「ここ数年確定申告をしてないけど、このままだと何か困ったことになるの?」
確定申告をする義務のある方(事業所得がある方など)が、確定申告をしないままでいると、支払うべき金額が増えてしまう可能性があります。
本来確定申告によって支払うべきだった金額に、「無申告加算税」や「延滞税」などが上乗せされる場合があるためです。
また、確定申告をしなかった場合、日常生活でも思わぬデメリットが生じるおそれがあります。
たとえば、給与所得者以外の個人事業主やフリーランスの方などは、確定申告をしないでいると、収入を証明する「所得証明」が発行されないため、賃貸物件や住宅ローンの審査に通らなくなってしまう可能性があります。
しかし、期限を過ぎてしまっていても、早めに確定申告をすれば(期限後申告)、こうしたペナルティを軽減できたり、デメリットを避けられる可能性があります。
「確定申告していない年度がある」という方には早めの期限後申告がおすすめです。
この記事では、次のことについて弁護士が解説します。
- 確定申告をしなかった場合の3つのペナルティ
- 確定申告をしなかった場合の3つのデメリット
- 早めの期限後申告で、ペナルティが軽くなる可能性
- 確定申告の4つの注意点
2020年、2021年に行う確定申告は、新型コロナウイルス感染症の影響で通常よりも申告期限が延長されていました。
ところが、2022年に行う確定申告(2021年の収入などの分)からは、通常どおりの申告期間に戻っています(2023年に行う確定申告は、2023年2月16日から2023年3月15日まで)。
うっかり確定申告が遅れないよう、要注意です!
早稲田大学、及び首都大学東京法科大学院(現在名:東京都立大学法科大学院)卒。2012年より新宿支店長、2016年より債務整理部門の統括者も兼務。分野を問わない幅広い法的対応能力を持ち、新聞社系週刊誌での法律問題インタビューなど、メディア関係の仕事も手掛ける。第一東京弁護士会所属。
確定申告をずっとしていないけれど今からでもするべき?
数年にわたって確定申告をしていないのですが、今からでも確定申告はしたほうがいいのでしょうか?
今からでも確定申告はしたほうがいいです!
確定申告をずっとしていないまま放置していると、その分だけペナルティが大きくなり、追加で払わなければならない税金が増えてしまいます。
また、確定申告をずっとしていないことが悪質であると判断された場合には、単なる無申告に課されるよりも重い税を追加されることもあります。
確定申告をずっとしていなかったものの、いままで何も指摘されなかったから、指摘されてからでもいいと思う方もいるかもしれません。
しかし、期限が過ぎてしまった場合でも、指摘されてから初めて確定申告をするのではなく、自主的に確定申告をすることが大切です。
確定申告をする義務のある人
そもそも私に確定申告をする義務はあるのでしょうか?
確定申告をする義務があるのは、年末調整や各種の控除(所得控除など)をしても、納税義務が発生する方で、かつ、例えば次の要件に該当する方です。
- 天引き前の給与が2000万円を超えている会社員の方
- 会社員でも、副業で年間20万円以上の利益があった方(一定の要件に当てはまる方を除きます)
- 個人事業主やフリーランス等、事業所得等のある方
- 公的年金等を受け取っている方(一定の要件に当てはまる方を除きます)
「自分は確定申告しないといけないのかな?」と思われた方は、詳しくはこちらをご覧ください。
確定申告をしなかった場合の3つのペナルティ
確定申告をする義務があるのに、期限までに確定申告をしないでいると、次のようなペナルティを受けるおそれがあります。
- 無申告加算税
- 延滞税
- 重加算税
それぞれについてご説明します。
(1)ペナルティ1|無申告加算税
確定申告をしなかった場合に受けるおそれのある1つめのペナルティは、「無申告加算税」です。無申告加算税は、原則として次のように算出されます(国税通則法66条1項、2項)。
- 元々支払うべきだった金額が50万円以内➡その金額の15%
- 元々支払うべきだった金額が50万円超え➡50万円分については15%(7万5000円)、50万円を超える部分については20%
例えば、元々支払うべきだった金額が80万円だった場合、13万5000円の無申告加算税が上乗せされるおそれがあります。
50万円×0.15(15%)+30万円×0.2(20%)
=7万5000円+6万円
=13万5000円
(2)ペナルティ2|延滞税
確定申告をしなかった場合に受けるおそれのある2つめのペナルティは、「延滞税」です(国税通則法60条)。
確定申告は、払うべき所得税等の額を申告して支払うものです。そして、申告期限までに、所得税等の支払も済ませなければなりません(支払うべき所得税等がない方は除きます)。
そのため、申告期限を過ぎると同時に、所得税などの支払期限も過ぎてしまったことになり、延滞税が上乗せされてしまうのです。
延滞税は、「本来の申告期限の翌日から、実際に支払った日まで」の分が発生します。延滞税の利率は、支払いが遅れている期間が長くなるほど高くなるよう設定されています(先ほどの無申告加算税と違って、遅れるほど高額になります)。
(3)ペナルティ3|重加算税
確定申告をしなかった場合に受けるおそれのある3つめのペナルティは、「重加算税」です(国税通則法68条2項)。
申告期限を過ぎて(1)の「無申告加算税」を支払わなければならなくなった人が、次のどれかに当てはまっている場合、「無申告加算税」ではなく「重加算税」を支払わなければならないおそれがあります。
- 課税対象となる金額や、税金の額を計算する際に必要な事実などを隠蔽、仮装した。
- 上のように仮装することで、申告期限までに確定申告をしなかった。
- 上のように仮装することで、申告期限後に確定申告をした。
重加算税は、原則として
確定申告によって本来支払うべきだった金額の40%
です。
先ほどの無申告加算税よりも高い利率ですので、支払額を少しでも抑えるためには隠蔽・仮装はNGです。
確定申告をしなかった場合の3つのデメリット
確定申告をしないでいると、余計にお金を払うことになるばかりでなく、日常生活を送るうえで、思わぬデメリットが出てくる可能性もあります。
主なデメリットは次の3つです。
- 税金の還付を受けられない
- 控除を受けられない
- 【特に自営業の人は】収入の証明が難しくなる
それぞれについてご説明します。
(1)デメリット1|税金の還付を受けられない
確定申告をしなかった場合の1つめのデメリットは、「税金の還付を受けられない」ことです。
「還付」とは、源泉徴収された額などが実際に支払うべき税額より高くなっている場合、確定申告をすることにより 、差額を払い戻してもらうことをいいます。
払いすぎたお金が返ってくるんですね!どんな人が還付を受けられるのですか?
例えば、次のような方の場合、確定申告をすることで還付を受けられる可能性があります。
- 自営業で源泉徴収済みの報酬を受け取っている
- ふるさと納税をしているが、ワンストップ特例を利用していない
しかし、確定申告をしなければ、たとえ払い過ぎた額があっても取り戻すことができなくなってしまいます。
(2)デメリット2|控除を受けられない
確定申告をしなかった場合の2つめのデメリットは、「控除を受けられない」ことです。
例えば、自分や生計が同一の配偶者などのために、10万円を超える医療費を払った場合(※)には、確定申告を通じて医療費控除を受けられる可能性があります。
しかし、確定申告をしなければ医療費控除は受けられず、税額を軽減することもできません。
※「総所得金額など(全ての手取り額の合計)」が200万円以下の方の場合、総所得金額などの5%を超える医療費を支払えば、その超過分が医療費控除の対象となります。例えば、総所得金額などが100万円の方が1年間に8万円の医療費を払ったケースでは、5%(5万円)を超えた3万円分が控除の対象となります。
医療費控除は年末調整では受けられません。自分で確定申告を行う必要があります。
そのため、医療費が高い方は、特に要注意です。
医療費控除について、詳しくはこちらをご覧ください。
(3)デメリット3|【特に自営業の人】収入の証明が難しくなる
確定申告をしなかった場合の3つめのデメリットは、収入の証明が難しくなってしまうことです。
特に自営業の方の場合は、確定申告をしていないと、収入を証明する書類が手に入らない可能性があります。例えば次のような場面で不都合が生じる可能性があります。
- 賃貸物件に入居しようとする場面
- 住宅ローンを組もうとする場面
「確定申告が必要なのは副業収入だけ」という会社員の方などの場合、会社での源泉徴収票や雇用契約書などを使えば、賃貸の審査などを乗り切れるケースもあります。
しかし、自営業者の方の場合、源泉徴収票や雇用契約書などがないため、確定申告をしていないと、収入を証明する書類を用意できない可能性があるのです。
そのため、確定申告は、収入を証明するためにも重要です。
早めに確定申告をすれば、無申告加算税が軽くなる可能性も
ここまで見てきたようなペナルティを軽減し、デメリットを避けるためには、早めの確定申告が欠かせません。
申告期限を過ぎてからの確定申告(期限後申告)であっても、過ぎてしまった期間が短ければ、無申告加算税がかからなかったり、軽減される可能性があるのです。
それでは、
- 無申告加算税が発生しないケース
- 無申告加算税が軽減されるケース
についてご説明します。
(1)無申告加算税が発生しないケース
次のどちらかに当てはまっている場合には、申告期限を過ぎてしまっていても、無申告加算税は原則として発生しません。
- 申告期限内に確定申告をしなかったことについて、真にやむを得ない事由があると認められる場合
※真にやむを得ない事由としては、災害、交通、通信の途絶などが具体例とされています。 - 1.税務署の調査前かつ申告期限から1ヶ月以内に自主的に申告をし、さらに、2.もともと申告期限中に確定申告をする意思があったと認められる一定の場合
(2)無申告加算税が軽減されるケース
「もうとっくに期限から1ヶ月以上経ってしまっている」という方でも、無申告加算税の額を少なくできる可能性はあります。
税務署の調査を受けるよりも前に、自主的に期限後申告
をすれば、無申告加算税の利率が「一律5%」となるからです(国税通則法66条6項)。
先ほど出てきた無申告加算税の原則の利率「15%(50万円を超えた部分:20%)」よりも、支払額を大幅に下げることができます。
確定申告について押さえておきたい4つの注意点
「早く確定申告すればペナルティが軽減されるとは言っても、支払えるかな?このまま申告しないでいれば、税金を払わずに済ませられるかも……?」と考えた方もいることと思います。
しかし、このまま確定申告せずにいることで支払わずに済む可能性は低いです。それでは、確定申告についての4つの注意点についてご説明します。
(1)注意点1|確定申告の放置を見逃してもらえる可能性は低い
期限までに確定申告をせず、その後も期限後申告をしないでいた場合、最長で「申告期限の翌日から7年」経過すると税務署長等の調査による課税標準等の決定がされなくなります (国税通則法70条5項1号)。
じゃあ、確定申告せずにほっておけば、税金を払わなくて済むんじゃないですか?
いいえ、そんなに上手くはいきません。
この7年間のうちに、国税庁が期限後申告をするよう滞納者に要請し、応じなければ給与の一部や預貯金などといった財産を差し押さえることで回収する(滞納処分、国税通則法40条)こととなる可能性も十分にあります。
税金を滞納した場合の差押えリスクについて、詳しくはこちらをご覧ください。
(2)注意点2|赤字であっても、確定申告した方がよいケースがある
事業が赤字であれば、その事業についての確定申告は不要というのが法律上の原則です。
赤字の場合には、所得税の対象となる所得がないこととなるからです。
しかし、赤字であっても確定申告(青色)した方が経済的にメリットのあるケースがあります。
例えば、赤字の分を確定申告することで、3年間損失を繰り越すことができます。今後の黒字と相殺することで、黒字になっている年度でも、所得税を軽減できる可能性があるのです(繰越控除)。
「赤字だったから確定申告しても仕方ない」と決めずに、確定申告を検討してみることをおすすめします。
(3)注意点3|一括で払えないときの対処法
「確定申告しようにも、一括で支払えなさそう」という場合には、早めに国税局電話相談センターなどに相談してみてください。
支払いを放置しておくと差押えなどのおそれがあります。しかし、早めに相談すれば、「1年間差押えをしないでおいてもらう+その間に分割で支払う」などの柔軟な対処をしてもらえる可能性があります。
(4)注意点4|虚偽の確定申告はNG!懲役・罰金のおそれ
また、支払額を減らしたいからといって、実際よりも売り上げを少なく書くなど、虚偽の確定申告は絶対にしてはいけません。このような虚偽の申告をした場合、
- 3年以下の懲役
- 20万円以下の罰金
- 懲役、罰金の両方
に処されるリスクがあるからです(国税通則法126条1項)。
支払いが大変そうなときは、分割払いなどにできないかを窓口にて相談することが肝心です。
【まとめ】期限を過ぎてしまっていても、なるべく早めに確定申告を!
今回の記事のまとめは次のとおりです。
- 確定申告をしなかった場合の主なペナルティは次の3つ。
- 無申告加算税
- 延滞税
- (特に悪質なケース)重加算税
- 確定申告をしなかった場合の、日常生活における主なデメリットは次の3つ
- 税金の還付を受けられない
- 控除を受けられない
- 【特に自営業の人は】収入の証明が難しくなる
- 調査が入るよりも前に期限後申告をすることで、無申告加算税が軽減される可能性がある。
- 確定申告について押さえておきたい注意点は次の4つ。
- 確定申告しないままでいると、財産を差し押さえられてしまうおそれがある
- 赤字であっても、確定申告をすることで今後の節税につながる可能性がある
- 一括で払えないときでも、国税庁の窓口に早めに相談すれば分割払いにできる可能性がある
- 意図的に虚偽の確定申告をすると、懲役・罰金刑のおそれがある
ペナルティを軽減したり、デメリットを回避するためには、なるべく早めに期限後申告をすることがおすすめです。
期限後申告などについてご不明点がある場合には、国税庁の相談窓口へお問い合わせください。