「逆走」とは、一般的に、通行すべき道路と反対の道路を通行することや、一方通行の道路を反対方向に通行することをいいます。
自転車も自動車と同じく、左側通行が原則になります。
では、「左側通行すべき自転車が右側通行したことによって起きた事故における過失割合はどれくらいになるのか」気になる方もいらっしゃることでしょう。
結論から言いますと、原則、自転車側の過失の方が自動車側の過失よりも重くなることはありません。
なぜなら、逆走とはいえ、自転車は車に比べて交通弱者であると考えられているからです。こ
ただし、過失割合は事故の状況次第で修正され、自転車側の過失の方が重くなることもあります。
今回の記事では、次のことについて弁護士がくわしく解説します。
- 自転車が道路を利用する際の基本的なルール
- 自転車が逆走して自動車との事故が発生した場合の過失割合
- 過失割合が修正される事情
東京大学法学部卒。アディーレ法律事務所では北千住支店の支店長として、交通事故、債務整理など、累計数千件の法律相談を対応した後、2024年より交通部門の統括者。法律を文字通りに使いこなすだけでなく、お客様ひとりひとりにベストな方法を提示することがモットー。第一東京弁護士会所属。
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自転車の基本的なルールとは
はじめに、自転車の基本的ルールについて説明します。
自転車は、道路交通法上は「軽車両」(道交法2条1項11号)に該当し、車両(同項8号)として扱われていますので、基本的には、自動車と同様のルールを守って道路を走行する必要があります。
ただし、自転車は自動車とは異なり、自転車特有のルールもあります。
- 並進が禁止されている(道交法19条)
- 路側帯の通行ができる(道交法17条の2)
- 交差点では2段階で右折しなければならない(道交法34条3項)など
では、次に特に自転車の逆走に関するルールについて紹介します。
(1)自転車には左側走行が義務付けられている
自転車が車道を通行する際には、原則左側走行が義務付けられています。
つまり、自転車が車道を通行時に右側走行していた場合には、原則「逆走」ということになります。
歩道と車道の区別のある道路では、原則として車道を通行しなければなりません(道交法17条1項)。
そして、自転車が車道を走る場合には道路の左側部分を通行しなければならず、車両通行帯の設けられていない道路では、道路の左側端に寄って通行しなければなりません(道交法17条1項、18条1項本文)。
一方、道路に自転車が通行できる路側帯(車道の左側に白や青の塗装で区切られたエリア)がある場合には、一定の条件のもとで路側帯を通行することができます。
しかし、この場合も、道路の左側部分に設けられた路側帯を通行することとされています(道路交通法17条の2第1項)。
なお、自転車は、自転車専用道(車道と歩道とは分けられた自転車のための道路)がある場合には、自転車専用道を走ります(道交法63条の3)。
(2)自転車も一方通行規制を守らなければならない
一方通行の標識がある道路では、「自転車は除く」「軽車両は除く」といった補助標識がない限り、自転車も自動車と同じく一方通行の規制に従わなければなりません。
つまり、一方通行規制に違反した場合には「逆走」ということになります。
なぜなら自転車も道交法上は車両とされていますので、自動車と同じように道路標識に従って道路を通行する義務があるからです。
なお、一方通行の道路では、道路の中央より右側を通行してもよい(左側通行をしなくてもよい)とされています(道交法17条5項1号)。
逆走自転車と自動車の事故における過失割合とは
ここでは、左側通行や一方通行のルールを守らない逆走自転車と自動車による交通事故について基本の過失割合を解説します。
逆走自転車と自動車の事故といえば、次のような事故があります。
- 道路の右側を走行する自転車と対向車との事故
- 一方通行違反の自転車と自動車との信号機のない交差点での事故
それぞれ説明します。
(1)道路の右側を走行する自転車と対向車との事故

自転車が道路の右側端を通行し、直進してくる対向車と衝突して事故が発生した場合には、基本の過失割合は、自転車:自動車=20:80となります。
このケースの場合、自転車側に左側通行のルールに違反した過失がある一方で、自動車側にはルール違反はありません。
そうであるのに、自動車の過失割合が80と高くなっている理由は、
- 左側通行のルールがあるとしても自転車が右側通行をすることは稀ではないこと
- 自動車側も自転車を確認することが容易で衝突を回避できること
- 自動車と比べて自転車は交通弱者であること
などが考慮されているからです。

一方、自転車が、道路の右側にあるお店などに入るために、道路の左側から右側に移動(センターオーバー)した時に自動車と事故をした場合には、自転車の過失割合は加算されます。
そのため、このケースでは、基本の過失割合は自転車:自動車=50:50となります。
(2)一方通行違反の自転車と自動車との信号機のない交差点での事故
次に、一方通行を逆走して信号機のない交差点に入ってきた自転車が、一方通行の道路と交差する道路から入ってきた自動車と衝突し、両方の道路の道幅が同じ程度だった場合(一方が優先道路という関係ではない場合)です。
この場合には、基本の過失割合は自転車:自動車=50:50となります。
なお、同様の条件下の事故で、自転車に逆走違反がない場合の基本の過失割合は、自転車:自動車=20:80となっています。つまり、一方通行違反というルール違反が、自転車側の責任を20→50に重くしていることがわかります。
交通事故の過失割合は警察が決めるのでしょうか?
過失割合は警察が決めるのではなく、交通事故の当事者が話し合って決めることになります。
そのため、事故の当事者でどういう事故だったかに争いがある場合(例:運転者がわき見運転をしていたかどうか等)には、過失割合にも争いが生じることになります。
加害者側の保険会社に提示された過失割合を「そういうものか」と思って鵜吞みにしてしまうと、被害者にとって不利な過失割合となっていることもありますので、被害者が過失割合について知っておくことは重要です。
なお、過失割合について当事者の意見が異なり、話し合いによっても合意できない場合には、最終的に訴訟を提起して、裁判所が判断することになります。
自転車側・自動車側の過失が加算される事情とは
ここまで説明したのは、逆走自転車の事故態様に応じた基本の過失割合です。実際の交通事故において過失割合を決める時には、個別具体的な事情を考慮して、基本の過失割合を修正されることがあります。
例えば、自転車側に、次のような事情がある場合には、過失割合が修正され、自転車側に5~10%程度の過失割合が加算されます。
- 酒気帯び運転
- 二人乗り
- 夜間の無灯火運転
- 並進
- 傘をさすなどの片手運転
- 酒酔い運転
- いわゆる「ピスト」等の制動装置不良など
逆に、自動車側に次のような事情がある場合にも、自動車側に10~20%程度の過失割合が加算されます。
- 酒気帯び運転
- わき見運転などの著しい前方不注意
- 酒酔い運転
- おおむね時速30km以上の速度違反など
自転車の運転者が児童等(概ね13歳未満)や高齢者(概ね65歳以上)の場合には、保護の必要性が高いことから、自動車側に5~10%程度過失割合が加算されます。
逆走自転車の事故で過失割合・賠償額に納得できないなら弁護士への相談がおすすめ!
軽傷な場合や加害者側の保険会社との関係が良好な場合には、加害者側の保険会社に任せたままにした方がよいと思われているかもしれません。
しかし、そのような場合であっても、弁護士への相談がおすすめです。
なぜならば、次の3つの弁護士に依頼するメリットがあるからです。
- 示談金を増額できる可能性がある
- 少しでも有利になるように、治療中からサポートを受けられる
- 示談交渉や後遺障害等級認定手続を任せることができる
それぞれ説明します。
(1)示談金を増額できる可能性がある
弁護士に依頼することで、示談金を増額できる可能性があります。
弁護士に依頼することで示談金が増額できる可能性がある理由は、主に次の2つが挙げられます。
- 慰謝料を増額できる可能性がある
- 過失割合を有利な形に修正できる可能性がある
それぞれ説明します。
(1-1)慰謝料を増額できる可能性がある
実は、交通事故による損害賠償、中でも慰謝料(=精神的損害に対する賠償)の金額を算出する際の基準は3つあります。
算定基準 | 基準の内容 |
---|---|
自賠責の基準 | 自賠責保険により定められている賠償基準です。必要最低限の救済を行うことを目的としており、一般的に支払額は3つの基準の中でもっとも低く設定されています。 |
任意保険の基準 | 各損害保険会社が定めている自社独自の支払基準です。一般的に自賠責の基準以上ではありますが、弁護士の基準と比べると、かなり低く設定されています。 |
弁護士の基準 (裁判所の基準) | これまでの裁判所の判断の積み重ねにより認められてきた賠償額を目安として基準化したものです。裁判所の基準とも呼ばれます。一般的に、自賠責の基準や任意保険の基準と比べて高額になります。 |
上でご紹介した3つの基準の金額を比べると、基本的には次のようになります(※)。

(※)ただし、自賠責保険金額は、交通事故の70%未満の過失については減額対象にしませんので、被害者側の過失が大きい場合には、自賠責の基準がもっとも高額となることもあります。
加害者側が大手保険会社であっても、適切な慰謝料の金額を提示しているとは限りません。
そもそも保険会社は、弁護士の基準よりも金額が低い、任意保険の基準や自賠責保険の基準を提示してくることが多いといえます。これに対し、被害者に代わって弁護士が示談交渉や裁判を行う場合は、通常最も高額な弁護士基準が用いられることが一般的です。
そして、加害者の保険会社も、弁護士に対してであれば、弁護士の基準またはそれに近い金額で応じてくれることが多いです。他方、被害者本人が交渉しても、加害者側の保険会社は、弁護士の基準に応じてくれないことが多いのが実情です。
そのため、弁護士へ依頼することで賠償金を増額できる可能性があるのです。
弁護士に依頼することで賠償金が増額される可能性について詳しく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
(1-2)過失割合を有利な形に修正できる可能性がある
弁護士に相談することで過失割合をあなたに有利な形に修正できる可能性があります。
そもそも、加害者側の提示する過失割合は、事故の被害者にとって不利な形になっているケースも少なくないことです。
事故当事者の主張が異なる場合には、事故の主張ではなく、加害者の主張する事実(例:自転車が無灯火だったなど)に基づいて過失割合を提案してきている可能性があります。
過失割合について検討せずに示談を成立させてしまうと、事故被害者が本来受け取るべき賠償金を受け取れなくなるおそれがあります。
交通事故の経験が豊富な弁護士に示談交渉を依頼したりすると、弁護士は、道路状況や車や自転車の損傷部分や程度などのさまざまな証拠をもとに正しい事故状況を検討します。そして、弁護士はその結果を基に保険会社と交渉します。これにより、妥当な過失割合で保険会社と示談できる可能性が高まります。
(2)少しでも有利になるように治療中からサポートを受けられる
ケガの治療中から弁護士に相談することで、弁護士は通院の頻度のアドバイスや後遺症が残った場合に備えて必要となる検査などのアドバイスを行います。
弁護士に適切なアドバイスを受けながら治療を行うことで、次の事態を防ぐことができます。
- 通院頻度が足らずに、慰謝料が減額されてしまうケース
- 後遺障害の認定に必要な検査を受けずに後遺障害認定が受けられかったケース
また、治療中に突然、加害者の保険会社が治療費の支払の打ち切りを通告してくることがあります。
こうした場合でも、弁護士に相談することで、治療費の打ち切りが妥当として通院をやめるか、それとも治療費の打ち切りが不当としてもっと通院した方がよいのか見極めることができます。
弁護士に依頼している場合は、治療費の支払を継続するよう、弁護士が保険会社と交渉してくれます。
さらに、早い段階から弁護士に相談や依頼することで、将来的な見通しや今後の流れについて聞くことができ、安心感を得ることもできます。
アディーレ法律事務所に相談をいただいた被害者の方のうち、約70%がケガの治療中のご相談になります(※)。多くの人がケガの治療中の時点で、弁護士への相談をされています。
(※)2016/6/1~2021/8/31。お電話いただいた方のうち「治療中」と回答された方の割合です。
(3)示談交渉や後遺障害等級認定手続を任せることができる
交通事故に関する豊富な知識がある弁護士に示談交渉を依頼することで、被害者が加害者側の保険会社に直接応対する必要はなくなります。
示談金を交渉するにあたって様々な証拠の収集が必要となることがありますが、弁護士は必要となる資料の収集もサポートします。
さらに、弁護士は、後遺障害等級認定に必要な資料の内容についてもチェックします。その結果、検査や医師の書いた資料等に不足事項があると判断すれば、追加で検査を受けたり、資料を取得するようアドバイスすることが可能です。
【まとめ】逆走自転車事故の過失割合は、自転車側に有利になる可能性!
今回の記事のまとめはこちらです。
- 逆走自転車と自動車の事故における過失割合
- 道路の右側を走行する自転車と対向車との事故
→基本の過失割合は、自転車:自動車=20:80 - 一方通行違反の自転車と自動車との信号機のない交差点での事故
→基本の過失割合は自転車:自動車=50:50
- 自転車側・自動車側の過失が加算される事情
- 酒気帯び運転
- 二人乗り
- 夜間の無灯火運転
- 並進
- 傘をさすなどの片手運転
- 酒酔い運転
- いわゆる「ピスト」等の制動装置不良など
- 酒気帯び運転
- わき見運転などの前方不注意
- 酒酔い運転
- おおむね時速30km以上の速度違反など
- 弁護士に依頼する3つのメリット
- 示談金を増額できる可能性がある
- 少しでも有利になるように、治療中からサポートを受けられる
- 示談交渉や後遺障害等級認定手続を任せることができる
交通事故の賠償金や過失割合は、保険会社に任せておけばこちらに不利なことはないだろうと思われているかもしれません。
しかし、保険会社が提示してくる過失割合や示談金の額を鵜呑みにしてしまうと、最終的に貰える賠償金額が、弁護士が交渉すればもらえたはずの金額より、低くなってしまうケースが多くあります。
まずは、一度弁護士への相談をしてみてはいかかでしょうか。
交通事故の被害による賠償金請求をアディーレ法律事務所にご相談・ご依頼いただいた場合、原則として手出しする弁護士費用はありません。
すなわち、弁護士費用特約が利用できない方の場合、相談料0円、着手金0円、報酬は、獲得できた賠償金からいただくという成功報酬制です(途中解約の場合など一部例外はあります)。
また、弁護士費用特約を利用する方の場合、基本的に保険会社から弁護士費用が支払われますので、やはりご相談者様・ご依頼者様に手出しいただく弁護士費用は原則ありません。
※なお、法律相談は1名につき10万円程度、その他の弁護士費用は300万円を上限にするケースが多いです。
実際のケースでは、弁護士費用は、この上限内に収まることが多いため、ご相談者様、ご依頼者様は実質無料で弁護士に相談・依頼できることが多いです。
弁護士費用が、この上限額を超えた場合の取り扱いについては、各法律事務所へご確認ください。
(以上につき、2022年12月時点)
交通事故の被害にあって賠償金請求のことでお悩みの場合は、交通事故の賠償金請求を得意とするアディーレ法律事務所にご相談ください。