「横断歩道を歩こうとしている歩行者がいるけど、自分の車が通り過ぎるのを待っているようだから、このまま止まらずにいってしまおう」
このように考えてしまう人も多いのではないでしょうか。
しかし、このような行為は「歩行者妨害」という交通ルール違反になりますので、しないようにしましょう。
車のドライバーは、横断歩道を横断、又は横断しようとする歩行者のため、横断歩道の直前で一時停止し、かつ、歩行者の横断を妨げないようにしなければならないとされています(道路交通法38条第1項)。
このルールに反し、横断歩道を横断、又は横断しようとする歩行者がいるにもかかわらず、横断歩道の直前で一時停止をしないで歩行者の横断を妨害すると、歩行者妨害となるのです。
歩行者妨害による取締り件数は年々増加傾向にあります。歩行者妨害がどういう違反なのか、違反した場合の罰則や違反点数について知っておきましょう。
この記事では、次のことについて弁護士がくわしく解説します。
- 歩行者妨害の概要
- 歩行者妨害の罰金・違反点数
岡山大学、及び岡山大学法科大学院卒。 アディーレ法律事務所では刑事事件、労働事件など様々な分野を担当した後、2020年より交通事故に従事。2023年からは交通部門の統括者として、被害に遭われた方々の立場に寄り添ったより良い解決方法を実現できるよう、日々職務に邁進している。東京弁護士会所属。
「歩行者妨害」(横断歩行者等妨害等)とは?
車を運転する人であれば、「横断歩道は歩行者優先」というルールをご存じですね。
道路交通法38条1項2項では、「横断歩道は歩行者優先」というルールについて、具体的に次のように定めています。
車両等は、横断歩道…に接近する場合には、当該横断歩道等を通過する際に当該横断歩道等によりその進路の前方を横断しようとする歩行者…がないことが明らかな場合を除き、当該横断歩道等の直前(…)で停止することができるような速度で進行しなければならない。
引用:道路交通法38条1項
この場合において、横断歩道等によりその進路の前方を横断し、又は横断しようとする歩行者等があるときは、当該横断歩道等の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにしなければならない。
車両等は、横断歩道等(…)又はその手前の直前で停止している車両等がある場合において、当該停止している車両等の側方を通過してその前方に出ようとするときは、その前方を出ようとするときは、その前方に出る前に一時停止しなければならない
引用:道路交通法38条2項
道路交通法38条1項と2項を分かりやすく説明すると、次のようになります。
- 運転者は、横断歩道の手前では、基本的に停止できるような速度で進行する義務がある(横断しようとする歩行者がないことが明らかな場合は除く)。
- 運転者は、横断歩道を渡ろうとする歩行者がいる場合には、停止してその通行を妨げないようにする義務がある。
- 運転者は、横断歩道の手前で停止している車両がいる場合にその側方を通過しようとする場合は、横断者の有無にかかわらず、その前方に出る前に一時停止をする義務がある。
さらに、道路交通法38条の2によれば、横断歩道のない交差点(その付近)であっても、歩行者が横断しようとしている時には、その歩行者の通行を妨げてはならないとされています。
このような道路交通法38条1項・2項、道路交通法38条の2に定められているルールに違反し、横断歩道上もしくは横断歩道のない交差点(その付近)で歩行者の横断を妨害することを、「歩行者妨害」違反とよんでいます。
<コラム>歩行者に気づかすに一時停止せずに進行|歩行者妨害にあたる?
横断歩道付近にいる歩行者に気づかずに一時停止せず発進したケースでも歩行者妨害にあたるのでしょうか?
横断歩道に接近する場合、歩行者がいないことが明らかな場合を除き、徐行しなければなりません。また、歩行者に気づかずに進行した場合であっても、歩行者がいる場合には一時停止が原則ですので、「歩行者妨害」にあたります。
歩行者妨害違反の取締り件数は年々増加している
歩行者妨害違反の取締り件数は年々増加傾向にあります。
ここでは、歩行者妨害の取締り件数と取締り強化の理由について説明します。
(1)歩行者等妨害等の取締り件数
歩行者妨害違反の取締り件数は次の通り、年々増加傾向にあります。
平成28年(2016年)は11万1142件でしたが、2020年には29万532件となっており、4年で2.5倍以上となっています。
(2)歩行者等妨害等の取締り強化のワケ
歩行者等妨害等の取締り強化の理由としては、横断中の歩行者の交通事故が多いことが挙げられます。
実際、自動車と歩行者の死亡事故は、多くが横断歩道上もしくは横断歩道付近で多い傾向にあります。平成26~30年における自動車と歩行者の交通事故のうち、多くが横断歩道上で起きています。
全体 | 横断歩道上での事故 | 横断歩道付近での事故 | その他 | |
---|---|---|---|---|
自動車と歩行者の交通事故の内訳(H26~30) | 4599件 | 1439件 (32%) | 576件 (13%) | 2544件 (56%) |
これらの傾向を踏まえ、警察庁は、交通事故死を減らしていくために、1.歩行者には横断歩道を渡るように意識を高めてもらい、同時に、2.車両の側に、特に信号機のない横断歩道での徐行と一時停止による歩行者優先を徹底する取り締まり強化を推進しています。
歩行者妨害の罰則や違反点数は?
歩行者妨害の罰則は3ヶ月以下の懲役(※)又は5万円以下の罰金、反則金は普通車で9000円(大型車1万2000円、二輪車7000円)です。違反点数は2点です。
※2022年6月、懲役と禁錮を廃止し「拘禁刑」とする刑法改正が行われました。改正刑法は2025年頃までに施行される予定です。
歩行者妨害の反則金と違反点数は、赤信号無視と同じです。
そこで、まず、横断歩道付近で渡るかもしれない歩行者を見かけたら徐行し、横断歩道前で立ち止まっている歩行者を見かけたら、それは赤信号だと思って、一時停止するようにしましょう。
<コラム>罰金と反則金の違いとは?
罰金は刑事処分にあたるのに対し、反則金は行政処分という違いがあります。
罰金は、告知票(赤キップ)が発行された場合で、通常の刑事手続きの中で罰金が科されることになります。前科がつきます。
一方、反則金は、交通反則通知書(青キップ)が発行された場合で、反則金を支払うことで刑事手続きが免除され、前科はつきません(刑事手続きではありません)。
人身事故の罰金や違反点数について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
【まとめ】歩行者妨害とは、横断歩道上、又は横断歩道のない交差点で歩行者の横断を妨害すること
今回の記事のまとめは次のとおりです。
- 歩行者妨害(横断しようとする歩行者がいないことが交差点の信号機や道路の見通しなどで明らかな場合を除く)
- 横断歩道の直前で一時停止をしない
- 横断歩道上で歩行者の横断を妨害すること
- 横断歩道の手前で停止している車があるにもかかわらず、その車の側方で一時停止をしない
- 横断歩道のない交差点またはその付近で歩行者の横断を妨害すること
- 歩行者妨害の取締りは強化されている。
- 歩行者妨害が取締り強化されている理由としては、車と歩行者の事故を防止し、「横断歩道は歩行者優先」のルールを浸透させるため。
- 歩行者妨害の罰則・反則金・違反点数
- 罰則:3ヶ月以下の懲役又は5万円以下の罰金
- 反則金:普通車で9000円(大型車1万2000円、二輪車7000円)
- 違反点数:2点
歩行者妨害の違反切符が切られたが納得できないなどお困りの方は、反則金を支払わないと刑事手続きとなり刑事罰を受ける可能性がありますので、事前に刑事事件を取り扱っている弁護士への相談をおすすめします。