「車に乗る時は、全座席でシートベルトを着用しないといけないらしいけど、違反したらどうなるんだろう?」
自動車を運転する習慣のある方ならば、自然とシートベルトも着用するはずです。
しかし、後部座席に座るときにはシートベルトを着用しなくてもよいと思っている人がいるかもしれません。
確かに、2008年の道路交通法の改正前は、後部座席はシートベルトの着用が義務ではありませんでした。
ですが、2008年6月以降、原則として後部座席を含めた全座席でシートベルトの着用は義務となっています(※正確には、車に乗っている人にシートベルトを着用させる運転手の義務です)。
そこで、今回は次のことについて弁護士が解説します。
- シートベルトを着用すべき理由
- シートベルトを着用した場合の効果
- シートベルト着用義務に違反した場合の違反点数など
岡山大学、及び岡山大学法科大学院卒。 アディーレ法律事務所では刑事事件、労働事件など様々な分野を担当した後、2020年より交通事故に従事。2023年からは交通部門の統括者として、被害に遭われた方々の立場に寄り添ったより良い解決方法を実現できるよう、日々職務に邁進している。東京弁護士会所属。
シートベルト着用義務の目的
シートベルトを着用するのは、事故の際、人的被害を最小限に抑えるためです。
シートベルト着用せずに交通事故にあうと、シートベルトを着用していた場合に比べて次の危険性が高くなります。
車内で全身を強打する危険性
車外に放り出される危険性
前席の人が被害にあう可能性
時速60kmで走行している車が壁に衝突する力は、14階の高さから地面に落下するときと同じです。そのような力でフロントガラスにぶつかれば、フロントガラスを突き破り、地面に叩きつけられ、命を落としかねません。運良く助かっても重度の後遺症が残る可能性があります。
さらに、後部座席の人が運転席や助手席の人にぶつかれば、前の座席の人はエアバックと座席に挟まれ、大けがをするかもしれません。後部座席の人がきちんとシートベルトをすることは、自分の命だけでなく、同乗者の命を守ることにもつながるのです。
警察庁の発表によると、平成26年から令和5年の間で、後部座席でシートベルト未着用のまま交通事故にあい死亡した方のうち、車外に放り出された方は24.4%、車内のどこかに衝突した方は66.8%でした。
参照:後部座席シートベルト非着用死者の人身加害部位別比較|警察庁
また、国土交通省の発表によれば、シートベルトを着用していなかったために車外に放り出されてしまう確率は、シートベルトをしていた方の約14倍でした。
下の図は、交通事故にあって死亡した方のうち、シートベルトを着用していた方と非着用の方が、どのくらいの割合で交通事故により車外に放り出されてしまったのか調べた結果です。
どの座席でもシートベルト非着用の方が車外に放り出される割合が高くなっており、全体的にみると、シートベルトを着用していたのに車外に放り出されてしまった方は709名中の9名(1.3%)なのに対し、シートベルト非着用で車外に放り出されてしまった方は605名中の112名(18.5%)となっています。
※シートベルト非着用の全体の数は、「その他(バスの後部座席にいた場合、バスの車内に立っていた方)」も含みます。
※国土交通省の次の資料を加工して作成した表です。
参照:シートベルト非着用者の致死率は着用者の14倍|国土交通省
車外に投げ出されると、全身を強打する上、後続車などにひかれてしまう危険もあります。
後部座席であっても、必ずシートベルトの着用をすることが大切です。
しかも、交通事故が起きた時、シートベルトを着用していなかったために被害者のけがが重くなってしまった場合には、通常、被害者に5~20%程度の過失が認定されます。
被害者の過失が認定されると、その割合に応じて受け取れる賠償金が減額されますので、ご注意ください!
被害者の過失について詳しくはこちらの記事もご参照ください。
シートベルトの仕組みについて
一般的なシートベルトは、左右いずれかの肩部と腰部の両側で固定する三点式です。カーレースでは両肩を固定する四点式やさらに股間にベルトのある五点式が使用されていますが、日本の公道では三点式のシートベルトを必ず装着しなければなりません。
三点式は、十分な安全性を有する一方、簡単に取り外すことができ、救助の妨げになりません。また、普段自動車に乗っている時でも、多少の窮屈さはあるものの体の動きに合わせて伸縮するため、ある程度体を動かすことができます。
座席についているシートベルトは、ELR(緊急ロック式ベルト巻取装置)付シートベルトです。ベルトには多少のゆとりがあるため、体を動かすことができますが、急ブレーキを踏んだ時のように急に引っ張るとロックがかかり、体が固定されるのです。
シートベルト着用率はどのくらい?
実際、2022年の警察庁などが合同で実施した調査によると、後部座席でのシートベルト着用率は42.9%、高速道路では78%でした。
ですから、一般道では約6割の方が、高速道路では約2割の方がシートベルトを着用していないということになります。
参照:シートベルト着用状況全国調査結果(2022)|警察庁/日本自動車連盟(JAF)
シートベルト着用義務に違反した時の罰則は?
自動車に乗る場合、シートベルト着用は義務なので、シートベルトを着用しなければ「座席ベルト装着義務違反」として運転手が交通違反の点数を取られる可能性があります。
座席ベルト装着義務違反による違反点数は次のとおりです。
一般道路 | 高速道路 | |
---|---|---|
運転席/助手席 | 違反点数1点 | 違反点数1点 |
後部座席 | 違反点数なし | 違反点数1点 |
一般道路で後部座席の方がシートベルトを着用していない場合には違反点数はありませんが、着用義務には違反していますので、運転手が警察官から口頭での注意は受けます。
これに対して、シートベルトを着用しない場合の反則金や罰金などの罰則はありません。
「反則金」と「罰金」は何が違うんですか?
「反則金」というのは、反則行為(比較的軽微で定型的な道路交通法違反)をした場合に課される行政処分の一種です。
他方、「罰金」というのは、刑事罰の一種です。「罰金」を科すには刑事裁判によらなければいけません。
本来、罰金刑が規定されている道路交通法違反をした場合、刑事裁判を受けて罰金が科されるべきなのですが、反則行為に該当する違反は数が多すぎて、全てについて刑事裁判はできません。そこで、「交通反則通告制度」によって、一定の反則行為については一定期間内に反則金を納めると、それ以上刑事裁判(※少年の場合には家庭裁判所の審判)を受けなくてもよくなるという制度があるのです。
参照:反則行為の種別及び反則金一覧表|警視庁
参照:反則金の納付|警視庁
これまでご説明したとおり、シートベルトの未着用は、交通事故にあった時に重大な結果を生じる可能性を高めます。違反点数の有無や反則金に関係なく、シートベルトをしっかり着用し、ご自身やご家族の身の安全を守ることが大切です。
シートベルトの正しい着用方法
シートベルトを正しく着用することで、事故の時の危険性を大幅に軽減できます。
まず、シートの背を倒さずに、シートに深く腰掛け、姿勢を正します。
次に、骨盤や腰の位置を確認して、シートベルトがねじれないように、また、たるまないようにセットします。このとき、肩ベルトが首にかからないようにしましょう。
最後に、バックルの金具を確実に差し込んでください。
シートベルトには、正しい運転姿勢を保ち、運転の疲れを軽減する効果もありますよ!
妊娠している方向けシートベルトの着用方法
妊娠中であれば、無理にシートベルトを着用する必要はありません。
もっとも、きちんとシートベルトを着用すれば母体や胎児を保護することができます。
妊娠前と同様、腰ベルト・肩ベルトを両方着用します。
妊娠している方がシートベルトを着用するときのポイントは2つです。
- 肩ベルトを胸の間に通し、腹部の側面に通します。
- 腰ベルトは腹部のふくらみを避け、腰骨のできるだけ低い位置に通します
自分と赤ちゃんの命を守るために、しっかりシートベルトを着用しましょう。
マタニティシートベルトやベルトストッパーなど補助アイテムの利用もおすすめです。
シートベルトを着用できない場合はどうすれば良い?
病気など一定の場合には例外的にシートベルトの着用義務が免除されます。
どのようなときにシートベルトを着用しなくてもいいのかをお伝えします。
(1)やむを得ない理由により、シートベルトの着用が免除になる
法律上、シートベルトの着用を免除されるのは次のケースです(道路交通法71条3第1項、道路交通法施行令26条の3の2)。
- ケガ、障害、妊娠で、座席ベルトを装着することが療養上又は健康保持上適当でないとき
- 著しく座高が高い又は低い、著しく肥満する等の身体の状態により、適切に座席ベルトを装着することができない人
- 自動車を後退させるとき
- 消防士等が消防用車両を運転するとき
- 警察官等の公務員が職務のために自動車を運転するとき
- 宅配業務、ごみ収集などで頻繁に乗降する区間で業務するとき
- 要人警護などで警察用自動車に護衛、または誘導されているとき
- 公職選挙法の適用を受ける選挙における候補者又は選挙運動に従事する者が選挙カーを運転するとき
(2)シートベルトを着用できない子どもはチャイルドシートが必須
6歳未満の子どもなどシートベルトを正しく着用できない場合には、チャイルドシートが必須です。チャイルドシートを利用せずに6歳未満の子どもを乗せて運転してはいけません。
6歳未満の子をチャイルドシートを利用せずに車に乗せた場合、運転手は「幼児用補助装置使用義務違反」として、違反点数1点を取られます(反則金はありません)。
例外的に、幼児がケガをしているときなどチャイルドシートに乗せることがかえって害となるときには、シートベルト着用義務同様、チャイルドシートも免除されます。
なお、シートベルトは身長が140cm以上の体格の方が利用することを想定しています。6歳を超えても身長が140cm未満の場合には、ジュニアシートなどを利用して正しくシートベルトを着用させてくださいね。
【まとめ】シートベルト着用義務に違反しても反則金や罰金はないが、事故にあった時に車外に投げ出されてしまう危険性が高くなる
今回の記事のまとめは、次のとおりです。
- 道路交通法の改正により、2008年からは全座席についてシートベルトの着用が義務である。
- シートベルトを着用しない場合、交通事故にあった時に車内に体を強打する危険性や車外に放り出される危険性が高くなる。
- 国土交通省によると、シートベルト非着用の場合の致死率は、着用していた場合に比較して約14倍となる。
- 同乗者にシートベルトを着用させるのは運転手の義務。一般道路で後部座席の同乗者にシートベルトを着用させなかった場合を除き、同乗者にシートベルトを着用させないと交通違反の点数1点が加算される。
- 同乗者にシートベルトを着用させなくても、反則金や罰金はない。
- けがや妊娠など、やむを得ない理由によりシートベルトの着用が免除される場合もある。
- 6歳未満の子は、チャイルドシートの利用が必要。チャイルドシートを利用しない場合には運転手に交通違反の点数1点が加算される。
運転席や助手席であってもシートベルトの着用率は100%ではありません。
後部座席となると、シートベルトの着用率はさらに下がります。
違反点数を付されないからといって、シートベルトを着用しなくてもいいわけではありません。自分自身や大切な家族、友人、恋人の命を守るためにもシートベルトの着用を徹底してください。