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過労死の労災認定率は5割以下!代表的な過労死の裁判例を紹介

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kiriu_sakura

身近な方が過労死してしまったという話を聞かれた方、いらっしゃいますか?
「過労死」という言葉はよく聞くけれども、「具体的にはどういうことなのか」「労災認定はどれくらいされているのかな?」と思っていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。
過労死であるとして労災申請した場合、過労死が労働災害であると認められる事例は、申請数の半分以下です。

この記事では、

  • 厚生労働省の「過労死」の定義、認定要件
  • 過労死の労災認定状況
  • 過労死に関する裁判例
  • 過労死として適切な補償(労災給付や損害賠償金)を受けるための対応

などについて、弁護士が解説します。

この記事の監修弁護士
弁護士 髙野 文幸

中央大学卒、アディーレ入所後は残業代未払いの案件をメインに担当し、2018年より労働部門の統括者。「労働問題でお悩みの方々に有益な解決方法を提案し実現すること」こそアディーレ労働部門の存在意義であるとの信念のもと、日々ご依頼者様のため奮闘している。東京弁護士会所属。

過労死とは?

まず、「過労死」とはどういう意味でしょうか。
厚生労働省の定義では、「過労死等」とは、「業務における過重な負荷による脳・心臓疾患や業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする死亡やこれらの疾患」とされています。
仕事による過労やストレスが原因となり、脳・心臓疾患を患って亡くなったり、後遺障害が残ることをいいます。

精神障害の場合は、精神障害を原因して自殺してしまうことを過労死(過労自殺)といいます。
過労自殺とは、仕事による強いストレスによって、精神障害になり、自殺してしまうことをいいます。

参考:過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ|厚生労働省

厚生労働省は“過労死ライン”を定めている

次に、厚生労働省が定めている「過労死ライン」について説明します。

長時間労働は、疲労の蓄積が甚だしくなり精神疾患を患うばかりか、脳・心臓疾患との関連性も強いといわれています。
過労死ラインとは、健康障害リスクが高まると一般的に考えられている残業時間を指す言葉で、労災を認定する際に、長時間の残業と過労死や過労自殺との因果関係を判断する際に用いられる判断基準です。

そして、“過労死ライン”として、次のいずれかに該当すると健康障害のリスクが著しく高まるとされています。

  • 発症前直近1ヶ月の時間外休日労働が100時間を超えている
  • 発症前直近2〜6ヶ月間の1ヶ月あたりの時間外休日労働が平均80時間超である
  • 発症前1ヶ月ないし6ヶ月にわたって、1ヶ月あたり概ね45時間超である

厚生労働省は、上記の基準を、「過労死ライン」と定めています。

参考:脳・心臓疾患の労災認定 労働時間の評価の目安|厚生労働省

過労死とは?労災保険の請求や会社への損害賠償請求とあわせて解説

過労死の労災認定状況の推移

それでは、過労死の労災認定状況は、どのようになっているのでしょうか。

労災申請がされ、仕事による過労・ストレス(業務による精神的負荷)が原因の一つとなって、脳心臓疾患(脳内出血、くも膜下出血、脳梗塞、心筋梗塞、狭心症、心停止など)にかかり死亡したと認められ、過労死であるとして、労災と認定されると、労災補償の対象となります。

厚生労働省は毎年、「過労死等の労災補償状況」を公表しています。

2021年6月23日の公表によると、2020年度の過労死等に関する労災の請求件数は、2835件、そのうち支給決定がされた件数は802件となっています。

参考:令和2年度「過労死等の労災補償状況」を公表します|厚生労働省

(1)過労死の認定要件

では、過労死と認定されるための要件はどのようになっているのでしょうか。

脳・心臓疾患による死亡や精神障害による自殺が過労死と認められるかどうかは、労働基準監督署の判断によります。

まず、過労死の対象疾病は、次のとおりです。

  1. 脳血管疾患
    脳内出血(脳出血)、くも膜下出血、脳梗、高血圧性脳症
  2. 虚血性心疾患等
    心筋梗塞、狭心症、心停止(心臓性突然死を含む。)、解離性大動脈瑠
  3. 精神疾患
    器質性精神障害、統合失調症、気分障害等
    (国際疾病分類第10回修正版(ICD-10)第Ⅴ章「精神および行動の障害」に分類される精神障害)

では、過労死と認定されるためにはどのような要件が必要なのでしょうか。
過労死と認定されるためには、個別具体的な事情の検討と評価が必要です。

ア 脳・心臓疾患について
まず、脳・心臓疾患については、「業務による明らかな過重負荷」があったかどうか、という観点からの要件があります。
具体的には、「異常な出来事」、「短期間の過重業務」「長期間の過重業務」の3つのポイントです。

「業務による明らかな」とは、仕事、業務がくも膜下出血の有力な発症原因になっていたと客観的に認められることをいいます。
「荷重負荷」は、医学的見地から、くも膜下出血の引き金となる血管病変等を引き起こすに妥当と認められる負荷のことをいいます。
そして、この「業務による明らかな過重負荷」と認定されるポイントについて、厚生労働省は、3つの認定基準を設けています。

  1. 発症直前から前日にかけて「異常な出来事」があったかどうか
  2. 発症前おおむね1週間のあいだに「特に過重な業務」があったかどうか
  3. 発症前おおむね6ヶ月間のあいだに「著しい疲労蓄積をもたらす過重業務」があったかどうか

参考:脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準 基発第1063号|厚生労働省

以下、厚生労働省の基準である3つのポイントについて説明します。

1.発症直前から前日にかけて「異常な出来事」があったかどうか
ポイントの1つ目は、発症直前から前日にかけて本人が「異常な出来事」に遭遇しているか否かです。
「異常な出来事」には、「精神的負荷」「身体的負荷」「作業環境の変化」が挙げられます。

精神的負荷とは、極度の緊張、興奮、恐怖、驚がく等の強度の精神的負荷を引き起こす突発的又は予測困難な異常な事態です。
例えば、業務に関連した重大な人身事故や重大事故に直接関与し、著しい精神的負荷を受けた場合などが考えられます。

身体的負荷とは、緊急に強度の身体的負荷を強いられる突発的又は予測困難な異常な事態です。
例えば、事故の発生に伴って、救助活動や事故処理に携わり、著しい身体的負荷を受けた場合などが考えられます。

作業環境の変化とは、急激で著しい作業環境の変化です。
例えば、屋外作業中、極めて暑熱な作業環境下で水分補給が著しく阻害される状態や特に温度差のある場所への頻回な出入りなどが考えられます。

2.発症前おおむね1週間のあいだに「特に過重な業務」があったかどうか
認定のポイントの2つ目は、短期間(発症前おおむね1週間)の過重業務の有無です。
当該労働者の日常業務(所定労働時間内の所定労働内容)や同僚労働者・同種労働者と比べて、特に過重な身体的・精神的負荷があったかどうかで判断されます。
代表的な負荷要因としては、

  • 発症直前から前日までの間に特に過度の長時間労働が認められること
  • 発症前おおむね1週間以内に継続した長時間労働が認められること
  • 休日が確保されていないこと
  • 不規則な勤務、拘束時間の長い勤務
  • 出張の多い業務、交代制勤務・深夜勤務
  • 温度環境、騒音、時差
  • 日常的に精神的緊張を伴う業務、発症に近接した時期における精神的緊張を伴う業務に関連する出来事

などです。

3.発症前おおむね6ヶ月間のあいだに「著しい疲労蓄積をもたらす過重業務」があったかどうか
認定のポイントの3つ目は、長期間(発症前おおむね6ヶ月間)の過重業務の有無です。
恒常的な長時間労働の度合いをはじめ、一定期間の就労の実態等を考察して、蓄積した疲労によって過重な身体的・精神的負荷があったかどうかが判断されることになります。

  • 長時間労働とは、発症前1~6ヶ月平均で月45時間を超えて長くなるほど、業務と発症との関連性は強まる傾向になります。
  • 発症前1ヶ月間に100時間又は2~6ヶ月間平均で月80時間を超える時間外労働は、業務と発症との関連性は強くなります。
  • 短期間の過重業務同様に、労働時間以外にも、勤務形態・作業環境・精神的緊張(休日が確保されていないこと、不規則な勤務、高速時間の長い勤務、出張の多い業務、交代制勤務・深夜勤務、温度環境、騒音、時差、日常的に精神的緊張を伴う業務、発症に近接した時期における精神的緊張を伴う業務に関連する出来事など)も考慮されます。

イ 精神障害について
精神障害の認定においては、「特別な出来事」「業務以外の心理的負荷評価表」「個体側要因」がポイントとなります。

  1. 特別な出来事
    発病直前に極度の長時間労働(1ヶ月に概ね160時間超)があること、精神にかかわる、極度の苦痛を伴う業務上の病気やケガをしたこと、などがあったかどうかという要件です。
  2. 業務以外の心理的負荷評価表
    業務以外に心理的負荷がかかる出来事(自分自身の病気やケガ、近親者の死去など)があったかどうかという点です。
  3. 個体側要因
    個体側要因とは、当該労働者に、精神障害の既往歴やアルコール依存状況などがあるかで、このような要因を個体側要因といいます。個体側要因がある場合には、発病の原因について慎重に判断されます。

これらの要因を個別具体的に総合的に判断して、業務によって精神障害が発症したのかについて検討し、労災認定するか否かが決められています。

参考:精神障害の労災認定|厚生労働省

(2)過労死の認定状況の推移

それでは、過労死の認定状況はどのようになっているでしょうか。

“過労死等の労災補償状況”における脳・心臓疾患と精神障害の労災補償状況の推移は次のとおりです。

令和元年度の過労死の労災請求件数は次のとおりです。
脳・心臓疾患による死亡 253件 認定率36.1%
精神障害による自殺 202件 認定率47.6%

過去5年の請求件数の推移は、脳・心臓疾患による死亡はおおむね減少傾向、精神障害による自殺はほぼ横ばいです。
過去5年の認定率の推移は、脳・心臓疾患による死亡、精神障害による自殺ともにほぼ横ばいとなっています。

参考:脳・心臓疾患の労災補償状況|厚生労働省
参考:精神障害の労災補償状況|厚生労働省

代表的な過労死の裁判例

では、過労死に関する裁判例はどのようなものがあるのでしょうか。

過労死に関する裁判には、労働基準監督署に対する過労死の労災認定をめぐる行政裁判と、会社に対する過労死の損害賠償をめぐる民事裁判の大きく2種類があります。
それぞれについて説明します。

(1)過労死、疾病の認定をめぐる裁判例

過労死等の労災認定は労働基準監督署が行います。
審査や再審査を経ても労働基準監督署の判断に不服の場合は、行政裁判を起こして裁判官に司法判断を委ねることになります。

過重な業務によるくも膜下出血が労災であるか否かが争われた事案としては、横浜南労基署長(T海上横浜支店)運転手くも膜下出血上告事件(最高裁平成12年7月17日判決)があります。
概要を説明します。

横浜南労基署長(T海上横浜支店)運転手くも膜下出血上告事件
(最高裁判決平成12年7月17日労判785号6頁)

支店長付きの運転手として勤務していた労働者(原告)が、長期間の拘束、時間外労働時間が続き、宿泊勤務によって体調を崩し、その後も長時間労働が続いたことから、自動車を運転中にくも膜下出血を発症したという事案です。

原告は、本件くも膜下出血は、過重な業務によるものであり、発症と業務との間には相当因果関係があるとして、横浜南労働基準監督署長(被告)に対して労災保険法に基づき休業補償給付の支給を請求したところ、被告は原告の疾病は、基礎疾患が影響しており、業務起因性の要件を欠くとして不支給決定処分としたため、原告は、処分の取消しを求めて提訴したという事案です。

最高裁は、原告の「基礎疾患の内容、程度、上告人が本件くも膜下出血発症前に従事していた業務の内容、態様、遂行状況等に加えて、脳動脈瘤の血管病変は慢性の高血圧症、動脈硬化により増悪するものと考えられており、慢性の疲労や過度のストレスの持続が慢性の高血圧症、動脈硬化の原因の一つとなり得るものであることを併せ考えれば、」原告の「基礎疾患が右発症当時その自然の経過によって一過性の血圧上昇があれば直ちに破裂を来す程度にまで増悪していたとみることは困難というべきであり、他に確たる増悪要因を見いだせない」ことから、原告が発症前に従事した業務による過重な精神的・身体的負荷によってくも膜下出血に至ったと認められるとして、労災であると認めました。

参考:最高裁判所第一小法廷判決平成12年7月17日|裁判所 – Courts in Japan

(2)過労死の損害賠償をめぐる裁判例

次に、過労死した方のご遺族が会社に対して損害賠償請求するケースもあります。
過労死遺族は、会社に対して過労死を引き起こした民事上の責任を問い、裁判で損害賠償金を請求することができます。
過労死について会社に対する損害賠償請求が認められた事案として最も有名な事件は、電通に勤務していた社員がうつ病を発症し自殺したという電通事件です。

電通事件最高裁判決(最高裁第2小法廷平成12年3月24日判決)

電通に勤務していた社員が長時間労働からうつ病を発症し、自殺したという事件です。
ニュースでの大きく取り上げられ、ご存知の方も多いかと思います。
この判決のポイントは、会社には、職場の労働者の生命及び身体等の安全を保護するよう配慮すべき義務があり、当該義務には、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務(健康配慮義務)があり、会社がこの義務に違反し、労働者が精神疾患・自殺に至ったような場合には、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償義務を負うことになると判断しました。

参考:最高裁判所第二小法廷判決平成12年3月24日|裁判所 – Courts in Japan

過労死の労災認定や損害賠償請求においては、証拠集めが重要

過労死や過労自殺は突然起こるといっても過言ではありません。
そうした過労死や過労自殺が疑われる場合、いつ脳・心臓疾患や精神障害になったかが不明なことが多く、又仕事以外の要因(既往症など)が存在することがあります。

脳・心臓疾患や精神障害となった時期や仕事が原因であることについて、診断書やカルテは勿論のこと、場合によっては医師の意見書を取得するなどして、医学的見地から、それらを証明していく必要があります。

そして、従事していた業務の内容や態様、それに要した労働時間を含めた遂行状況についての証拠も収集し、業務上の心身に対する負荷が強度のものであり、労働者の死亡や自殺が業務に起因することを証明していく必要もあります。

過労死や過労自殺が起こった場合には、ご遺族は、大変な心労を抱えることになりますが、労災認定を求めたり、会社に対する安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求をするためには、過労死、過労自殺直後から、様々な証拠を収集し、主張立証の準備をしなければなりません(会社に対する損害賠償請求をするには、会社の過失についての主張立証の準備も必要となります)。

過労死、過労自殺などについて、労災認定や損害賠償を検討される場合には、ご遺族自らそうした主張立証の準備をするのは非常に困難であるといえますので、最初から弁護士に依頼されることをおすすめします。

【まとめ】過労死として適切な補償を受けるには、客観的な“証拠”が重要

今回の記事のまとめは次のとおりです。

  • ”過労死等”は、厚生労働省による定義と認定要件がある
  • 過労死の労災認定状況は、実績として、脳・心臓疾患、精神障害ともに申請しても半数以上が認定されない
  • 過労死に関する裁判には、労働基準監督署に対する過労死の労災認定をめぐる行政裁判と、会社に対する過労死の損害賠償をめぐる民事裁判の大きく2種類がある
  • 過労死として適切な補償(労災給付や損害賠償金)を受けるためには、労働時間の実績などを示す客観的な証拠が重要となる

過労死の労災認定は医学的、法律的にとても難しい問題です。
過労死の労災認定を検討される方は、過労死の労災認定に精通した弁護士にご相談ください。

この記事の監修弁護士
弁護士 髙野 文幸

中央大学卒、アディーレ入所後は残業代未払いの案件をメインに担当し、2018年より労働部門の統括者。「労働問題でお悩みの方々に有益な解決方法を提案し実現すること」こそアディーレ労働部門の存在意義であるとの信念のもと、日々ご依頼者様のため奮闘している。東京弁護士会所属。

※本記事の内容に関しては執筆時点の情報となります。

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