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アスベストの吸引で起こる症状や病気とは?健康被害に対する救済制度

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リーガライフラボ

「最近体調が悪い。もしかして、昔働いていた工場で吸ってしまったアスベスト(石綿)のせいで、何かの病気になってしまったのだろうか。」

アスベスト(石綿)を吸引してしまった場合、潜伏期間を経て、石綿肺や肺がん等の病気を発症する可能性があります。

仮に、アスベスト(石綿)の吸引により病気を発症してしまった場合、早期に医療機関等による診療を受ける必要あります。

また、アスベスト(石綿)被害に遭われた方については、労災保険給付や石綿健康被害救済制度による給付や、国に対する賠償請求等によって、被害の金銭的な回復を図ることも可能です。

本記事では、アスベスト(石綿)の吸引で起こる症状やアスベスト(石綿)の吸入によって発症する可能性のある病気、救済制度等について解説します。

アスベスト(石綿)の健康被害の症状とは?

アスベスト(石綿)の吸入によってどのような症状が起こりえるのでしょうか。
また、アスベスト(石綿)の吸入によって発症しえる病気にはどのようなものがあるのでしょうか。

(1)アスベスト(石綿)で健康被害が起きる理由

アスベスト(石綿)の繊維は非常に細かく、研磨機や切断機による作業や、吹き付け作業等を行う際に、所要の措置を行わないと用意に飛散、浮遊し、人体に吸引されやすいという性質を有しています。

そして、人体にいったん吸引されると、肺胞に沈着し、その一部は肺の組織内に長期間滞留することになります。

この肺に長期間滞留したアスベスト(石綿)が要因となって、石綿肺、中皮腫、肺がんなどのアスベスト(石綿)関連疾患を引き起こすと考えられています。

(2)アスベスト(石綿)の吸引で起こる症状

アスベスト(石綿)を吸引してしまってもすぐに症状が起こることは稀です。
通常、発病するまで潜伏期間を挟み、しかも、発病してもある程度進行するまでは無症状のことが多いといわれています。

以下のような症状が出た場合には、医療機関等の診察を受けることをお勧めします。

・息切れがひどくなった
・せきやたんが以前に比べて増えた
・たんの色が変わった
・たんに血液が混ざった
・顔色が悪いと注意された
・爪の色が紫色に見える
・はげしい動悸がする
・風邪をひいて、なかなか治らない
・微熱が続く
・高熱が出た
・寝床に横になると息が苦しい
・食欲がなくなった場合や急にやせた
・やたらに眠い

引用:3 日常生活における症状はありますか?│厚生労働省

(3)アスベスト(石綿)の吸引で発症する病気と潜伏期間

アスベスト(石綿)を吸引してもただちに発病したり症状がでたりするわけではありません。
現在は健康状態に支障はなくても、数十年後に重い疾病を発症する可能性があります。

ここでは、アスベスト(石綿)の吸引で発症する可能性のある病気と潜伏期間等について解説します。

(3-1)石綿肺

石綿肺とは、肺が線維化するじん肺の一つで、アスベスト(石綿)ばく露の特異性が高い病気です。
じん肺は、粉じんを吸引することによって、吸入した粉じんが肺胞に沈着して肺の繊維化を起こす病気の総称であり、アスベスト(石綿)の吸引によって発生するじん肺を石綿肺と呼びます。

通常、アスベスト(石綿)にばく露してから10年以上経過して所見が現れるといいます。

初期症状には息切れ、咳、痰がみられ、症状が進行すると呼吸機能が低下し日常生活に支障が現れるといいます。また、肺結核、肺がん、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、気管支拡張症、気胸などの合併症がみられます。

(3-2)肺がん(原発性肺がん)

原発性肺がんは、気管支または肺胞を覆う上皮に発生する悪性腫瘍です。
原発性肺がんはアスベスト(石綿)ばく露の特異性が低く、喫煙等も原発性肺がんの重要な危険因子とされています。

通常、石綿ばく露から原発性肺がんを発症するまで、30~40年程度の長い潜伏期間をはさみむといわれます。

症状は、咳、痰、血痰、胸の痛み、動いたときの息苦しさ、発熱などがありますが、肺がんができた場所や大きさによってはほとんど症状がでないこともあるといわれています。

(3-3)悪性中皮腫

中皮とは、胸膜、心膜、腹膜などの内臓を覆う膜の表面を覆う薄い細胞層をいいます。
中皮腫とは、この中皮細胞から発生する悪性腫瘍をいいます。

平均潜伏期間は40~50年と非常に長く、20年以下での発症例は非常に少なく、10年未満での発症例はないといわれます。

症状としては、咳、胸の痛み、大量の胸水による呼吸困難や胸部圧迫感があるといわれ、原因不明の発熱や体重減少がみられる場合もあるといわれます。

(3-4)びまん性胸膜肥厚

びまん性胸膜肥厚とは、肺を覆う胸膜が線維化し肥厚する病気をいいます。
アスベスト(石綿)ばく露の特異性が低く、アスベスト(石綿)ばく露以外の様々な原因によっても生じるといわれています。

この点、胸膜の肥厚という点で共通している良性胸膜プラークという良性の病変がありますが、この良性胸膜プラークは、石綿ばく露の特異性が高く、「我が国では、胸膜プラークは石綿ばく露によってのみ発生すると考えて良い」とされています(IV 石綿肺、肺がん、中皮腫以外の石綿による疾病等についての検討)。

なお、良性胸膜プラークは、それ自体では肺機能障害を伴わず、胸膜の疾患を意味するものではないとされています。

潜伏期間は、アスベスト(石綿)ばく露の濃度により差があるといわれており、30~40年といわれています。

症状については、呼吸困難、胸の痛みがあるといわれます。

(3-5)良性石綿胸水

胸水とは、胸腔内に体液が貯留されることで、アスベスト(石綿)ばく露以外の原因によっても生じるといわれます。

アスベスト(石綿)ばく露によって、胸腔内に胸膜炎による胸水が貯留することを、良性石綿胸水といいます。
アスベスト(石綿)ばく露から15年以内で発症することもありますが、のこともあるが、平均潜伏期間は40年程度といわれています。

症状は、呼吸困難や胸の痛みがあることもあれば、自覚症状がないこともあるといわれます。

なお、良性石綿胸水は、労災保険給付の対象とはなりますが、石綿健康被害救済法による救済の対象とはなりませんのでご注意ください。

アスベスト(石綿)の吸引で発病した場合の救済制度

アスベスト(石綿)の吸引によって、上記のような疾病を発症した場合、労災保険による給付や石綿健康被害救済法に基づく給付を受けることができる可能性があります。

また、アスベスト(石綿)工場に就労することでアスベスト(石綿)を吸引し発病した方や、アスベスト(石綿)含有建材を用いて建設作業に従事したことでアスベスト(石綿)を吸引し発病した方については、国や企業に対して損害賠償請求をすることができる可能性もあります。

ここでは、アスベスト(石綿)の吸引によって発病した方についての救済制度を解説します。

(1)労災保険

労災保険に加入(または特別加入)している方は、労働基準監督署長あてに申請を行うことによって、労災保険による給付を受けることができる可能性があります。

【要件について】
労災保険給付を受けるためには、石綿肺・中皮腫・肺がん・良性石綿胸水・びまん性胸膜肥厚を発症していて、これらが労働者としてアスベスト(石綿)曝露作業に従事していたことが原因である(業務上疾病)と認められることが必要となります。

発症した疾病が業務上疾病であると認定される具体的な要件については、こちらをご参照ください。

【保険給付の内容について】
労災保険による給付の内容は以下のとおりです。

保険給付の種類保険給付を受けられる場合保険給付の内容時効
療養補償給付業務上疾病等により療養する場合治療費、入院の費用、看護料、移送費等通常療養のために必要なもの療養の費用を支出した日ごとに請求権が発生し、その翌日から2年
休業補償給付傷病の療養のため、労働することができず賃金を受けられない場合休業4日目から、休業1日につき給付基礎日額の60%相当額賃金を受けない日ごとに請求権が発生し、その翌日から2年
傷病補償年金療養開始後1年6ヶ月経っても傷病が治らず、障害の程度が障害等級(1~3級)に該当する場合障害の程度に応じ、給付基礎日額の313日~245日分の年金
第1級 313日分
第2級 277日分
第3級 245日分
監督署長の職権により移行されるため請求時効はない。
障害補償給付傷病が治って身体障害が残った場合障害等級にしたがって、第1級から第7級までは、給付基礎日額の313~131日分の年金。
第8~14級までは、給付基礎日額の503~56日分の一時金。
傷病が治癒した日の翌日から5年
介護補償給付傷病年金または障害年金の対象となる障害により、介護を受けている場合常時介護の場合は、介護の費用として支出した額(ただし、16万6950円を上限とする)。
親族等により介護を受けており介護費用を支出していない場合、または支出した額が7万2990円を下回る場合は、7万2990円。
随時介護の場合は、介護の費用として支出した額(ただし、8万3480円を上限とする)。
親族等により介護を受けており、介護費用を支出していない場合または支出した額が3万6500円を下回る場合は3万6500円。
介護を受けた月の翌月の1日から2年
遺族補償給付労働者が死亡した場合遺族の数等に応じ、給付基礎日額の245~153日分の年金。
1.遺族(補償)等年金を受け得る遺族がないとき、または、2.遺族(補償)等年金を受けている人が失権し、かつ、他に受け得る人がいない場合であって、すでに支給された年金の合計額が給付基礎日額の1000日分に満たないときは、給付基礎日額の1000日分の一時金(2の場合は、すでに支給した年金の合計額を差し引いた額)
被災労働者が亡くなった日の翌日から5年
葬祭料労働者が死亡した場合31万5000円に給付基礎日額の30日分を加えた額(その額が給付基礎日額の60日分に満たない場合は、給付基礎日額の60日分)被災労働者が亡くなった日の翌日から2年

(2)石綿健康被害救済制度

「石綿による健康被害の救済に関する法律」(以下、「石綿健康被害救済法」といいます。)に基づく給付を受けることができる可能性があります。

この石綿健康被害救済法は、労災給付の対象とならない方(アスベスト(石綿)工場の周辺住民等)や、労災保険の対象であったが時効が経過してしまい労災給付を受けることができなくなった方について、その迅速な救済を図るために制定されました。

そのため、労災保険の対象とならない方であっても、以下にある要件を満たすことによって石綿健康被害救済法に基づく給付を受けることが可能です。

なお、労災保険給付と石綿健康被害救済法に基づく給付を同時に受けることはできませんので、労災保険の対象となる方については、同法に基づく給付の対象とはなりませんのでご注意ください。

申請・請求から認定までの流れについてはこちら、申請に必要な書類についてはこちら、申請窓口についてはこちらをご参照ください。

【要件について】
「日本国内において石綿を吸入することにより指定疾病にかかった旨の認定を受けた」こと(石綿健康被害救済法4条1項)、または、指定疾病にかかって死亡した者の遺族である旨の認定を受けること(同法5条1項)です。

そして、「指定疾病」とは、アスベスト(石綿)を吸入することにより発症する疾病であって、次の4種類の疾病をいいます(同法2条1項)。

  • 中皮腫
  • 肺がん
  • 著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺
  • 著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚

【給付の内容について】
給付の内容は以下のとおりです。

(ア)指定疾病で療養中の方への給付

給付の種類請求できる場合給付内容請求期限
医療費被認定者で認定疾病にかかる医療を受け、自己負担額が発生した場合療養を開始した日以降の健康保険等による給付の額を控除した自己負担額医療費の支払いを行った日の翌日から2年以内。ただし、療養を開始した日から申請日の前日までの医療費については、申請日から2年以内。
療養手当被認定者であれば、月を単位として定額支給される。療養を開始した日の翌月から、支給する事由が消滅した日の属する月まで月額10万3870円なし

(イ)指定疾病で療養中の方が救済制度で認定後に死亡した場合の給付

給付の種類請求できる場合給付内容請求期限
葬祭料死亡した被認定者の葬祭を行う場合19万9000円被認定者が死亡した被の翌日から2年以内
未支給の医療費・療養手当死亡した被認定者に支払うべき医療費・療養手当で、被認定者に未支給のものがある場合、被認定者が死亡した当時、被認定者と生計を同じくしていた二親等以内の親族のうち最優先順位の者に支給される。医療費については、死亡した被認定者が、療養を開始した日以降にかかった認定疾病にかかる保険医療費の自己負担分のうち、医療費として被認定者に支給していないもの。
療養手当については、対象月のうち、未支給となっているもの
医療費の支払いを行った日の翌日から2年以内。
ただし、療養を開始した日から申請日の前日までの医療費については、申請日から2年以内。
救済給付調整金被認定者に支給された医療費と療養手当および遺族に支給した未支給の医療費・療養手当の合計金額が280万円に満たない場合、その差額を、被認定者が死亡した当時、被認定者と生計を同じくしていた二親等以内の親族のうち最優先順位の者に支給される。被認定者に対して支給された医療費、療養手当および未支給の医療費・療養手当の合計金額が280万円に満たない場合、その差額。
なお、医療費には、石綿健康被害医療手帳を医療機関に提示することにより支給された医療費を含む。
被認定者が死亡した被の翌日から2年以内。

(ウ)救済制度に申請する前に指定疾病で死亡した場合の給付(疾病が中脾腫・石綿による肺がんの場合)

給付の種類請求できる場合給付内容請求期限
特別遺族弔慰金・特別葬祭料(2006年3月26日以前に死亡した場合)石綿健康被害救済法施行日(2006年3月27日)以前に、指定疾病に起因して死亡した者の遺族で、死亡した当時、その者と生計を同じくしていた二親等親族のうち最優先順位の者に支給される。特別遺族弔慰金として280万円。
特別葬祭料として19万9000円。
2022年3月27日まで
特別遺族弔慰金・特別葬祭料(2006年3月27日以降に死亡した場合)石綿健康被害救済法施行日(2006年3月27日)以降に認定の申請を行わず指定疾病により死亡した者の遺族で、その者と生計を同じくしていた二親等親族のうち最優先順位の者に支給される。特別遺族弔慰金として280万円。
特別葬祭料として19万9000円。
死亡した日の翌日から15年以内。
ただし、中皮腫または肺がんにより、2006年3月27日~2008年11月30日までに死亡した者の遺族からの請求は、2023年12月1日まで。

(エ)救済制度の申請する前に指定疾病により死亡した場合の給付(疾病が著しい呼吸機能障害を伴う石綿肺・著しい呼吸機能障害を伴うびまん性胸膜肥厚)

給付の種類請求できる場合給付内容請求期限
特別遺族弔慰金・特別葬祭料(2010年6月30日以前に死亡した場合)改正政令施行日(2010年7月1日)より前に指定疾病により死亡した者の遺族で、死亡した当時、その者と生計を同じくしていた二親等親族のうち最優先順位の者に支給される。特別遺族弔慰金として280万円。
特別葬祭料として19万9000円。
2026年7月1日まで
特別遺族弔慰金・特別葬祭料(2010年7月1日以降に死亡した場合)改正政令施行日(2010年7月1日)以降に指定疾病により死亡した者の遺族で、死亡した当時、その者と生計を同じくしていた二親等親族のうち最優先順位の者に支給される。特別遺族弔慰金として280万円。
特別葬祭料として19万9000円。
死亡した日の翌日から15年以内

(3)損害賠償請求

アスベスト(石綿)訴訟はおおまかに2つの種類に分類することができます。

1つは、工場型アスベスト(石綿)訴訟というもので、アスベスト(石綿)関連疾患に罹患したアスベスト(石綿)工場の元労働者等やその遺族の方が、国の規制権限の不行使について、その賠償を求める訴訟をいいます。

もう1つは、建設型アスベスト(石綿)訴訟というもので、アスベスト(石綿)含有建材を用いた建設現場で建設作業に従事していた元建設作業員らが、適切な規制権限を行使しなかった国及びアスベスト(石綿)含有建材を製造・販売した建材メーカーを相手に賠償を求める訴訟をいいます。

(3-1)工場型アスベスト(石綿)訴訟について

大阪泉南地域にあるアスベスト(石綿)工場の元労働者やその遺族が、国に対して、適切な規制権限を行使するなどしなかったことを理由に、アスベスト(石綿)関連疾患に罹患したことについてその賠償を求める訴訟を提起し、2014年10月9日、最高裁は、国側敗訴の判決(以下、この判決を「大阪泉南判決」といいます)を出しました。

現在、この判決をもとに、同様の状況にあるアスベスト(石綿)工場の元労働者及びその遺族については、国を相手に国家賠償請求訴訟を提起し、所定の要件を満たすことが確認されれば、国と裁判上の和解をすることにより賠償金を受け取ることが可能となっています。

工場型アスベスト(石綿)訴訟における和解要件は以下のとおりです。以下のすべての要件を満たす必要があります。

1958年5月26日~1971年4月28日までの間に、局所排気装置を設置すべき石綿工場内において、石綿粉じんにばく露する作業に従事したこと。

その結果、石綿による一定の健康被害を被ったこと。

提訴の時期が損害賠償請求権の期間内であること。

【(ア) 1958年5月26日~1971年4月28日までの間に局所排気装置を設置すべきアスベスト(石綿)工場内においてアスベスト(石綿)粉じん暴露作業に従事】
大阪泉南判決では、1958年5月26日~1971年4月28日までの間が国の責任期間とされました。

そのため、この期間内に局所排気装置を設置すべきアスベスト(石綿)工場内においてアスベスト(石綿)粉じん暴露作業に従事したことが要件となります。

この要件を証明するための資料として、日本年金機構発行の被保険者記録照会回答書(当時の勤務先等が表示される)等が必要とされています。

【(イ) (ア)の結果として、一定の健康被害を被ったこと】
賠償の対象は、あくまでアスベスト(石綿)工場内においてアスベスト(石綿)粉じん暴露作業に従事したことによって石綿関連疾患に罹患した方ですので、その他の原因によって肺がんなどの病気を発症した方は対象外となります。

したがって、(ア)の結果として、一定の健康被害を被ったことが要件となります。

ここでいう一定の健康被害とは、

  • 石綿肺
  • 肺がん
  • 中皮腫
  • びまん性胸膜肥厚

をいいます。

この要件を証明するための資料として、都道府県労働局長発行の「じん肺管理区分決定通知書」、労働基準監督署発行の「労災保険給付支給決定通知書」、医師の発行する「診断書」等が必要とされています。

【(ウ)提訴の時期が損害賠償請求権の期間内であること】
アスベスト(石綿)粉じんばく露作業に従事したことを理由として国に対してその賠償を求める場合、国家賠償法4条により、民法724条が準用されますので、消滅時効は、「被害者又はその法定代理人が損害および加害者を知った時から3年間」、「不法行為の時から20年間」ということになります。

ただし、民法724条の2により、「人の生命または身体を害する」不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効は、「5年間」とされており(アスベスト訴訟の場合、「人の生命または身体を害する」不法行為に基づく損害賠償請求権となります)、改正民法施行日(2020年4月1日)の時点で、改正前民法の消滅時効(3年間)が完成していない場合には、改正民法の規定が適用され、消滅時効は「5年間」となるとされます。

民法の改正がありましたので、少々複雑となっていますが、下記のように、2020年3月31日以前に被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った場合には、3年の時効となり、2020年4月1日以降に知った場合には、5年の時効となります。

2020年3月31日以前に、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った場合

知った時から3年で時効完成
(改正前民法適用)

2020年4月1日以後に、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った場合

知った時から5年で時効完成
(改正民法適用)

そして、ここでいう被害者が「加害者を知った時」とは、被害者において、加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況の下に、その可能な程度にこれを知った時を意味すると裁判例上解釈されています(最高裁第二小法廷判決昭和48年11月16日)。つまり、単に加害者を知っているだけでは消滅時効は進行しません。

この点について、建設型アスベスト(石綿)訴訟の裁判例ではありますが、大阪高判平成30年8月31日判決は、労災認定を受けることができた時点において、「損害及び加害者を知った時」にはあたらないとして、労災認定を受けることができた時点から消滅時効が進行するとした被告側の主張を退けました。

また、神戸地裁平成30年2月14日判決は、大手タイヤメーカーの住友ゴム工業に従事したことで石綿被害にあった元労働者等が同社を相手にその賠償を求めた事件ですが、被告側の消滅時効の主張について、「権利の濫用として許されない」として、時効主張を認めませんでした。

被害者らは、法律や医学についての専門的知識を持ち合わせていることは多くはないため、被害者らが、病気の原因が就労時のアスベスト(石綿)ばく露によるものであり、国や企業に対してその責任を法的に追及することができるものだと早期に知ることは大変困難です。

そのため、上記の裁判例のようなかたちで、消滅時効をなるべく被害者に有利な方向で解釈するのが妥当であるといえるでしょう。

(3-2)建設型アスベスト(石綿)訴訟について

アスベスト(石綿)には人体に対する非常に高い有害性があり、アスベスト(石綿)含有建材を用いた建設現場で働いていた建設作業員らにアスベスト(石綿)被害が多発するようになりました。

このようなアスベスト(石綿)の有害性を知りまたは知ることができたのに、建材メーカーはその有害性について十分な警告もせず、アスベスト(石綿)含有建材を製造・販売して利益を上げ続け、国も、これらに十分な規制を設けていませんでした。

このような国と建材メーカーの責任を問うため、2008年に首都圏で約400人の原告が、国と建材メーカーを相手にその賠償を求める訴訟を提起しました。

その後、全国各地で同様の集団訴訟が次々と提訴されるに至っています。
建設型アスベスト訴訟とは、アスベスト(石綿)含有建材を用た建設現場において建設作業等に従事していた元建設作業員やその遺族が、適切な規制権限を行使しなかった国およびアスベスト(石綿)含有建材の製造販売を行っていた建材メーカーを相手に、その賠償を求める訴訟をいいます。

2021年5月17日、最高裁判所第一小法廷により、神奈川、東京、京都、大阪で提起されていた各建設型アスベスト訴訟についての判決が出されました。

これにより、国および建材メーカーの責任が確定し、統一的な判断がなされたといえます。

最高裁判決では、国は、事業主に対して、屋内作業者への防じんマスクの着用及び建材等への警告表示を義務付けるべきであったにもかかわらず、これを怠ったことは国賠法1条1項の適用上違法であると判断されています。

また、国は以下の者に対して賠償責任を負うものと判断されています。

1 1975年10月1日~2004年9月30日までの間に
※石綿吹付け作業従事者に対する国の責任期間については、最高裁では判断されませんで
したが、大阪高判平成30年(2018年)8月31日判決では、昭和47年(1972年)10月1日が
責任期間に始期となると判断されています。

2 建築作業現場の屋内作業に従事しアスベスト粉じんに曝露した方(一人親方・中小事業主等を含む)で、
3 石綿関連疾患(石綿肺、肺がん、中皮腫、びまん性胸膜肥厚、良性石綿胸水)に罹患し、
労災認定または石綿救済法認定を受けた被害者ないしその遺族

また、建材メーカーに対しても、民法719条1項後段の類推適用により共同不法行為責任が認められています。

建材メーカーの不法行為責任を認めるためには、本件は、いわゆる累積的競合(複数の者の行為が積み重なって損害が生じたが、その複数の者のうちのいずれかは損害発生に寄与していない可能性がある)の事案であり、民法719条1項の適用範囲ではありませんでしたが、同項の類推適用が認められました。

また、共同不法行為責任を認める前提として、原告側で共同不法行為者を特定してこれを訴訟で主張立証する必要がありますが、裁判所は、当時のアスベスト含有建材のマーケットシェアに基づき上位に該当する建材メーカーを共同不法行為者とする立証方法を認めました。

被害者としては、どのメーカーの建材を使ったかについて正確に把握しておらず、証拠も少ないため、建材メーカーの行為と損害の間の因果関係の立証が非常に困難でありましたが、上記の立証方法が認められことは、被害者救済の点から非常に重要な判断であるといえます。

上記最高裁判決を受けて、国と原告弁護団との間で、建築型アスベスト(石綿)の被害者の救済についての基本合意書が締結されました。

基本合意書では、上記最高裁判決をベースとした救済のための要件や和解金又は給付金の金額、2021年5月17日時点で提訴済みの原告については、その要件を満たせば、提訴中の訴訟手続きの中で裁判上の和解をして、和解金を支払うことなどが合意されています。

2021年5月17日時点で提訴していなかった被害者については、裁判を起こすことなく、早期に給付金を受け取ることのできる補償制度によって救済されることが予定されています。

また、建材メーカーについては、国のように統一化された和解要件が明確化されるかは不明ですが、早期解決の観点から、和解の場につくことが期待されています。

【まとめ】アスベストの吸引によって、石綿肺、中皮腫、肺がん、びまん性胸膜肥厚、良性石綿胸水などの疾患が引き起こされる

本記事をまとめると以下のようになります。

  • アスベスト(石綿)を吸引すると、吸引したアスベスト(石綿)が肺胞に沈着し、これが原因となって、様々な病気を発症する可能性がある
  • アスベスト(石綿)を吸引して発症する可能性のある病気としては、石綿肺、肺がん、中皮腫、びまん性胸膜肥厚、良性石綿胸水等があり、そのどれもが潜伏期間をはさむ
  • 症状は様々であり、咳や痰、胸の痛みや呼吸障害を伴うものもあれば、自覚症状がない場合もある
  • 仕事でアスベスト(石綿)を吸引してしまった方については、労災保険給付や石綿健康被害救済法に基づく給付などの救済制度がある
  • アスベスト(石綿)工場に就労中にアスベスト(石綿)を吸引し発病してしまった方については、国を被告とする裁判を起こして、和解手続を進め、和解金を受け取ることができる可能性がある
  • アスベスト(石綿)含有建材を用いた建設現場で建設作業に従事していた方については、2021年5月18日の最高裁判決によって国と建材メーカーの責任が確定しており、国と建材メーカーに損害賠償を請求できる可能性がある

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