自己破産は法律上認められた人生を立て直す方法です。
そして、個人の自己破産手続きにおける最終的なゴールは、借金の返済義務を免除してもらうことです。これを「免責(許可)」と呼びます。
破産法上、破産手続きの開始を申立てると同時に、申立人が反対の意思表示をしない限り、免責許可の申立てをしたものとみなされることになります(破産法248条4項)。簡単に言えば、破産を申立てると同時に「借金の返済義務を免除する許可をください」と裁判所にお願いしているということです。裁判所は、免責不許可事由のない限り、免責許可の決定をしなければなりません(破産法252条1項)。
早稲田大学、及び首都大学東京法科大学院(現在名:東京都立大学法科大学院)卒。2012年より新宿支店長、2016年より債務整理部門の統括者も兼務。分野を問わない幅広い法的対応能力を持ち、新聞社系週刊誌での法律問題インタビューなど、メディア関係の仕事も手掛ける。第一東京弁護士会所属。
免責不許可事由とは?
お金を貸した側(債権者)からみると、貸したお金を返してもらえず泣き寝入りするしかありません。なぜお金を返せなくなったのか事情を知りたいと思うのももっともでしょう。そして、事情によっては免責させたくないと考えても不思議ではありません。
免責を認めると債権者があまりにかわいそうな場合、裁判所は免責を認めません。
免責を認めない場合として法律上明記されているのが「免責(めんせき)不許可事由」です。
つまり、「基本的に自己破産を申立てれば借金の返済義務は免除されるけれども債権者に酷な行為をしたケースなど例外的に借金が免除されない場合があります」ということです。
免責不許可事由の種類
免責不許可事由については、破産法252条1項で定められています。
(1)債務者の財産を不当に減少させる行為
破産法252条1項1号では、次の行為が免責不許可事由として定められています。
債権者を害する目的で、破産財団に属し、又は属すべき財産の隠匿、損壊、債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為をしたこと。
引用:破産法252条1項1号
本来債権者に分配する資金となる財産(破産財団)の価値を減少させると、免責されないリスクが生じます。逆に債務者が自由に処分できる財産を処分したり、不注意でその価値を損なったりしても、免責不許可事由には該当しません。
たとえば、次のケースが「債務者の財産を不当に減少させる行為」に当たります。
車が大好きで借金を作ってしまったAさん。一番のお気に入りのフェラーリを処分されたくないがために、自分の彼女に10万円で売却しました。
自己破産をすると、高価な財産は売却されてお金に変えられてしまうので、手元に残しておくことができません。しかし、だからといって、誰かに自分の財産を安く売却してはいけません。高価な資産は、破産手続きに則って処分されなければならないのです。
(2)不当な債務負担行為
破産法252条1項2号では、次の行為が免責不許可事由として定められています。
破産手続の開始を遅延させる目的で、著しく不利益な条件で債務を負担し、又は信用取引により商品を買い入れてこれを著しく不利益な条件で処分したこと。
破産法252条1項2号
たとえば、次のケースが「不当な債務負担行為」に当たります。
- 違法な高金利(ヤミ金)でお金を借り入れた
- クレジットカードのショッピング枠で新幹線のチケットやゲーム機を購入して購入価格よりも随分と安い価格で売却した(換金行為)
一般的な金融機関がお金を貸してくれなくなった後でこれらの行為を行う人が多くいます。
しかし、借入限度額に達したのであればその段階で破産を検討しなければなりません。
そのため、借入限度額に達した後で、これらの行為をすると「破産手続の開始を遅延させる目的」があったと認められやすいといえます。
(3)特定の債権者に利益があるように支払いをする行為
破産法252条1項3号では、次の行為が免責不許可事由として定められています。
特定の債権者に対する債務について、当該債権者に特別の利益を与える目的又は他の債権者を害する目的で、担保の供与又は債務の消滅に関する行為であって、債務者の義務に属せず、又はその方法若しくは時期が債務者の義務に属しないものをしたこと
引用:破産法252条1項3号
特定の債権者にだけ返済する行為を「偏頗(へんぱ)弁済」といいます。
たとえば、次のケースが「特定の債権者に利益があるように支払いをする行為」に当たります。
弁護士に自己破産を依頼して、借金の督促から免れたBさん。給料から借金の返済をしなくてもよくなったので、お金を貸してくれていた勤務先の社長に10万円全額を返済しました。
弁護士に破産を依頼したなら、勤務先の社長含め、家族・友達の誰にも返済してはいけません。
(4)浪費やギャンブルによる借金
破産法252条1項4号では、次の行為が免責不許可事由として定められています。
浪費又は賭と博その他の射幸行為をしたことによって著しく財産を減少させ、又は過大な債務を負担したこと。
引用:破産法252条1項4号
趣味などに収入に見合わない支出をした結果、またはギャンブルや投資で多額の借金をした結果、破産をしようとしてもスムーズには認められません。免責不許可事由にあたるかは、収入や借金の総額などにもよるため、弁護士にアドバイスを求めるのが良いでしょう。
(5)詐術による信用取引
破産法252条1項5号では、次の行為が免責不許可事由として定められています。
破産手続開始の申立てがあった日の一年前の日から破産手続開始の決定があった日までの間に、破産手続開始の原因となる事実があることを知りながら、当該事実がないと信じさせるため、詐術を用いて信用取引により財産を取得したこと。
引用:破産法252条1項5号
たとえば、次のケースが「詐術による信用取引」に当たります。
200万円の年収なのに1000万円もの借金を作ってしまったCさん。これまで取引のなかったクレジットカード会社で収入、氏名、借金の有無を偽ってクレジットカードを作り、ショッピングに利用しました。それから、4ヶ月後、弁護士に自己破産を依頼しました。
悪質なケースでは詐欺罪が成立する可能性もあるため、絶対に止めてください。
(6)帳簿を隠すこと
破産法252条1項6号では、次の行為が免責不許可事由として定められています。
業務及び財産の状況に関する帳簿、書類その他の物件を隠滅し、偽造し、又は変造したこと。
引用:破産法252条1項6号
単に免責不許可事由となるだけでなく、自分に作成権限のない帳簿を作ると文書偽造罪が成立する可能性があるので、絶対に止めてください。
(7)うその債権者名簿を提出する
破産法252条1項7号では、次の行為が免責不許可事由として定められています。
虚偽の債権者名簿(第二百四十八条第五項の規定により債権者名簿とみなされる債権者一覧表を含む。次条第一項第六号において同じ。)を提出したこと。
引用:破産法252条1項7号
債権者に嫌がらせをする目的で意図的に特定の債権者だけ名簿に載せなかったり、架空の債権者を名簿に載せたりすると、免責不許可事由に該当します。
(8)裁判所への説明を拒絶したり、うその説明をしたりする行為
破産法252条1項8号では、次の行為が免責不許可事由として定められています。
破産手続において裁判所が行う調査において、説明を拒み、又は虚偽の説明をしたこと。
引用:破産法252条1項8号
数多くある免責不許可事由のなかでも免責が不許可になるリスクが非常に高いため、裁判所の調査には素直に協力するようにしてください。
(9)管財業務を妨害する行為
破産法252条1項9号では、次の行為が免責不許可事由として定められています。
不正の手段により、破産管財人、保全管理人、破産管財人代理又は保全管理人代理の職務を妨害したこと。
引用:破産法252条1項9号
管財人等を脅迫する場合はもちろん、管財人の指示に従わない場合にも「管財業務を妨害する行為」に該当する可能性があるので、注意してください。
(10)過去7年以内に免責を受けたことがある場合
一度免責を受けたり、免責と同じような法律上の保護を受けたりしたことが7年以内にある場合、原則として2度目の免責は認めてもらえません(破産法252条1項10号)。
(11)破産法上の義務違反行為
破産法で定められている破産者の説明義務(破産法40条1項)、重要財産開示義務(41条)、免責調査協力義務(破産法250条2項)に違反する行為は、免責不許可事由に該当します(破産法252条1項11号)。
免責不許可事由に該当しても免責が許可される裁量免責とは?
免責不許可事由に該当しても、裁判所の判断で免責が許可される「裁量免責」という制度があります(破産法252条2項)。そのため、免責不許可事由があっても、実際は裁量免責によって免責許可が下りるケースが多いといえます。
裁量免責を適用してもらいたい場合、専門知識・経験の豊富な弁護士に相談しましょう。
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免責にならない債権がある
免責が許可されると、基本的に借金の返済義務は免除されます。
もっとも、たとえば、次のものは破産手続きによっても返済義務が免除されないので注意してください(破産法253条1項ただし書)。
〇税金や国民健康保険料などの租税等の請求権
〇罰金
〇破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権
〇生活費など夫婦間の相互協力扶助義務に基づく請求権
〇養育費など子の監護義務に基づく請求権
〇意図的に債権者一覧表に記載しなかった債権
裁量免責でも免責不許可となった場合の対処法
免責不許可になってしまった場合には、次の対処法を採ります。
いずれの方法を採るにしても専門家である弁護士に指示を仰ぎましょう。
(1)即時抗告をおこなう
免責不許可になった場合、その決定に対して異議申立てを行います(即時抗告、破産法252条5項)。
即時抗告をするには、免責不許可決定が送達された日の翌日から1週間以内に行わなければいけませんので、注意が必要です。
ただし、明らかな免責不許可事由がある場合は、即時抗告しても決定が覆らない可能性が高いので、民事再生をすることになります。
(2)個人再生の手続きをする
免責が許可されなかった場合には、免責不許可事由の規定のない個人再生を検討します。
ただし、個人再生は基本的に減額された借金を3~5年で返済していく手続きなので、返済できるだけの収入がなければ個人再生をすることもできません。
【まとめ】借金でお困りの方はアディーレ法律事務所へ
ご自身が免責不許可事由にあてはまるのか判断が付かない人もいるかもしれません。
実際、破産か再生かの手続きは専門家である弁護士でさえ判断に迷うことがあるほどです。債務整理に関してはアディーレ法律事務所へご相談ください。