自転車を運転していたIさんは、脇道から出てきた自動車と接触して転倒。顔面を道路に強打し、額の部分に10針ほど縫うケガを負ってしまいました。
交通事故で縫うほどのケガを負ったとき、被害者は事故の相手方(加害者)に対してさまざまな賠償金を請求することができます。
この記事では、交通事故で縫うほどのケガを負った場合、
- 加害者に対して請求できる賠償金の種類
- 縫った跡が残ってしまった際に請求できる慰謝料
- 適切な賠償金を受け取るためのポイント
について、弁護士が解説します。
愛知大学、及び愛知大学法科大学院卒。2010年弁護士登録。アディーレに入所後,岡﨑支店長,家事部門の統括者を経て,2018年より交通部門の統括者。また同年より、アディーレの全部門を統括する弁護士部の部長を兼任。アディーレが真の意味において市民にとって身近な存在となり、依頼者の方に水準の高いリーガルサービスを提供できるよう、各部門の統括者らと連携・協力しながら日々奮闘している。現在、愛知県弁護士会所属。
交通事故で縫うほどのケガを負ったら賠償金を請求できる
交通事故でケガを負った被害者は、不法行為にもとづく損害賠償という形で、加害者に対して賠償金を請求できます。
損害賠償とは、違法な行為によって他人に損害を与えた者(=加害者)が、被害者に対してその損害を償(つぐな)うことをいいます。
損害賠償の法律上の根拠は民法第709条です。
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
引用:民法第709条
これにより交通事故の被害者は、ケガの治療費のような実際にかかった費用のほかに、事故にあったことで働けなくなった分の収入、事故によって得られなくなった将来の収入、精神的苦痛(=痛い・つらい)を負ったことへの慰謝料などを加害者に請求できます。
損害賠償の義務を負うのは加害者本人のほか、自動車を従業員に運転させていた雇い主、加害車両の所有者、未成年が加害者の場合の保護者(親)などです。
交通事故で傷口を縫う治療を受けた場合に請求できる損害賠償
交通事故によってケガを負い、傷口を縫う治療を受けた被害者は、加害者に対して以下のような損害賠償を請求できます。
(1)入通院が必要となったことへの慰謝料
交通事故の被害者は、ケガを負って入通院が必要になったことによる精神的苦痛について、加害者に対して慰謝料を請求できます。これを入通院慰謝料(傷害慰謝料)といいます。
(1-1)交通事故の入通院慰謝料には3つの算定基準がある
交通事故の入通院慰謝料を算定する基準には「自賠責保険基準」「任意保険基準」「弁護士基準」の3つがあります。
(1-1-1)自賠責基準
自動車損害賠償保障法(自賠法)によって定められている、損害賠償金の支払額の基準です。被害者への最低限の補償を目的として設けられているもので、慰謝料の基準額は3つの算定基準のうち最も低くなります。
(1-1-2)任意保険基準
任意保険会社が独自に設けている損害賠償の基準で、基本的に非公表です。
金額は、自賠責基準と同程度か、やや高い程度です。通常、任意保険会社はこの基準を用いた金額で示談を提案してきます。
(1-1-3)弁護士基準(裁判所基準)
過去の交通事故事件の判決に基づいて設定された基準です。3つの基準の中では最も高額となります。
(1-1-4)弁護士基準は最も高額
これらを金額の大きい順に並べると、一般に
弁護士基準>任意保険基準>自賠責基準
となります。
被害者本人(加入する保険会社の示談代行サービスを含む)が加害者側の任意保険会社と示談交渉すると、加害者側の任意保険会社は自賠責基準や任意保険基準による慰謝料額を提示してくるのが通常です。
これに対し、弁護士が被害者本人に代わって示談交渉や裁判を行う場合は、通常最も高額な弁護士基準が用いられます。
(1-2)入通院慰謝料の基準額
では、入通院慰謝料の目安はいくらほどになるのか、自賠責基準と弁護士基準を比較してみましょう(任意保険基準は非公表なので省略します)。
【自賠責基準の場合】
自賠責保険基準では、入通院慰謝料は基本的に1日あたり4300円と考えます。
実際の計算では、次のイ・ロのうち少ない金額のほうが採用されます。
イ 実入通院日数×2×4300円
ロ 入通院期間×4300円
(2020年4月1日以降に起きた事故の場合)
【弁護士基準の場合】
弁護士基準では、入院と通院の期間によって定められた算出表があり、その表に従って慰謝料額が算出されます。
おおまかに言うと、重傷か軽傷かによって異なる2種類の算定表が使われます。
骨折などの場合は別表Ⅰ、むち打ち症で他覚所見がない場合別表Ⅱを用います。
縦軸が通院期間、横軸が入院期間で、それぞれの期間が交差する箇所が慰謝料額の目安となります。
障害慰謝料(別表Ⅰ)(単位:万円)
入院 | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 | 13月 | 14月 | 15月 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
通院 | 53 | 101 | 145 | 184 | 217 | 244 | 266 | 284 | 297 | 306 | 314 | 321 | 328 | 334 | 340 | |
1月 | 28 | 77 | 122 | 162 | 199 | 228 | 252 | 274 | 291 | 303 | 311 | 318 | 325 | 332 | 336 | 342 |
2月 | 52 | 98 | 139 | 177 | 210 | 236 | 260 | 281 | 297 | 308 | 315 | 322 | 329 | 334 | 338 | 344 |
3月 | 73 | 115 | 154 | 188 | 218 | 244 | 267 | 287 | 302 | 312 | 319 | 326 | 331 | 336 | 340 | 346 |
4月 | 90 | 130 | 165 | 196 | 226 | 251 | 273 | 292 | 306 | 316 | 323 | 328 | 333 | 338 | 342 | 348 |
5月 | 105 | 141 | 173 | 204 | 233 | 257 | 278 | 296 | 310 | 320 | 325 | 330 | 335 | 340 | 344 | 350 |
6月 | 116 | 149 | 181 | 211 | 239 | 262 | 282 | 300 | 314 | 322 | 327 | 332 | 337 | 342 | 346 | |
7月 | 124 | 157 | 188 | 217 | 244 | 266 | 286 | 304 | 316 | 324 | 329 | 334 | 339 | 344 | ||
8月 | 132 | 164 | 194 | 222 | 248 | 270 | 290 | 306 | 318 | 326 | 331 | 336 | 341 | |||
9月 | 139 | 170 | 199 | 226 | 252 | 274 | 292 | 308 | 320 | 328 | 333 | 338 | ||||
10月 | 145 | 175 | 203 | 230 | 256 | 276 | 294 | 310 | 322 | 330 | 335 | |||||
11月 | 150 | 179 | 207 | 234 | 258 | 278 | 296 | 312 | 324 | 332 | ||||||
12月 | 154 | 183 | 211 | 236 | 260 | 280 | 298 | 314 | 326 | |||||||
13月 | 158 | 187 | 213 | 238 | 262 | 282 | 300 | 316 | ||||||||
14月 | 162 | 189 | 215 | 240 | 264 | 284 | 302 | |||||||||
15月 | 164 | 191 | 217 | 242 | 266 | 286 |
障害慰謝料(別表Ⅱ)(単位:万円)
入院 | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 | 13月 | 14月 | 15月 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
通院 | 35 | 66 | 92 | 116 | 135 | 152 | 165 | 176 | 186 | 195 | 204 | 211 | 218 | 223 | 228 | |
1月 | 19 | 52 | 83 | 106 | 128 | 145 | 160 | 171 | 182 | 190 | 199 | 206 | 212 | 219 | 224 | 229 |
2月 | 36 | 69 | 97 | 118 | 138 | 153 | 166 | 177 | 186 | 194 | 201 | 207 | 213 | 220 | 225 | 230 |
3月 | 53 | 83 | 109 | 128 | 146 | 159 | 172 | 181 | 190 | 196 | 202 | 208 | 214 | 221 | 226 | 231 |
4月 | 67 | 95 | 119 | 136 | 152 | 165 | 176 | 185 | 192 | 197 | 203 | 209 | 215 | 222 | 227 | 232 |
5月 | 79 | 105 | 127 | 142 | 158 | 169 | 180 | 187 | 193 | 198 | 204 | 210 | 216 | 223 | 228 | 233 |
6月 | 89 | 113 | 133 | 148 | 162 | 173 | 182 | 188 | 194 | 199 | 205 | 211 | 217 | 224 | 229 | |
7月 | 97 | 119 | 139 | 152 | 166 | 175 | 183 | 189 | 195 | 200 | 206 | 212 | 218 | 225 | ||
8月 | 103 | 125 | 143 | 156 | 168 | 176 | 184 | 190 | 196 | 201 | 207 | 213 | 219 | |||
9月 | 109 | 129 | 147 | 158 | 169 | 177 | 185 | 191 | 197 | 202 | 208 | 214 | ||||
10月 | 113 | 133 | 149 | 159 | 170 | 178 | 186 | 192 | 198 | 203 | 209 | |||||
11月 | 117 | 135 | 150 | 160 | 171 | 179 | 187 | 193 | 199 | 204 | ||||||
12月 | 119 | 136 | 151 | 161 | 172 | 180 | 188 | 194 | 200 | |||||||
13月 | 120 | 137 | 152 | 162 | 173 | 181 | 189 | 195 | ||||||||
14月 | 121 | 138 | 153 | 163 | 174 | 182 | 190 | |||||||||
15月 | 122 | 139 | 154 | 164 | 175 | 183 |
例えば、
- 入院を1ヶ月・通院を1ヶ月した場合、別表Ⅰで算定すると77万円となります。
- 入院を1ヶ月・通院を1ヶ月した場合、別表Ⅱで算定すると52万円となります(別表Ⅱ)。
このように、別表Ⅰのほうが金額は高くなります。
基本的に、入通院の期間が長くなるほど慰謝料は高くなります。
【事例】
交通事故で10針縫う切り傷を負い、1ヶ月通院治療。実通院日数は10日間
この場合の入通院慰謝料の金額(目安)は、
- 自賠責基準の場合:8万6000円
- 弁護士基準の場合:28万円(別表Ⅰ)
となります。
弁護士基準のほうが、自賠責基準よりもかなり高くなることが分かります。
(2)実際にかかった治療費や通院交通費など
通院時にかかった治療費や交通費など、以下のものは実際にかかった実費を請求できます。
- 治療費
- 通院交通費(公共交通機関の料金のほか、自家用車のガソリン代など)
- 入院雑費(入院中の日用品の購入費など)
なお、請求できるかどうか判断が難しいものもあるので、加害者側との示談が成立するまでは、入通院に関するあらゆる領収書を保管しておくことをおすすめします。
(3)治療のため働けなかった分の損害
交通事故でケガを負ったことにより働けない日が発生し、本来なら得られるはずだった収入を得られなくなった場合、その分を損害として加害者に請求できます。これを「休業損害」といいます。
休業損害の額は、事故直前の給与額などから算定します。
専業主婦などの家事従事者が事故にあい、家事ができなくなった場合にも休業損害の賠償請求が可能です。
この場合、厚生労働省が実施する賃金構造基本統計調査(「賃金センサス」といいます)を参考として、休業損害の金額を算定します。
休業損害について詳しくは、こちらの記事もご参照ください。
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交通事故で傷口を縫った跡が残ってしまった場合に請求できる損害賠償
交通事故によるケガで傷口を縫う治療を受けた後、その傷跡が残ってしまうことがあります。この場合、被害者が加害者に請求できる損害賠償の内容を以下で説明します。
(1)傷跡が「後遺障害」として認められることが必要
交通事故のケガで傷跡が残ったことにより請求できる損害賠償には、
- 後遺症慰謝料
- 後遺症逸失利益
の2つがあります。
これらを請求するには、まずその傷跡が「後遺障害」として認められる必要があります。
後遺障害とは、ケガや病気を治療した後、医学的にこれ以上回復できない状態(これを「症状固定」といいます)で残った症状のうち、所定の機関(損害保険料率算出機構など)の審査により後遺障害と認定されたものをいいます。
後遺障害は1~14級(および要介護1級・2級)の等級に分かれており、1級の症状が最も重く、症状が軽くなるに従って2級、3級……と等級が下がっていきます。
各等級で、眼・耳・四肢・精神・臓器など各部位や系統に応じた障害の認定基準が定められています。
後遺障害の認定を受けるための方法には、
- 事前認定:加害者側の任意保険会社に申請を依頼する方法
- 被害者請求:被害者自身が全ての手続きを行う方法
の2種類があります。
事前認定は、申請手続きのほとんどを加害者側の任意保険会社に任せるため、手間がかからないというメリットがあります。
しかし、提出する書類を被害者側で検討できないというデメリットもあります。
というのも、加害者側の保険会社は、被害者にとって有利な障害等級が認められるよう尽力する立場にはありません。
そのため、事前認定の場合、必要最低限の書類しか提出されず、適切な等級が認定されないケースもあり得ます。
これに対し、被害者請求は、被害者自身が申請する方法です。被害者が自ら必要書類を収集し、加害者側が加入する自賠責保険会社に提出します。
全ての手続きを自分でしなければならないため手間はかかりますが、必要な資料を被害者自身がチェックできるため、適切な等級が認定される可能性が高くなるというメリットがあります。
(2)後遺障害が残ったことに対する慰謝料
後遺障害が認定されると、被害者は加害者に対して後遺症慰謝料を請求できます。
これは、後遺障害を負ったことにより被る精神的苦痛(=痛い・つらい)に対する慰謝料であり、その金額は、認定された後遺障害の等級によって異なります(最も重い1級が一番高くなります)。
後遺症慰謝料を算定する基準にも、入通院慰謝料のところで述べた
- 自賠責基準
- 任意保険基準
- 弁護士基準
の3種類があり、その金額は一般に
弁護士基準>任意保険基準>自賠責基準
となることも入通院慰謝料と同様です。
(2-1)顔・頭・首に傷跡が残った場合
顔面部や頭部、頸部(首)に傷跡が残った場合、後遺障害7級・9級・12級が認定される可能性があります。
この場合の後遺症慰謝料の相場について、自賠責基準と弁護士基準で算定した額を比較すると以下のようになります(なお、性別による差はありません)。
等級 | 部位 | 認定基準 | 自賠責基準(※) | 弁護士基準 |
---|---|---|---|---|
7級12号 「外貌に著しい醜状を残すもの」 | 頭部 | 頭部に残った手のひら大(指の部分は含まない。以下同じ)以上の瘢痕または頭蓋骨の手のひら大以上の欠損 | 419万円 | 1000万円 |
顔面部 | 鶏卵大面以上の瘢痕または10円玉大以上の組織陥没 | |||
頸部 | 手のひら大以上の瘢痕 | |||
9級16号 「外貌に相当程度の醜状を残すもの」 | 顔面部 | 長さ5cm以上の線状痕 | 249万円 | 690万円 |
12級14号 「外貌に醜状を残すもの」 | 頭部 | 頭部に残った鶏卵大面以上の瘢痕または頭蓋骨の鶏卵大面以上の欠損 | 94万円 | 290万円 |
顔面部 | 10円玉大以上の瘢痕または長さ3cm以上の線状痕 | |||
頸部 | 鶏卵大面以上の瘢痕 |
(※)2020年4月1日以降に起きた事故の場合
(2-2)腕や足に傷跡が残った場合
下肢(足)や上肢(腕)に傷跡が残った場合、後遺障害14級が認定される可能性があります(性別による差はありません)。
等級 | 部位 | 認定基準 | 自賠責基準(※) | 弁護士基準 |
---|---|---|---|---|
14級4号 「上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの」 | 上肢 | 腕の露出面に手のひら大の醜いあと | 32万円 | 110万円 |
14級5号 「下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの」 | 下肢 | 足の露出面に手のひら大の醜いあと |
(※)2020年4月1日以降に起きた事故の場合
(3)後遺障害が残ったことによって得られなくなった利益
後遺障害が残ったことで働くことができなくなり、事故にあわなければ得られたはずの収入を得られなくなったとき、その分の損害を加害者に請求できます。
これを、後遺症逸失利益といいます。
傷跡は、失明や骨折のように直接的に運動機能などに作用するものではないため、傷跡を理由とした逸失利益の請求は難しいケースも多くなります。
もっとも、例えば被害者の職業がモデルや接客業で、顔に傷跡が残ることで仕事を続けられなくなってしまう場合は請求が認められることもあります。
こちらは、ケースごとに検討が必要となります。
詳しくはこちらの記事もご確認ください。
交通事故の損害賠償で適切な額を受け取るためのポイント
交通事故のケガで適切な賠償金を請求するためには、まず事故後、医師の指示にしたがいきちんと通院を続けることが大切です。
また、加害者側の任意保険会社が示談交渉において提示する賠償金額に納得できず、適切な賠償額を知りたい場合、以下の理由から弁護士に相談するのがおすすめです。
- 弁護士に依頼すると、3つの賠償基準のうち通常最も高額な「弁護士基準」で示談交渉をスタートでき、賠償額を増額できる可能性がある。
- 傷跡が後遺障害に該当するかどうかの判断には、高度な専門的知識が必要。
- 後遺障害による逸失利益の発生を相手方に認めてもらうためには、にさまざまな観点から労働能力や収入への影響を主張・立証していく必要がある。
【まとめ】交通事故で縫うほどのケガを負い、お悩みの方はアディーレ法律事務所にご相談ください
交通事故でケガをした被害者は、加害者にさまざまな損害賠償を請求できます。
傷の治療費などだけでなく、傷跡が残ったことが後遺障害として認められれば、その分の慰謝料なども請求できます。
交通事故で縫うほどのケガを負い、適切な額の損害賠償を受け取りたい方は、アディーレ法律事務所にぜひ一度ご相談ください。