「工場型アスベスト訴訟で賠償金をもらうための要件って何?」
過去にアスベスト(石綿)工場等で作業に従事したことによって、アスベスト粉じんにばく露し、その結果、健康被害に遭われた方は、3つの要件を満たすことによって、国から賠償金(和解金)を受け取ることができる可能性があります。
今回の記事では、
- 和解のために必要な要件
- 賠償金を受け取るまでの大まかな流れ
- 工場型アスベスト訴訟における注意点
について、弁護士が解説します。
香川大学、早稲田大学大学院、及び広島修道大学法科大学院卒。2017年よりB型肝炎部門の統括者。また、2019年よりアスベスト(石綿)訴訟の統括者も兼任。被害を受けた方々に寄り添うことを第一とし、「身近な」法律事務所であり続けられるよう奮闘している。東京弁護士会所属。
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石綿健康被害救済法や労災保険の給付を受けている方でも、賠償金の対象になります!
工場型アスベスト訴訟の和解要件と賠償金額
工場型アスベスト訴訟とは、アスベスト工場での作業が原因で、アスベスト粉じんにばく露し、その結果として健康被害に遭われた元労働者やその遺族が、適切な規制権限を行使しなかった国にその賠償を求める訴訟をいいます。
この工場型アスベスト訴訟については、後でご説明する大阪泉南判決をベースとして、和解要件が明確化されています。
そのため、被害者又はその遺族は、国を相手に国家賠償請求訴訟を提起し、裁判上の和解を成立させることによって、賠償金(和解金)を受け取ることが可能となっています。
ここでは、その和解要件について解説します。
(1)工場型アスベスト訴訟と最高裁判決
大阪泉南地域には、戦前戦後を通じて、アスベストを取り扱う工場が多数存在していました。
泉南地域におけるアスベスト製品の製造等の工程では、多くのアスベスト粉じんが発生し、アスベスト工場に従事する労働者は、作業中、相当量のアスベスト粉じんに暴露しアスベスト関連疾患を発症することになりました。
そこで、大阪泉南地域にあるアスベスト工場の元労働者やその遺族は、国に対して、適切な規制権限を行使するなどしなかったことを理由に、アスベスト関連疾患に発症したことについてその賠償を求める訴訟を提起しました。
2014年10月9日、最高裁は、次のように述べて国側敗訴の判決(この判決を「大阪泉南判決」といってご説明します)を言い渡しました。
労働大臣は、昭和33年5月26日には、旧労基法に基づく省令制定権限を行使して、罰則をもってアスベスト工場に局所排気装置を設置することを義務付けるべきであったのであり、旧特化則が制定された昭和46年4月28日まで、労働大臣が旧労基法に基づく上記省令制定権限を行使しなかったことは、旧労基法の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、著しく合理性を欠くものであって、国家賠償法1条1項の適用上違法である
参考:平成26年10月9日 最高裁第一小法廷|裁判所 – Courts in Japan
(2)和解要件
現在、大阪泉南判決を元に、同様の状況にあるアスベスト工場の元労働者及びその遺族については、国を相手に訴訟を提起し、所定の和解要件を満たすことが確認されれば、国と裁判上の和解をすることにより賠償金(和解金)を受け取ることが可能となっています。
厚生労働省により公表されている和解要件は次のとおりです。
- 1958年5月26日~1971年4月28日までの間に、局所排気装置を設置すべき石綿工場内において、石綿粉じんにばく露する作業に従事したこと。
- その結果、石綿による一定の健康被害を被ったこと。
- 提訴の時期が損害賠償請求権の期間内であること。
次では、この和解要件について解説していきます。
参考:アスベスト訴訟(工場労働者型)|法務省
参考:石綿(アスベスト)工場の元労働者やその遺族の方々との和解手続について|厚生労働省
(2-1)【和解要件1】国の責任期間の間にアスベスト工場に従事
大阪泉南判決では、「1958年5月26日から1971年4月28日までの期間」について国が責任を負う期間とされました。
そのため、この期間の間に局所排気装置を設置すべきアスベスト工場内においてアスベスト粉じんばく露作業に従事したことが要件となります。この期間の間の一部でもアスベストばく露作業に従事したことがあれば、要件に該当することになります。
ここでいうアスベスト工場として典型的なのは、石綿紡織品、石綿スレート板、石綿セメント管、ブレーキパッド、石綿パッキング・ジョイントシートの製造・加工をする工場です。
ただし、どのような工場が要件に該当するかは、作業の具体的内容に即して判断する必要があります。
(2-2)【和解要件2】1の結果、一定の健康被害を被った
賠償の対象は、あくまでアスベスト工場内においてアスベスト粉じんばく露作業に従事したことによってアスベスト関連疾患を発症した方ですので、その他の原因によって肺がんなどの病気を発症した方は対象外となります。
したがって、和解要件1の結果として、一定の健康被害を被ったことが要件となります。
ここでいう一定の健康被害とは、次のものをいいます。
- 石綿肺
- 肺がん
- 中皮腫
- びまん性胸膜肥厚
(2-3)【和解要件3】提訴の時期が損害賠償請求権の期間内
アスベスト粉じんばく露作業に従事したことを理由として国に対してその賠償を求める場合、国家賠償法4条により、民法724条が準用されます。したがって、消滅時効は、「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間」、「不法行為の時から20年間」ということになります。
ただし、民法724条の2により、「人の生命又は身体を害する」不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効は、「5年間」とされており(アスベスト訴訟の場合、「人の生命又は身体を害する」不法行為に基づく損害賠償請求権となります)、改正民法施行日(2020年4月1日)の時点で、改正前民法の消滅時効(3年間)が完成していない場合には、改正民法の規定が適用され、消滅時効は「5年間」となるとされます。
民法の改正がありましたので、少々複雑となっていますが、次のように、2017年3月31日以前に被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った場合には、3年の時効となり、2017年4月1日以降に知った場合には、5年の時効となります。
そして、ここでいう被害者が「加害者を知った時」とは、被害者において、加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況の下に、その可能な程度にこれを知った時を意味すると裁判例上解釈されています(最高裁昭和第二小法廷判決昭和48年11月16日)。
つまり、単に加害者を知っているだけでは消滅時効は進行しません。
この点について、建設型アスベスト訴訟の裁判例があります。大阪高判平成30年8月31日判決は、労災認定を受けることができた時点において、「損害及び加害者を知った時」にはあたらないとして、労災認定を受けることができた時点から消滅時効が進行するとした被告側の主張を退けました。
また、神戸地裁平成30年2月14日判決は、大手タイヤメーカーに従事したことで石綿被害にあった元労働者等が同社を相手にその賠償を求めた事件ですが、被告側の消滅時効の主張について、「権利の濫用として許されない」として、時効主張を認めませんでした。
被害者らは、法律や医学についての専門的知識を持ち合わせていることは多くはないため、被害者らが、病気の原因が就労時のアスベストばく露によるものであり、国や企業に対してその責任を法的に追及することができるものだと早期に知ることは大変困難です。
そのため、この裁判例のようなかたちで、消滅時効をなるべく被害者に有利な方向で解釈するのが妥当であるといえるでしょう。
(3)工場型アスベスト訴訟の和解で支払われる賠償(和解)金額
厚生労働省が公表している賠償金(和解金)額は次のとおりです。
病態 | 賠償金額 |
石綿肺(じん肺管理区分の管理2) | 550万円(合併症がない場合) |
700万円(合併症がある場合) | |
石綿肺(じん肺管理区分の管理3) | 800万円(合併症がない場合) |
950万円(合併症がある場合) | |
石綿肺(じん肺管理区分の管理4)、肺がん、中皮腫、びまん性胸膜肥厚 | 1150万円 |
上記疾病による死亡 | 症状に応じて 1200万~1300万円 |
なお、じん肺とは、「粉じんを吸入することによって肺に生じた繊維増殖変化を主体とする疾病」(同法2条1項1号)をいい、アスベスト粉じんを吸入したことによる石綿肺もこのじん肺の一つです。
じん肺管理区分の管理1はじん肺の所見がないという区分であり、管理区分の数字が大きくなればなるほど症状が重くなります。
じん肺管理区分の決定を受けるためには、粉じん作業に従事した事業場に勤務している間は、事業者によりじん肺健康診断が行われ、じん肺管理区分の決定申請等についても事業者が行うこととなっていますが、離職後については、ご自身でじん肺健康診断を受けて、お住まいの労働局へ申請をする必要があります。
(4)賠償金を受け取るまでの大まかな流れ
賠償金を受け取るまでの大まかな流れは次のようになります。
必要資料の収集
訴訟の提起
口頭弁論期日|和解要件の主張立証
和解協議・和解調書の作成
注意が必要なのは、賠償金を受け取るためには、国を相手に訴訟を提起することが必須となるという点です。訴訟の提起には、訴状等の専門文書の作成が必要となります。
工場型アスベスト訴訟における注意点
ここまで工場型アスベスト訴訟の和解要件等について解説してきましたが、ここでは、工場型アスベスト訴訟における注意点を解説します。
(1)労災保険給付や石綿健康被害救済制度との関係
アスベスト被害に遭われた方の救済制度については、労災保険給付や石綿健康被害救済制度があります。
これらの制度はアスベスト被害に遭われた方への救済のために存在する制度であり、アスベスト訴訟とは全く別個の制度ですので、労災保険給付や石綿健康被害救済法に基づく給付を受けている方でも、賠償金(和解金)を受け取ることは可能ですので、ご注意ください。
参考:石綿(アスベスト)による疾病の労災認定|厚生労働省
参考:アスベスト(石綿)健康被害救済給付の概要|独立行政法人環境再生保全機構
(2)厚生労働省の通知が来ない場合がある
現在、厚生労働省は、工場型アスベスト訴訟の対象者と考えられる方に対して、賠償金(和解金)制度をお知らせする通知(リーフレットの送付)をしています。
もっとも、厚生労働省側がすべての対象者を把握しているとは限らないため、通知が来ていない方でも、賠償金(和解金)を受け取ることができる可能性があります。
アスベスト工場でアスベスト粉じんばく露作業に従事したことに心当たりのある方については、弁護士に相談されることをお勧めいたします。
(3)建設業のアスベスト被害は工場型アスベスト訴訟の対象外
工場型アスベスト訴訟は、アスベスト製品の製造・加工をする「工場」でアスベスト粉じんばく露作業に従事していた方が国に対してその賠償を求める訴訟をいいます。そのため、アスベスト含有建材を用いて「建設」作業に従事したことによってアスベスト粉じんにばく露した元建設作業員やその遺族の方については、工場型アスベスト訴訟については対象外となります。
建設業でのアスベスト被害については、2021年(令和3年)6月9日、『特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律(「給付金法」といってご説明します)』が成立しました。
この法律は、建設業務に従事したことによってアスベストにばく露し、中皮腫や肺がん等の疾病にかかった方に対して、訴訟手続きによらずに、最大1300万円の給付金を支給するというものです。
これまで、建設業務に従事したことによるアスベスト被害については、主に、国や建材メーカーを被告とする損害賠償請求訴訟を提起することで、金銭的な救済が目指されていました。
給付金法が成立することによって、国が負う責任との関係では、このような損害賠償請求訴訟を提起することなく、金銭的な救済が図られることとなります。
給付金法の詳しい内容等については、こちらの記事をご覧ください。
和解要件を満たすか不安な場合は弁護士に相談
和解要件の判断には、消滅時効が完成しているか否か等、法律的な専門知識が必要となります。
また、賠償金(和解金)を受け取るためには、和解要件を満たすことを証明する証拠を訴訟で提出する必要がありますが、証拠となるべき資料を収集するにあたって、医学的な専門知識が必要となることも少なくありません。
この点、アスベスト訴訟と同様、医学的な専門知識が要求される交通事故案件や、B型肝炎訴訟について経験やノウハウのある弁護士に依頼すると、医療記録の取り寄せやチェックがスムーズに進むことかと思います。
さらに、訴訟の提起には、訴状等の専門文書を作成することが要求されますが、これについては法務の専門家である弁護士に頼むことが最も効率的です。
以上から、工場型アスベスト訴訟で、賠償金(和解金)を受け取ることをお考えの方は、弁護士に相談されることをお勧めいたします。
【まとめ】過去一定期間内にアスベスト工場で働いていた、その結果一定の健康被害を被った、請求期間内である、の3つの要件を満たせば賠償金を受け取れる可能性あり
本記事をまとめると次のようになります。
- アスベスト工場の元労働者やその遺族が、国を被告として国家賠償請求訴訟を提起して、国との間で裁判上の和解を成立させることによって、賠償金(和解金)を受け取ることができる
- 現在、大阪泉南判決をベースとして国との和解要件が明確化されており、裁判上の和解を成立させるためには、この和解要件をすべて満たす必要がある
- 工場型アスベスト訴訟の和解に必要な要件は、3つ
- 一定期間内にアスベスト工場に従事したこと
- その結果一定の健康被害を被ったこと
- 請求期間内であること
- 厚生労働省は、和解要件を満たすと考えられる方に対して、通知を送っているが、対象者すべての方に対して通知を送っていない可能性があり、通知を受けてない方も和解要件を満たす可能性がある
アディーレ法律事務所では、工場型アスベスト訴訟、建設アスベスト給付金の手続きに関し、相談料、着手金ともにいただかず、原則として成果があった場合のみを報酬をいただくという成功報酬制です。
そして、原則として、この報酬は獲得した賠償金や給付金からお支払いとなり、あらかじめ弁護士費用をご用意いただく必要はありません。
また、当該事件につき、原則として、成果を超える弁護士費用の負担はないため費用倒れの心配がありません。
※以上につき、2023年1月時点
現在、アディーレ法律事務所では、アスベスト被害に悩まれておられる方を一人でも多く救いたいとの想いから、アスベスト被害についての相談をお待ちしております。
アスベスト被害にあわれた方及びそのご遺族は、アディーレ法律事務所にご相談ください。