「交通事故の時点ではケガに気づいていなかった。」
「軽傷だったため、大事にしたくないと考えて、ケガをしたことは警察に伝えなかった。」
様々な事情から、交通事故でケガをしたにもかかわらず、ケガをしたことを警察に伝えなかったために、「物損事故」として扱われることがあります。
しかし、交通事故でケガをしたのであれば、すぐに警察に伝えて「人身事故」に切り替えることをおすすめします。
この記事を読んでわかること
- 「物損事故」で処理されるリスク
- 「物損事故」を「人身事故」に切り替える方法
- 警察で「人身事故」への切り替えを受け付けてもらえなかった場合の対処法
岡山大学、及び岡山大学法科大学院卒。 アディーレ法律事務所では刑事事件、労働事件など様々な分野を担当した後、2020年より交通事故に従事。2023年からは交通部門の統括者として、被害に遭われた方々の立場に寄り添ったより良い解決方法を実現できるよう、日々職務に邁進している。東京弁護士会所属。
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物損事故とは?
「物損事故」とは、交通事故により物(自動車など)が傷ついたり壊れたりして損害が発生したが、ケガ人はおらず人的な損害は発生していない交通事故のことをいいます。
一方、ケガ人が生じて人的な損害が発生した場合には、「人身事故」といいます。
人身事故では、道路交通法や自動車運転処罰法等により、懲役や罰金などの刑事処分を受けることがあります。
他方、通常の物損事故では、人身事故と異なり、基本的に刑事処分の対象とはなりません。
人身事故との違い
物損事故と人身事故との主な違いは、次のような点にあります。
物損事故 | 人身事故 | |
自賠責保険 | 適用されない | 適用される |
行政処分(免許の点数) | 加算されない | 加算される |
刑事処分 | 基本的に対象とならない | 対象となる |
慰謝料の請求 | 原則不可 | 可 |
損害賠償請求権の消滅時効(短期) | 被害者が損害および加害者を知った時から3年(民法724条1号) | 被害者が損害および加害者を知った時から5年(民法724条の2) |
損害賠償請求権との相殺(※) | 悪意のある場合は不可(民法509条) | 不可(民法509条2号) |
※例えば自動車同士の事故で、双方に過失があって損害が発生した場合には、お互いに損害賠償を請求することができます。
人身事故の場合には、「こちらの請求額がこれだけで、あなたの請求額がこれだけだから、あなたの請求額分を差し引いた(相殺した)額を請求する」ということはできませんが、物損事故の場合にはその相殺を行うことができる場合があります。
事故被害者にとって「物損事故」で処理されるのはリスクが大きい
交通事故の発生直後、現場に到着した警察官は、交通事故を確認・調査して記録に残します。
警察官が物損事故なのか人身事故なのかを判断するために、警察官から「ケガや痛みはありますか?」と聞かれることがあるかもしれません。
この時、加害者は人身事故となれば刑事処分や行政処分を受ける可能性がありますから、「物損事故としてくれないか、ケガをしていたらしっかり別途補償する」などと頼んでくるかもしれません。
大事にしたくない、加害者も悪い人ではなさそうだしかわいそうだ、と思うかもしれません。
しかし、ケガや痛みがあるようなら、しっかりと警察官にその旨を伝え、人身事故として処理してもらうようにしましょう。
人身事故と物損事故では、賠償される損害の内容が異なりますので、実際は人身事故であるにもかかわらず、物損事故として扱われてしまうと、被害者は不利益を被ってしまうことがあるからです。
物損事故として扱われてしまうと被害者が受ける不利益は次のとおりです。
- ケガをして治療費などが発生しても、十分な損害賠償を受けられない可能性がある
- 事故状況の証明が難しく、示談交渉が難航する可能性がある
(1)ケガをして治療費などが発生しても、十分な損害賠償を受けられない可能性がある
ケガが軽微である場合、警察には物損事故であると報告し、保険会社には人身事故であると報告するケースもあるようです。
しかし、保険会社が人身事故として治療費の支払いなどに応じてくれればよいですが、実際は人身事故であるのに、警察が物損事故と把握しているのは事実とは異なり不自然です。
そのため、保険会社が「物損事故だから」という理由で治療費の支払いを拒否する可能性もあります。
物損事故で賠償されるのは、基本的に物に生じた損害だけです。
一方、人身事故では、人的な損害(治療費、入通院慰謝料、休業損害、後遺症慰謝料、逸失利益など)も賠償の対象になりますので、一般的に賠償金は物損事故と比べて高額になります。
(2)事故状況の証明が難しく、示談交渉が難航する可能性がある
交通事故において加害者・被害者双方に不注意があった場合、どちらの不注意が交通事故の原因となったかを割合(「過失割合」)を定めて、賠償金額を減額することがあります。
例えば、過失割合が被害者:加害者=3:7であるとすると、被害者の過失の分3割が全体の賠償金額より減額されることになります。
そして、停車中の車に加害車両がぶつかる追突事故など、事故状況や過失割合について互いに争いが生じないケースもありますが、そもそも事故状況について当事者の認識が食い違う場合や、過失割合(どちらにどれだけ過失があるのか)について争いが生じるケースも多くあります。
通常、過失割合について争いが生じた場合には、人身事故の際に作成される実況見分調書などをもとに、相手方の過失割合を主張していきます。
実況見分調書は、事故直後に警察官が事故状況の詳細を確認・調査して作成する書類なので、過失割合を判断する重要な証拠となるのです。
しかし、物損事故では、原則この実況見分調書が作成されず、簡易な物件事故報告書が作成されるだけです。
この物件事故報告書では、一般的に相手方の過失割合を証明する力が弱いとされていますので、過失割合に争いが生じた場合、被害者の主張が認められづらくなる可能性があります。
交通事故が「物損事故」「人身事故」どちらで扱われているのか確認する方法
交通事故証明書を申請して取り寄せると、末尾(書面右下)の「照会記録簿の種別」の欄で「人身事故」として扱われているのか、「物損事故」として取り扱われているのかを確認することができます。
「物損事故」を「人身事故」に切り替えるにはどうする?
手続き3ステップ
交通事故によるケガの中には、事故直後ではなく、1日~3日してから痛みやしびれなどの症状が現れるものがあります。
そのため、「事故直後はケガや痛みに気が付かなかったので物損事故としたけど、その後痛みを感じるようになった」というようなケースも少なくありません。
このような場合にはどうすればよいのでしょうか。
しっかりと交通事故の損害を賠償してもらうために、警察に対して、物損事故から人身事故へと切り替えてもらいたいと伝えるようにしましょう。
ここでは、切り替えの手順を説明します。
(1)病院で診断書を作成してもらう
痛みなどの症状があるのですから、まずは医師による診断・治療が必要です。
人身事故に切り替えるためには、ケガが交通事故によるものでなければいけません。
自分の症状に適した病院・科を受診し(むち打ち症状であれば整形外科、頭痛であれば脳神経外科・神経内科など)、診察を受け、ケガについての診断書を発行してもらいましょう。
診察の際には、事故日、事故の内容、いつから痛むか、どこが痛むかなどを説明するようにします。
また、加害者側の保険会社にも、事前に病院に行く旨を伝えて、人身事故として対応してもらいたい旨を伝えておくようにしましょう。
ただし、事故から1週間以上経過して病院を受診したような場合、保険会社が「交通事故によりケガを負った」とは認めず、交通事故とケガの因果関係はないとして、治療費などの支払いに応じない可能性があります。
仕事などで忙しいかもしれませんが、痛みやしびれを感じたら、時間を取ってすぐに病院を受診するようにしましょう。
どうしてもすぐに病院に行けない場合には、自己治療(市販の湿布や薬で痛みを抑えるなど)もケガの証拠となることがありますので、購入した薬などの領収書を保管しておくことをおすすめします。
(2)事故現場を管轄する警察署に伝える
診断書が発行されたら、警察署に対しても、人身事故として対応してもらいたいと伝えます。
警察官も忙しく、突然警察署を訪ねても対応してくれる人がいるとは限りません。事前に電話連絡をして、必要な書類や窓口・担当者を確認し、訪れる日時について約束するとよいでしょう。
物損事故から人身事故への切り替えはいつまでにしなければならないのか、という期限は法律上存在しません。
しかし、事故から何週間も何ヶ月も経ってから切り替えを希望しても、「本当にケガをしたのか」「交通事故と無関係のケガではないか」などと疑われて、警察が切り替えに応じないことがあります。
そのような事態を避けるためにも、痛みなどの症状が現れたら、すぐに病院を受診して診断書を入手し、警察署に伝えるようにしましょう。
なお、切り替えの手続きをするには、加害者と被害者の双方の来署が必要との記載が警察署のホームページにあることもありますが、交通事故によってケガをしたことが明らかであれば、認められることも多いです。
加害者の来署が難しい場合でも、切り替え手続きを進めることをおすすめします。
(3)「人身事故」に切り替えると、実況見分や事情聴取などが行われる
その後、警察は実況見分や当事者に対する事情聴取などを行います。
実況見分は、当事者本人が警察官と事故現場を訪れて行います。
警察官に対しては、記憶のとおりに、正確に事故の内容を伝えるようにしましょう。
警察で「人身事故」への切り替えを受け付けてもらえなかった場合には、どうすればいい?
診断書などを提出しても、事故から日数が経過していると、ケガが本当に事故から発生したものというには難しいとして、「人身事故」への切り替えが認められないことがあります。
このような場合、加害者が加入している損害保険会社に対して「人身事故証明書入手不能理由書(保険会社から入手)」を提出することで、警察における扱いは「物損事故」のまま、治療費や慰謝料を受け取れる可能性があります。
引用:人身事故証明書入手不能理由書記載例|愛知県国民健康保険団体連合会
もっとも、「人身事故証明書入手不能理由書」を提出しても、「ケガと事故との関係性が認められない(ケガが事故から生じたものとはいえない)」などの理由から、治療費や慰謝料が支払われないこともあります。
保険会社が治療費や慰謝料の支払いに応じてくれない場合には、弁護士に相談してみましょう。保険会社に対して裁判などをする必要がある場合もあります。
人身事故の切り替え、ケガについての賠償金請求を弁護士に相談・依頼するメリット
人身事故の切り替え、ケガについての賠償金請求を弁護士に相談・依頼するメリットは、次のとおりです。
- 賠償金を増額できる可能性がある
- 人身事故への切り替えがスムーズにすすむ可能性がある
- 弁護士費用特約に加入していれば、基本的に弁護士費用の心配はない
(1)賠償金を増額できる可能性がある
慰謝料について、自賠責保険が定める基準と弁護士が使う基準では金額が異なります。そのため、弁護士に依頼することで最終的に受け取れる賠償金の総額を増額できる可能性があります。
例えば、後遺症としてむち打ち(後遺障害等級14級)が残った場合、後遺症慰謝料について自賠責の基準と弁護士の基準では、次の差があります。
等級(別表第二) | 自賠責の基準 | 弁護士の基準 |
14級 | 32万円 | 110万円 |
弁護士に示談交渉を依頼すると、弁護士の基準を用いて示談交渉をスタートすることになります。そのため、自賠責の基準に基づいて算定された金額よりも増額できる可能性が出てきます。
慰謝料の算定基準について詳しくはこちらをご覧ください。
(2)人身事故への切り替えがスムーズにすすむ可能性がある
人身事故への切り替えには、病院の診断書が必要となりますが、事故との因果関係が診断書からわかるかどうかが重要です(事故日や初診日、いつから痛むかなどの記載があるかどうか)。
弁護士に依頼することで、どのような診断書を作成してもらうべきかアドバイスをもらえると同時に、作成してもらった診断書を警察に提出するまえに事前にチェックしてもらうことができます。
また、警察が人身事故への切り替えに応じない場合や、加害者の協力が必要な場面もありますが、弁護士が間に入ることで、これらの手続きがスムーズに進むこともあります。
(3)弁護士費用特約に加入していれば、基本的に弁護士費用の心配はない
弁護士に依頼すると弁護士費用がかかってしまいます。
しかし、弁護士費用特約を利用できれば、費用を気にする心配はありません。
「弁護士費用特約」とは、自動車事故の賠償請求を行う際に発生する弁護士費用を保険会社が支払ってくれる制度です。
※保険会社が支払う弁護士費用には上限があります。
※弁護士費用特約の利用には、被害者本人に重過失がないなどその他一定の条件を満たす必要がある場合が多いです。
弁護士費用特約を利用しても、保険料の値上がりや保険の等級が下がることはありませんのでご安心ください。
【まとめ】物損事故として扱われると、人身事故として扱われるよりも賠償金が安くなってしまう可能性がある
今回の記事のまとめは次のとおりです。
- 本当はケガをしたのに物損事故として扱われてしまうと、被害者は次のような不利益を受ける可能性がある。
- ケガをして治療費などが発生しても、十分な損害賠償を受けられない可能性がある。
- 事故状況の証明が難しく、示談交渉が難航する可能性がある。
- 交通事故が「物損事故」「人身事故」どちらで扱われているのか確認する方法は、交通事故証明書を申請して取り寄せて、末尾(書面右下)の「照会記録簿の種別」の欄で「人身事故」で取り扱われているのか、「物損事故」として取り扱われているのかを確認する。
- 「物損事故」を「人身事故」に切り替える手続きは、次のとおり。
- 病院を受診・診断書を作成してもらう
- 事故現場を管轄する警察署に伝える
- 人身事故に切り替えると、警察により実況見分や事情聴取などが行われる。
- ご加入中の自動車保険や損害保険に「弁護士費用特約」が付いている場合、弁護士費用は原則として保険会社が負担することになる(一定の限度額、利用条件あり)。
事故後しばらく経ってからケガをしていたと気付くことや、後になって思ったより重傷だったことが判明するケースは少なくありません。
しかし、物損事故として扱われたままにしておくことは、本来受け取れるはずの賠償金が受け取れなくなるなど、被害者にとってのリスクが大きいため、なるべく早く人身事故に切り替えておくことをおすすめします。
交通事故の被害による賠償金請求をアディーレ法律事務所にご相談・ご依頼いただいた場合、原則として手出しする弁護士費用はありません。
すなわち、弁護士費用特約が利用できない方の場合、相談料0円、着手金0円、報酬は、獲得できた賠償金からいただくという成功報酬制です(途中解約の場合など一部例外はあります)。
また、弁護士費用特約を利用する方の場合、基本的に保険会社から弁護士費用が支払われますので、やはりご相談者様・ご依頼者様に手出しいただく弁護士費用は原則ありません。
※なお、法律相談は1名につき10万円程度、その他の弁護士費用は300万円を上限にするケースが多いです。
実際のケースでは、弁護士費用は、この上限内に収まることが多いため、ご相談者様、ご依頼者様は実質無料で弁護士に相談・依頼できることが多いです。弁護士費用が、この上限額を超えた場合の取り扱いについては、各弁護士事務所へご確認ください。
(以上につき、2023年4月時点)
交通事故の被害にあって賠償金請求のことでお悩みの場合は、交通事故の賠償金請求を得意とするアディーレ法律事務所にご相談ください。