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新設された「撮影罪」の法的要件とは?既存の盗撮との違いも解説

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s.miyagaki

※アディーレ法律事務所では様々な法律相談を承っておりますが、具体的な事情によってはご相談を承れない場合もございます。予め、ご了承ください。

スマホなどを悪用した盗撮行為は後を絶たず、盗撮により警察に検挙される件数は年々増加しています。
盗撮に用いられるのはスマホやデジカメ、小型カメラなどで、盗撮場所は駅やショッピングモールなどの商業施設内の階段やエスカレーター、公衆トイレ、路上などさまざまです。
盗撮は、被害者に激しい羞恥心を与える卑劣な行為です。
従来より、盗撮は、各都道府県の条例などにより処罰されていました。
そして、今回、新たに『性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律』という名称の法律が成立し、盗撮は、同法律の「撮影罪」により処罰されることとなりました(*)。

(*)撮影罪に関する『性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律』は、2023年7月13日に施行されました。

今回は、新たに成立した「撮影罪」について、弁護士がご説明します。

この記事を読んでわかること
  • 盗撮を処罰する法律等
  • 新設された「撮影罪」の概要
  • 「撮影罪」の法定刑
この記事の監修弁護士
弁護士 谷崎 翔

早稲田大学、及び首都大学東京法科大学院(現在名:東京都立大学法科大学院)卒。2012年より新宿支店長、2016年より債務整理部門の統括者も兼務。分野を問わない幅広い法的対応能力を持ち、新聞社系週刊誌での法律問題インタビューなど、メディア関係の仕事も手掛ける。第一東京弁護士会所属。

これまで、盗撮は何罪で処罰されていた?

「撮影罪」が新設されたとは言え、これまで盗撮行為が処罰されなかった訳ではありません。
盗撮は、主に、軽犯罪法や各都道府県の条例により処罰されていました。
それぞれご説明します。

【軽犯罪法により処罰される盗撮行為】

軽犯罪法では、次の行為が処罰の対象とされます。

軽犯罪法1条
左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。

同条23号
正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者

参照:軽犯罪法 | e-Gov法令検索

条文上、処罰されるのは「ひそかにのぞき見た」行為ですが、基本的には「盗撮」もこれに該当します。
ただ、軽犯罪法で処罰されるのは、盗撮場所が「人の住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所」の場合に限られます。

そのため、例えば、駅や商業施設の階段やエスカレーター、路上などで盗撮する場合には、軽犯罪法では処罰できません。これらを処罰するのは、次にご説明する条例によります。

なお、軽犯罪法による盗撮の法定刑は「拘留又は科料」です。

  • 拘留…1日以上30日未満の範囲内で身柄を拘束されて自由を奪われる刑罰
  • 科料…1000円以上1万円未満の範囲内で強制的に金銭を徴収される刑罰

(※実際に科せられる刑罰は、刑事裁判となり有罪判決を受ける場合に裁判官が判断します。)

【条例により処罰される盗撮行為】

盗撮は、各都道府県が制定する条例によっても処罰の対象となります。
条例の内容や刑罰の重さなどは各都道府県によって異なりますが、例えば、東京都では次のように盗撮行為を処罰しています。

公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例
第5条1項(粗暴行為(ぐれん隊行為等)の禁止)
何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であって、次に掲げるものをしてはならない。

同条項2号
次のいずれかに掲げる場所又は乗物における人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること。
イ 住居、便所、浴場、更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所
ロ 公共の場所、公共の乗物、学校、事務所、タクシーその他不特定又は多数の者が利用し、又は 出入りする場所又は乗物(イに該当するものを除く。)

参照:公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例|東京都

これによれば、軽犯罪法の射程外である、駅や商業施設の階段やエスカレーター、路上などでの盗撮行為も処罰の対象となりえます。

東京都の場合、盗撮の法定刑は『1年以下の懲役』又は『100万円以下の罰金』です(※常習でない場合。同条例第8条2項1号。2023年6月時点の情報です)。

懲役刑とは、1月以上の期間、身体の自由を奪われる刑罰(※)です。
(※)現在、身体の自由を奪われる刑罰として「懲役刑」と「禁固刑」がありますが、2022年の刑法改正により、「懲役刑」と「禁錮刑」の区別を廃止し、これらを一本化する「拘禁刑」を新設されました。改正刑法が施行されれば、今後「懲役刑」は「拘禁刑」に変更されます。

なお、被害者が18歳未満の児童の場合、その性器や性交している様子などを盗撮すると「児童ポルノ」の製造罪に該当し、3年以下の懲役または300万円以下の罰金刑に処せられる可能性があります(児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律第2条3項、第7条)。

今回、「撮影罪」が新設されたのはなぜ?

軽犯罪法で処罰される盗撮は、先ほどご説明したとおり適用範囲が限定的で、網羅的に盗撮を処罰することができません。

他方、条例により処罰される盗撮は軽犯罪法よりも範囲が広いですが各都道府県ごとに制定されますので、全国共通の内容ではありません。
概ね同じような内容になっているのですが、盗撮場所を「公共の場所や公共の乗り物」などに限定していた条例もありました。
また、法定刑も、東京都の場合は「1年以内の懲役または100万円以下の罰金」(※非常習の場合)ですが、懲役刑の上限が「6か月以内」としたり、罰金刑の上限を「50万円以内」とする条例もあります。

条例が適用されるのは、その条例が制定された各都道府県内ですので、国内で全く同じ行為をしていても場所によって処罰されなかったり、法定刑が変わったりするのです。

そこで、今回、実効的に盗撮行為を取り締まるため、全国共通のルールとして「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」(以下「今回の法律」と呼びます。)という名称の法律を新設することとなったのです。

「今回の法律」は、2023年6月16日に成立し、同年7月13日に施行されました。

2023年7月13日以降の盗撮は、撮影罪に該当すれば今回の法律により処罰されます。

他方、2023年7月12日までの盗撮には撮影罪は適用されず、各都道府県の条例などにより処罰されます。

撮影罪が成立する場所の限定もありませんので、これまでの各都道府県ごとの条例のように、盗撮場所によって犯罪が成立したりしなかったりするという事態も解消できます。

「撮影罪」で処罰される盗撮とは?

「撮影罪」では、次のような撮影行為が処罰の対象となります。

(1) 正当な理由がなく、ひそかに人の『性的姿態等』を撮影する行為

法的要件は、次のとおりです。

  • 正当な理由がないこと
  • ひそかに撮影すること
  • 『性的姿態等』を撮影すること

「正当な理由」とは、例えば、医療行為のために必要な場合などです。
「ひそかに」とは、対象者に知られずにという意味です。

なお、人が通常衣服を着けている場所で、不特定又は多数の人の目に触れることを認識しながら、対象者が自ら露出をしている姿を撮影する場合などは、「撮影罪」には当たりません。

『性的姿態等』とは、次の3つのことを言います。

  1. 人の性的な部位(※)
  2. 人が身に着けている下着で、現に性的な部位を直接又は間接に覆っている部分
  3. わいせつな行為又は性交等がされている間の人の姿態

(※)「性的な部位」とは、性器、肛門、これらの周辺部、臀部、胸部を指します。

例えば、次のような盗撮行為は、今回の法律の施行後は、撮影罪により処罰される可能性があります。

  • 駅や商業施設の階段やエスカレーターなどで、スカートの中の下着姿を盗撮する
  • トイレにカメラを仕掛けて、臀部や性器などを盗撮する
  • 更衣室にカメラを仕掛けて、着替中の下着姿などを盗撮する  
  • ホテルにカメラを仕掛けて、他人の性交などを盗撮する           など

一般的に「盗撮」と言ってイメージするような撮影行為ですね。
これまで各都道府県の条例で処罰されている行為は、基本的には「撮影罪」に該当する可能性が高いです。

他方、かねてよりアスリートの方の股間等を撮影することが「盗撮」ではないかということが問題となっていますが、あくまでも着衣の上からの撮影であれば、今回の撮影罪の処罰の対象外となります。

(2) 被害者が同意できないような状態で性的姿態等を撮影する行為

次のような事情又はこれ類する事情等から『同意しない意思を形成し、表明し又は全うすることが困難な状態』にある被害者の性的姿態等を撮影する場合にも撮影罪が成立します。

  1. 暴行又は脅迫
  2. 心身の障害
  3. アルコールや薬物の摂取
  4. 睡眠その他の意識が明瞭でない状態
  5. 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがない
  6. 予想と異なる事態に直面して恐怖・驚愕している
  7. 虐待に起因する心理的反応
  8. 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮

被害者がそのような状態にあることが加害者の行為による場合だけではなく、被害者がそのような状態にあることに乗じて性的姿態等を撮影する場合も処罰の対象となります。

例えば、被害者が自ら飲酒をして酩酊状態にあるのに乗じて、服を脱がせて性的部位を撮影する場合などです。

(3) 被害者を誤信させて性的姿態等を撮影する行為

被害者を次のように誤信させて性的姿態等を撮影する行為も、撮影罪に該当します。

  • 行為の性質が性的なものではないと誤信させる
  • 特定の者以外の者は閲覧しないと誤信させる

この場合も、自ら被害者をだますなどして誤信させる場合だけではなく、被害者が別の人からだまされて誤信しているような状態に乗じて性的姿態等を撮影する場合も含まれます。

(4) 正当な理由がないのに、13歳未満の被害者の性的姿態等を撮影する行為等

被害者が13歳未満の場合、正当な理由なくその性的姿態等を撮影すると撮影罪が成立します。被害者が13歳未満の場合、加害者の年齢が何歳であるかは関係ありません。

他方、被害者が13歳以上16歳未満の場合には、加害者が被害者より5歳以上年上である場合には、正当な理由がなく性的姿態等を撮影すれば撮影罪に該当しますが、加害者と被害者の年齢が5歳未満の場合には撮影罪は成立しません。

なお、5歳以上年上というのは、被害者の誕生日を基準として、加害者の誕生日が5年以上前かどうかで判断します。

これらの(1)~(4)までの撮影罪は、実際に撮影された場合のみならず、うまく撮影ができずに未遂に終わった場合でも処罰の対象となります。

撮影した画像をインターネットで公開した場合には、「送信罪」も成立する

近年、盗撮された画像などがインターネット上に公開される、いわゆる「デジタルタトゥー」が社会問題化しています。
そこで、今回の法律により、撮影罪に該当する行為で作成した映像などを、正当な理由がないのに不特定又は多数の者に送信する行為も厳しく処罰されることになりました。

また、インターネット上に公開された上記の映像をさらに拡散させた場合なども同様に送信罪が成立します。

今回の法律により、盗撮は厳罰化!撮影罪の法定刑は

従来、条例で処罰される盗撮の法定刑は、各都道府県で異なるものの概ね「6か月~1年以内の懲役」又は「50万円~100万円以内の罰金」でした。

今回、新設された撮影罪の法定刑は、「3年以下の拘禁刑」又は「300万円以下の罰金」です。

*「拘禁刑」を新設した改正刑法が施行されるまでは、「拘禁刑」は「懲役刑」とされます(附則2条)

上限がそれぞれ3倍以上重くなっています!

さらに、送信罪は撮影罪よりもさらに重く、「5年以下の拘禁刑」(*拘禁刑が施行されるまでは懲役刑)・「500万円以下の罰金」又は「その両方」の刑が科される可能性があります。

盗撮などの撮影行為以外に処罰される行為は?

なお、今回の法律では「撮影罪」や「送信罪」以外にも、それに関連する次のような行為が処罰の対象となっています。

処罰される行為法定刑
提供罪撮影罪に該当する行為等により作成した記録(性的映像記録と言います。)やそれをコピーした記録を第三者に提供する行為3年以下の拘禁刑(*)又は300万円以下の罰金
性的映像記録を不特定・多数の者に提供したり、公然と陳列する行為5年以下の拘禁刑(*)・500万円以下の罰金 又はその両方
保管罪提供目的で、性的映像記録を保管する行為2年以下の拘禁刑(*)又は200万円以下の罰金
記録罪撮影罪により撮影されたことを知りながら、送信された映像・画像を記録する行為3年以下の拘禁刑(*)又は300万円以下の罰金

(*)拘禁刑を新設した改正刑法が施行されるまでは懲役刑

【まとめ】盗撮を含む性的犯罪は厳罰化!2023年7月13日以降、盗撮は撮影罪により3年以下の懲役刑(拘禁刑)又は300万円以下の罰金が科される可能性がある

今回の記事のまとめは、次のとおりです。

  • 従来、盗撮は軽犯罪法や各都道府県の条例などにより処罰されていた。
  • ただし、軽犯罪法の処罰範囲は限定的で、条例は全国共通ではない。
  • 今回、盗撮を実効的に処罰するため、「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」が新設・施行された。これにより、盗撮に関する全国一律のルールができ、さらに法定刑も軽犯罪法・条例により処罰される盗撮より重くなった。
  • 盗撮行為以外にも、盗撮した映像などをインターネット上に公開するなどすると「送信罪」が成立し、さらに重く処罰される。

盗撮の被害にあった、ご家族や知人が盗撮をして逮捕された、など盗撮に関してお困りの方は、刑事事件を取り扱う弁護士へご相談ください。

この記事の監修弁護士
弁護士 谷崎 翔

早稲田大学、及び首都大学東京法科大学院(現在名:東京都立大学法科大学院)卒。2012年より新宿支店長、2016年より債務整理部門の統括者も兼務。分野を問わない幅広い法的対応能力を持ち、新聞社系週刊誌での法律問題インタビューなど、メディア関係の仕事も手掛ける。第一東京弁護士会所属。

※本記事の内容に関しては執筆時点の情報となります。

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