男性の育休の取得を主な目的とし、育児・介護休業法が改正されました(2022年4月1日から段階的に施行)。
この改正により、男性は、子どもの誕生直後8週間以内「最大4週間」の出生時育児休業が取得できるようになりました。今回新たに創設された出生時育児休業については、女性の産後休業が産後8週間とされていることから、男性版の「産休」制度とも言われています。
今回の改正では、企業側も男性が育休を取りやすくする環境の整備を行うことが義務付けられています。そのため、実際に育休制度があっても取得しづらいといったこれまで男性が置かれていた環境の改善も期待されています。
これから男性の育休取得を検討されている方、今回の育児介護休業法の改正の内容(男性の育休制度)について知っておきましょう(2025年度の育児介護休業法の改正も一部含む)。
この記事では、次のことについて弁護士が分かりやすく解説します。
- 男性の育休を取り巻く環境
- 男性の育休制度の概要
- 男性が育休を習得した場合の給料
- 男性の育休の取得に向けた企業側の取り組み
中央大学卒、アディーレ入所後は残業代未払いの案件をメインに担当し、2018年より労働部門の統括者。「労働問題でお悩みの方々に有益な解決方法を提案し実現すること」こそアディーレ労働部門の存在意義であるとの信念のもと、日々ご依頼者様のため奮闘している。東京弁護士会所属。
男性の育休を取り巻く環境
まず、男性の育休を取り巻く環境について知っておきましょう。
現在、男性の育休は取りづらいとされているのが実情で、政府としては、男性の育休の取得率の向上を目指しています。
(1)男性・女性の育休・産休の取得率
女性の育児休業取得率は2007年から80%以上となり続けているのに対し、男性の育児休業取得率は長年数%にとどまっています。
なお、2020年の男性の育児休業取得率は2019年より5%も増加しており、1996年以降一番の伸び率となっています。

※なお、2011年度の割合は、岩手県、宮城県、福島県を除く全国の結果となります。
参考:令和2年度雇用均等基本調査 結果の概要(事業所調査)|厚生労働省
(2)男性の育休取得率が低い原因とは
男性の育児休業の取得率が低い原因としては、男性が育児休業を取りづらい環境があると考えられています。
実際、2020年10月に厚生労働者が実施した調査によると、過去5年間に育休を取得しようとした男性労働者(経営者(自営業を含む)、役員、公務員を除く)500名のうち26.2%が、育休を取得したことなどを理由に嫌がらせ(育児休業等ハラスメント)を受けたと回答しています。
受けた嫌がらせの内容としては、上司による「制度等の利用の請求や制度等の利用を阻害する言動」が53.4%と割合として最も高く、次いで、同僚による「制度等の利用の請求や制度等の利用を阻害する言動」が33.6%と高くなっています。
参考:職場のハラスメントに関する実態調査報告書(概要版)|厚生労働省
(3)2025年までに男性の育児休業取得率30%を目標に
政府では2022年の育児介護休業法の改正に伴い、2025年までに男性の育児休業取得率を30%とする目標を掲げました。
日本においては、女性が子どもを持ちたいとの希望を持っていても、「子育てや教育にお金がかかりすぎる」「これ以上、育児の負担に耐えられない」「仕事に差し支える」といった理由でなかなか希望がかなわない状況にあります。
このような状況を鑑み、少しでも女性にかかる育児・家事の負担を軽減し、子育てしやすい環境づくりの整備のために、男性の育児休業取得率を上げることが目標として掲げられるようになりました。
なお、厚生労働省の令和5年度の雇用均等基本調査によると、男性の育休取得率は30.1%です。育休を取得しやすくする法改正や社会の理解などから、年々男性の育休取得率は上がっており、令和4年度の調査結果の17.13%からは13%も上昇しています。
しかし一方で、女性の育児休業取得率84.1%に比べると、格段に低い数値となっています。依然として、子どもが1歳に満たない時期の子育ては女性が担っていることがほとんどであることが分かります。
育児・介護休業法の改正―男性の育児休業制度が変わる
育児・介護休業の改正では、男性の産休・育休取得の促進を図るために、主に次の6つの点の改正が行われました(2025年度の育児介護休業法の改正内容も含む)。
- 男性版産休制度(出生時育児休業)の創設
- 育休の分割取得が可能に
- 育休の取得要件の緩和
- 会社が労働者に対して育休取得の打診を義務化
- 会社が男性の育休の取得状況の公表の義務化
- あたらしい給付金制度が創設
(1)【2022年10月1日から】男性版の産休制度の創設
今回の育児・介護休業法の改正に伴い、男性は、子の出生後8週間以内に4週間までの育児休業の取得が可能になりました。
これまでも男性には女性と同じく育児休業制度がありましたが、男性の取得率は低いままでした。そこで、新たに、男性の育休を取得しやすい環境づくりを目的に男性版の産休制度を創設することになりました。
(1-1)男性の育休制度の変更点(比較)
まず、男性の育休制度がどのように変わったのかを知っておきましょう。
通常の育児休業制度(男性・女性取得可能)では、原則分割取得できず、休業の1ヶ月前までに取得の申請が必要とされていましたが、今回新たに創設された男性版の産休制度(出生時育児休業制度)では、2回まで分割取得が可能となり、取得の申請も原則休業の2週間前までに変更になりました。
通常の育児休業制度(男性・女性取得可能)と今回新たに創設された男性版の産休制度(出生時育児休業制度)を比較すると、次のような点が変更されています。
なお、2022年10月1日から始まる男性の出生時育児休業制度については、通常の育休と合わせて取得することが可能となります。
通常の育児休業制度 | 男性版の産休制度(出生時育児休業制度) | |
---|---|---|
取得ができる期間 | 原則子が1歳(最長2歳)までに取得できる | 子の出生後8週間までに取得できる |
分割取得の可否 | 原則分割取得できない(※1) | 2回まで分割取得ができる |
取得の申出期限 | 原則休業の1ヶ月前まで | 原則休業の2週間前まで |
取得要件 | 「事業主に引き続き雇用された期間が1年以上である者」であることという要件あり | 「事業主に引き続き雇用された期間が1年以上である者」であることという要件廃止(※2) |
休業中の就業の可否 | 原則休業中に就業することはできない | 労使協定を締結している場合に、労働者と事業主の個別合意により、事前に調整した上で休業中に就業することをできる(※3) |
※1 通常の育休制度についても2022年10月1日から分割して2回取得することが可能となります。
※2 労使協定を締結した場合には、無期雇用労働者と同様に、事業主に引き続き雇用された期間が1年未満である労働者を対象から除外することができるため注意が必要です。
※3 具体的な流れとしては、労働者が事業主に就業条件を申出し、事業主は、労働者が申し出た条件の範囲内で候補日・時間を提示し、労働者が同意した範囲で就業が可能となる。
参考:育児・介護休業法の改正について~男性の育児休業取得促進等~|厚生労働省
参考:育児・介護休業法について(令和3年改正法の概要)|厚生労働省
(1-2)男性が育休を取得すると、給料はどうなる?
男性が出生時育児休業(通常の育休も含む)を取得すると、受給資格を満たしていれば、「育児休業給付金」が支給されることになります。
育児休業給付金とは、育児休業を取得した労働者が申請をすることで受けられる雇用保険からの給付金のことをいいます。
育児休業給金を申請することで、育休中であっても原則として休業開始時の賃金の67%(180日経過後は50%)に相当する金額の給付金を受けとることができます。
受給資格としては、育児休業開始日前2年間に、被保険者期間(※)が通算して12ヶ月以上あることが必要となります。
※なお、原則として賃金の支払の基礎となった日数が月に11日以上ある場合に1ヶ月と計算します。
参考:Q&A~育児休業給付~|厚生労働省
参考:令和4年10月から育児休業給付制度が変わります|厚生労働省
産休・育休中の手当や申請方法についてくわしく知りたい方はこちらの記事をご覧ください。
(2)【2022年10月1日から】男性の育休の分割取得が可能に
男性の育休の分割取得は原則認められていませんでしたが、今回の育児介護休業法の改正に伴い、2回まで分割取得が可能となりました。
分割取得が可能となったことにより、各家庭の事情に合わせた柔軟な育休取得が可能となりました(例えば、女性の出産直後と職場復帰の直前・直後の時期で分けて取得することも出来ます)。
(3)【2022年4月1日から】男性の育休を取得する要件の緩和
有期雇用労働者の育休の取得要件で「事業主に引き続き雇用された期間が1年以上である者」が廃止されることになります。
この結果、雇用期間が1年未満の人でも育休を取得することができるようになりました。
ただ、労使協定を締結した場合には、今までどおり対象から除外することが可能となるため注意が必要です。
(4)【2022年4月1日から】会社が労働者に対して育休の打診の義務化
2022年4月1日から会社が労働者に対して育休の取得の意向の打診をすることが義務付けられました。
これまで、男性の育休の取得をしやすい環境の整備を会社に義務付ける規定は存在せず、会社が男性に対して育休の取得に向けた働きかけを行うことはあまりありませんでした。
実際、育児などの休暇・休業の取得に対し、男性の6割以上が企業からの働きかけはなかったと回答しています。
しかし、会社には次の措置を講ずることが義務付けられることになりました。
- 育児休業を取得しやすい雇用環境の整備に関する措置(例:研修、相談窓口設置など)の整備
- 妊娠・出産(本人又は配偶者)の申出をした労働者に対して事業主から個別の周知及び休業の取得意向の確認する措置の義務付け
特に、会社が妊娠・出産を申し出した労働者(本人と配偶者)に対して個別に育休の取得の打診をすることについては、これまで努力義務とされていましたが、今回の改正に伴い、義務とされました。
男性にも育休の取得に際し、企業からの働きかけが行われ、男性も育休を取得しやすい環境が整備されていくことになるでしょう。
参考:令和2年度仕事と育児等の両立に関する実態調査のための調査研究事業報告書(労働者調査報告書81頁|厚生労働省
(5)【2023年4月1日から】男性の育休の取得の状況の公表の義務化
従業員が1000人を越える会社に対し、育休の取得率の公表が義務付けられることになりました。
社会からの目もありますので、会社としても、男性の育休の取得率を上げる必要があるといえるでしょう。
2025年4月1日からは、この義務が従業員が300人超の企業に拡大されます。
(6)【2025年4月1日から】あたらしい給付金制度が創設
2025年4月1日から、共働きと共子育てを推進するため、子どもの出生直後の一定期間に、パパママともに14日以上の育休を取得した場合、育児休業給付金又は出生時育児休業給付金にあわせて、「出生後休業支援給付金」が最大28日間支給されることになりました。
支給額は、休業開始時賃金日額×休業日数(28日上限)×13%です。
別途支給される育児休業給付金又は出生時育児休業給付金と併せて考えると、育休取得前とくらべてもほぼ同額の収入が得られることになります。
また、同日から、2歳未満の子どもを養育するために所定の労働時間を短縮して、時短で就業した場合に、賃金が低下するなど一定の要件を満たすと、「育児時短就業給付金」が支給されます。
子育てによる収入減のダメージを減らすために、あたらしい給付金制度の受給も視野に入れて、計画的に育休を取得したいところですね。
2025年度の育児介護休業法改正について詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
【まとめ】男性の産休が取得しやすくなる可能性あり!
今回の記事のまとめは次のとおりです。
- 今回の育児・介護休業法の改正により、男性について子どもの誕生直後8週間以内に「最大4週間」の出生時育休休業が取得できるようになった(男性版産休制度)。
- 男性の産休・育休の取得に向けた改正のポイント
- 男性版産休制度(出生時育児休業)の創設
- 育休の分割取得が可能に
- 育休の取得要件の緩和
- 会社が労働者に対して育休取得の打診を義務化
- 会社が男性の育休の取得状況の公表の義務化
- あたらしい給付金制度が創設
- 今回の育児・介護休業法の改正により男性も育休を取得しやすい環境となることが期待されている。
ご自身の勤め先の育休制度について不明な点がある場合には、ご自身の勤め先の人事課にお問い合わせください。また、育児休業給付金の受給について不明な点がある場合には、お近くのハローワーク等の公的機関にお問い合わせください。