Kさんは休日に自動車を運転中、交差点内で右折のタイミングを伺っていました。すると、前方から来た対向車が停止し、右折のための道を譲ってくれました。Kさんは、対向車の親切に応えようと急いでハンドルを右に切ったところ、対向車の脇から直進してきたバイクに衝突。頭部を大きく揺さぶられてむち打ち症などのケガを負ってしまいました。
Kさんのケースのように、道路上で道を譲ってもらい、その親切心に応えようとしたところ、別の車と衝突してしまうような事故を「サンキュー事故」といいます。
この記事では、
- サンキュー事故の典型的なケース
- サンキュー事故における過失割合
- サンキュー事故における慰謝料請求
について、弁護士が解説します。
愛知大学、及び愛知大学法科大学院卒。2010年弁護士登録。アディーレに入所後,岡﨑支店長,家事部門の統括者を経て,2018年より交通部門の統括者。また同年より、アディーレの全部門を統括する弁護士部の部長を兼任。アディーレが真の意味において市民にとって身近な存在となり、依頼者の方に水準の高いリーガルサービスを提供できるよう、各部門の統括者らと連携・協力しながら日々奮闘している。現在、愛知県弁護士会所属。
サンキュー事故とはどんな事故?
サンキュー事故とは、優先道路上にある車が優先度の低い車に進路を譲ることで発生する事故のことをいいます。
例えば、交差点で右折待ちをしている時に対向車から右折を譲られたため右折しようとしたところ、対向車の脇から直進してきたバイクなどと衝突するというのがその典型例です。
このように、サンキュー事故は、譲ってもらったので急いで対応しなければ、という意識から、注意力が散漫になることで発生します。
つまり、「譲ってくれてありがとう」という気持ちが事故につながってしまうことから、「サンキュー事故」と呼ばれるのです。
サンキュー事故における過失割合
では、サンキュー事故では過失割合(=事故が発生したことについての各当事者の不注意・ミスの割合)はどのように決まるのでしょうか。
後で詳しく述べるように、過失割合は事故の相手方に請求できる(または相手方から請求される)慰謝料などの金額を決める上で非常に重要です。
サンキュー事故で過失割合を決める要素としては、
- 事故の相手方……バイクか、自動車か、自転車か
- 事故が起こった交差点に信号があるかどうか
- 事故が起こった時の信号の色
などが主なポイントとなります。
以下では、特によくあるサンキュー事故のケースについて、パターン別に過失割合の目安を見ていきましょう。
(1)自動車とバイクの事故
自動車とバイクの事故の場合の過失割合(目安)は次のとおりです(数字は、過失割合(%)を示します。以下同じ)。
(1-1)信号機がない交差点内での事故

自動車(A) | バイク(B) |
---|---|
85 | 15 |

自動車(A) | バイク(B) |
---|---|
80 | 20 |

自動車(A) | バイク(B) |
---|---|
70 | 30 |
(1-2)信号機がある交差点内での事故

信号の状況 | 自動車(A) | バイク(B) |
---|---|---|
自動車・バイクともに青信号交差点内 | 85 | 15 |
バイク:黄、自動車:青→黄信号 | 40 | 60 |
自動車・バイクともに黄信号 | 70 | 30 |
自動車・バイクともに赤信号 | 60 | 40 |
バイク:赤、自動車:青→赤信号 | 20 | 80 |
バイク:赤、自動車:黄→赤信号 | 40 | 60 |
バイク:赤、自動車:右折青信号 | 0 | 100 |
(1-3)渋滞中の車両間での事故

自動車(A) | バイク(B) | |
---|---|---|
交差点内 | 70 | 30 |
交差点以外の場所 | 80~75 | 20~25 |
(2)自動車どうしの事故
自動車どうしの事故の場合の過失割合(目安)は次のとおりです。
(2-1)信号機がない交差点内での事故

右折車(A) | 直進車(B) |
---|---|
80 | 20 |

右折車(A) | 直進車(B) |
---|---|
70 | 30 |

右折車(A) | 直進車(B) |
---|---|
60 | 40 |
(2-2)信号機がある交差点内での事故

信号の状況 | 右折車(A) | 直進車(B) |
---|---|---|
右折車・直進車ともに青信号 | 80 | 20 |
直進車:黄、右折車:青→黄信号 | 30 | 70 |
右折車・直進車ともに黄信号 | 60 | 40 |
右折車・直新車ともに赤信号 | 50 | 50 |
直新車:赤、右折車:青→赤信号 | 10 | 90 |
直進車:赤、右折車黄→赤信号 | 30 | 70 |
直進車:赤、右折車;右折青信号 | 0 | 100 |
(2-3)駐車場など路外から進入した場合の事故

右折車(A) | 直進車(B) |
---|---|
80 | 20 |
(3)サンキュー事故における過失割合の修正要素
上でご紹介した過失割合は、いずれも基本的な過失割合です。
道路の幅や優先道路かどうか、事故時の速度、双方の過失の程度などにより過失割合が修正されることがあります。
例えば、信号機がある交差点内での右折自動車とバイクの事故(上記1の1-2)で、ABいずれも青信号だった場合の、A(自動車)の過失割合の修正要素は次のとおりです。
Aに徐行なし | B:-10 |
Aの直近右折 | B:-10 |
Aの早回り右折・大回り右折 | B:-10 |
Aに右折合図なし | B:-10 |
Aの著しい過失または重過失 | B:-10 |
Bの15km以上の速度違反 | B:+10 |
Bの30km以上の速度違反 | B:+20 |
A既右折(※1) | B:+10 |
Bの法50条違反の交差点進入(※2) | B:+10 |
Aの著しい過失または重過失 | B:+10 |
(※1)直進車が交差点に進入する時点で、右折車がすでに右折を完了しているか、またはそれに近い状態にあること
(※2)前方車両の状況により交差点内において車両の通行の妨害となるおそれがある場合に交差点に進入すること(道路交通法50条)
(4)道を譲った側に責任はある?
交通事故の過失割合は、事故を起こした直接の当事者(加害者と被害者)間で決めるものであり、道を譲った車に対し責任が問われることは基本的にありません。
サンキュー事故における慰謝料請求
では、サンキュー事故にあった場合、事故の相手方に対してどのような慰謝料を請求できるのでしょうか。
以下では、サンキュー事故で請求できる慰謝料、および過失割合に納得がいかない場合の修正方法について解説します。
(1)サンキュー事故の被害で受け取れる慰謝料の種類
サンキュー事故の被害にあった場合、事故の相手方に慰謝料を請求できます(過失割合などを考慮しても自己の損害額の方が大きい場合)。
慰謝料とは、事故により被った精神的損害(「痛い」「辛い」といった苦痛)を償うための賠償金をいいます。
慰謝料は、治療のためにかかった治療費や、破損した車の修理費などとは別に請求できます。
実際に請求できる慰謝料は次のようなものがあります。
- 入通院慰謝料(入通院した場合)
- 後遺症慰謝料(後遺障害が認定された場合)
- 死亡慰謝料(死亡した場合)
以下、それぞれ簡単に説明します。
(1-1)入通院慰謝料
交通事故でケガを負い、病院への通院や入院が必要になった場合、事故の相手方に対して入通院慰謝料を請求できます(「傷害慰謝料」とも呼ばれます)。
基本的に、入通院期間が長いほど、慰謝料額は高額になります。
入通院慰謝料の金額については、治療を続けた後、ケガが完治してから相手方と示談交渉をして決めることになります。
(1-2)後遺症慰謝料
交通事故でケガを負った場合、治療してもこれ以上回復できない状態で症状が残ることがあります。これを「後遺症」といいます。
「後遺障害」とは、このように交通事故で負った後遺症のうち、自賠責保険の基準に基づき、所定の機関(損害保険料率算出機構など)により障害を認定されたものをいいます。
後遺障害は1~14級(および要介護1級・2級)の等級に分かれており、1級の症状が最も重く、症状が軽くなるに従って2級、3級……と等級が下がっていきます。
各等級で、視力・聴力・四肢・精神・臓器など部位、系統に応じた障害の認定基準(各号)が定められています。
後遺障害が認定されると、被害者は加害者に対し、後遺症慰謝料を請求できるようになるほか、後遺障害により得られなくなった・または減少した将来の収入(これを、「逸失利益」)についても請求できるようになります。
(1-3)死亡慰謝料
被害者が死亡した場合は、加害者に対して死亡慰謝料を請求できます。
死亡慰謝料には次の2種類があります。
イ 死亡した本人の精神的苦痛に対して支払われるもの
ロ 残された遺族の精神的苦痛に対して支払われるもの
このうち、イを請求する権利は死亡した本人にありますが、死亡により遺族に相続されるため、通常はイ・ロともに遺族が請求することになります。
なお、これらの慰謝料については、金額を決める際の基準が複数あります。
事故の相手方との示談交渉を弁護士に依頼すれば、一般に最も金額の高い基準(弁護士基準または裁判所基準と呼ばれます)を用いて交渉を行います。
詳しくはこちらの記事もご確認ください。
(2)慰謝料請求で過失割合に納得いかない場合の対処法
過失割合とは、事故が発生したことについての各当事者の過失(不注意・ミス)の割合をいいます。
例えばある事故について、被害者の過失が2割、加害者の過失が8割の場合、過失割合は20:80となります。仮に、交通事故により被害者に生じた損害額が1000万円だった場合、1000万円のうち200万円は被害者自身が負担し、加害者は800万円を被害者に支払うことになります。

このように、慰謝料の額は過失割合によって変わるため、被害者としては自身の過失割合が小さいほうが望ましいといえます。
過失割合は、相手方(通常は、相手方が加入する保険会社)との示談交渉で決めるのが一般的です。基本的には上でご紹介した事故類型別の過失割合に基づいて決めることになりますが、中には相手側保険会社が機械的にパターンに当てはめるだけで過失割合を認定したり、相手方に都合の良い過失割合を提示してくる場合もあります。
相手側保険会社が提示してくる過失割合に納得がいかない場合は、弁護士に示談交渉を依頼することをおすすめします。
【まとめ】「譲ってくれてありがとう」という気持ちが事故につながってしまうサンキュー事故にご注意
今回の記事のまとめは次のとおりです。
- サンキュー事故とは、優先側の車両が、非優先側の車両に道を譲ることで起こる事故をいいます。
- サンキュー事故には、交差点の右折を譲ってくれた際に脇から直進するバイクや自動車などと衝突するパターン、片側2車線道路で車同士の間をすり抜けて右折したときに車両と衝突するパターン、駐車料から右折で道路に出ようとする際に車両と衝突するパターンなどがあります。
サンキュー事故における過失割合は、事故の相手の車両の種類、道路の状態や信号の色、その他事故時の状況により変わってきます。
サンキュー事故でケガをした場合、事故の相手方に慰謝料などを請求できることがありますが、その金額を決める上で過失割合は非常に重要です。
事故の相手方(加害者)に慰謝料などを請求する際や、相手側の保険会社が提示する過失割合に納得がいかない場合は、アディーレ法律事務所にご相談ください。