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侮辱罪の厳罰化により何が変わる?具体的な変更点を弁護士が解説

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s.miyagaki

※アディーレ法律事務所では様々な法律相談を承っておりますが、具体的な事情によってはご相談を承れない場合もございます。予め、ご了承ください。

従来、侮辱罪の法定刑は「拘留又は科料」でした。

「拘留」というのは、1日以上30日未満の期間内、身柄が拘束されて自由を奪われる刑、「科料」というのは1,000円以上1万円未満で強制的に金銭を徴収される刑です。

この侮辱罪の法定刑が定められたのは1907年(明治40年)、今より115年も前のことです(2022年8月時点)。
従来の侮辱罪の法定刑は、刑法の中で最も軽い刑罰でした。

ですが、今日では、皆さんもご存じのとおり、インターネット上での誹謗中傷は社会問題化しており、書き込みを苦にして、被害者の方が自ら命を絶つという痛ましい事件も起こっています。

そこで、今回、侮辱罪を厳罰化し、誹謗中傷の書き込みを抑止すべきという世論が高まったことにより、侮辱罪の法定刑が「1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料」に引き上げられる形で厳罰化したのです。

今回は、次の内容について弁護士がご説明します。

  • 侮辱罪の具体的内容
  • 侮辱罪の厳罰化の内容
  • 侮辱罪の厳罰化による影響  など
この記事の監修弁護士
弁護士 重光 勇次

弁護士 重光 勇次

アディーレ法律事務所

同志社大学、及び、同志社大学法科大学院卒。2009年弁護士登録。アディーレに入所後、福岡支店長、大阪なんば支店長を経て、2022年4月より商品開発部門の統括者。アディーレがより「身近な法律事務所」となれるよう、新たなリーガルサービスを開発すべく、日々奮闘している。現在、神奈川県弁護士会所属

「侮辱罪」とは、どんな犯罪?

侮辱罪は、「事実を摘示せずに、公然と人を侮辱する」ことによって成立します(刑法231条)。
「事実の摘示」とは、人の社会的評価を低下させるような具体的事実を指摘し、表示することです。

事実の摘示の有無は、「侮辱罪」と「名誉毀損罪」を区別するための要件です。
簡単に分けると、事実を摘示する場合が「名誉毀損罪」、事実を摘示しない場合が「侮辱罪」です。

具体例を挙げると、「ぶす」「ばか」「キモイ」「無能」など、抽象的で、個人の主観的な悪口(ウソか本当か、客観的に確認できないこと)を言ったり、インターネット上に書き込んだりする場合が「侮辱罪」に当たります。

これに対し、「○○は前回のテストでクラス最下位のバカだ」「△△は、営業のくせに1件も契約が取れない無能な奴だ」などと、人の社会的評価を低下させるような具体的事実を摘示する場合には「名誉毀損罪」が成立しえます。

「公然と」とは、不特定又は多数の人が、直接に認識できる状態を言います。
例えば、インターネット上の、誰でも見られるような掲示板やブログなどのコメント欄への投稿は「公然」の要件を満たします。

他方、個人的なメールやメッセンジャー、DM(ダイレクトメッセージ)などで、特定の個人に対し、その人を侮辱するような内容のメールなどを送っても、公然性の要件を満たしませんので、侮辱罪自体は成立しません。

ただし、個人を侮辱するようなメールを執拗に送られている場合には、刑法の侮辱罪は成立しなくても、民事上の損害賠償責任が発生する可能性があります。メールなどで個人的に執拗な嫌がらせを受けているという場合は、弁護士にご相談ください。

【侮辱罪で有罪となった実際の書き込み】

2020年中に、侮辱罪のみで第一審判決・略式命令のあった事例は、例えば、次のようなものがあります。
●インターネット上の掲示板に「○○(被害者名)
 いじめ大好き 援交大好き DQNの肉便器 特技は股開くこと」などと  
 掲載したもの【科料9.900円】

●インターネット上の掲示板に「××(地名)に出没する○○
 (被害者経営店舗名)勤務の女尻軽やでなぁ笑笑」などと
  掲載したもの【科料9,000円】

●インターネットサイトの被害法人に関する口コミ掲示板に、
 「詐欺不動産」「対応が最悪の不動産。頭の悪い詐欺師みたいな人」
 などと掲載したもの【科料9,000円】

参照:侮辱罪の事例集|法務省

侮辱罪の厳罰化とは?具体的には、どう変わる?

2022年6月の刑法改正により、侮辱罪の法定刑が次のとおり変更されました。

【従来の法定刑】
拘留又は科料

【改正後の法定刑】
1年以下の懲役若しくは禁錮若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料

つまり、「拘留又は科料」に加え、新たに「懲役刑」「禁錮刑」「罰金刑」が加わりました。
このような厳罰化により、今後は具体的な行為の内容に応じて侮辱罪に当たる行為が幅広く処罰される可能性があります。

改正刑法の施行日は2022年7月7日です。
つまり、2022年7月7日以降に侮辱罪に当たる行為をした場合、次の刑罰を受ける可能性があります。

  • 1月以上1年以下の懲役
  • 1月以上1年以下の禁錮
  • 1日以上30日未満の拘留
  • 1万円以上30万円以下の罰金
  • 1,000円以上1万円未満の科料       のいずれか

2022年7月6日以前の行為はどうなるのですか?

2022年7月6日以前に侮辱罪に当たる行為をした場合には、どんなにひどい内容であっても、従来の法定刑、つまり「拘留又は科料」により処罰されます。

侮辱罪の厳罰化ということは、これまで処罰されなかった行為も侮辱罪として処罰される可能性があるのですか?

侮辱罪の厳罰化というのは、これまでに比べて処罰範囲が拡大されたわけではありません。
処罰される対象は従来のままで、法定刑が引き上げられたということです。

今回、侮辱罪が厳罰化されたといっても、何が侮辱罪に当たるのかという基準が変更されたわけではありません。
ただし、今日、インターネット上の誹謗中傷の書き込みが社会問題化していることから、従来は見過ごされていたような侮辱罪に当たる書き込みが、今回の厳罰化に伴い、より問題視されやすくなる可能性はあります。

SNSなどの情報発信ツールが増え、一般の方でもフォロワーが増える一方で、ひどい誹謗中傷を書き込まれる事態も急増しています。

誹謗中傷の書き込みをする人の中には、「有名税だから、このくらいは我慢すべき」などとうそぶく人もいますが、インターネット上で有名になったからと言って、いわれもない誹謗中傷を我慢すべき理由はありません。

インターネット上での誹謗中傷は社会問題化しており、警察もサイバー犯罪への対策を強化しています。あまりにも誹謗中傷の内容がひどく、犯罪に該当するといえる場合には、各都道府県警察に相談しましょう。

参照:サイバー犯罪対策|警察庁

【コラム】~「懲役」と「禁錮」の違いとは?~

「懲役」「禁錮」は、いずれも刑務所などの刑事施設に身柄を拘束され、身体の自由を奪われる刑罰です。両者の違いは、刑事施設内で所定の刑務作業に従事する義務があるかどうかです。刑務作業に従事する義務がある場合が「懲役」、ない場合が「禁錮」です。

もっとも、本来は就業の義務はない禁錮受刑者であっても、申出によって刑務作業に従事することが可能である上、実際には大半の禁錮受刑者も刑務作業を行っています。

そのため「懲役」と「禁錮」を区別する意味はあまりなく、2022年の刑法改正において、「懲役刑」と「禁錮刑」が廃止され、これらを一本化する「拘禁刑」が新たに創設されました。
この点に関する改正刑法の施行は2025年になると見込まれています。
「拘禁刑」を創設した改正刑法が施行されると、侮辱罪の法定刑は、「1年以下の拘禁刑」「30万円以下の罰金」「拘留」「科料」になります。

参照:刑務作業|法務省

その他、インターネット上における誹謗中傷の書き込みによって成立しうる犯罪について、詳しくは次の記事をご参照ください。

インターネット上に誹謗中傷を書き込んだら成立しうる5つの罪とは?

侮辱罪の厳罰化で、具体的に何がどう変わる?

侮辱罪の厳罰化によって、これまでご説明したとおり、まずは、科される法定刑が変わります。

これまで勾留又は科料しか選択肢のなかったのに対し、厳罰化により、「懲役(1年以下)」、「禁錮(1年以下)」、「罰金(30万円以下)」の刑罰が科される可能性があります。

さらに、侮辱罪の厳罰化によって、法定刑だけではなく、次のような点も変更されますので注意が必要です。

(1) 教唆犯や幇助犯も処罰される可能性がある
(2) 公訴時効期間が長くなる
(3) 逮捕される範囲が広がる

それぞれご説明します。

(1)教唆(きょうさ)犯や幇助(ほうじょ)犯も処罰される可能性がある

教唆とは、人をそそのかして犯罪を実行する決意をさせ、その決意に基づいて犯罪を実行させることです。
また、幇助とは、犯罪を実行する人が犯罪をしやすくするように助けることです。

詳しくご説明しましょう。

まず、自ら犯罪を実行する人を「正犯」と言います。
例えば、インターネット上に、侮辱罪に当たるような誹謗中傷の書き込みをする人は、侮辱罪の正犯として処罰されます。

これに対し、そのような書き込みをするように、正犯をそそのかしてその気にさせ、書き込みをさせた場合には「侮辱罪の教唆犯」に該当する可能性があります。
また、他人がインターネット上に誹謗中傷の書き込みをすると分かっていながら、例えばスマホなどを貸してあげる場合には「侮辱罪の幇助犯」に該当する可能性があります。

幇助の「助ける」ことは、物を貸してあげるなど物理的に助けることのほか、精神的に励まして犯罪の実行を後押しするなど、精神的な手助けも含まれます。

刑法上、教唆犯は正犯の刑を科すと規定されていますので、正犯をそそのかして犯罪を実行させると、教唆犯も正犯と同様の法定刑の範囲内で処罰されます(※実際に同じ刑罰になるとは限りません)。

また、幇助犯は、正犯の刑を減刑した刑を科すと規定されていますので、正犯の犯罪の実行を助けて容易にすると、正犯の法定刑が減刑された上で処罰されます。

教唆犯や幇助犯の処罰について、刑法は次のとおり定めています。

刑法 第64条(教唆及び幇助の処罰の制限)

拘留又は科料のみに処すべき罪の教唆者及び従犯は、特別の規定がなければ、罰しない。

参照:刑法 | e-Gov法令検索

厳罰化される前の侮辱罪の法定刑は「拘留又は科料」のみで、侮辱罪の教唆犯や幇助犯を処罰するという特別な規定はありませんでした。ですから、従来の侮辱罪については、教唆犯や幇助犯は処罰されませんでした。

ですが、今回、法定刑が引き上げられ、懲役、禁錮、罰金が規定されたことにより、2022年7月7日以降、侮辱罪を実行する正犯を教唆又は幇助した場合には、正犯と併せて処罰される可能性があります。

ちなみに、侮辱罪の教唆犯は「1年以下の懲役」「1年以下の禁錮」「30万円以下の罰金」「30日未満の拘留」「1万円未満の科料」という正犯と同じ法定刑の範囲内で処罰されます。

他方、幇助犯は、それぞれその2分の1、つまり「6月以下の懲役」「6月以下の禁錮」「15万円以下の罰金」「15日未満の科料」「5,000円未満の科料」の範囲内で処罰されます(刑法68条)。

(2)公訴時効期間が長くなる

侮辱罪の厳罰化により、公訴時効期間は1年から3年に長くなります。

公訴時効とは、ある犯罪行為が終わった時点から起算して一定の期間が経過すると、その後、起訴ができなくなる(=刑事裁判によって処罰されない)制度のことです。

公訴時効の期間は、刑罰の内容によって異なります。
例えば、殺人罪のように、人を死亡させた罪で禁錮以上の刑に当たり、法定刑の上限が死刑である罪には、公訴時効期間がありません。

他方、拘留又は科料に当たる罪については、公訴時効期間は1年です(刑事訴訟法250条2項6号)。
ですから、侮辱罪が厳罰化される前は、例えば、インターネット上に、侮辱罪に当たるような書き込みをした場合、書き込みから1年が経過すると書き込みをした人を侮辱罪で起訴することができませんでした。

ですが、今回、侮辱罪が厳罰化されて、「1年以下の懲役・禁錮・30万円の罰金刑」が追加されましたので、公訴時効期間が次のとおり長くなります。

  • 長期5年未満の懲役若しくは禁錮又は罰金に当たる罪については、公訴時効期間は3年(刑事訴訟法250条2項6号)。

ですから、2022年7月7日以降、インターネット上に、侮辱罪に当たるような書き込みをした場合、書き込みをしてから3年間は侮辱罪で起訴・処罰される可能性があります。

(3)逮捕される範囲が広がる

さらに、侮辱罪の厳罰化により、逮捕される範囲が広くなりました。
犯罪を犯した時、警察などに逮捕される可能性があることはご存じでしょう。ただ、逮捕と言っても、常に、無条件に逮捕が許されるわけではありません。

実は、裁判官の発布する逮捕状により被疑者(罪を犯したと疑われている人)を逮捕する場合、拘留又は科料に当たる犯罪については次のいずれかの要件を満たすことが必要なのです(刑事訴訟法199条1項)。

  • 被疑者が定まった住居を有しないこと
  • 被疑者が正当な理由がなく、警察などの出頭の求めに応じないこと

つまり、侮辱罪が厳罰化される以前は、インターネット上に侮辱罪に当たるような書き込みをした人であっても、定まった住所に住んでいて、警察等の求めに応じて出頭するような場合には、逮捕状による逮捕はできませんでした。

ですが、今回、侮辱罪が厳罰化されたことにより、侮辱罪はもはや「拘留又は科料に当たる犯罪」ではなくなりました。

ですから、侮辱罪が厳罰化された2022年7月7日以降に侮辱罪に当たる書き込みをした場合には、定まった住所があったり、警察等の求めに応じて出頭していたという場合であっても、逮捕される可能性があります。

なお、逮捕状による逮捕ではなく現行犯人逮捕の場合も、拘留又は科料に当たる罪については「犯人の住居若しくは氏名が明らかでない場合又は犯人が逃亡するおそれがある場合」のみが可能ですので、侮辱罪により現行犯人逮捕される場合は限定的でした。
ですが、今回の侮辱罪の厳罰化により、現行犯人逮捕をする場合も、このような制限はなくなります。

参照:侮辱罪の法定刑の引上げ Q&A|法務省

【まとめ】2022年7月7日以降、侮辱罪の厳罰化により、侮辱罪に当たる誹謗中傷の書き込みなどに、1年以下の懲役刑などが科される可能性がある

今回の記事のまとめは次のとおりです。

  • 侮辱罪とは、事実を摘示することなく、公然と人を侮辱した場合に成立する。
  • インターネット上の誰でも見ることのできる掲示板やブログのコメント欄などに誹謗中傷の書き込みをすると、侮辱罪が成立する可能性がある。
  • 特定の相手からの個別のメールやメッセンジャーなどで侮辱されても、侮辱罪は成立しない。ただし、民事上の損害賠償責任を負う可能性はある。
  • 従来、侮辱罪の法定刑は「拘留又は科料」であったが、刑法が改正され法定刑が引き上げられたため、2022年7月7日以降に侮辱罪に当たる罪を犯した場合、「拘留又は科料」に加え、「1年以下の懲役」「1年以下の禁錮」「30万円以下の罰金」のいずれかが科される可能性がある。
  • 侮辱罪の厳罰化により、次の点も変更になる。
     (1) 侮辱罪の教唆犯又は幇助犯も処罰される可能性がある
     (2) 公訴時効期間が1年から3年になる
     (3) 逮捕される範囲が広くなる

誹謗中傷の書き込みをされた被害者の方が自ら命を絶つという事件が起きてもなお、インターネット上における誹謗中傷の書き込みは後を絶ちません。

本来は、インターネットを利用する一人ひとりが、他人を傷つけるような書き込みをしないことが大切ですが、それが果たされないために、今回、誹謗中傷の書き込みをした時のリスクを高めるべく侮辱罪が厳罰化されました。

誹謗中傷の書き込みは時として犯罪に当たる上、民事上も損害賠償責任を負う重大な行為です。書き込みをする人は、軽い気持ちで書き込んでいるかもしれませんが、いつまでもこれを許してはいけません。
ひどい誹謗中傷の書き込みが繰り返されている場合などは、まずは警察に相談してみましょう。

ただ、書き込みをした犯人が警察に逮捕されたり、刑事裁判で有罪判決を受けたからといって、当然に誹謗中傷の書き込みが削除されるわけではありません。
掲示板などに書き込まれた投稿は、別途、サイト管理者などによる削除がなされるまでインターネット上に残ります。
書き込み削除を求めたい場合には、次のような相談窓口もありますので、一人で悩まないでください。
参照:インターネット上の誹謗中傷に関する相談窓口のご案内|法務省

また、書き込みをした人が刑事上の責任を負うとしても、警察がすぐに捜査を開始するとは限りませんので、場合によっては、警察に相談すると並行して、ご自身で投稿者を特定する手続を進める必要があります。

投稿の削除、投稿者の特定、投稿者に対する損害賠償請求のいずれの手段をとるにしても、ご自身での対応には困難を伴うことが多いため、これらの手段をとることをお考えの方は、インターネットの誹謗中傷の問題を取り扱っている弁護士にご相談ください。

アディーレ法律事務所では、自分を誹謗中傷する投稿に関し、「投稿を削除したい」「発信者を特定したい」などのご相談を何度でも無料で承っています。

投稿記事や検索結果が削除できなかったり、発信者情報が開示されなかった場合、弁護士費用は、原則として全額返金しております。

「インターネット上で誹謗中傷されて困っている」という方は、お気軽にアディーレ法律事務所にご相談ください。
フリーコール0120-406-848にてご予約の電話を承っています。

この記事の監修弁護士
弁護士 重光 勇次

弁護士 重光 勇次

アディーレ法律事務所

同志社大学、及び、同志社大学法科大学院卒。2009年弁護士登録。アディーレに入所後、福岡支店長、大阪なんば支店長を経て、2022年4月より商品開発部門の統括者。アディーレがより「身近な法律事務所」となれるよう、新たなリーガルサービスを開発すべく、日々奮闘している。現在、神奈川県弁護士会所属

※本記事の内容に関しては執筆時点の情報となります。