここを押さえればOK!
債務超過と赤字や資金ショートとの違いについて、赤字は一定期間の収支がマイナスであることを意味し、赤字が蓄積すると債務超過に至ります。一方、資金ショートは支払うべき現金が不足することで、即座に倒産につながる可能性があります。
債務超過に至る主な原因には、赤字の常態化、多額の投資による負債増加、資産評価の損失や特別損失があります。
債務超過は取引先や金融機関からの信用低下、上場企業の場合の上場廃止リスク、そして倒産の可能性を引き起こします。
債務超過かどうかを判断するためには、貸借対照表(バランスシート)の資産総額と負債総額を比較し、純資産がプラスかマイナスかを確認することが重要です。
解消方法としては、利益を上げる、増資、DES(デット・エクイティ・スワップ)、債務免除の依頼、そして法的手続き(民事再生法・会社更生法)の活用が挙げられます。
早稲田大学、及び首都大学東京法科大学院(現在名:東京都立大学法科大学院)卒。2012年より新宿支店長、2016年より債務整理部門の統括者も兼務。分野を問わない幅広い法的対応能力を持ち、新聞社系週刊誌での法律問題インタビューなど、メディア関係の仕事も手掛ける。第一東京弁護士会所属。
債務超過とは
債務超過とは、保有資産よりも負債が多い状態をいいます。
言い換えると、抱えている商品や設備などの資産全てを現金化しても、借金や家賃などが返せない状態です。
債務超過と赤字や資金ショートとの違いとは
債務超過とよく似た意味でつかわれるのが「赤字」や「資金ショート」という言葉です。
ここでは、債務超過と「赤字」や「資金ショート」という言葉の違いについて説明します。
(1)赤字との違い
赤字とは、年間や月間単位など一定期間の収支がマイナスのことをいいます。
例えば、月々の売り上げよりかかった経費の方が多い状態のことです。
一方、債務超過とは、赤字が蓄積した結果です。
赤字が繰り返されると会社の資産が減り、その結果「資産よりも負債が多い状態(債務超過)」になるのです。
(2)資金ショートとの違い
資金ショートとは、すぐに支払うべき現金が不足している状態をいいます。
例えば、借入れの返済や入金のタイミングなどから、従業員の給与や仕入れ代金を払えない状態をいい、「すぐに倒産につながる」可能性があります。
一方、債務超過は「すぐに倒産につながる」とは限りません。
例えば、過去の余剰利益に余裕があれば直近の支払いは滞ることはないことや初期の設備投資で一時的に負債の方が多くなっていることがあるからです。
債務超過の主な原因とは
債務超過に至る主な原因とは何でしょうか?
詳しく見ていきましょう。
(1)赤字が常態化している
債務超過に至る原因として、まず「赤字の常態化」が挙げられます。
企業が継続的に赤字を計上すると、累積損失が増加し、資産が減少する一方で負債が増加します。この状態が続くと、最終的に資産が負債を下回り、債務超過に陥る可能性が高まります。
(2)多額の投資により負債が増加している
債務超過に至る原因としては、多額の投資により負債が増加していることが挙げられます。
例えば、設備投資や新規事業のための投資など多額の借り入れをしたものの、事業が計画通りに進まず、収益を上げられかった場合などに債務超過に陥る可能性があります。
(3)資産評価の損失や特別損失があった
資産評価の損失や特別損失も債務超過の原因となります。
- 資産評価の損失:資産の価値が下がると貸借対照表上の資産総額が減少し、結果として負債が資産を上回ることになります。
- 特別損失:通常の事業とは無関係の、一時的または例外的な理由によって生じる損失のことをいいます。例えば、自然災害や事業の撤退による費用などが挙げられます。
債務超過の影響とリスクとは
次に、債務超過に陥った場合に事業に与える影響とリスクを見ていきましょう。
(1)取引先や金融機関からの信用低下
債務超過は取引先や金融機関からの信用を大きく低下させるリスクがあります。
取引先や金融機関からの信用低下は、取引条件の悪化や資金調達の難易度を上げるなど、事業運営に重大な影響を及ぼします。
信用を維持するためには、早期に債務超過を解消する努力が必要です。例えば、資産の売却や増資による資本強化、または利益を上げるための経営改善策を講じることが重要です。
(2)上場企業の場合の上場廃止リスク
日本取引所グループ(JPX)が定める上場廃止基準では「債務超過が1年以上続くこと」とあります。つまり、債務超過が1年以上続くと上場が廃止されてしまうのです。
上場が廃止されると、企業の信用失墜など経営の存続にも重大な影響を与えます。
(3)倒産の可能性
債務超過は倒産のリスクを高めます。
債務超過の状態が続き、最終的に資金繰りが行き詰まると、倒産に至る可能性が高まります。
賃借対照表で債務超過かどうか判断するポイントとは
では、債務超過に陥っているかどうかはどう判断すればいいのでしょうか。
賃借対照表(バランスシート)のどこを見ればいいのでしょうか。
債務超過を判断するためには、まず貸借対照表(バランスシート)を確認することが重要です。賃借対照表は、企業の資産と負債の状況を一目で把握するための基本的なツールです。
- 貸借対照表の確認ポイント:
- 資産総額と負債総額を比較
- 純資産がプラスかマイナスかを確認
例えば、資産が1億円で負債が1.2億円の場合、純資産はマイナス2000万円となり、債務超過の状態であることが分かります。
貸借対照表や決算書を定期的に確認することで、債務超過の早期発見が可能となり、適切な対応策を迅速に実行することができます。
債務超過の解消方法とは
最後に、債務超過の解消方法を見ていきましょう。
(1)利益を上げる
債務超過を解消する最も基本的な方法は、利益を上げることです。利益を上げることで、収益が増加し、負債の返済や資本の積み増しが可能となります。
- 利益を上げる方法:
- コスト削減:不必要な経費の見直しや削減
- 売上向上:新商品・サービスの開発、販売促進活動の強化
- 効率化:業務プロセスの改善やIT化
利益を上げるための戦略を実行することは、財務管理能力の向上にも繋がり、長期的な経営にもつながります。
(2)増資して純資産を増やす
増資をすることも債務超過を解消する1つの手段です。増資により資本金を増やすことで、貸借対照表の純資産が改善し、債務超過の状態を解消できることがあります。
- 増資の方法:
- 経営者が出資する
- 新株発行:新たに株式を発行し、投資家から資金を調達
- 第三者割当増資:特定の第三者に株式を割り当てる
増資は企業の財務基盤を強化し、経営の安定化につながります。
(3)DES(デット・エクイティ・スワップ)をする
DES(デット・エクイティ・スワップ)は、金融機関などの債権者が、債務者にあたる債務超過した企業の株式を取得し、債務を株式に変換することで負債を減少させる方法です。これにより、企業のバランスシートが改善し、債務超過を解消できます。
DESは、財務改善とともに、企業と債権者の関係を強化する手段として有効です。
(4)債務免除の依頼をする
債権者に損金算入による節税というメリットが生じる場合、取引先に支払う債務免除をしてもらえることがあります。
債務免除は、緊急時の財務改善策として有効ですが、信用を損なわないよう慎重な対応が求められます。
(5)法的手続き(民事再生法・会社更生法)を活用する
債務超過を改善する最後の手段として法的手続き(民事再生法・会社更生法)を活用する方法もあります。これらの方法を利用すると、裁判所の許可の元、事業を廃止せずに経営を立て直すことができる可能性があります。
- 法的手続きの概要:
- 民事再生法:原則、経営を続けながら債務を再構築する手続き
- 会社更生法:原則、経営権を第三者に委ね、全面的な再建を図る手続き
法的手続きは、最終手段としての位置づけですが、企業の存続と再建に向けた重要な手段となります。
【まとめ】債務超過とは保有資産よりも負債が多い状態|早めの改善を!
債務超過とは、企業の保有資産よりも負債が多い状態を指し、経営において避けては通れない重要な概念です。
債務超過は、単なる赤字の累積や資金ショートとは異なり、企業の存続に重大なリスクをもたらします。主な原因には、赤字の常態化や多額の投資、資産評価の損失などがあり、これが続くと取引先や金融機関からの信用低下、上場廃止、さらには倒産のリスクを引き起こします。
企業が債務超過に陥る前に、賃借対照表を定期的に確認し、早期発見と適切な対策が必要です。具体的な解消方法として、利益の増加や増資、DESの活用、債務免除の依頼、法的手続きの活用があります。債務超過のリスクを減少させるために、今すぐ行動を起こしましょう。
企業の財務状況をチェックし、必要な対策を講じることで、健全な経営を維持しましょう。