「自己破産では、財産を手放さないといけないんだよね……でも、できることならなるべく手元に残しておきたいな」
自己破産の手続では、原則として一定の財産を手放さねばなりません。
何とか手元に財産を残せないかと思った方もいるのではないでしょうか。
しかし、自己破産の手続での処分を免れるために財産隠しをしてしまうと、「詐欺破産罪」という犯罪が成立するおそれがあります。
また、財産隠しをすると、借金の返済を免除してもらえない(免責不許可)可能性もあります。
自己破産の手続では、原則として「破産管財人」という人が財産について細かくチェックするため、財産隠しは発覚することが多いのです。
もっとも、自己破産といえども全ての財産を処分しなければならないわけではありません。
また、財産を残しておきたい場合には他の債務整理の方法も検討可能です。
この記事では、
- 財産隠しが発覚するきっかけ
- 財産隠しをすると、免責不許可となる可能性
- 財産隠しについて成立する可能性がある「詐欺破産罪」
- 手放したくない財産がある場合の代替手段
について弁護士が解説します。
早稲田大学、及び首都大学東京法科大学院(現在名:東京都立大学法科大学院)卒。2012年より新宿支店長、2016年より債務整理部門の統括者も兼務。分野を問わない幅広い法的対応能力を持ち、新聞社系週刊誌での法律問題インタビューなど、メディア関係の仕事も手掛ける。第一東京弁護士会所属。
財産隠しは「破産管財人」の調査で発覚する
財産の処分を免れるために財産隠しを行っても、破産管財人の調査によって発覚する可能性が高いです。
それでは、破産管財人の業務や財産隠しが発覚するきっかけについて説明します。
(1)破産管財人とは
裁判所での自己破産の手続の進め方は、大きく2つに分けられます。「管財事件」と「同時廃止」です。
詳しくはこちらをご覧ください。
このうち、管財事件が原則です。
管財事件では、裁判所から選任された破産管財人が、債務者の財産の調査や債権者への配当、負債を抱えることに至った経緯の調査などを行います。
破産管財人の調査では、答えにくいことを聞かれるかもしれません。
しかし、破産管財人の調査には協力しなければなりません。
破産管財人の業務内容について詳しくはこちらをご覧ください。
(2)債務者の財産についての詳細な調査

破産管財人による財産の調査は、非常に綿密です。
主な財産ごとに、どのように財産隠しが発覚する可能性があるかを説明します。
(2-1)現金や預貯金

破産管財人には、債務者の口座の有無や取引の状況を調べる権限があります。
そのため、取引履歴に不審なお金の動きがあれば、「財産隠しではないか」と見抜かれてしまいます。
「現金として持っていれば調査を免れる」と思う方もいるかもしれませんが、現代では全く口座を経由せずにお金が移動することは少ないです。
よって、現金であっても財産隠しは困難といえます。
また、「あまり使っていない口座のみを申告して、メインバンクを隠しておけば預金を手放さずに済むのでは」と思う方もいるかもしれません。
しかし、先ほど述べたように、破産管財人はそれぞれの銀行について債務者の口座があるかどうかを調べることができます。
申告した口座での取引履歴がほとんどなければ、「これはメインバンクではないな」と伝わり、メインバンクの発覚につながる可能性が高いです。
(2-2)車や不動産

家族のための車や不動産は手放したくない、と思われる方は少なくありません。
しかし、車や不動産についても財産隠しは困難です。
車や不動産の存在を破産管財人に伏せていても、次のようなきっかけで存在を把握される可能性が高いためです。
- 車……………自動車税の書類、車検証の名義など
- 不動産………固定資産税や登記の名義など
裁判所における自己破産の手続では、一定期間、債務者宛ての郵便物が破産管財人に転送されます。
そのため、債務者宛ての車や不動産関連の郵便物から、財産隠しが判明する可能性が高いのです。
自己破産の手続で自宅を残すことは基本的に困難ですが、住宅に住み続けられる可能性が全くないわけではありません。
詳しくはこちらをご覧ください。
(2-3)保険

一定以上の金額の解約返戻金がある保険は、自己破産の手続において原則として解約せねばなりません。
解約を免れるために保険の存在を伏せていても、口座の取引履歴に保険料の引落しがあること等から発覚する可能性が高いです。
(2-4)財産隠しは「否認権」によって取り消されることも
財産隠しは、債権者が受けられる配当を減らし、自己破産手続の公正さを損ねてしまいます。
そこで、財産隠しが判明した場合、破産管財人は問題となっている財産隠しについて「否認権」を行使し、流出した財産の回復を図ります。

例えば、自己破産の手続を進めている人が、「処分されてしまうくらいなら」と、友達にブランド品をプレゼント(贈与)したとします。
破産管財人がこの贈与について否認権を行使すると、贈与がなかったこととなり、友達は受け取ったブランド品を破産管財人に渡さなければなりません。
破産管財人の否認権について、詳しくはこちらをご覧ください。
(3)「免責不許可事由」の調査
破産管財人は、「免責不許可事由」の調査も行います。
「免責不許可事由」とは、免責許可決定が出ない可能性のある一定の事由です。
免責許可決定が出れば、債務者は原則全ての負債の支払から解放されますが、債権者は配当を受けられなかった分の債権の回収を諦めなければなりません。
そのため、借入れの経緯などで債権者に損害を与えたとみなされる一定の行為や、破産手続上の義務に違反したり手続を妨害したりするなどの一定の行為が、「免責不許可事由」として法律上定められています(破産法252条1項)。
もっとも、免責不許可事由があったとしても、裁判所が諸般の事情を考慮して、その裁量で免責許可決定を出す場合があります(破産法252条2項)。
免責不許可事由がある場合の免責許可決定を特に裁量免責といいます。
破産管財人は、裁判所が免責許可決定を出すかどうか判断するために、免責不許可事由に関する事実などを調査します。
例えば、次のようなことが調査されます。
- どのような免責不許可事由があり、どの程度深刻か
- 家計を立て直すための意欲がどれくらいあって、どのくらい努力しているか
- 自己破産の手続をどのくらい誠実に行っているか
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財産隠しは「免責不許可事由」!借金返済を免除してもらえない可能性
破産法252条1項1号では、次のことを免責不許可事由としています。
債権者を害する目的で、破産財団に属し、又は属すべき財産の隠匿、損壊、債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為をしたこと。
引用:破産法252条1項1号
「破産財団」とは、債権者への配当などに充てるため処分の対象となる財産です。
破産財団について詳しくはこちらをご覧ください。
隠匿というのは隠してしまうことです。
また、債権者に不利益な処分というのは、例えば高価な物を二束三文で売却してしまうことが当てはまります。正当な価格で売った場合よりも、債権者が受け取ることのできる配当が減ってしまうため、問題となります。
「債権者を害する目的」とは、債権者が受け取れる配当を減らそうと積極的に意図していることを言います。
債権者への配当を減らす目的で財産隠しを行うと、免責不許可事由となってしまうのです。
財産隠しは、「ついつい浪費して借金が返せなくなってしまった」等の他の免責不許可事由以上に、手続の公正さを害する悪質性があります。
そのため、財産隠しをしてしまっては、裁量免責すら得ることは厳しくなってしまうのです。
自己破産の手続で財産隠しをすると、詐欺破産罪が成立する場合も
財産隠しのペナルティーは、裁量免責をほとんど見込めなくなってしまうだけではありません。
「詐欺破産罪」という犯罪が成立する可能性もあるのです。
それでは、詐欺破産罪について説明します。
(1)詐欺破産罪とは?どんな場合に成立する?
詐欺破産罪について、破産法は次のように定めています。
第265条 破産手続開始の前後を問わず、債権者を害する目的で、次の各号のいずれかに該当する行為をした者は、債務者(相続財産の破産にあっては相続財産、信託財産の破産にあっては信託財産。次項において同じ。)について破産手続開始の決定が確定したときは、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。情を知って、第四号に掲げる行為の相手方となった者も、破産手続開始の決定が確定したときは、同様とする。
引用:破産法265条1項
一 債務者の財産(相続財産の破産にあっては相続財産に属する財産、信託財産の破産にあっては信託財産に属する財産。以下この条において同じ。)を隠匿し、又は損壊する行為
二 債務者の財産の譲渡又は債務の負担を仮装する行為
三 債務者の財産の現状を改変して、その価格を減損する行為
四 債務者の財産を債権者の不利益に処分し、又は債権者に不利益な債務を債務者が負担する行為
すなわち、以下の場合に、詐欺破産罪が成立することとなります。
破産手続の開始前か後かにかかわらず、総債権者の利益を害する目的で、次の1.から4.のいずれかの行為をした場合
- 債務者の財産を隠したり、壊したりした
- 債務者の財産の譲渡や、債務の負担があったかのように見せかけた
- 債務者の財産の現状を改変して、その価格を下げてしまった
- 債務者の財産を債権者の不利益になるような形で処分したり、債権者の不利益につながる債務を債務者が負担した
※法律上は要件とされていませんが、「自己破産を選択せねばならないおそれがあり、そのことを債務者本人も分かっていたこと」も必要と考えられています。
参考:伊藤眞・岡正晶・田原睦夫・林道晴・松下淳一・森宏司『条解 破産法〔第2版〕』 株式会社弘文堂 1782頁
(2)詐欺破産罪になったらどうなる?
詐欺破産罪では、以下のいずれかの刑罰を受けるおそれがあります(破産法265条1項本文)。
- 10年以下の懲役
- 1000万円以下の罰金
- 10年以下の懲役と1000万円以下の罰金の両方
詐欺破産罪の成立があり得るレベルの財産隠しがあった場合には、裁量免責を獲得するのもほぼ不可能です。
(3)協力者にも詐欺破産罪が成立することがある
先ほどの「4.債務者の財産を債権者の不利益になるような形で処分したり、債権者の不利益につながる債務を債務者が負担した」については、債務者から財産を譲り受けたり、債務者に債務を負わせた相手方がいるということになります。
4.の行為の相手方が、財産隠し等についての事情を知っていた場合には詐欺破産罪が成立します(破産法265条1項柱書後段、4号)。
また、
債務者について破産手続開始の決定がされ、又は保全管理命令が発せられたことを認識しながら、債権者を害する目的で、破産管財人の承諾その他の正当な理由がなく、その債務者の財産を取得し、又は第三者に取得させた者
引用:破産法265条2項
も、(2)で挙げた刑罰を受けるおそれがあります。
財産隠しをしようとすると、協力者まで刑事事件に巻き込んでしまうことになりかねません。
自己破産を決意した場合には、財産隠しはしないでください。
自己破産の手続でも「自由財産」は残しておける

自己破産の手続を行うからといって、財産を全て処分されてしまうわけではありません。
一定の範囲の財産は、「自由財産」として手元に残すことができます。
それでは、自由財産について説明します。
(1)自由財産とは
自由財産には、主に次のものがあります。
- 破産手続開始後に取得した財産(破産法34条1項)
破産財団は、原則として破産手続開始までにあった財産に限定されています。 - 99万円以下の現金(破産法34条3項1号)
預貯金は含みません。 - 差押えが禁止された財産(破産法34条3項2号)
自由財産の内容について、詳しくはこちらをご覧ください。
(2)自由財産が増える?「自由財産の拡張」とは
例えば、家族や仕事の事情などで、どうしても手放したくない車があるかもしれません。
このような場合には、自由財産に当該自動車を加えてもらえる可能性もあります。
裁判所が自由財産の範囲を広げ、保持できる財産が増えることを「自由財産の拡張」といいます。
どのような財産が生活に欠かさず、自由財産の拡張を認められるかは、各裁判所の運用などによって異なります。
自己破産となってもどうしても維持しておきたい財産がある場合には、まずは弁護士に相談してみることをおすすめします。
残したい財産がある場合には任意整理や個人再生を検討
自由財産の範囲は限られていますし、自由財産の拡張も簡単に認められるわけではありません。
「同時廃止」なら、破産管財人が選任されず配当なども行われませんが、同時廃止はそもそも財産があまりない場合の手続です。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
そのため、「どうしても残しておきたい財産がある!」という場合には、まずは自己破産以外の手続を検討する必要があります。
そこで、自己破産以外の、借金返済の負担減につながる可能性のある主な手続を説明します。
(1)任意整理
任意整理とは、次のような手続です。
- 払い過ぎた利息はないか、取引開始時にさかのぼって利息制限法の上限金利(15~20%)に金利を引き下げて再計算(引き直し計算といいます)して、
- 残った借入れ金額について、将来利息のカットや、長期分割による月当たりの支払額の減額などによる総合的な返済の負担の軽減を目指して
- 個々の借入先と交渉する手続
任意整理の場合、支払計画に沿って支払えていれば、自宅や車などの財産を手放す必要はありません。
(2)個人再生
個人再生とは、次のような手続です。
- 負債の支払をできなくなるおそれがあることを裁判所に認めてもらい、
- 法律に基づき決まった金額を原則3年間で支払っていく手続
個人再生で支払うこととなる金額は、負債の総額や所持している財産の価格などから決まります。
高価な財産がなければ、大幅に総返済額を減らせる可能性があります。
【まとめ】財産隠しは免責不許可の可能性があるうえ、詐欺破産罪が成立するおそれも
今回の記事のまとめは次のとおりです。
- 自己破産の手続では、原則として破産管財人が債務者の財産について詳細な調査を行うため、財産隠しは発覚する可能性が非常に高い。
- 財産隠しを行うと、免責許可決定が出ず、負債の返済負担を免除してもらえないおそれが強い。
- 一定の財産隠しについては、詐欺破産罪が成立し、懲役10年以下、罰金1000万円以下、又はその両方の刑罰を受ける可能性がある。
- 自己破産の手続でも、一定の財産は「自由財産」として手元に残しておくことができる。
- どうしても手放したくない財産がある場合には、任意整理や個人再生も検討する。
アディーレ法律事務所では、万が一免責不許可となってしまった場合、当該手続にあたってアディーレ法律事務所にお支払いいただいた弁護士費用は原則として、全額返金しております(2021年7月時点)。
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