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パトカーに追跡されている車と交通事故!警察に責任は問えないの?

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kiriu_sakura

※この記事は、一般的な法律知識の理解を深めていただくためのものです。アディーレ法律事務所では、具体的なご事情によってはご相談を承れない場合もございますので、あらかじめご了承ください。

「パトカーに追いかけられている車と衝突事故を起こしてけがをした。パトカーには責任を追及できないの?」

パトカーに追跡されている車両と衝突してけがをするなどの被害にあった場合、パトカーの責任を追及するにはパトカーの行為が「違法」でなければいけません。

この点、裁判では、基本的に次のような判断がされています。

  1. パトカーによる追跡行為は、正当な職務行為として原則適法である
  2. 例外的に、追跡が不必要であったこと又は逃走の開始・継続や追跡の方法が不相当であった場合には違法となる

したがって、必ずしも全ての事故についてパトカーの責任が認められるわけではありません。

この記事を読んでわかること
  • パトカーに追跡された車両と事故を起こした場合の賠償責任
  • 実際の裁判例
この記事の監修弁護士
弁護士 中西 博亮

岡山大学、及び岡山大学法科大学院卒。 アディーレ法律事務所では刑事事件、労働事件など様々な分野を担当した後、2020年より交通事故に従事。2023年からは交通部門の統括者として、被害に遭われた方々の立場に寄り添ったより良い解決方法を実現できるよう、日々職務に邁進している。東京弁護士会所属。

事故による損害を誰に請求できる?

パトカーに追跡されている加害者の過失により交通事故が起き、被害者がけがをしてしまった場合、被害者は、当然加害者に対して生じた損害の賠償を請求できます。

問題は、加害者が任意保険に加入していなかった場合や、盗難車を運転していて所有者の保険が使えず、加害者からの十分な賠償が期待できない場合です(※基本的には、政府保障事業から一定限度で補償を受けられます。)。

このような場合、追跡しているパトカーに対して損害の賠償を求めることはできるのでしょうか。

パトカーに対して損害の賠償請求はできる?

パトカーに賠償を求める場合、『国家賠償法』の問題になります。

国家賠償法とは何ですか?

国家賠償法とは、国や地方公共団体の賠償責任について規定した法律です。
公務員が職務に関して他人に損害を与えた場合や、道路や河川などに関して管理などに問題があって他人に損害を与えた場合に、国が賠償責任を負うというものです。

パトカーを運転している警察官に賠償請求できるかという話ではないのですか?

警察官が、その職務として不審者などを追跡していたという場合には、交通事故を起こしても警察官個人としては、被害者に対して賠償責任を負いません。
この場合には、原則として、各警察官が所属する警察を設置した各都道府県が被害者に対して賠償責任を負います。

パトカーの追跡行為に関して、各都道府県に対して国家賠償を求める場合、パトカーの追跡行為が「違法」でなければいけません。

国家賠償法1条1項(公務員の不法行為と賠償責任)

国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。

国家賠償法 | e-Gov法令検索

それでは、どのような場合に警察官の行為が「違法」と評価できるのでしょうか。
パトカーに追跡された車両が交通事故を起こした場合の国家賠償としては、次のような事例があります。

最高裁判所第一小法廷判決 昭和61年2月27日

スピード違反の車両(加害者の車両)を発見した警察官が、赤色灯を点灯し、サイレンを鳴らしながら追跡するなどしたため、加害者の車両が赤信号を無視して交差点に進入して第三者の車両に衝突し、更に同車両が被害者の車両に衝突して被害者がけがをしたという事案

裁判所は、警察官は、異常な挙動などから合理的に判断して、犯罪を犯したと疑う相当な理由のある者に対して職務質問をしたり、現行犯人逮捕などをする職責があるとした上で、交通法規違反をして逃走する車両を追跡する職務中に、逃走車両の走行により第三者が損害を被った場合に違法と評価できるのは、次のような場合であると判断しました。

  • 追跡が職務目的を遂行する上で不必要なこと
    又は
  • 逃走車両の逃走の態様や道路交通状況などから予測される損害発生の具体的危険性の有無及び内容に照らし、追跡の開始・継続もしくは追跡の方法が不相当であること

なお、この事案では、警察官の追跡は違法とは言えないとして、被害者の国家賠償請求を認めませんでした。

参考:最高裁判所第一小法廷判決 昭和61年2月27日|裁判所- Courts in Japan

この判決は、その後もリーディングケースとして、パトカーに追跡された車両が事故を起こした場合の被害者の損害賠償について参考とされています。

なお、パトカーに追跡された車両に衝突されたという事例ではありませんが、パトカーに追跡されたオートバイが交通事故を起こした事例で、警察官の行為が違法で国家賠償請求が認められた事例として、次のものがあります。

徳島地方裁判所判決 平成7年4月28日

オートバイで暴走行為に参加していた高校生がパトカーに追跡され、道路脇に設置された道路標識に激突して運転手が死亡し、同乗者がけがをした事例

この事例は、被害者らが集団でジグザグ運転を繰り返して一般通行車両の通行を妨害し、信号を無視するなどしたため、警察官がパトカーで被害者の運転するオートバイを追跡した上、被害者の右手側から幅寄せをした結果、被害者が車道左側歩道上の道路標識に激突したという事案でした。

この事例で、裁判所は、警察官による被害者のオートバイの追跡自体は適法としつつ、事故の起こった車道の状況などから、警察官による幅寄せ行為は、被害者のオートバイを道路標識や車道と歩道の間の縁石に衝突あるいは接触・転倒させ、運転手や同乗者に死亡や重大なけがを負わせる具体的な危険があるものとして、違法な行為であると判断しました。
(※ただし、運転手については減速するなどして事故を回避できたであろうことなどから、9割の過失相殺、同乗者については途中で同乗を止めることもできたのに一緒に逃走したことなどから7割の過失相殺が認められています。)

また、次の事例では、警察官の行為はいずれも違法ではないとして被害者による国家賠償請求が否定されました。

神戸地方裁判所判決 平成28年8月30日

盗難手配を受けているナンバープレートを付けた車両(加害者の車両)が、パトカーに気付いて無謀な車線変更、追い抜き、追い越しを繰り返しながら逃走したため、パトカーがこれを追跡したところ、加害者の車両が被害者の車両に衝突した事例

この事例で、裁判所は、次のような事実などから、パトカーによる追跡行為に違法性はないとして、被害者による国家賠償請求を認めませんでした。

  • 加害者の車両を追跡する必要性が高かったこと
  • 道路が雨でぬれており、追跡により被害が発生する抽象的危険性は予測されるものの、具体的危険性まで予測できたとは言えないこと
  • パトカーの運転が、加害者の車両の急激な進路変更等を誘発したとは言えず、パトカーの追跡の方法が特段危険なものであったとも言えないこと

東京地方裁判所判決 平成22年6月4日

赤色信号に従って停車中の被害者の車両に、パトカーに追跡されていた加害者の車両が衝突した事例

この事例は、警察官がパトカーで加害者の車両を追跡していたものの一旦見失い、その後、再び加害者の車両を発見し、職務質問のために警察官が加害者の車両に近づいたところ、加害者が逃走し、停車中の被害者の車両に衝突した事案でした。

この事例で、裁判所は、次のような事実などから、警察官の行為に違法性はないとして、被害者による国家賠償請求を認めませんでした。

  • 警察官の追跡方法は不相当ではないこと
  • 加害者の車両が、被害者の車両の脇を強引に通過するという異常な事態を警察官も具体的に予見できたとは言い難いこと

このように、パトカーに追跡されている車両と事故を起こした場合には、

  • 加害者の車両の速度や逃走状況
  • 当時の道路や交通状況
  • 加害者を検挙するための他の手段の有無

などから、パトカーによる追跡の必要性や追跡方法の相当性を検討する必要があり、追跡行為の違法性が認められない場合には、パトカーの責任を問うことはできないということになります。

パトカーの責任が認められるかどうかはケースバイケースですが、パトカー(警察官)の行為が違法と評価されることは多くはありません。
パトカーの絡んだ交通事故にあわれた方は、まずは弁護士にご相談ください。

【まとめ】パトカーの責任を追及できるのは、追跡行為の必要性や相当性から判断して違法とされる場合に限られる

今回の記事のまとめは、次のとおりです。

  • パトカーに追跡されている車両と衝突するなどして交通事故の被害にあった場合、加害者に対して損害の賠償を請求することができる。
  • パトカーを運転する警察官に違法性が認められる場合、原則として警察官の所属する各都道府県に対して国家賠償を請求できる。
  • この点、裁判所によれば、基本的には、パトカーによる追跡が警察の職務の目的を遂行する上で不必要であるか、又は逃走する加害者の車両の走行の態様及び道路交通状況等から予測される被害発生の具体的危険性の有無・内容に照らして追跡の開始、継続もしくは方法が不相当である場合でなければ国家賠償は認められない。

パトカーに追跡された車両と衝突するなどの被害にあい、国家賠償請求を検討されている方は、交通事故を取り扱う弁護士にご相談ください。

この記事の監修弁護士
弁護士 中西 博亮

岡山大学、及び岡山大学法科大学院卒。 アディーレ法律事務所では刑事事件、労働事件など様々な分野を担当した後、2020年より交通事故に従事。2023年からは交通部門の統括者として、被害に遭われた方々の立場に寄り添ったより良い解決方法を実現できるよう、日々職務に邁進している。東京弁護士会所属。

※本記事の内容に関しては執筆時点の情報となります。

※¹:2024年4月時点。拠点数は、弁護士法人アディーレ法律事務所と弁護士法人AdIre法律事務所の合計です。

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