「うちは中小企業だけど、何だかやたら残業が多いんだよな。毎月の支給額に残業代が反映されてなさそうに見えるし、もしかしてブラック企業?」
「転職先として中小企業も考えてるんだけど、『中小企業はブラックが多い』って聞いたことがある。ブラック企業には入りたくないなぁ……。」
度を越した長時間労働や、劣悪な環境での労働などを強いる企業が、「ブラック企業」と呼ばれることがあります。
そして、「中小企業にはブラック企業が多い」と言われることもあるのですが、「中小企業=ブラック企業」ではありません。
ブラック企業ではない中小企業もありますし、逆に大企業でもブラック企業と言われるところもあります。
ただし、中小企業の場合、労働者の人数が少ない分一人当たりの負担が重くなりがちです。こうしたことから、経営陣がコンプライアンスを遵守しないと「ブラック企業」になりやすいという側面もあります。
今ブラック企業にいる方も転職を考えている方も、今後ブラック企業に入らないために、ブラック企業の特徴や見極め方を抑えておくことがおすすめです。
この記事では、次のことについて弁護士が解説します。
- 「中小企業にはブラック企業が多い」と言われがちな3つの理由
- ブラック企業にありがちな7つの特徴
- 今いる会社がブラック企業だと感じたときに抜け出すための対処法
- ブラック企業に転職しないための3つの対処法
中央大学卒、アディーレ入所後は残業代未払いの案件をメインに担当し、2018年より労働部門の統括者。「労働問題でお悩みの方々に有益な解決方法を提案し実現すること」こそアディーレ労働部門の存在意義であるとの信念のもと、日々ご依頼者様のため奮闘している。東京弁護士会所属。
「中小企業にはブラック企業が多い」と言われがちな3つの理由
中小企業の全てがブラック企業というわけではありません。
ニュースなどで報道されているように、大企業でもブラック企業と呼ばれるところはあります。
ですが、「中小企業にはブラック企業が多い」と言われがちなのには、理由もあります。
主な理由には、例えば次のものがあります。
- 労働者一人あたりの負担が重くなりがち
- ブラック企業であることがバレても、企業イメージへのダメージが小さい
- 経営陣が、労働基準法などの法規を把握していない
それぞれについてご説明します。
(1)労働者一人あたりの負担が重くなりがち

もともと中小企業は、大企業よりも労働者の数が少ないです。
また、中小企業の中には、経営状況が厳しいところも少なくありません。
そのため、「雇う人数を少なくして人件費を下げ、コストを削減しよう」という発想につながってしまうことがあります。
ある仕事に関わる人数が少なければ、その分一人あたりの負担は重くなってしまいます。
企業側が一人あたりの負担の重さを考えずに、「とにかく期限を守れ!」と言っていては、有休を取れないどころか、法定休日すら休めないといった事態にもつながりかねません。
(2)ブラック企業であることがバレても、企業イメージへのダメージが小さい
例えば大企業が異様に長い時間外労働を労働者に強いたことなどが報道され、明るみに出ると、企業イメージが大幅にダウンすることがあります。
イメージダウンは、例えば次のようなダメージにつながります。
- 【上場している企業】株価が暴落する
- 就活生の間での人気が下がる
- 不買運動が起きて売り上げが下がる
- 今までの顧客が同業他社に移る
こうしたイメージダウンを極力避けるため、コンプライアンス遵守のための規則作成や研修などに力を注いでいる大企業が近年増えています。
一方、中小企業の場合、大企業よりも規模が小さい分ダメージも小さくなりがちです。
そのため、「ブラック企業だとバレたときのダメージが小さいから、中小企業はブラックになりがちだ」と言われてしまうことがあるのです。
(3)経営陣が、労働基準法などの法規を把握していない
また、中小企業の場合、経営陣が労働基準法などの法規を十分に把握していない場合があります。
労働基準法とは、労働者が人間らしい生活を送れるようにするため、労働時間の長さに一定の歯止めをかけたり、残業などが生じた場合の賃金の割増率について規定したりしている法律です。
大企業の場合、コンプライアンス遵守のため、社内弁護士などのいる法務部を設けて労働基準法違反などを予防しているところが少なくありません。
一方、中小企業の場合には、そもそも法務部がなかったり、経営陣が労働基準法などをきちんと把握しようとしていないところもあります。
そのため、異様な長時間労働が起こってしまったり、残業代が未払いになったりして、「ブラック企業」と呼ばれてしまう場合があるのです。
ブラック企業と言われる中小企業にありがちな7つの特徴
ブラック企業と言われる中小企業は、次の7つの特徴のうちいくつかに当てはまっていることが多いです。
- 長時間労働が常態化している
- 有給休暇を取得できず、休日にも出勤しないといけない
- 残業代を払ってもらえない
- パワハラやセクハラなどが横行している
- 業務効率化などが行われず、精神論が唱えられている
- 労働者が定着せず、離職率が高い
- 退職させてくれない
それぞれの特徴についてご説明します。
(1)長時間労働が常態化している
繰り返しになりますが、中小企業の場合、労働者一人あたりの負担が重くなりがちです。
期限の決まった仕事を少人数でこなさなければならないとなると、長時間労働につながってしまうのです。
「長時間労働かどうか」の目安となるものの1つに、「36協定」があります。
労働基準法上、そもそも企業が労働者に時間外労働をさせるためには「36協定」が必要なのですが、たとえ36協定があったとしても時間外労働には次のような上限があります。
原則、月45時間・年360時間まで
この上限を超えた長時間労働を強いる企業は、ブラック企業である可能性が高いです。
長時間労働に歯止めをかけるための「36協定」について、詳しくはこちらをご覧ください。
また、長時間労働かどうかの目安としては、いわゆる「過労死ライン」もあります。
過労死ラインとは、過労死などにつながるリスクが高いとされる時間外労働の基準です。
次の2つのうち、少なくとも1つに当てはまっていると、長時間労働が原因で過労死などが起こったと認められやすくなります。
- 直近1ヶ月の時間外労働や休日労働が100時間超え
- 直近2~6ヶ月間の時間外労働や休日労働がおおむね80時間超え
時間外労働などがこの過労死ラインすれすれかオーバーしているという場合、ブラック企業の可能性が濃厚です。
過労死ラインや、時間外労働が長すぎると感じた場合の対処法について詳しくはこちらをご覧ください。
(2)有給休暇を取得できず、休日にも出勤しないといけない
長時間労働をしないととうてい終わらない仕事量を振られていれば、有給休暇を取得することも難しくなってしまいます。また、有給休暇の取得を申請しても、「同僚に迷惑がかかるだろう」などと言われて拒否されてしまうケースもあります。
さらに、そのような仕事量が割り振られていては、労働基準法確保されている最低限度の休日である「法定休日」(原則、1週間に1日)すら、出勤しなければならなくなる場合もあります(休日出勤)。
休日出勤をした場合、法定休日ではない日に働いた場合よりも割り増しされた賃金が支払われるべきこととなっています。
休日出勤の割増賃金について、詳しくはこちらをご覧ください。
(3)残業代を払ってもらえない
次の3つの場合、企業は労働者に対して割増賃金を支払わなければなりません。
- 時間外労働(法定労働時間をオーバーした労働)
- 深夜労働(原則、22~5時までの労働)
- 休日労働(法定休日に発生した労働)
しかし、ブラック企業だと残業代を全く払ってもらえなかったり、一部分しか払ってもらえないというケースも多いのです。
残業代を払ってもらえなければ、本来働く必要のなかった時間にただ働きさせられたこととなります。
定時を過ぎても職場に残ったり、休日に出勤したりすることが多いという方の場合、もらえていない残業代がないかチェックしてみることがおすすめです。
(4)パワハラやセクハラなどが横行している
ブラック企業では、パワハラやセクハラが横行していることも多いです。
- パワハラ:職場での地位などを利用した、部下などへの嫌がらせ
- セクハラ:職場において、性別などに関することが原因で嫌がらせや不利益な取扱いを受けること
パワハラを受けたと感じた場合の対処法について、詳しくはこちらをご覧ください。
セクハラを受けたのではないかと感じたときの対処法について、詳しくはこちらをご覧ください。
(5)業務効率化などが進まず、精神論が唱えられている
仕事量に対して人員が足りていないにもかかわらず、ブラック企業では業務効率化などが図られない場合があります。
そして、このような場合、何とか仕事の期限などを守らせるために、「努力すれば何とかなるはずだ」「仕事が進まないのを環境のせいにするな」などといった精神論ばかりが唱えられていることが多いです。
(6)労働者が定着せず、離職率が高い
就業環境が決して良いとはいえないブラック企業の場合、入社しても早々に退職してしまう人が少なくありません。
そのため、「先週の金曜日までは来ていた誰々さんが、週明けから来なくなってしまった」ということが頻繁に起こり、離職率が高くなりがちです。
(7)退職させてくれない
仕事量も時間外労働も多い過酷なブラック企業となると、退職したいと思われるのはごく自然なことです。
しかし、ブラック企業では、退職したいと言っても拒否されてしまう場合があります。
ただでさえ仕事量が多く離職率が高くなりがちなブラック企業は、「今あなたが辞めたら、同僚に迷惑がかかる。そのうえ、今のプロジェクトがダメになったら、会社が潰れてしまう」などと執拗な引き止めを行うことがあるのです。
「こんなブラック企業では働けない!」と思った人のための3つの対処法

それでは、ご自身の職場がブラック企業だと感じた方向けに、そこから抜け出すための主な対処法をご説明します。
(1)労働基準監督署に相談する

労働基準監督署とは、企業が労働基準法などの労働基準関係法令をきちんと守っているか監督する公的機関です。労働基準関係法令への違反について、無料で相談することができます。
例えば残業代の未払いが起きている場合、その企業は労働基準法37条1項などに違反していることとなり、労働基準監督署に相談できます。
労働基準監督署は、労働基準関係法令に違反していることが疑われる企業について調査をしたり、実際に違反の事実が確認できれば是正勧告などを通じて改善を図ります。
もっとも、労働基準監督署は、労働者個人が実際に会社から過去の未払い残業代の支払いを受けるところまでは面倒を看てくれません。
会社が過去の未払い残業代を支払ってくれなければ、労働者自身が会社に対して未払い残業代の支払いを請求する必要があります。
その場合、ご自身で対応するのではなく、弁護士に依頼することをお勧めします。
弁護士に依頼すれば、ご自身で対応することの労力や時間から解放されます。
また、専門的な判断に基づいた請求が可能となります。例えば、未払いになっている残業代の証拠が不足している場合でも、手元にある範囲の証拠から推定計算できる場合もあります。
さらに、弁護士が就いたとなると会社が真摯に対応することも少なくありません。
労働基準監督署がどのようなところなのかについて、詳しくはこちらをご覧ください。
労働基準監督署に動いてもらいやすくするためには、相談の前に違反の証拠を集めておくこともおすすめです。
残業代が未払いになっている場合に集めておきたい証拠について、詳しくはこちらをご覧ください。
どこに相談すればいいか分からないとき:総合労働相談コーナー
労働問題について相談できる公的機関には、労働基準監督署以外にも、雇用環境・均等部(室)などもあります。
ですが、それぞれ担う役割が異なるので、自分が職場で困っている問題について、「どこに相談すればいいんだろう」と思われる方もいるかもしれません。
このような場合には、幅広い労働問題について相談できる「総合労働相談コーナー」がおすすめです。
総合労働相談コーナーに相談すると、問題解決に適した公的機関を案内してもらえるなど、問題解決のための情報を提供してもらえます。
(2)退職を検討する
たとえ労働基準監督署が是正勧告などをしても、ブラック企業の体質が一朝一夕に変わる可能性は決して高くありません。
そのため、思い切って退職や転職を検討するという道もあります。
退職しにくいときのための「退職代行」とは?
先ほど述べたように、ブラック企業では退職しようとしても執拗な引き止めに遭うおそれがあります。
また、周りの忙しそうにしている同僚を見て、「自分が退職したら、これまで一緒に耐えてきたみんなに迷惑をかける」と思ってしまい、退職をなかなか言い出せない方もいます。
しかし、このままブラック企業にとどまっていても、自分が疲弊していくばかりです。
そこで覚えておいていただきたいのが、「退職代行」です。
退職代行とは、退職の申し出や退職に伴うさまざまな手続きを、自分の代わりに行ってもらうサービスです。
退職代行は民間の業者が行っているケースもあります。しかし、企業との間でトラブルになった場合、民間の業者は代理人になれないので、結局自分で企業に対応しなければならなくなる可能性もあります。
例えば、「このタイミングで退職されたせいで、会社に大きな損害が生じた。損害賠償請求する」と言われてしまうケースがあります。
相手はブラック企業ですので、何を言ってくるか読めないところがあるのです。
一方、弁護士であれば代理人になれますので、企業との間でトラブルになっても代理人として間に立つことができます。
退職代行について、詳しくはこちらをご覧ください。
(3)残業代請求を検討する
退職を考えている方には、残業代請求の検討もおすすめです。
残業代請求のタイミングは、「退職後」となることが多いのですが、在職中でも準備しておけることはあります。
残業代請求のための、証拠集めです。
ブラック企業と言われるようなところだと、例えばそもそも打刻をさせないというところもあります。残業代請求の大前提として、何時から何時まで働いたかは非常に重要なのですが、このままでは正確な労働時間の把握が困難です。
そこで、在職中に「出退勤のときに、職場にある時計の写真を撮っておく」などの証拠集めをしておくと、残業代の計算に役立つ可能性があります。
退職後であっても、残業代請求の際に会社に対して証拠を開示するよう求めることはもちろんできます。
しかし、「ブラック企業」と呼ばれる会社となると、素直に開示に応じない可能性があります。
このような場合でも、残業代を推定計算するなどして残業代を獲得できる可能性は残っているものの、ご自身であらかじめ証拠を確保できていればよりスムーズに残業代を計算・獲得できる可能性があるのです。
<依頼者自身のメモを基に残業代を計算したケース>
<依頼者側に証拠が乏しく、会社も証拠開示を拒否したものの解決金を回収できたケース>
残業代請求のために集めておきたい証拠について、詳しくはこちらをご覧ください。
想像していたよりも、高額な計算結果になる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
実際にこの計算結果どおりの金額を回収できるとは限りませんが、回収の見込みについて弁護士に相談だけでもしてみる価値はあります。
残業代を請求する権利には、消滅時効があることにご注意ください。
2020年4月1日以降に支払日が来る残業代については、「3年」で時効にかかってしまいます。
月給制の方の場合、毎月の給料日ごとに残業代が時効で消えてしまうというイメージです。
少しでも多く回収できる可能性を高めるために、なるべく早めにご相談ください。
ブラック企業に転職しないための3つの対処法
ブラック企業に転職しないための対処法として、例えば次の3つを挙げることができます。
- 求人票をチェックする
…転職を考えている企業の求人票について、次のようなポイントに注目してみてください。- 何日も前からずっと同じ求人情報が出ていないか
なかなか人が定着しない、「ブラック企業」のおそれがあります。
- 同業他社の条件とかけ離れていないか
待遇の条件が同業他社よりも良すぎる場合、やはり人がなかなか定着しないことが原因となっているおそれがあります。
- 何日も前からずっと同じ求人情報が出ていないか
- 口コミを見る
…企業風土との相性もあるので、悪い口コミが1つあったからといってブラック企業と決まったわけではありません。しかし、同じ問題点について何件も口コミがある場合、ブラック企業であるおそれがあります。
- 企業データを見る
…転職する人などのために、企業ごとの有給消化日数や残業時間の平均などのデータを載せている雑誌もあります。例えば、残業時間についてのデータをそもそも開示していない企業の場合、公表できないほど残業時間が長い「ブラック企業」かもしれません。
転職を考えている企業がブラック企業かどうかを見極める方法について、詳しくはこちらをご覧ください。
【まとめ】一人あたりの業務負担が重くなりがちな中小企業は、「ブラック企業」になってしまうことも!
今回の記事のまとめは次のとおりです。
- 「中小企業にはブラック企業が多い」と言われがちな理由は、主に次の3つ。
- 労働者一人あたりの負担が重くなりがち
- ブラック企業であることがバレても、企業イメージへのダメージが小さい
- 経営陣が、労働基準法などの法規を把握していない
- ブラック企業と言われる中小企業は、次の7つの特徴のいずれかに当てはまっていることが多い。
- 長時間労働が常態化している
- 有給休暇を取得できず、休日にも出勤しないといけない
- 残業代を払ってもらえない
- パワハラやセクハラなどが横行している
- 業務効率化などが行われず、精神論が唱えられている
- 労働者が定着せず、離職率が高い
- 退職させてくれない
- 自分の職場がブラック企業だと感じた場合の対処法には、例えば次のものがある。
- 労働基準監督署などの公的機関に相談する
- 退職を検討する
- 退職とともに、残業代請求も検討してみる
- ブラック企業に転職しないための対処法には、例えば次の3つがある。
- 求人票をチェックする
- 口コミを見る
- 企業データを見る
ブラック企業に居続けても、企業風土などが改善する可能性は決して高くありません。
一人で頑張ろうとせず、労働問題については労働基準監督署などの公的機関や弁護士に相談してみてください。
また、いよいよ転職しようと思われた場合には、残業代請求できるかどうかのチェックもおすすめです。退職しようにも辞めにくいという場合には、退職代行もあります。
アディーレ法律事務所でも、残業代請求や退職代行についてのご相談を承っております。
まず、残業代請求についてですが、アディーレ法律事務所は、相談料、着手金ともにいただかず、原則として成果があった場合のみを報酬をいただくという成功報酬制です。
そして、原則として、この報酬は獲得した金銭(例:残業代、示談金)からお支払いとなり、あらかじめ弁護士費用をご用意いただく必要はありません。
また、当該事件につき、原則として、成果を超える弁護士費用の負担はないため費用倒れの心配がありません。
※以上につき、2022年6月時点
次に、退職代行についてですが、アディーレ法律事務所では退職代行に関する相談料は何度でも無料です。
残業代請求や退職代行について気になった方は、残業代請求や退職代行を得意とするアディーレ法律事務所へご相談ください。