「パートナー(夫や妻)から、毎日ひどいことを言われる。」
「もしやこれはモラハラではないか?」
この記事をご覧の方は、そのような疑問を抱えて、パートナーとの関係にお悩みかもしれません。
この記事では、家庭内で起こるモラハラやその対応策について、分かりやすく解説します。
モラハラとは道徳に反した嫌がらせのこと
モラハラとは、モラルハラスメントの略です。
モラルは道徳や倫理、ハラスメントは嫌がらせなどの意味をもった言葉です。
DV防止法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律)では、「配偶者からの暴力」を、次のように定義しています。
- 身体に対する暴力
- これに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動
具体的には、日々怒鳴ったり、人格を否定したり、実家や友人との付き合いを制限したり、仕事や外出を制限したり、知り合いの前でバカにしたりうそをついたりして貶めたり、生活費を渡さずに経済的に苦しめたり、存在自体を無視する、というような行為も、1の「身体に対する暴力」ではありませんが、2に含まれますので、「配偶者からの暴力」の一種です。
モラルハラスメントは、2の「配偶者の暴力」となりうる行為です。
(1)なぜモラハラが起きてしまうか?モラハラをしやすいタイプ
モラハラを起こしやすいタイプには、次の様な特徴がみられやすいといわれています。
- 自己中心的であり、自分の視点から判断することしかできない(パートナーの視点を考慮しない、否定する)。
- 常に自分が正しく、パートナーは間違っていると思う。
- パートナーが間違っているから、正しい自分に従うべきだと思う。
- 自分が不愉快になったり、不幸だったりするのは、自分ではなく他の誰か(主にパートナー)の責任であると考える。
- 小さなミスでも見逃さず、大事のように責め続けてパートナーを屈服させる。
- 自分は立派な素晴らしい大人になりたいと思っており、実際にそのように装うので、外面はよい。
日々のストレスから、ついついパートナーを責めて傷つけるようなことを言ってしまった、ということは、誰しも経験したことがあるでしょう。
通常であれば、相手が傷ついていることに気づけば、「間違っていた」「言い過ぎた」などと反省・後悔し、次は気を付けようとするはずです。
しかし、モラハラをするような人は、人を傷つけて支配することで、自分の心の安定を得て満足する傾向があります。間違っていたなどとは思わず、反省・後悔することもなく、同じことを繰り返します。
(2)モラハラされやすいタイプの特徴
モラハラをされやすいタイプには、次の様な特徴がみられやすいといわれています。
- 場を収めるために、自分が間違いを認めたり謝ったりすることが多い。
- 自分の考えや意見をパートナーに伝えても否定・非難されることが多く、考えや意見を伝えることをやめてしまった。
- 自分の希望を伝えると、パートナーが怒り出して不愉快になるので、自分の希望は後回し。
- 自分の行動の基準が、「自分がしたいかどうか」ではなく、「パートナーが気に入る(怒らない)かどうか」になっている。
- パートナーの間違いに気づいても、笑って同意して、間違いを指摘できない。
- パートナーが不機嫌になるので、実家や友人と距離を置くようになり、相談できる人がいない。
- パートナーが自分を傷つけるのは、自分に原因があり、自分が悪かったせいだと思う。
モラルハラスメントを受けやすい性格について、はっきりとは言うことはできないように思われます。
モラルハラスメントを受け続けると、どんな性格であっても、心が深く傷つき、自信を失い、常にパートナーの顔色を見ながら、自分を押し殺して生活することを強いられるようになります。
モラルハラスメントをするパートナーは、そのように相手方をコントロールすることで、自分の心の安定を得て、いびつな自尊心を満足させているのです。
ただ、被害者の性格によっては、いち早くモラルハラスメントを受けていることに気づいて、そこから脱却することができるかもしれません。
(3)モラハラによって引き起こされる病状
モラルハラスメントの被害を受けている当初は、「パートナーは疲れているから不愉快なのだろう」「私が悪かったからひどいことを言ったのだろう」などと思い、モラルハラスメントを受けている事実、それにより心が傷ついている事実に気づかないことも多くあります。
モラルハラスメントを受け続けたことが原因で、心身に次のような症状が出ることもあり、被害が深刻になるケースもあります。
- うつ病
- 適応障害
- 睡眠障害
- 頭痛、腹痛
- 心的外傷後ストレス障害(PTSD)
- 過呼吸
- 動悸・息切れ など
モラハラとパワハラの違い~おこなわれる場所と暴行の有無~
モラルハラスメントと似て異なるのは、パワーハラスメント(パワハラ)ですので、少し説明します。
パワハラは、モラルハラスメント同じように法律上の定義はありませんでしたが、パワハラによる自殺など痛ましい事件が社会問題化して対策の必要性が広く理解されることとなり、労働施策総合推進法が改正され(2020年6月1日施行)、法律上、パワハラの考え方が明確になりました。
法律によれば、パワハラとは、優越的な関係に基づいて、業務上必要かつ相当な範囲を超えて、労働者の就業環境を害されるものをいいます。
モラハラは、パワハラと比べて、次のような特徴があります。
モラハラは言葉や態度などで相手に嫌な思いをさせる行為(精神的暴力)で身体的暴力は含まない | ⇔ | パワハラは精神的暴力と身体的暴力を含む。 |
モラハラは職場に限らず、家庭内や友人知人の間でも起こりえる。 | ⇔ | パワハラは勤務先・出向先など仕事に関連して、優越関係を利用して行われる。 |
家庭内でモラハラととれる主な言動
次のような言動があるときは、それはモラハラかもしれませんので、注意してみるようにしましょう。
客観的にみると、このような行動をとる側が悪い(モラハラをする側が悪い)とわかるのですが、当事者だと、そのことに気づかず、モラハラをされている側が自分を責めてしまうことがあります。
(1)パートナーをおとしめる
友人や親族、ご近所の方などの前で、パートナーをおとしめたりばかにしたりする言動をとる。
友人や親族、ご近所の方などの前で、パートナーの失敗や間違いを延々と攻めたり、笑いの種にしたりする。
(2)暴言を吐く
日常的に、価値観や自信を傷つけるようなひどい言葉を投げつけて、精神的に相手を傷つける。
自分が暴言を吐いてパートナーを傷つけて満足したいだけなので、暴言に理由はないし、理由があっても一貫性がない。
(3)常に相手を否定して認めない
相手の意見や考え、希望を否定し、相手に、自分の意見の間違いを指摘されたり、意に沿わない希望を伝えられたりすると、不機嫌になったり怒り出したりする。
作ってもらった料理に対して、ほめたり感謝したりすることはなく、「食べられない」「まずすぎる」「これが足りない」などと非難する。
相手の意見を踏まえて努力しても、その努力を認めないばかりか、さらに非難される。
相手が謝っても許さなかったり、無視したりする。
(4)うそをつく
パートナーについてうそを広めて、その評判を貶める。
パートナーの友人や親族にも、事実を歪曲して、パートナーに悪印象をもたせる言動をとったりする。
(5)自分を正当化して間違いを認めない
常に自分の考えは正しく、その結果、想像通りにいかず失敗したり間違ったりしても、その原因は自分ではなく、パートナーにあるという態度を取り続ける。
整合性・一貫性のないことを言い続け、それを指摘すると憤慨したり、逆に責めたりする。
(6)パートナーに異常に嫉妬したり、束縛をしたりする
SNSやメールでの頻繁な連絡を命じ、従わないと不機嫌になって怒る。
事前に伝えて同意を得て外出したのに、帰宅すると不機嫌で、当たり散らすので、外出自体を控えるようになる。
(7)子どもにパートナーの悪口を言って、利用する
子どもに対して、「料理が下手だ」「こんな母親(父親)でかわいそうだ」などと、子どもにパートナーの悪口を言ったり、うそをついたりして、パートナーを家庭内で孤立させる。
子どもがいる前で、子どもに配慮することなくパートナーを罵倒したりして、親としての立場を傷つける。
(8)傲慢な態度をとったり、細かいルールをおしつけたりする
「自分が働いているからお前や子どもは食べていける」「文句を言うなら同じように働いて稼いでみろ」など傲慢な態度をとる。
自分がよしとする細かいルールを押し付け、それに従わないと不機嫌になって責めたりする。
相手の考えを理解したり、折り合いをつけたりしようとする話し合いを受け入れず、「こんなことも分からないのか」「だからお前はダメなんだ」などと非難する。
(9)パートナーが生き生きと活動することの邪魔をする
パートナーが仕事や趣味に時間を使うことを認めない。
パートナーが仕事や趣味に時間を使うことを認めても、家事や子育てを完璧にすることを要求し、自分からは一切協力しない。
努力して家事や子育て、仕事や趣味をこなしても、努力を認めないし、些細なミスがあればことさらに指摘して責め、不機嫌になり、自主的に仕事や趣味をやめるように差し向ける。
パートナーが成功した体験を話しても、喜ぶことはなく、かえって傷つけたり責めたりするような発言をする。
モラハラに遭ったとるべき5つの対応
実際にモラハラの被害に遭っている人は、自信を失い、「自分が悪い」「相手も変わってくれるはず」などと思わされ、精神的にコントロールされている状態にありますので、モラハラの被害に遭っていること自体に気づかないことも多くあります。
ですが、何らかのきっかけで「これはモラハラだ!」と気づき、その環境から抜け出そうとし、自分を取り戻そうとします。
モラハラに遭っていることに気づいときにとるべき対応を、5つ紹介します。
(1)モラハラの実態を録音
ICレコーダーなどでモラハラの実態を録音・録画しておきましょう。
モラハラの客観的な証拠があれば、「モラハラなどしていない」という言い逃れに反論することができます。
(2)モラハラのメールやSNSのスクリーンショットをとる
録音・録画できなくても、モラハラがわかるSNSのやり取りやメールを保存しておきましょう。保存方法は、別媒体にバックアップを取ったり、スクリーンショットを取ったり、プリントアウトしたりする方法があります。
これらも、内容によっては、モラハラがあったことの客観的な証拠となります。
(3)モラハラの記録として日記をつける
モラハラの実態を日記につけて記録しておくのも、証拠となります。
ポイントは、できれば毎日継続してつけること、行間を開けないこと、ボールペンなど消せないペンで書くことです。
毎日記載すれば、記憶が新しいうちに書き留めていることになりますから、内容への信用性が高まります。
また、行間なくボールペンで記載していれば、後で修正したり付け加えたりすることは困難ですから、これも内容への信用性が高くなります、
(4)証拠を集めて別居する
モラハラの被害に耐えられなかったり、一旦冷静になって客観的に現状を考えたかったり、「モラハラはもうたくさんだ」と離婚を前提として自立の道を探していくと決意したりした場合は、別居という選択肢があります。
特に、モラハラの程度がひどく、心身に悪影響を及ぼしているような場合には、身体の安全のために、別居して物理的な距離を置くのがよいでしょう。
別居後は関係を断つことになるでしょうから、モラハラの証拠を入手することは困難です。可能であれば、別居前に証拠を入手できるとよいでしょう。
(5)支援窓口、医師・カウンセラー、弁護士などに相談する
「これはモラハラなのだろうか?」と疑問に思っているだけの段階でも、相談を受けてくれる次のような窓口があります。
相談を希望する方は、事前に電話連絡をするとよいでしょう。
モラハラにより心身に影響が出ている場合には、心療内科を受診したり、カウンセラーに相談したりして、症状の改善に努めましょう。
モラハラについての法的な対処法について知りたい場合には、モラハラに対応している弁護士に相談するとよいでしょう。
モラハラをしてくる相手に要求できる3つのこと
モラハラの被害に気づいて、客観的に相手と自分を考えられるようになったら、「自分は悪くない」「相手が理不尽に自分を傷つけてコントロールしようとしている」ということも分かるはずです。
モラハラの被害を受ける立場から脱却し、自分の人生を取り戻して自分らしく生きるためには、相手方のコントロール外に出ていく必要があります。
相手方のコントロール外に出ていくために、相手方に要求できる事項を知っておくようにしましょう。今回は、3つの要求事項を説明します。
(1)モラハラ行為をやめるよう請求
モラハラによって傷ついているのですから、自分を守るために、そのような言動を止めてほしいと伝えることができます。
今まで、自分の考えや意見を伝えることを我慢してきていると、伝えること自体難しいかもしれません。
当事者同士だけで伝えるのが難しい場合には、信頼している第三者(家族など)に同席してもらうのもよいでしょう。
(2)慰謝料請求
モラハラによりPTSDを発症するなど、刑法上の傷害といえるほどの精神障害に至った場合には、モラハラは、刑法上の傷害罪で処罰されることもあります。
モラハラという不法行為によって、傷害という被害を受けて精神的苦痛を被っていますから、それに対する損害賠償を請求することができます。
そこまではいかなくとも、モラハラの態様がDV防止法でいうような暴力に至っている場合には、同じように不法行為として、受けた精神的苦痛に対する損害賠償を請求することができます。
また、次で説明するように、モラハラを行っている相手方に離婚の責任があるといえるような場合には、離婚に伴う慰謝料を請求することができます。
(3)離婚請求
モラハラは多種多様であり、その態様が法律上の離婚原因とされる程度に至っているなら、相手方が離婚に合意しなくても、調停や裁判で離婚を求めることができます。
しかし、モラハラは法律上定義されていませんので、調停や裁判でのモラハラの取り扱いも決まりがありません。
「モラハラされたから離婚原因がある」といえることは、大変少ないです。
- モラハラが精神的暴力といえるようなレベルに至っており、その証拠がある
- モラハラが存在する夫婦関係を見ると夫婦関係が破綻しているといわざるを得ない
と判断されたりすると、「婚姻を継続しがたい重大な事由」(民法770条1項5号)として、法律上の離婚原因となります。
モラハラをする相手方と冷静に離婚について話し合うのは極めて難しく、精神をすり減らしてしまいます。相手方は、その話し合いで、さらに精神的な攻撃を加えてくるでしょう。
弁護士は、冷静に、法的な知識をもって依頼者の希望を実現するために交渉し、必要であれば調停・訴訟などの裁判手続きを取ることができます。
話し合いが難しいと感じたら、無理をせずに弁護士に相談してみることをお勧めします。
【まとめ】モラハラを我慢せずに解決に向けた行動を!
モラハラをするような相手は、基本的に変わらず、同じことを繰り返すと考える必要があります。
モラハラの被害に遭っていると気づいたら、そのままの状態に甘んじることなく、自分の人生のために、解決に向けた行動をとっていただきたいと思います。
そのために、今回の記事が参考になれば幸いです。