風俗で性交渉やこれに類似する行為を行うと、B型・C型・D型の肝炎ウイルスに感染することがあります。
これらのウイルスに感染すると、最悪の場合、肝がんを発症することもあります。
性風俗店で働く人や性風俗店へ行く人が注意すべき点を、解説いたします。
香川大学、早稲田大学大学院、及び広島修道大学法科大学院卒。2017年よりB型肝炎部門の統括者。また、2019年よりアスベスト(石綿)訴訟の統括者も兼任。被害を受けた方々に寄り添うことを第一とし、「身近な」法律事務所であり続けられるよう奮闘している。東京弁護士会所属。
ウイルス性肝炎とは
ウイルス性肝炎とは、ウイルスに感染したことによって肝臓の炎症が引き起こされる(肝臓の細胞が壊れる)病気のことをいいます。ウイルス自体が肝細胞を破壊するのではなく、免疫がウイルスを排除しようとしてウイルスに対して攻撃をする際に、肝細胞をも攻撃してしまうために、肝臓に炎症が起きてしまいます。
肝炎ウイルスには、次の通りA型・B型・C型・D型・E型の5種類あります。
【A型・E型の肝炎ウイルスの特徴】
A型・E型の肝炎ウイルスに感染した場合は、持続感染(長期間の感染)することはほとんどなく、一過性感染(短期間の感染)となります。
【B型・C型の肝炎ウイルスの特徴】
他方で、乳幼児期に感染したB型の肝炎ウイルスや、(感染時期を問わず)C型の肝炎ウイルスは持続感染することが多いため注意が必要です。
また、成人期にB型肝炎ウイルスに感染した場合は、大部分の方は、持続感染しませんが、一部の方は劇症化したり、B型肝炎ウイルスの種類によっては持続感染することもあります。
【D型の肝炎ウイルスの特徴】
D型肝炎ウイルスの感染は、B型肝炎ウイルスが存在している場合に初めて感染が起こります。
D型肝炎ウイルスに感染するとB型肝炎ウイルスにのみ感染する場合よりも重い症状となります。
参考:ウイルス性肝炎について|厚生労働省
参考:D型肝炎について(ファクトシート)|厚生労働省 検疫所 FORTH
B型肝炎とは
B型肝炎とは、B型肝炎ウイルスに感染することによって起こる肝臓の炎症性疾患です。
(1)B型肝炎の感染経路
B型肝炎ウイルスには、B型肝炎ウイルス感染者の血液や体液を介して感染します。B型肝炎ウイルス(HBV)の感染経路には、B型肝炎ウイルスに感染した母親から赤ちゃんへの感染(垂直感染)経路と、それ以外による感染(水平感染)経路とがあります。
それぞれの感染経路についてさらに詳しく紹介いたします。
(1-1)B型肝炎ウイルスの垂直感染とは
B型肝炎ウイルスを保有する妊婦の子宮や産道で赤ちゃんに感染することを垂直感染といいます。
1986年からの「HBV母子感染防止事業」実施後は、母子感染の事例は非常に少なくなっていますが、それ以前は、母子感染による感染例が多く発生していました。持続感染の原因の多くは、母子感染防止事業前の母子感染によるものといわれています。
垂直感染の場合、免疫力の弱い時期にB型肝炎ウイルスに感染することになるため、約90%以上の確率で持続感染することになります。
(1-2)B型肝炎ウイルスの水平感染とは
水平感染には、さまざまな感染経路があります。
水平感染の感染経路には、注射器の使いまわし(※集団予防接種等など)、父子感染、ピアスの穴あけ器具の使い回し、不衛生な器具を使った医療行為などがあります。
また、性行為やこれに類似する行為によってもB型肝炎ウイルスに感染します。
そのため、風俗において、B型肝炎に感染することもあります。
また、1948年7月1日~1988年1月27日の間、集団予防接種等(集団接種で行われた予防接種またはツベルクリン反応検査)の際、注射器が使いまわされことにより、B型肝炎ウイルスの感染が広まったという水平感染の経路もあります。
(2)国からB型肝炎給付金が支給されるケース
幼少期に、1948年7月1日~1988年1月27日までの間に行われた集団予防接種等を受け、これによって直接B型肝炎ウイルスに持続感染した方は、一次感染者としてB型肝炎給付金の対象になります。
また、一次感染者からその子に感染した場合(母子感染の場合は垂直感染、父子感染の場合は水平感染)、その子は、二次感染者としてB型肝炎給付金の対象となります。
三次感染者もB型肝炎給付金の対象となることがあります。
他方で、性風俗店での性交渉やこれに類似する行為によってB型肝炎ウイルスに感染しても、B型給付金の対象とはなりません。
もっとも、幼少期の感染でなければ原則として持続感染しないため、持続感染している方は、性風俗店に勤務していたり、性風俗店を利用しているとしても、性風俗店での性交渉等が原因で感染したのではない可能性があります。
B型肝炎給付金の対象者は、病態によって、最大で3600万円の給付金を受け取ることができます。
B型肝炎給付金について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
参考:B型肝炎訴訟について(救済対象の方に給付金をお支払いします)|厚生労働省
(3)B型肝炎の予防方法
B型肝炎ウイルスについては、他人の血液に触れないということのほか、ワクチン接種などの予防方法があります。
(3-1)垂直感染の予防方法
1986年から「HBV母子感染防止事業」が実施されたことにより、これ以後、母子感染の事例は非常に少なくなっています。
HBV母子感染防止事業では次の感染防止措置が取られています。
妊娠中
妊婦のHBs抗原検査
※HBs抗原が陽性の場合、B型肝炎ウイルスに感染していることを示しています。
↓ 陽性の場合
妊娠中
妊婦のHBe抗原検査
※HBe抗原が陽性の場合、一般にHBVの感染力が強いことを示しています。
↓ HBe抗原が陽性でも陰性でも
生後1ヶ月
HBs抗原陽性の妊婦から出生した乳児に対するHBs抗原検査
↓ 乳児のHBs抗原が陰性の場合(※)
(1)出産直後+(2)生後2ヶ月
乳児に抗HBs人免疫グロブリン投与
(1)生後2~3ヶ月+(2)(1)の1ヶ月後+(3)(1)3ヶ月後
乳児にB型肝炎ワクチン投与
↓
生後6ヶ月
乳児のHBs抗原検査、HBs抗体検査
乳児のHBs抗体が陰性または低値の場合は、免疫を獲得できていないことになるため、HBs抗原検査をし、HBs抗原陰性であれば、必要に応じてB型肝炎ワクチンを追加投与
※まれに胎内で、胎児にB型肝炎ウイルスが感染してしまい、出生後1ヶ月以内までにすでに乳児がHBs抗原陽性となっていることがあります。
HBs抗原が陽性となると、予防措置を取っても効果がないため、その後は病状の経過観察などに移行します。
(3-2)水平感染の予防方法
近年でも水平感染の事例が発生していることを受け、2016年10月から、B型肝炎ワクチンが定期接種の対象となり、0歳時の赤ちゃんに対しては、原則として自己負担なしでB型肝炎ワクチンを接種できるようになりました(母子感染防止策として、出生時にB型肝炎のワクチンを投与されている場合を除く)。
ワクチンでHBs抗体が陽性になればB型肝炎ウイルスに感染しないといわれています。
ただし、ごくまれに、ワクチンを3回接種してもHBs抗体が陽性にならないケースもあるため、HBs抗体が陽性になっていることを確認することが重要です。
C型肝炎とは
C型肝炎とは、C型肝炎ウイルスに感染することによって起こる肝臓の炎症性疾患です。
C型肝炎に感染すると約8割の人が持続感染し、慢性肝炎・肝硬変・肝がんなどへ進行します。
参考:C型肝炎 Hepatitis C|厚生労働省 検疫所 FORTH
(1)C型肝炎の感染経路
C型肝炎ウイルスには、感染者の血液や体液を介して感染します。
C型肝炎ウイルスの感染経路としては、主に次のものがあります。
- 感染している人の血液を用いた輸血用血液・血液製剤の使用
(※現在、医療で使用されている輸血用血液や血液製剤は精度の高い検査が行われているため感染することはほぼありません) - 汚染された注射器や注射針による医療行為
- ピアスの穴あけ器具の使い回し
C型肝炎ウイルスの場合、性行為やこれに類似する行為によって、まれに感染することがあります。
そのため、風俗において、まれにC型肝炎ウイルスに感染してしまうことがありますので注意しましょう。
(2)C型肝炎の予防方法
C型肝炎ウイルス感染予防のためのワクチンは、現時点ではありません。
そのため、C型肝炎ウイルスに感染する有効な予防方法としては、「C型肝炎に感染している人の血液になるべく触れない」ということです。
- 歯ブラシ、カミソリを共用しない。
- 他の人の血液に触る時は、ゴム手袋を着けるなどして素手で触らない。
- 注射器や注射針を共用しない。
- 入れ墨やピアスをする時は、毎回きちんと器具を消毒する。よく知らない相手との性行為にはコンドームを使用する。
D型肝炎とは
D型肝炎とは、D型肝炎ウイルスに感染することによって起こる肝臓の炎症性疾患です。
D型肝炎は、B型肝炎ウイルスが存在して、初めて感染します。
(1)D型肝炎の感染経路
B型肝炎の場合と同じです。
性行為やこれに類似する行為がD型肝炎の感染経路になることがありますので、風俗においてD型肝炎ウイルスに感染することもあります。
ただし、垂直感染することはほとんどありません。
(2)D型肝炎の予防方法
B型肝炎の予防接種や、他人の血液に触れないことが有効です。
参考:D型肝炎について(ファクトシート)|厚生労働省 検疫所 FORTH
肝炎ウイルスに感染してしまったら
肝臓は沈黙の臓器と呼ばれますが、病気になっても自覚症状が出にくいのが特徴です。
しかし、B型肝炎(一定の場合)やC型肝炎は慢性化することも多く、放置しておくと肝硬変や肝がんに至ってしまうこともあります。
D型肝炎は、B型肝炎の場合よりも重症化しやすいことが知られています。
(1)B型・C型・D型肝炎の症状と経過
肝炎の内、B型、C型、D型肝炎の症状と経過について解説いたします。
(1-1)B型肝炎の場合
【一過性感染】
一過性感染の場合、70~80%の方が自覚症状のないまま治癒する不顕性感染となります。
一過性感染の内、20~30%の方は、急性肝炎を発症します。
急性肝炎の場合は、全身倦怠感、食欲不振、悪心・嘔吐などの症状が出ることがあります。さらにその後、黄疸が出現することもあります。
一過性感染の内、約2%程度の方が劇症肝炎を発症し、劇症肝炎を発症した場合の致死率は約70%にも上ります。
【持続感染】
持続感染の場合、大部分は肝機能が正常なままで経過していきますが、その後免疫機能が発達するに従い、肝炎を発症します。
その内85~90%は B型肝炎ウイルスの活動が抑えられ、B型肝炎ウイルスは体内に保有しているが、肝機能は正常な状態である「無症候性キャリア」になります。
残り10~15%は、慢性肝炎、肝硬変、肝がんへ進行していきます。
肝炎が進行しても自覚症状がなかなか出ないため、定期的に検査を受けることが大切です。
(1-2)C型肝炎の場合
C型肝炎に感染していても自覚症状はほとんどありません。
【一過性感染】
急性肝炎の場合は、全身倦怠感、食欲不振、悪心・嘔吐などの症状が出ることがあります。さらにその後、黄疸が出現することもあります。
一般に、C型の急性肝炎になっても、B型の急性肝炎に比べて症状が軽く、自覚症状がない人がほとんどです。
【持続感染】
C型肝炎ウイルスに初めて感染した場合、70%前後の人が持続感染し、その後慢性肝炎となる人も多く、さらに一部の人では肝硬変、肝がんへと進行します。
C型の持続感染の場合も、肝炎が進行しているのに、なかなか自覚症状が出ないため、定期的な検査が必要です。
(1-3)D型肝炎の場合
【B型肝炎ウイルスとD型肝炎ウイルスの同時感染の場合】
B型肝炎ウイルスとD型肝炎ウイルスとの同時感染の場合、劇症肝炎を引き起こすことがありますが、ほとんどは感染後に回復し、D型肝炎が慢性化することは稀です。
【B型慢性肝炎の患者の方が、さらにD型肝炎ウイルスに感染した場合】
この場合、高い確率で、さらに重症化(加速化)しやすくなります。
参考:D型肝炎について(ファクトシート)|厚生労働省 検疫所 FORTH
(2)B型・C型・D型肝炎ウイルスに感染した時の治療
B型・C型・D型肝炎ウイルスに感染した時の治療は次の通りです。
(2-1)B型肝炎の場合
B型肝炎の場合、次のような治療法があります。
【急性肝炎の治療法】
B型急性肝炎の治療法は、基本的に対処療法で、B型肝炎ウイルスが排出されるまで待ちます。
ほとんどの場合は、そのまま治癒しますが、まれに劇症化することがあるので、急性期には入院や、安静加療が原則です。劇症化の兆候がある場合には、インターフェロン(IFN)による治療をすることもあります。
【慢性肝炎の治療法】
主に、B型慢性肝炎の治療法には、「抗ウイルス療法」と「肝庇護療法」というものがあります。
抗ウイルス療法は、ウイルスの増殖を抑えたり、排除したりする治療法です。
この抗ウイルス療法には、主に次のものがあります。
- インターフェロン(IFN)を用いた治療:注射薬
自身の免疫に働きかけ、B型肝炎ウイルスの増殖を抑制などする治療 - 核酸アナログ製剤を用いた治療:内服薬(バラクルード、テノゼット、ベムリディ等)
B型肝炎ウイルスの増殖を直接抑える薬を服用する治療
〇肝庇護療法
肝庇護療法は、肝臓の炎症を抑えて、肝硬変や肝がんへの進行を抑えたり、遅らせたりすることを目的とした治療法です(ウイルスの増殖を抑えるわけではありません)。
ウルソデオキシコール酸、強力ミノファーゲンシーなどが投与されます。
病気の進行状況や、また肝細胞の破壊の速度、残されている肝臓の機能の程度、これまでの治療経過などによって、治療方法は異なります。
(2-2)C型肝炎の場合
【急性肝炎の治療法】
C型急性肝炎は基本的に対処療法で、C型肝炎ウイルスが排出されるまで待ちます。
C型急性肝炎の場合も、ほとんどの場合、これにより、完全に治癒します。
【慢性肝炎の治療法】
C型慢性肝炎の治療法も、主に、抗ウイルス療法と肝庇護療法の2つの方法があります。B型肝炎ウイルスとは違い、適切な時期に抗ウイルス療法を行えば、多くの方がC型肝炎ウイルスを排除できます。
C型肝炎の抗ウイルス療法には、主に次のものがあります。
- インターフェロン(IFN)を用いた治療:注射薬
自身の免疫に働きかけ、C型肝炎ウイルスの増殖を抑制などする治療 - 直接型抗ウイルス薬(DAA):内服薬
C型肝炎ウイルスの増殖を直接抑える薬を服用する治療 - ソホスブビル(ソバルディ)とリバビリンの併用
- ソホスブビル・レジパスビル配合錠(ハーボニー)
- エルバスビル(エレルサ)とグラゾプレビル(グラジナ)併用
- グレカプレビル・ピブレンタスビル配合錠(マヴィレット)
- ソホスブビル・ベルパタスビル配合錠(エプクルーサ)
〇肝庇護療法
肝庇護療法では、肝臓の炎症を抑えて、肝硬変や肝がんへの進行を抑えたり、遅らせたりすることを目的とした治療法です(ウイルスの増殖を抑えるわけではありません)。
ウルソデオキシコール酸、強力ネオミノファーゲンシーなどが投与されます。
病気の進行状況、これまでの治療経過などによって治療方法は変わります。
(2-3)D型肝炎の場合
D型肝炎については、抗ウイルス療法は見つかっておらず、特別な治療法はありません。
ペグ・インターフェロンαは、D型肝炎ウイルスに対して唯一有効な薬剤とされています。
参考:D型肝炎について(ファクトシート)|厚生労働省 検疫所 FORTH
性風俗店で働いている方・性風俗店に行かれる方が注意すべきこと
性交渉またはこれに類する行為を行うことで性感染症に感染することがあります。
性風俗店で働いている方は常に感染予防を行い、性風俗店に行かれる方は感染リスクを高める行為をしないことが大切です。
(1)肝炎対策を怠らないこと
性交渉やこれに類似する行為がB型やC型、D型の肝炎ウイルスの感染経路になることがあるため、絶対にコンドームを着用しましょう。
(2)定期的な検査をすること
肝炎が進行していても自覚症状がなかなか現れず、自覚症状が現れた頃には重症化していることも多いため、定期的な検査が大切です。
(3)性感染症にも注意すること
性風俗で働いている方や、性風俗店に行かれる方は性感染症にも注意しましょう。
日頃からコンドームを着用するなどの予防策を行い、各種の定期的な検査を受けることが大切です。
【まとめ】風俗の利用で肝炎ウイルスに感染することがある
今回の記事をまとめると次のようになります。
- 肝炎ウイルスには5種類あり、B型、C型、D型の肝炎ウイルスは持続感染することがあります。
- これらのウイルスに持続感染していても自覚症状がないことが多いですが、放置しておくと最悪の場合肝がんに至ることもありますので、定期的な検査が大切です。
- B型、C型、D型の肝炎ウイルスは、性交渉やこれに類似する行為が感染経路になることがあります。そのため、性風俗店の利用によりこれらのウイルスに感染する危険があります。
- 性風俗で働いている方や、性風俗に行かれる方は、コンドームの着用など、感染予防を徹底しましょう。