日本では、結婚していない母親から生まれた子(婚外子)の割合は2.11%に過ぎず、約98%の子が結婚している母親から生まれています(2006年の厚生労働省統計)。
婚外子の母親となったシングルマザーは、子供の父親となるべき者に対して、子供のために、父親としての責任を果たすよう求めることになるでしょう。
具体的には、認知により法律上の父子関係を生じさせるよう求めることができます。
その結果、父親に対して養育費を請求できるようになる可能性があります。
今回の記事では、次のことについて弁護士が解説します。
- 認知の種類
- 認知で生じる権利と義務
参考:平成27年版厚生労働白書-人口減少社会を考える-|厚生労働省
慶應義塾大学卒。大手住宅設備機器メーカーの営業部門や法務部での勤務を経て司法試験合格。アディーレ法律事務所へ入所以来、不倫慰謝料事件、離婚事件を一貫して担当。ご相談者・ご依頼者に可能な限りわかりやすい説明を心掛けており、「身近な」法律事務所を実現すべく職務にまい進している。東京弁護士会所属。
子供の認知とは?
認知とは、婚姻関係にない男女の間に生まれた子供について、父親となるべき者が子供との間に法律上の親子関係を生じさせるための制度です。
未婚の男女の間に生まれた子を非嫡出子(ひちゃくしゅつし)といい、法律上婚姻した夫婦の間に生まれた子のことを嫡出子(ちゃくしゅつし)といいます。
未婚の男女の関係として代表的なのは、不倫関係や事実婚(内縁関係)です。
嫡出子は、法律上、基本的に父子関係が推定されますので(これを、嫡出推定制度といいます)、父子関係を前提とした法律上の権利・地位(父親の相続権、父親の扶養義務など)が認められていますが、非嫡出子には法律上父子関係は推定されませんので、このような法律上の権利・地位は当然には認められていません。
したがって、子にとって嫡出子・非嫡出子の違いは重要です。
非嫡出子であっても、父となるべき者に認知された子供については、法律上の父子関係が生じ、父親の相続権を得ますし、父親に対して扶養を求めて養育費を請求することもできます。
嫡出推定制度について
母子関係については、分娩の事実により特定できます。
一方で、「生まれた子の生物学的な父親は誰か」という問題は、DNA検査により父子関係を特定しなければ本当のところはわかりません。
しかしながら、法律婚をしている夫婦の間で、子が生まれるたびに父子関係が問題となり、父から「結婚しているが自分の子ではないから扶養しない(生活費を出さない)」という主張が許されるのであれば、あまりに子の地位・身分を脅かします。
そこで、法律によって、子の地位・身分関係の安定のために、婚姻関係にある夫婦の間に生まれた子は、夫の子と推定されています(民法772条1項)。
この嫡出推定制度によって、生物学的な父子関係の有無に立ち入ることなく、法律上の父子関係の存在を推定し、両親が婚姻関係にある子供は生まれた時点で嫡出子の身分を得るものとしているのです。
このように、嫡出子は法律上父子関係が推定されますが、非嫡出子は法律上父子関係が推定されませんので、別途法律上の父子関係を生じさせるために、認知などを行う必要があります。
嫡出子・非嫡出子について詳しくはこちらの記事をご覧ください。
認知には種類がある
認知の方法には、いくつか種類がありますので、それぞれ説明します。
(1)戸籍の届出による任意認知
父親となるべき者の側から、非嫡出子に対してする認知のことを、「任意認知」といいます。
胎児を認知することもできますが、母親の同意が必要です(民法783条1項)。
子供が生まれた後の認知は、母親の同意は不要で、父親となるべき者の意思のみで可能です(民法779条)。
ただし子供が成人している場合は、その子供本人の承諾が必要です(782条)。
子供の承諾が必要とされているのは、法律上の親子関係が生じると、成人した子供も親の扶養義務を負うことから、成人した子が、困窮した親に経済的支援をしなければならない法的義務を負うことがあり、父親となるべき者によるそのような意図での一方的な認知を防止するためです。
認知をした父は、子の身分関係安定の観点から、その認知を取り消すことはできません(民法785条)。
認知は、多くは役場に認知届を提出することで行われますが、後で説明するように遺言で行うこともできます(民法781条)。
(2)裁判による強制認知
母や子が認知を希望しているにも関わらず、父親となるべき者が自主的に認知しない場合もあります。
理由は、自分が父親だと認めていない、父親だとわかっているが養育費を支払いたくない、認知すると戸籍に記載されるため不倫したことが発覚してしまう、など様々です。
父親となるべき者が自主的に認知しないためにいつまでも法律上の父子関係が成立しなければ、子の身分関係は不安定になり、養育費を請求できない、父親となるべき者の相続権が認められないなどの不利益を被ります。
そこで、父親となるべき者に対して、非嫡出子の側から調停や裁判で認知を請求し、強制的に法律上の父子関係を生じさせることもできます。これを「強制認知」といいます。
裁判上の手続きでは、子の生物学上の父であるという客観的事実の存在が前提として重要になります。
調停の申立又は訴えの提起は、相手方となる父が生存中又は死亡後3年以内にしなければなりません(民法787条但書)。
(3)父親や子供の死後の認知
子供は、父親の死後であっても、死亡後3年以内であれば、裁判上認知を請求することができます。
また、父となるべき者は、死亡した子であっても、その直系卑属(孫やひ孫)があるときに限っては、死亡した子を任意認知することができます(ただし、直系卑属が成年者であるときは、その承諾が必要です)。
遺言による認知もできる
父となるべき者は、認知届を提出しなくても、遺言により認知することもできます(民法781条2項)。
報告的に役場に対して届出が必要となりますが、これは遺言執行者が行うことになります。
報告的に届出がなされると、死後に戸籍に認知した旨が記載されます。
子供の認知で得られる効果
認知をすると、法律上の父子関係が生じる効果があります。具体的には、次のような内容です。
それぞれ説明します。
(1)養育費を請求できる
認知をしていなくても、母と父となるべき者の取り決めにより養育費の合意をすることは可能です。
しかしながら、認知されていないと、養育費の話し合いに応じてもらえない場合や話し合っても合意できなかった場合には、養育費の支払いを求めて調停を申立てたり、訴訟を提起したりすることができません。
なぜでしょうか。
養育費の支払いを求めることができる法律上の根拠は、扶養義務(民法877条)にあると考えられています。
しかし、法律上の父子関係が発生していないために、父親の子に対する法律上の扶養義務が生じておらず、養育費の支払いを求める法律上の根拠が存在しないため、調停や訴訟を提起することができないのです。
父となるべき者の認知により、法律上の親子関係が生じることで扶養義務が発生し、法律上養育費を請求できる根拠を得ることになります。
(2)認知で相続人になる
父親が亡くなった場合、その子は相続人となります(民法887条1項)。
また、子が亡くなった時も、その子に孫やひ孫などの直系卑属がいない場合には、父親が相続人となります(民法889条1項1号)。
ただし、相続人となるためには法律上の親子関係が成立している必要があるので、子が嫡出子であるか、又は非嫡出子で認知されている必要があります。
認知されない非嫡出子には法律上の親子関係が発生していないので、父親となるべき者の相続人とはなりません。また、非嫡出子が亡くなっても、父親となるべき者は非嫡出子の相続人とはなりません。
認知により、子は父親の第1順位の相続人となることができますし、非嫡出子であっても、嫡出子との相続分に差はありません。
実際の子供の相続分(相続割合)は、相続人が誰なのか、その人数などによって異なってきますが、認知されずまったく相続する権利がないのと、相続人として一定の相続分があるのとは、大変大きな違いとなります。
(3)父親を親権者にできる
認知されていない非嫡出子の親権者は、母親になります。
父が子を認知すると、法律上の父子関係が生じますが、当然に父は親権者とはなりません。
父母の話し合いにより、父を親権者と定めたときに限って、父が親権者となることができます(民法819条4項)。
(4)戸籍に記載される
父が子を認知すると、父の戸籍には、認知をした子の名前が認知した事実とともに記載され、子の戸籍には、父親の欄に認知をした父の名前が記載されます。
子供を認知するうえで知っておきたいこと
子供を認知する父親が知っておきたいこと、認知される子供または子供の母親が知っておきたいことについて説明します。
(1)認知はキャンセルできない
認知については、家事事件手続法により、認知無効及び認知取消しの調停や訴訟を提起することができるとされています(家事事件手続法277条)。
しかしながら、認知の場合、結婚や離婚とは異なり、結婚(離婚)意思及び届出意思がなかった場合に無効とするような法律上の規定はなく、逆に、認知を取り消すことはできないと規定されています(民法785条)。
認知した者自身が無効や取り消しを求めることができるのか、できるとすればどのような場合なのかなどについては、法律上明確になっていません。
様々な考え方がありますが、子の身分の安定のためにも、無効や取り消しの範囲をかなり厳格に考えようとするのが多数派といえるでしょう。
例えば、子供などの承諾が必要な場合に、承諾なく認知がなされた場合には、取り消しの対象になるという考え方が有力です。
(2)結婚しない男女の誓約書
両親が結婚しない場合、両親の間で、「認知を求めない」「認知をしない」ことを条件として、金銭の支払いに応じるなどの誓約書を締結することがあります。
そのような誓約書を締結していれば、子供はもう認知してもらえなくなるのですか?
そうとはかぎりません。認知を請求するのは子供の権利でもありますので(民法787条)、両親が子供の権利を一方的に制限することはできないからです。
両親がこのような合意をしていたとしても、子供は独立して父となるべき者に対して認知を求めることができます。
【まとめ】認知により法律上の父子関係が生じるため、養育費の請求や相続が可能になる
今回の記事のまとめは次のとおりです。
- 認知とは、婚姻関係にない男女の間に生まれた子供について、父親となるべき者が子供との間に法律上の親子関係を生じさせるための制度
- 認知の種類は次のとおり
- 戸籍の届出による任意認知(認知届の提出)
- 裁判による強制認知
- 父親や子供の死後の認知
死後認知も可能だが、父親が死亡した場合は死亡後3年以内に裁判上で認知を請求する必要がある
- 認知届を提出しなくても、遺言によって認知することも可能
- 子供の認知で生じる権利と義務
- 養育費を請求できる
- 認知で相続人になる
- 父親を親権者にできる
- 認知を取り消すことはできない
- 両親の間で、「認知を求めない」「認知をしない」ことを条件として、金銭の支払いに応じるなどの合意をすることがある
- そのような合意があったとしても、認知は子供の権利なので、子は独立して認知を求めることができる
父となるべき者に認知してもらうことは、子供の地位・身分の安定に重要なことではありますが、父となるべき者が自主的に認知をしてくれない場合もあります。その場合に認知をさせるためには、裁判上の手続きが必要となります。
また、認知により法律上の父子関係が生じ、戸籍にも記載されますので、認知をするかしないかについては慎重な検討が必要です。
遺言による認知は、父親本人が死亡するまでは戸籍に記載されませんので、戸籍から婚外子の存在が判明することはありませんが、死亡後に判明することになります。したがって、既婚者である不倫相手が遺言による認知をした場合には、不倫相手が存命中にその配偶者に不倫がバレなくても、不倫相手の死後に不倫がバレることがあります。
認知の効果や影響について不安がある場合には、弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。