「もうすぐ60歳で定年を迎える。
定年後も再雇用で働き続ける予定だけれど、60歳以降は給料が下がってしまうのが心配。
そんなときのための『高年齢雇用継続給付』という給付金があると聞いたけれど、詳細をしっかり把握しておきたいな」
60歳を機に給料が下がってしまうのは大きな問題です。
そんな場合に備えて、「高年齢雇用継続給付」という給付金の制度があります。
ご自身が高年齢雇用継続給付をもらえるのか、もらえるとして一体いくらもらえるのか、詳しく知っておきたいですよね。
この記事では、次のことについて弁護士が解説します。
- 「高年齢雇用継続給付」とは何か
- 高年齢雇用継続給付の申請手続き
- 高年齢雇用継続給付をもらう際の3つの注意点
- 高年齢雇用継続給付についてよくある質問4つ
中央大学卒、アディーレ入所後は残業代未払いの案件をメインに担当し、2018年より労働部門の統括者。「労働問題でお悩みの方々に有益な解決方法を提案し実現すること」こそアディーレ労働部門の存在意義であるとの信念のもと、日々ご依頼者様のため奮闘している。東京弁護士会所属。
「高年齢雇用継続給付」とは?
「高年齢雇用継続給付」とは、雇用保険の給付のひとつです。
雇用保険に加入しており一定の要件を満たした方のうち、賃金が60歳時点の75%未満に低下した状態で60歳以降も働き続ける方に対して、一定の給付金が支給されます。
雇用保険の給付について、詳しくはこちらをご覧ください。
ここからは、高年齢雇用継続給付について、詳しくご説明します。
(1)高年齢雇用継続給付の種類
高年齢雇用継続給付には、次の2種類があります。
- 高年齢雇用継続基本給付金
- 高年齢再就職給付金
「高年齢雇用継続基本給付金」は、60歳以降も雇用保険の失業手当(基本手当)等を受け取らずに継続して働き続ける場合にもらえる給付金です。
基本的には、「60歳の前後で変わらず同じ会社で働き続ける方がもらえる給付金」と考えても良いでしょう。
このほか、いったん退職してもその後失業手当を受け取らずに再就職すれば、再就職後に受け取ることもできます。
これに対して、「高年齢再就職給付金」は、60歳以降にいったん会社を退職し、雇用保険の失業手当(基本手当)を受け取り、再就職した際に失業手当の支給残日数が残っているともらえる給付金です。
基本的には、「60歳以降にいったん会社を辞めて雇用保険の失業手当をもらっていた方が再就職した際に対象となり得る給付金」と考えると良いでしょう。
(2)高年齢雇用継続給付の受給資格・支給要件
高年齢雇用継続給付には、受給資格・支給要件(もらうための条件)があります。
さきほどご説明した2種類の給付金に分けてご説明します。
(2-1)高年齢雇用継続基本給付金の受給資格
高年齢雇用継続基本給付金の受給資格は、次のとおりです。
- 基本手当(失業手当等)を受給していないこと
- 60歳以降の賃金が60歳時点の75%未満となっていること
- 60歳以上65歳未満の一般被保険者であること
- 雇用保険の被保険者であった期間が5年以上あること
典型的には、若い頃からずっと同じ会社で働き続けていたものの60歳になったのを機に賃金が下がってしまった方がもらえる給付金です。
(2-2)高年齢再就職給付金の受給資格
高年齢再就職給付金の受給資格は、次のとおりです。
- 基本手当(失業手当等)を受給して60歳以降に再就職したこと
- 再就職後の賃金が退職前の賃金の75%未満となったこと(※)
- 60歳以上65歳未満の一般被保険者であること
- 基本手当についての算定基礎期間が5年以上あること(基本手当を受け取る前に雇用保険に5年以上加入していたこと)
- 再就職した日の前日における基本手当の支給残日数が100日以上あること
- 再就職により、1年を超えて引き続き雇用されることが確実な職業に就いたこと
- 同じ就職について、再就職手当の支給を受けていないこと
※正確には、「再就職後の各月の賃金が基本手当の基準となった賃金日額を30倍した額の75%未満となったこと」となります。
典型的には、60歳以降に転職をした方で失業手当の日数がまだ多く残っている方がもらえる給付金です。
(2-3)高年齢雇用継続給付2つに共通する支給要件
さきほどの受給資格を満たすほかに、さらに次の支給要件も満たさなければ、高年齢雇用継続給付の給付金をもらうことはできません。
高年齢雇用継続給付2つに共通する支給要件は、次のとおりです。
- 支給対象月の初日から末日まで雇用保険の被保険者であること
- 支給対象月中に支払われた賃金が、60歳到達時の賃金月額の75%未満に低下していること
- 支給対象月中に支払われた賃金が、支給限度額(※)未満であること
- 申請後に算出された基本給付金の額が、最低限度額(※)を超えていること
- 支給対象月の全期間にわたって、育児休業給付・介護休業給付の支給対象となっていないこと
※支給限度額・最低限度額は、毎年8月1日に改定されます。
2023年8月1日からの支給限度額は、37万452円、最低限度額は2196円です。
参考:令和4年8月1日から支給限度額が変更になります。皆さまへの給付額が変わる場合があります。|厚生労働省
(3)高年齢雇用継続給付の支給対象期間
高年齢雇用継続給付がもらえる期間(支給対象期間)についてご説明します。
高年齢雇用継続給付の支給対象期間は、月単位で考えます。
(3-1)高年齢雇用継続基本給付金
高年齢雇用継続基本給付金の支給対象期間は、次のとおりです。
60歳になった月~65歳になる月までの間
※「60歳になった月」とは、60歳の誕生日の前日が属する月のことです。
ただし、60歳になった日(60歳の誕生日の前日)に受給資格を満たしていなかったり、雇用保険の被保険者でなかったりした場合には、受給資格を満たした月や雇用保険の被保険者になった月から支給が始まります。
(3-2)高年齢再就職給付金
高年齢再就職給付金の支給対象期間は、基本的には高年齢雇用継続基本給付金と同様です。
ただし、高年齢再就職給付金は、基本手当(失業手当)の支給残日数に応じてもらえる期間が変わってきます。
具体的には、次のとおりです。
- 再就職日の前日時点で基本手当の支給残日数が200日以上である場合:再就職日の翌日から2年
- 再就職日の前日時点で基本手当の支給残日数が100日~199日である場合:再就職日の翌日から1年
(4)高年齢雇用継続給付の支給額
高年齢雇用継続給付の支給額について、計算方法と具体例をご説明します。
(4-1)高年齢雇用継続給付の計算方法
高年齢雇用継続給付の支給額の計算式は、次のとおりです。
支給対象月の賃金額×支給率
高年齢雇用継続給付の支給率は、60歳以前にもらっていた賃金(※)からどれだけ賃金が下がったか(低下率)によって変わってきます。
※60歳以前にもらっていた賃金とは、原則として、60歳到達前6ヶ月間の平均賃金月額(総支給額を180で割って30を掛けた額)のことです。
この賃金月額には、上限額と下限額があり、上限額以上・下限額未満であるときは、上限額・下限額を用いて計算します。
2022年8月1日からの上限額は47万8500円、下限額は7万9710円です(毎年8月1日に改定されます)。
低下率は、次の式により計算します。
低下率=支給対象月の賃金額÷60歳到達時の賃金月額×100
低下率に応じた支給率の概要は、次のとおりです。
低下率 | 支給率 |
---|---|
75%以上 | 0% |
61%を超え75%未満 | 低下率に応じて、0%を超え15%未満 |
61%以下 | 15% |
60歳以降の賃金が、60歳時点と比べて75%未満になれば支給してもらえます。
この75%という数字がひとつの区切りです。
(4-2)高年齢雇用継続給付の具体例
高年齢雇用継続給付の、1ヶ月にもらえる金額の具体例をご紹介します。
【60歳到達時の賃金月額が30万円であった場合】
- 支給対象月に支払われた賃金が24万円のとき
低下率が80%なので支給率は0%となり、支給されません。
- 支給対象月に支払われた賃金が20万円のとき
低下率が約66.6%であり支給率は約8.35%のため、支給額は約1万6700円です。
- 支給対象月に支払われた賃金が15万円のとき
低下率が50%なので支給率は15%となり、支給額は2万2500円です。
高年齢雇用継続給付の申請手続き
高年齢雇用継続給付をもらうためには、自分で何か手続きをしなければならないのですか?
高年齢雇用継続給付の申請は、原則として会社がハローワークに対して行います。
基本的に、あなたが直接ハローワークとの間で何かの手続きを行う必要はありません。
あなたが直接ハローワークとの間で手続きをする必要はありませんが、会社がハローワークに対して申請手続きをするにあたっては、あなたが支給申請書などのいくつかの書類を記入し提出する必要があります。
給付金を確実に受け取るために、会社から申請手続きに必要な書類の記入を求められた際には、できるだけ早く書類を記入して提出するようにしましょう。
申請が受け付けられ、給付金がもらえることが決定すると、ハローワークから会社を通してあなたに対し「支給決定通知書」が交付されます。
支給されるかどうかは、支給決定通知書を受け取ることができたかどうかで判断すると良いでしょう。
高年齢雇用継続給付をもらう際の3つの注意点
高年齢雇用継続給付をもらうにあたっては、3つの注意点があります。
- 老齢厚生年金(在職老齢年金)が減額されることがある
- 育児休業給付や介護休業給付を受けると高年齢雇用継続給付を受けられない
- 高年齢再就職給付金と再就職手当の両方をもらうことはできない
(1)注意点1|老齢厚生年金(在職老齢年金)が減額されることがある
特別支給の老齢厚生年金(65歳より早く老齢厚生年金を受け取れる制度)など65歳になるまでの間に老齢年金を受け取る方が、高年齢雇用継続給付を受け取ると、老齢年金の一部が支給停止となります。
高年齢雇用継続給付により老齢厚生年金が一部支給停止される額は、標準報酬月額の0.18%~6%です。
支給停止されるかどうかや支給停止される具体的な額などについては、最寄りの年金事務所に問い合わせると良いです。
(2)注意点2|育児休業給付や介護休業給付を受けると高年齢雇用継続給付を受けられない
先ほどご説明したとおり、「育児休業給付・介護休業給付の支給対象ではない」ことが、高年齢雇用継続給付の受給資格のひとつです。
このため、育児休業給付や介護休業給付を受け取ってしまうと、高年齢雇用継続給付を受け取ることはできなくなります。
(3)注意点3|高年齢再就職給付金と再就職手当の両方をもらうことはできない
高年齢再就職給付金と「再就職手当」の両方をもらうことはできません。
両方の支給要件をともに満たす場合には、どちらか一方の給付金を選ぶ必要があります。
「再就職手当」とは、雇用保険の給付の一種で、失業手当の受給資格を満たしている人が失業手当の支給日数を一定以上残して再就職した場合にもらえる手当のことです。
高年齢再就職給付金と再就職手当の違いは、主に次のとおりです。
高年齢再就職給付金 | 再就職手当 | |
給付金額 | 賃金月額の最大15% | 「基本手当日額×支給残日数×30%」 |
支給方法 | 1年または2年かけて毎月支給 | 一括で支給 |
退職時の扱い | 退職月以降は受給できなくなる | 支給決定後に退職しても減額されない |
給付額の変動 | 賃金月額に応じて給付額も変わる | 支給決定後に給付額が変わることはない |
在職老齢年金への影響 | 併給調整(一定の減額)がされる | 併給調整されない |
どちらも、支給決定後に取消しや変更をすることはできません。
どちらの給付金を受け取ったほうがメリットが大きいかは、ハローワークに確認すると良いでしょう。
高年齢雇用継続給付についてよくある質問4つ
高年齢雇用継続給付についてよくある質問をご紹介します。
- 今後、高年齢雇用継続給付の給付率が下がるって本当?
- 高年齢雇用継続給付には税金がかかる?
- 高年齢雇用継続給付は60歳以降で転職した場合ももらえる?
- 高年齢雇用継続給付が不支給との決定がなされたらどうすればいい?
(1)質問1|今後、高年齢雇用継続給付の給付率が下がるって本当?
2025年4月1日以降新たに60歳を迎える方から、高年齢雇用継続給付の給付率が最大10%に縮小されます(現在は最大15%)。
高年齢雇用継続給付は、将来的には廃止される見通しとされています。
(2)質問2|高年齢雇用継続給付には税金がかかる?
高年齢雇用継続給付には、税金がかかりません。
支給された分をそのままもらうことができます。
(3)質問3|高年齢雇用継続給付は60歳以降で転職した場合ももらえる?
高年齢雇用継続給付の対象者で、受給資格等を満たしていれば、60歳以降で転職したとしてももらうことができます。
(4)質問4|高年齢雇用継続給付が不支給との決定がなされたらどうすればいい?
高年齢雇用継続給付が不支給との決定がなされた場合、その決定に不服があるときは、不支給を知った日の翌日から3ヶ月以内に審査請求(不服申立ての手続き)をすることができます。
審査請求の結果、やはり支給するべきであったと判断されれば、高年齢雇用継続給付をもらうことができます。
審査請求の手続きについて、詳しくはハローワークに問い合わせるか、審査請求手続きの代行を扱っている弁護士に相談すると良いでしょう。
【まとめ】高年齢雇用継続給付は60~65歳の賃金低下を補う給付のこと
この記事のまとめは次のとおりです。
- 「高年齢雇用継続給付」とは、雇用保険の給付のひとつで、雇用保険に加入しており一定の要件を満たした方のうち、賃金が60歳時点の75%未満に低下した状態で60歳以降も働き続ける方に対して、一定の給付金が支給される制度。
60歳以降の賃金が60歳以前の75%未満になるなどの要件を満たすともらうことができる。 - 高年齢雇用継続給付の申請は、原則として会社がハローワークに対して行う。
あなたが直接ハローワークとの間で手続きをする必要はないが、あなたが支給申請書などの書類を記入し会社に提出する必要はある。 - 高年齢雇用継続給付を受け取ると、老齢年金の一部が支給停止となるなどの注意点がある。
- 高年齢雇用継続給付には、税金がかからず、そのままもらうことができる。
高年齢雇用継続給付は、60歳以降に一定割合を超えて賃金が下がったときのために、その一部を補填してくれる制度です。
60歳になったからといって急に大幅に賃金が下がると困ってしまいますよね。
高年齢雇用継続給付をもらえるならばしっかりともらって、60歳以降の生活にそなえるようにしましょう。
高年齢雇用継続給付について疑問がある方は、最寄りのハローワークに相談しましょう。