「割増賃金率は、いったいどれくらいの率なんだろう?」
一定の時間外労働や深夜労働をした場合などには、法定の割増賃金率以上の率で割り増した割増賃金が支払われます。
例えば、時間外労働に対しては、原則1.25倍以上の率で割り増した割増賃金が支払われます。
割増賃金率を知っておくことで、残業をした場合に適切な残業代を請求することが可能となります。
この記事では、次のことについて弁護士が解説します。
- 割増賃金率とは何か
- 2023年4月からの制度改正
- 割増賃金率の計算方法
- 割増賃金率が適用されていない場合の対処方法
中央大学卒、アディーレ入所後は残業代未払いの案件をメインに担当し、2018年より労働部門の統括者。「労働問題でお悩みの方々に有益な解決方法を提案し実現すること」こそアディーレ労働部門の存在意義であるとの信念のもと、日々ご依頼者様のため奮闘している。東京弁護士会所属。
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割増賃金率とは何か
会社が労働者に時間外労働や休日労働、あるいは深夜労働をさせた際には、通常の賃金よりも割り増しをした賃金(割増賃金)を支払う必要があります。
その際の割増率を「割増賃金率」と呼んでいます。
割増賃金率は労働基準法37条で定められています。
時間外労働などをした場合には、割増賃金が支払われることにより、1時間当たりのもらえる残業代は通常の1時間当たりの賃金よりも増額されます。
残業代が通常の賃金よりも増額されるのですか?それはうれしいです!ですが、具体的にどれだけ増額されるのでしょうか?
残業代がどれだけ増額されるか(割増賃金率がどれだけか)については、これからご説明します。とりあえず具体的にもらえる残業代の額を知りたい方は、次にご紹介する「残業代かんたん計算ツール」を使ってみるのがおすすめですよ。
「残業代かんたん計算ツール」は、いくつかの簡単な質問に答えるだけで請求できる残業代の見込み額を簡単に計算することができるツールです。
※あくまでも簡易的に計算するためのツールなので、実際の請求額とは異なる可能性があります。
2023年4月から中小企業の割増賃金率のルールが変わる
労働基準法37条1項によると、割増賃金率は、次のようになっています。
- 時間外労働・休日労働の割増賃金率は、原則1.25倍以上
- 時間外労働が月60時間を超えた場合には、その超えた時間に対しては1.5倍以上
ここで、1ヶ月の時間外労働が60時間を超えた場合のルールは、中小企業に関しては、その適用が見送られてきました。
その結果、2022年11月現在、月60時間を超える残業に対する割増賃金率は、大企業であれば50%、中小企業であれば25%とされています。
もっとも、2023年4月1日からは、中小企業にも50%の割増ルールが適用されることになっています。
2023年4月1日以降は、中小企業でも大企業と同様に月60時間を超える割増賃金率が50%以上とされるので、特に中小企業で働く方にとっては注意が必要です。
参考:しっかりマスター労働基準法-割増賃金編-(P.3)|東京労働局
割増賃金率の計算方法
さきほどもご説明したとおり、時間外労働、休日労働、深夜労働をした場合には、それぞれもらえる残業代が通常の賃金と比べて増額されます。
この増額される率のことを、割増賃金率と言います。
それでは、時間外労働、休日労働、深夜労働のそれぞれについて、割増賃金率の計算方法を紹介していきましょう。
割増賃金率をまとめた表は、次のとおりです。
(1)時間外労働
時間外労働の割増賃金率は、労働時間が法定労働時間を超えたときと、1ヶ月の時間外労働が60時間を超えたときの2段階で設定されています。
(1-1)法定労働時間を超えたとき
法定労働時間とは、法律で定められた労働時間の原則的な上限のことをいいます。
労働時間は、週40時間、1日8時間が限度とされています(労働基準法32条)。
その法定労働時間を超えた分の時間外労働に対する賃金には、25%以上の割増賃金率が適用されます。
(1-2)時間外労働が1ヶ月で60時間を超えたとき
時間外労働が1ヶ月で60時間を超えた分については、50%以上の割増率が適用されます(労働基準法37条1項ただし書)。
なお、先述したとおり、現在は中小企業についてはこの規定の適用が猶予されていますが、2023年4月1日以降は中小企業にも適用されることになっています。
2023年4月1日以降は、大企業も中小企業も、一律に50%以上の割増賃金率が適用されるということになります。
(2)休日労働
「法定休日」に働いたときは、35%以上の割増率が適用されます。
「法定休日」とは、労働基準法35条で定められている、必ず設けなくてはならない休日のことをいい、毎週少なくとも1日または4週間のうちに4日以上設ける決まりになっています。
土日が休みという会社なら、土曜か日曜のどちらかが法定休日で、もう一方は会社が独自に定める法定外休日ということになります。
土日のどちらが法定休日であるかを定めていない場合には、暦週(日曜から始まり、土曜で終わる)の後の順番に位置する土曜が、法定休日となります。
土曜が法定外休日で日曜が法定休日である会社の場合、日曜の出勤には35%以上の割増率が適用され、土曜の出勤には1日8時間・週40時間の法定労働時間を超えた分に25%以上の割増率が適用されます。
(3)深夜労働
22~5時の間にした労働に対しては、25%以上の割増率が適用されます(労働基準法37条4項)。
(4)各条件が重複するときは?
各条件が重複するときは、それぞれの割増賃金率を足し合わせた率が適用されます。
時間外労働かつ深夜労働の部分には、25%+25%=50%の割増率が適用されます。
例:所定労働時間が9~17時(休憩1時間)で、9~23時まで働いた場合
→17~18時の労働は法定時間内残業のため、割増なしで通常の賃金が支払われます。
18~22時の労働には、法定時間外の労働として25%の割増賃金が支払われます。
22~23時の労働は法定時間外かつ深夜労働なので、50%の割増賃金が支払われます。
法定休日労働かつ深夜労働の部分には、35%+25%=60%の割増率が適用されます。
例:所定労働時間が9~17時(休憩1時間)で、9~23時まで働いた場合
→9~22時の労働には、休日労働として35%の割増賃金が支払われます。
22~23時の労働は、休日労働かつ深夜労働なので、60%の割増賃金が支払われる。
割増賃金率が適用されていない場合の対処法
私は深夜労働などをしていて、割増賃金率が適用されて割り増した賃金が支払われるはずです。
ですが、きっちりと割り増した賃金が支払われていません。
どのように対処したらいいのでしょうか?
「労働基準監督署に相談する」「弁護士に相談する」などの方法があります。
決して泣き寝入りはしないようにしましょう。
割増賃金率が適用されるはずなのに、割増分の給与が支払われていないという場合にはどうしたらよいでしょうか。
ここからは、そうした場合の対処法について、紹介していきます。
(1)労働基準監督署に相談する
労働基準監督署は、会社が労働基準法などの労働基準関係法令に違反している疑いがあるときに相談できる機関です。
労働基準監督署にいる労働基準監督官には次のような権限があります。
- 立ち入り調査
- 帳簿や書類の提出要求
- 使用者や労働者への尋問
- 作業環境測定
- 労働基準関係法令違反に関する強制捜査 など
労働基準監督署は全国に設けられています。
労働基準監督署に行く際には、会社の違法行為を証明できるもの(タイムカードや給与明細など)を持っていくと、スムーズに話が進みます。
もっとも、労働基準監督署は、会社と労働者との間に生じた個別紛争を解決することを直接の目的とした機関ではなく、また労働者の代理人として会社とやり取りをする訳でもないため、その対応には限界があります。
労働者であるあなたの代理人として会社とやり取りをしてもらいたい場合には、次にご紹介する弁護士に相談するという方法をとるのがよいでしょう。
(2)弁護士に相談する
職場の労働環境を改善したいという場合には労働基準監督署に相談するのも効果的ですが、「未払いになっている賃金を会社に請求したい」というような場合は、弁護士に相談するのがおすすめです。
弁護士に相談する方が、労働基準監督署に相談する場合よりも迅速に動いてもらいやすいためです。
また、弁護士に相談すれば、弁護士があなたの代理人としてあなたのために残業代を取り戻すための活動をしてくれます。
労働問題に精力的に取り組んでいる弁護士に相談すると、会社との交渉から訴訟まで幅広く対応してもらうことができます。
弁護士を選ぶのであれば、労働問題に積極的に取り組んでいる弁護士を選ぶようにしましょう。
【まとめ】割増賃金が未払いなら弁護士に相談しましょう
この記事のまとめは次のとおりです。
- 会社が労働者に対し、時間外労働、休日労働、深夜労働をさせた際に通常の賃金よりも割り増した賃金を支払う義務がある。
割増賃金率とは、この割増率のこと。 - 2023年4月から中小企業の割増賃金率のルールが変わり、大企業と同様に、時間外労働が月60時間を超えた場合には、その超えた時間に対して1.5倍以上の割増率で計算した割増賃金を支払わなければならなくなる。
- 時間外労働の割増賃金率は、原則1.25倍以上(月60時間を超えた場合には1.5倍以上)。
休日労働の割増賃金率は、1.35倍以上。
深夜労働の割増賃金率は、1.25倍以上。 - 割増賃金率が適用されていない場合の対処法として、「労働基準監督署に相談する」「弁護士に相談する」ということがある。
割増賃金が支払われていない場合には、その分を会社に請求することができます。
また、割増賃金が支払われていない場合には、同時に残業代も支払われていないというケースも多いです。
もらう権利があるはずの割増賃金を含めた残業代をもらえていないという場合には、決して泣き寝入りしないで、会社に対して請求するようにしましょう。
アディーレ法律事務所は、残業代請求に関し、相談料、着手金ともにいただかず、原則として成果があった場合のみを報酬をいただくという成功報酬制です。
そして、原則として、この報酬は獲得した残業代からお支払いとなり、あらかじめ弁護士費用をご用意いただく必要はありません。
また、当該事件につき、原則として、成果を超える弁護士費用の負担はないため費用倒れの心配がありません。
※以上につき、2022年11月時点
残業代請求でお悩みの方は、残業代請求を得意とするアディーレ法律事務所へご相談ください。