「親が借金をしているようだ。親の借金について、子供が返さないといけないことってある?」
かつて日本では「親の面倒を子が看る」との考え方が支配的でした。
そのためか、悪質な貸金業者が親の借金の返済を子供に迫ることもあります。
果たして親の借金を子供が支払う義務はあるのでしょうか。
結論から言えば、親の借金はあくまでも親の借金ですので、原則として子供が返済する義務を負いません。
ただし、子供が親を相続した場合など限定的なケースでは子供が親の借金について返済義務を負うこともあります。
今回の記事では、
- 親の借金について子供が返済義務を負う場合
- 借金の支払を回避する方法
- 親の借金の調べ方
などについてご説明します。
早稲田大学、及び首都大学東京法科大学院(現在名:東京都立大学法科大学院)卒。2012年より新宿支店長、2016年より債務整理部門の統括者も兼務。分野を問わない幅広い法的対応能力を持ち、新聞社系週刊誌での法律問題インタビューなど、メディア関係の仕事も手掛ける。第一東京弁護士会所属。
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親の借金を子供が返済する義務はある?
そもそも、借金の返済義務を負うのは、次の立場の方です。
- 借主(債務者)自身
- 借金の保証人等
親の借金はあくまでも借主(債務者)である親が返済義務を負います。
親が作った借金だからといって、無条件で子供が肩代わりしなければいけないわけではないのです。
(1)親の借金を債権者から取り立てられることはある?
お金を貸した人(債権者)は、債務者や保証人など法律上返済義務を負う人以外に取立てすることはできません。
特に、登録している貸金業者が債務者以外の第三者に返済を請求することは違法です(貸金業法21条1項7号)。
ところが、闇金のような悪質な貸金業者の中には「子供には親を扶養する義務がある」と主張して、親の借金を肩代わりさせようとすることがあります。
扶養義務は、民法877条1項に規定されています。
直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。
引用:民法877条1項
親子は、直系血族にあたるので、確かに子供には親を扶養する義務があります。
ただし、注意すべきはこの義務はあくまで当事者間でのみ生じることです。
子供は、親から助けを求められたときに、生活に余裕があれば援助する必要があります。
しかし、他人である債権者が扶養義務を理由に、子供に対して親の借金の肩代わりを求めることはできません。
そのため、扶養義務を理由に親の借金の返済を求められたら、きっぱりと断りましょう。
闇金が嫌がらせをするようであれば、警察(#9110)に助けを求めたり、弁護士に相談したりしましょう。
参照:暮らしに役立つ情報 警察に対する相談は警察相談専用電話 #9110へ|政府広報オンライン
(2)親の借金を肩代わりすることも可能
子どもだからといって親の借金の返済する義務はありませんが、子供が自発的に親の借金を肩代わりすることは可能です(「第三者弁済」といいます。ただし、基本的に親の意思に反して支払うことはできません)。
借金の総額を調べて自ら直接債権者に支払うのも1つの方法です。
第三者弁済について詳しくはこちらの記事もご確認ください。
なお、親の借金を完済してあげるならば、その後親が借金を繰り返してしまわないように、借金の原因を把握しておくことをおすすめします。
借金の原因がギャンブルなどであれば、依存症の可能性もありますから、カウンセリングに付き合うことも検討してください。
また、一括では親の借金の弁済はできないけれど、子供も債務者となって、親に代わって(又は親と一緒に)分割で借金を返してあげたい場合には、次のことをすると、可能になることがあります。
免責的債務引受
※子供だけが債務者になって、親の借金の返済義務を負う場合
併存的債務引受
※親と子供の両方が債務者となって、親の借金の返済義務を負う場合
いずれも債権者と子供が合意をするか、親と子供が合意をして債権者の同意を得ることによって成立します(民法470条、472条)。
親子だけで約束をしても効果は生じません。
親の借金の肩代わりに関して、見返りを求めるかどうかは親子の関係性等によるでしょう。
現金や預金はないけれども不動産はあるというケースでは、不動産の相続にあたって多少優遇してもらう方法もあります。
ただし、兄弟などほかの相続人がいる場合には事情を知らないと、相続時にもめる可能性がありますので、親から事前に説明してもらう又は遺言書にそのことを記載しておいてもらうなど注意が必要です。
また、子供が親のために、借金を無償で肩代わりしてあげる場合、肩代わりした分について、子から親に贈与があったとみなされる可能性がありますので、注意が必要です(税務署、税理士等の専門家に相談ください)。
親の借金を子供が返済しなければならない場合は?
では、子供が親の借金を返済したくない場合でも、子供が親の借金を返済しなければならない場合はあるのでしょうか。
実は、次のようなケースでは、子供の希望とは関係なく、原則として、子供が親の借金を返済しなければなりません。
- 「子供の名義」で親が借金をしていた場合
- 借金を完済する前に親が死亡した場合
- 子供が親の借金の保証人になっている場合
それでは、具体的にみていきましょう。
(1)「子供の名義」で親が借金をしていた場合
「子供の名義」で親が借金をしていた場合については、次のとおりに場合分けができます。
- 「子供の名義」で親が借金をすることを子供が承諾していた場合
- 承諾はしていないが、子供自身に落ち度がある場合
- 子供自身に全く落ち度がない場合
(1-1)「子供の名義」で親が借金をすることを子供が承諾していた場合
いわゆるブラックリスト(※)に載っており自分で借りられないなどの理由で、親から「お金を借りて欲しい」と頼まれることがあります。
※金融機関にブラックリストという名簿はありませんが、延滞等をすると信用情報に事故情報が載ることがあります。このことを俗に「ブラックリストに載る」といいます。
ブラックリストについて詳しくはこちらの記事をご確認ください。
自分の名前を貸して他人に契約をさせることを「名義貸し(めいぎがし)」といいますが、この場合、親の借金を子供が返済しなければなりません。
「名義貸し」には、次の3点のリスクがあります。
- 名義を貸した人・借りた人双方に、貸金業者に対する詐欺罪が成立しかねない(詐欺罪:10年以下の懲役)
- 貸金業者に対する借金の返済義務は、名義を貸した人にある
- 借金の返済を滞納すると、名義を貸した人の信用情報に事故情報が登録される
困っている親から頼まれると「名前くらい貸してもいいか……」と思うかもしれませんが、気が付くと想像以上に借金が膨らんでしまう可能性もあります。
名義貸しを承諾した場合は、子供が返済義務を負いますので、キッパリと断るようにしましょう。
(1-2)承諾はしていないが、子供自身に落ち度がある場合
例えば、子供が親に財産管理を任せて実印やマイナンバーカードなどの身分証明書などを預けており、親がこれらを勝手に使って借金をしたような場合です。
この場合には、親が子供の名義を使って借金をしたことについて子供にも責任があります。
ですから、子供が借金の返済義務を負う可能性があります。
(1-3)子供自身に全く落ち度がない場合
これに対して親が子供の印鑑などを、勝手に持ち出して、子供の名義でお金を借りることがあります。
これは名義貸しではなく、「名義冒用(めいぎぼうよう)」(※名義を本人の同意を得ないで勝手に利用することです)と呼ばれています。
親とはいえ、子供の名義で契約をする権限はありませんので、契約は無効です
ですから、子供は、債権者から借金の返済を求められても、断ることができます(※事情を分かった上で、子供が後から「追認」(契約を後から有効にすること)することはできます)。
しかし、債権者が借金の取立てを諦めない場合には、裁判に発展する可能性があります。
そうなると、親が勝手に自分の名義を使用しただけで、自分の借金ではないということや、自分には名義を冒用されたことに落ち度はなかったことを子供自身が証明しなくてはいけません。
親が無断で子供の名義で借金をしたと知ったならば、すぐに弁護士に相談するのが良いでしょう。
(2)借金を完済する前に親が死亡した場合
親が親の名義で借金をした場合でも、子供が債務者になるケースがあります。
それは、借金を完済する前に親が死亡したケースです。
子供は、親の財産を相続します。
何を相続するかについては、民法896条で、次のように規定されています。
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。
引用:民法896条
「一切」とあるように、銀行預金や不動産に限られず、借金も相続の対象になります。
遺言などがない場合は、法律の定める相続分に応じて財産を相続します(民法900条1号)。
もし両親の一方が生きていれば、生きている親が財産の2分の1、残りの2分の1を子供間で均等に分配します(例えば、子供が3人いるという場合、子供はそれぞれ6分の1ずつ相続します)。
もし既に両親がともに亡くなっていれば、財産を子供間で均等に分配します。
親の借金を相続した場合には、子供が債務者となりますから、残った借金について原則として子供が返済しなければなりません。
ただし、後述の通り、一定の条件を満たした上で相続放棄をすれば、相続した借金の返済義務を免れることができます。
(3)子供が親の借金の保証人になっている場合
保証人とは、主債務者が借金の返済をできなくなったときに代わりに返済する人です。
“連帯”保証人になると、次の2つの制限が付きます(民法454条)。
- 「私に請求する前に主債務者に請求してください」と言えない
- 「主債務者はお金があるのでそちらから回収してください」と言えない
つまり、親の借金について連帯保証人になると「親の借金なので親に請求してください」とも「親には支払うお金があるはずなので親から回収してください」とも言えません。債権者があくまでも子供から回収しようとする場合、借金を返済せざるを得ないのです。
特に連帯保証人は、重い責任を負うので、しっかりと考えてから契約してください。
既に保証人なのであれば、親がきちんと返済できているかを把握しておくことが大切です。
親の借金の保証人になっています。
借金がいくらくらい残っているか親に聞いても「ちゃんと返しているから心配ない」と言って教えてもらえません。
どうしたら良いですか?
2020年4月1日以降に締結した保証契約であれば、親から頼まれて保証人になった場合には、債権者は残債務などについて問い合わせがあれば、必ず回答しなければいけないことになりました(民法458条の2)。
まずは、債権者に確認することをお勧めします。
参照:2020年4月1日から 法務省 保証に関する民法のルールが 大きく変わります|法務省
もし返済に困っているようであれば、弁護士に債務整理を相談することを検討しましょう。
親と子供が保証人の関係にある場合、親と子供双方の債務整理が必要になることがあります。詳しくは弁護士などの専門家にご相談ください。
借金の支払を回避する方法
親の借金の返済義務を負わないためには、名義貸しを承諾したり、保証人等にならないことが大切です。
もっとも、親が親の名義で借金するのを子供は止められません。
親の借金を相続してしまわないように、相続放棄・限定承認、債務整理についてお伝えします。
(1)相続を放棄する
銀行預金や不動産のようなプラスの財産よりも借金のほうが明らかに多いなら、「相続放棄」を検討しましょう。
相続放棄とは、相続する権利を放棄することです。
ただし、相続放棄をすると借金だけでなくすべての財産を相続できなくなるので、注意してください。
相続放棄について詳しくはこちらの記事をご確認ください。
なお、相続放棄をするためには、親の死亡を知ってから原則として3ヶ月以内に、家庭裁判所で手続きをしなければなりません(※相続人同士で話し合って放棄をするだけでは債権者に対する効力はありません)。
参照:相続の放棄の申述|裁判所- Courts in Japan
親の借金を全く知らなかったため、相続放棄すべきかどうかも判断できないという場合には、必ず3ヶ月以内に、家庭裁判所に対して期間の伸長を申立ててください。
何もせずに3ヶ月が経過してしまうと、相続放棄ができなくなりますので、注意が必要です。
参照:相続の承認又は放棄の期間の伸長|裁判所- Courts in Japan
また、例えば次のような行為をすると、相続を承認したとみなされて相続放棄をできなくなるので、注意しましょう(民法921条)。
親が亡くなった後で―――
- 親の口座からお金を引き出して私用に使った
- 不動産の名義を親から自分に変更した
- 遺産分割協議をした など
なお、相続放棄をしたからといって、親の借金がなくなるわけではありません。
相続放棄をすると、相続をする権利は次順位の相続人に移ります。
たとえば、祖父や祖母が生きていれば、子が相続放棄すると、祖父母が借金を相続します。
借金が多すぎて相続放棄をするのであれば、後順位の相続人を含めた相続人全員で相続放棄するのが良いでしょう。
少なくとも後順位の相続人に対して借金の総額を伝えておくと波風が立たないはずです。
(2)限定承認を行う
限定承認とは、プラスの財産の限度で、借金を相続することです。
たとえば、300万円の資産、700万円の借金がある場合には300万円分の資産と借金をそれぞれ相続することになります。
どうしても相続したい財産があるケースでは、限定承認を検討することになるでしょう。
相続人が複数いるときには、相続人全員で限定承認をする必要があります(民法923条)。相続放棄と同様、親の死亡を知ってから原則として3ヶ月以内に、限定承認の申述審判申立書等を家庭裁判所に提出することになります。
※相続放棄に比べ、限定承認は手続きが複雑ですので注意しましょう。
参照:相続の限定承認の申述|裁判所- Courts in Japan
(3)親が存命中に債務整理をしてもらう
もしも、まだ親が生きている場合には、親に債務整理を進めてもらうことも一つの方法です。
親が債務整理をすれば、親の借金を減らしたり、無くしたりできる可能性があります。
どうも親が借金をしているようだという方は、まずは借金額などを調べた上で、良い債務整理の途がないか、弁護士などに相談されることをお勧めします。
親が古くから借金をしている場合には、調べてみると、思わぬ「過払い金」が発生していることがよくあります。
そして、過払い金があれば、親の手元にお金が戻ってくることもあります。
まずは、借金の借入・返済時期などを調べてみてください!
親の借金の調べ方を解説
相続をどうするか等を決めるためにも、親の借金の総額を知ることが大切です。
もっとも、子供から直接「借金はあるのか?」と質問するのは抵抗があるかもしれません。
また、親としても弱みを見せたくない等の理由で正直に打ち明けにくい可能性があります。
生きているうちに親の借金を把握することはなかなか難しいのが実情でしょう。
次は、親の借金を把握する方法を紹介します。
(1)親が生きている場合は抵当権を調べる
親が建物や土地を所有している場合には、抵当権が設定されているかを調べてみましょう。
インターネット上の「登記情報提供サービス」や「登記・供託オンライン申請システム」で簡単に登記情報を調べることも可能です。
抵当権が現存している場合には、かなり高い確率で借金があります(ただし、住宅ローンであることも多いです)
参照:登記事項証明書等の請求にはオンラインでの手続が便利です|法務局
(2)郵便物や通帳をチェックする
親が生きている場合はなかなか確認しにくいでしょうが、親の同意を得て郵便物や通帳をチェックするのも親の借金を知る有効な手段です。
債権者からの督促状や裁判所からの書類が届いているかもしれません。
あるいは、通帳をみると毎月債権者からお金を引き落とされているのがわかるかもしれません。
(3)親が亡くなった場合は信用情報機関に情報開示請求を行う
親が亡くなった場合には、信用情報機関に信用情報の開示請求を行うのが良いでしょう(所定の手数料がかかります)。
信用情報の開示請求を行っただけでは事故情報(ブラックリスト)には載りませんのでご安心ください。
信用情報を見れば、親がどの貸金業者から借り入れをしていたのかなどを知ることができます(ただし、契約終了から一定期間経った取引は記録が削除されています)。
信用情報機関に対する情報開示請求について詳しくはこちらの記事もご参照ください。
法定相続人であることを証明する書類を同封すれば、郵送でも開示請求ができます。
信用情報機関は、次の3つです。3つ全てに開示請求するのが良いでしょう。
- シー・アイ・シー(CIC)
- 日本信用情報機構(JICC)
- 全国銀行個人信用情報センター
ただし、友人や知人等、信用情報機関に登録していない者から借りていた場合には信用情報からは借金を把握できないので、注意してください。
【まとめ】親の借金について、原則として子供は支払義務を負わない
今回の記事のまとめは、次のとおりです。
- 親の借金はあくまでも親の借金であって、基本的には子供に返済義務はない。
- 親の借金について、子供が第三者弁済や債務引受によって、代わりに支払うことはできる。
- 子供が親の借金を支払いたくなくとも、次のようなケースでは、基本的には子供が借金を支払う義務がある。
- 親が子供名義で借金をすることについて承諾していた場合
- 親が子供名義で借金をしたことについて子供に落ち度がある場合
- 親の借金を子供が相続した場合
- 子供が親の借金の保証等をしている場合
- 親の借金の支払を回避する方法は、次のとおり。
- 相続した場合には相続放棄又は限定承認をする。親が生きている間に、
- 親に債務整理をしてもらう。
- 親の借金を調べる方法は、次のとおり。
- 親が生きている間に抵当権を調べる
- 親の同意を得て郵便物を調べる
- 親が死亡した場合には信用情報機関に対して、信用情報の開示請求をする。
親の死後に予期せぬ借金が発覚することも多いです。
親が生きている間に借金についても話し合い、返済が難しいようでしたら、早めに債務整理をすることをお勧めします。
アディーレ法律事務所では、所定の債務整理手続につき、所定の成果を得られなかった場合、原則として、当該手続に関してお支払いただいた弁護士費用を全額ご返金しております。
また、完済した業者への過払い金返還請求の場合は、原則として過払い金を回収できた場合のみ、弁護士費用をいただいておりますので、弁護士費用をあらかじめご用意いただく必要はありません。(2021年10月時点)
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