「自己破産をすると就けない仕事に就いている…。自己破産をする場合、いつまで仕事ができないんだろう」
自己破産をする場合、その手続中に一定の仕事や資格に就くことが制限されます(「資格制限」と言います)。もっとも、仕事や資格が制限される期間は破産手続開始決定から「復権」までの一定期間だけです。
また、仕事や資格が制限されるのは自己破産をする時だけで、その他の債務整理(個人再生や任意整理)であれば、仕事や資格の制限はありません。
制限職種に就いている方は、自己破産をした場合にはどのくらいの期間資格制限があるのか、資格制限を受けるとどうしても仕事に支障がある場合には他の債務整理ができないかよくご検討ください。
この記事を読んでわかること
早稲田大学、及び首都大学東京法科大学院(現在名:東京都立大学法科大学院)卒。2012年より新宿支店長、2016年より債務整理部門の統括者も兼務。分野を問わない幅広い法的対応能力を持ち、新聞社系週刊誌での法律問題インタビューなど、メディア関係の仕事も手掛ける。第一東京弁護士会所属。
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自己破産による制限職種とは?
例えば、警備業法では、警備員になる場合の制限について、次のとおり規定しています。
第14条1項(警備員の制限)
18歳未満の者又は第3条第1号から第7号までのいずれかに該当する者は、警備員となってはならない。
そして、警備業法第3条1号は、次のとおり規定しています。
第3条(警備業の要件)
1 破産手続開始決定を受けて復権を得ない者
つまり、破産手続開始の決定を受けてから「復権」するまで警備員になれません。このように破産手続中に就くことのできない仕事や資格を一般的に「制限職種」といいます。
【制限職種の制限の期間】
自己破産における制限職種の例
大きく分けて、制限職種には次の2種類があります。
- 法律上当然に仕事や資格の制限を受けるもの
- 一定の手続きによって仕事や資格の制限を受けるもの
自己破産をしたことは、基本的には正当な解雇理由にはあたりません。ですから、制限職種に就いている方が破産をする(した)からと言って、それだけで勤務先を解雇されることは原則としてありません。
ですが、制限職種に就いて働いている場合には、復権までの間は資格が必要な仕事ができませんので、破産することを勤務先に相談するのがいいでしょう。
場合によっては、配置転換などで一時的に資格を必要としない仕事をさせてもらえる可能性があります。
(1-1)法律上当然に仕事や資格の制限を受けるもの
先ほどご紹介した警備員のほか、たとえば、次の職種では制限職種が定められています。
- 弁護士(弁護士法7条4号)や公認会計士(公認会計士法4条4号)や税理士(税理士法4条2号)など士業
- 公証人(公証人法14条2号)
- 交通事故相談員(交通安全活動推進センターに関する規則4条1項2号)
他人の秘密など機密情報を扱う仕事に制限職種が多い傾向にあります。
取った資格を一時的に使えないだけなので、復権後に改めて資格を取りなおす必要はありません。
(1-2)一定の手続きによって仕事や資格の制限を受けるもの
法律上当然にその仕事をできなくなるケース以外に、一定の手続きが必要なケースもあります。
例えば、法人である特定保険募集人と異なり(保険業法280条1項4号参照)、個人的に生命保険の外交員をしている人が破産するからといって、内閣総理大臣に届け出なければならないわけではありません。
もっとも、内閣総理大臣は、事案に応じて登録を取り消すか、そのまま仕事を続けさせるか、停止させるか等の登録を取り消すか判断することができます(同法307条1項1号)。
内閣総理大臣により登録が取り消された場合には、生命保険の外交員の仕事をすることはできません。自分の仕事が制限職種にあたるかを知りたい場合には、「〇〇(自分の仕事)制限職種」と検索するのがいいでしょう。
ただし、見つかった情報が正しいとは限らないので、検索して見つかった情報を頼りに一度根拠条文を確認してみてください。
たとえば、「警備員 制限職種」と検索すると、いくつかのサイトで「制限職にあたる(警備業法14条1項・3条1号)」などと書かれていますので、e-Govの「警備業法」で14条1項と3条1号を確認します。そうすると、制限職種にあたることがわかります。
ご自身の就いている職業が制限職種にあたるかどうか分からないという方は、借金でお困りならばひとまず弁護士に相談することをお勧めします。そうすれば、弁護士が、制限職種にあたるかのチェックをしますので、その上で、どのような債務整理が適しているか、一緒に検討することができます。
制限職種について詳しくはこちらの記事もご参照ください。
自己破産者の復権とは?
破産手続を進める場合、裁判所に申立書など必要書類を提出します。
その後、裁判所が破産手続の開始を決定すると、債務者は法律上「破産者」と呼ばれます。
警備業法でみたように、この破産手続開始決定が出た時点が仕事や資格の制限のスタートです。
制限職種の制限は、「復権」まで続きます。
復権とは、いわば自分の好きな仕事に就ける“権”利を回“復”することです。
簡単に言えば、破産者でなくなることを「復権」と呼びます。
復権には2つの種類がある
復権には、次の2種類があります。
- 『当然復権』
- 『申立てによる復権』
(1)手続きが必要ない「当然復権」
破産者の多くが特別な手続きを要しない「当然復権」によって、破産者の地位から解放されます。
当然に復権するのは、次の4つのいずれかに該当するケースです(破産法255条1項)。
- 免責許可の決定が確定したとき
- 破産手続が同意廃止決定で確定したとき
- (破産手続中に民事再生手続が開始された場合)再生計画認可の決定が確定したとき
- 破産手続開始の決定後に詐欺破産罪の有罪の確定判決を受けることなく10年を経過したとき
このうち、1番多いのは「1.免責許可の決定が確定したとき」です。
(2)復権までの期間はどのくらい?
それでは、どのくらいの期間、仕事や資格の制限を受けるのか、復権までの期間を見ていきましょう。
(2-1)免責許可の決定がされる場合
まず、自己破産の申立てから免責に関する決定までの流れを簡単にご説明します。裁判所に自己破産を申立てた後、事件は、裁判所によって1.管財事件(少額管財事件等も含みます)と2.同時廃止事件のいずれかで手続きを進めることが決められます。
その後、免責手続において、免責を許可するか不許可とするか判断されます。免責許可決定(借金の返済義務がなくなること)がされてそれが確定すると、破産者の地位から解放され、資格や仕事の制限が解除されます。
【自己破産の手続きの流れ】
免責不許可になる場合もあるんですよね。
免責不許可になる割合はどのくらいですか?
日弁連の実施した2017年度の調査(調査件数1238件)によると、免責を申立てた方のうち免責不許可になった方は全体のわずか0.57%(1238件中7件)でした。
【免責不許可になった方の割合】
参考:2017破産事件及び個人再生事件記録調査6頁|日本弁護士連合会
自己破産には「裁量免責」(裁判所の裁量で免責許可を出す制度)という制度(破産法252条2項)があり、免責不許可事由があっても、重大なものでなければ免責を受けられるケースが多いのです。
免責不許可事由がある方でも免責が認められる可能性はありますから、免責不許可事由があるために自己破産をためらっている方は、見込みなどについてまずは弁護士に相談されることをお勧めします。
さらに、日弁連による2017年度の調査によれば、破産手続開始決定から免責決定までの平均日数は67.92日でした。なお、調査したほとんどのケースで、破産手続開始決定から免責決定まで4ヶ月以内で終了しています(6ヶ月以上かかったケースはゼロでした)。
免責許可の決定から決定の確定までは約1ヶ月かかりますので、事案によって多少異なりますが、基本的には4~8ヶ月が目安です。
自己破産の手続きの流れと期間の目安について詳しくはこちらの記事もご参照ください。
(2-2)免責が不許可となった場合
破産者が財産を隠した場合や破産者が収入に見合わない浪費を続けた場合などには、裁判所が免責を認めない決定を下します。そうなると、当然には復権しません。
その場合、借金の返済義務の負担を軽くするためには、民事再生手続を申立てることになります。再生計画認可の決定が出てそれが確定すれば復権し、制限職種への制限はなくなります。
他方、民事再生を申立てない場合には、自己破産手続開始決定を受けてから、詐欺破産罪の有罪確定判決を受けることなく10年を経過したときに復権し、制限職種への制限はなくなります。
警備員などの制限職種に就いていない場合には、復権しなくても事実上、不都合はないため、ご自分が復権したかどうか気にならないかもしれません。もっとも、法律上破産者の地位に置かれたままなのが気になる人もいるでしょう。
もしご自分が復権したのかを知りたければ、本籍地のある市区町村役場の窓口で身分証明書(破産者等に該当しないこと、成年被後見人でないことの証明)をもらいます。ただし、1通300円程しますので、必要がなければあえて請求しなくてもよいでしょう。
市区町村役場の「破産者名簿」について詳しくはこちらの記事もご参照ください。
(3)手続きが必要な「申立てによる復権」
当然復権をしない人が復権するには、別途復権を申立てることが必要です。破産法256条1項には、申立てによる復権について次のように規定されています。
破産者が弁済その他の方法により破産債権者に対する債務の全部についてその責任を免れたときは、破産裁判所は、破産者の申立てにより、復権の決定をしなければならない。
引用:破産法256条1項
例えば、親族などから援助を受けて借金をすべて返済した場合のようにすべての債務がなくなった後に、破産者が復権を申立てたときには、裁判所は復権を認めなければなりません。
どうしても仕事や資格の制限を受けると困る場合はどうしたら良い?
これまでご説明したとおり、制限職種による制限は破産手続開始決定から復権までの間、目安は4~8ヶ月と一時的です。ただ、一時的とは言え、その間資格が必要な仕事ができないとなると、顧客が離れてしまうなど、影響が大きい方もいらっしゃるでしょう。
どうしても仕事や資格の制限を受けると困るという方は、自己破産ではなく任意整理や個人再生を検討されることをお勧めします。自己破産と違って任意整理や個人再生では借金の支払義務自体はなくなりませんが、場合によってはかなりの額まで負債が減額できることがあります。
お仕事をされて一定の収入のある方であれば、自己破産ではなく個人再生の方が適している場合も多いです。
『借金が返済できない=自己破産』というイメージが強いかもしれませんが、必ずしも自己破産だけが借金の解決方法ではありません。
ご自身に適した債務整理を実現するために、弁護士にご相談されることをお勧めします。
【まとめ】破産手続開始決定後は制限職種に就けないが、「復権」すれば問題なく仕事ができる
今回の記事のまとめは、次のとおりです。
- 自己破産をする際、破産手続開始決定から復権までの間、弁護士や警備員など一定期間仕事をできない職種がある。これを「制限職種」という。
- 復権には、当然復権と申立てによる復権の2種類がある。
- 当然復権は、次の4つ。
- 免責許可の決定が確定した時
- 破産手続が同意廃止決定で確定した時
- (破産手続中に民事再生手続が開始された場合)再生計画認可の決定が確定した時
- 破産手続開始決定後に詐欺破産材の有罪の確定判決を受けることなく10年を経過した時
- 当然復権の中では免責許可決定が確定して復権するケースが多い。日弁連の調査結果によれば、自己破産を申立てた方のうち、免責許可決定を得た方の割合は調査件数の96.77%を占める。
- 破産手続開始決定から免責許可決定の確定までは、事案の内容にもよるがおよそ4~8ヶ月程度。
借金の返済が苦しいけれど、制限職種に就いているため、自己破産は考えられない…そんな方は、自己破産ではなく任意整理や個人再生ができないかご検討ください。
借金の返済が苦しいという方で「自己破産」を思いつく方は多いのですが、場合によっては、自己破産をせずに民事再生や任意整理で借金の負担を軽くできる方も多いのです。
自己破産ができなければ、全ての借金を自力で返済していくしかないなどと思い込まずに、まずは弁護士に良い方法がないかご相談ください。弁護士があなたと一緒に、あなたに最適な借金の解決方法を検討します。
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