夫婦別姓のメリットやデメリットとは?抱える問題について詳しく解説

夫婦別姓のメリットやデメリットとは?抱える問題について詳しく解説
日本では、外国籍の異性と結婚するのでない限り、法律上、夫婦別姓は認められていません。
しかしながら、夫婦関係も多様化しており、結婚後も夫婦別姓でそれぞれの婚姻前の姓を維持したいと考える夫婦もいます。
そこで今回の記事では、日本の夫婦別姓の現状、夫婦別姓のメリットやデメリット、夫婦別姓が抱える問題などについて、詳しく解説します。

夫婦別姓の現状とは

日本では、婚姻時に、男女どちらかが一方の氏に変更しなければならず、同性、別姓を選択する自由はありません。その結果、改姓をする96%が女性となっており(下記の「平成28年度厚生労働省統計」)、男女平等の観点からも問題視されています。

また、夫婦同姓を強制している国は、先進国のなかでは日本だけであり、世界的に見ても夫婦別姓を選択できる国がほとんどです。
次では、日本での夫婦別姓の現状について詳しく解説します。
日本での夫婦別姓の現状

(1)日本では夫婦別姓は認められていない

氏名は、個の表象であり、個人の人格の重要な一部であって、憲法第13条で保障する人格権の一内容を構成すると考えられています(最高裁判所判決昭和63年2月16日民集第42巻2号27頁)。
判例上、氏名は、個人がその人らしく生きるために、重要な一部と認められているのです。

しかしながら、民法第750条は、「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」と規定しています。
その規定を受けて、戸籍法第74条および第14条1項は、夫婦の姓が同一であることを前提として戸籍を作成することを規定しています。
日本では、法律上夫婦別姓は認められず、婚姻の際に一方が他方の姓に変更しなければなりません。
所属する組織によっては、結婚後も、姓を変更した側が、仕事上の同一性などを確保するために「通称」として旧姓を名乗り続けることは可能ですが、法律上は、結婚するために夫婦のどちらかが姓を変えなければならないことには変わりがありません。

(2)夫婦別姓の実現に向けた動き

夫婦同姓を強制する法律は、実質的には婚姻の際に女性に対して姓の変更を強制するものとなっており、昔からその問題性が指摘されていました。
夫婦別姓を認めていないことなどの民法の規定が憲法に反するかどうかが争われた訴訟で、最高裁大法廷は、2015年12月16日、合憲との判断を下しました。
しかし、大法廷判決の裁判官は15人おり、そのうち5人の裁判官は違憲という判断をしたことが話題となりました。
夫婦別姓を強制する法律が違憲であるとの原告の主張は認められませんでしたが、夫婦の姓の在り方に対する問題が社会に広く認知されるようになったのです。

2017年に実施された『家族の法制に関する世論調査』では、「選択的夫婦別姓を認めるために法律を改めてもかまわない」と賛成する人は42.5%にのぼっており、法律を改める必要はないと反対する人の29.3%よりも、約13%高いという結果が出ています。

夫婦別姓を求める世論の変化、旧姓を使用しながら社会で活動する女性の増加などの影響などから、政令が改正され、2019年11月5日から、住民票とマイナンバーカードに旧姓を併記することができるようになりました。

その後も、民法が夫婦別姓を強制するのは違憲であるとして、各地で訴訟が提起されています。

夫婦別姓が実現する条件とは

夫婦同姓を強制しているのは、民法とそれを受けた戸籍法ですので、夫婦別姓の実現のためには、民法及び戸籍法の改正が必要となります。

現行の日本の法律で日本人同士が夫婦別姓を実現する方法としては、法律婚はせず、婚姻届の提出を行わずに夫婦として生活する内縁関係(事実婚)を選択する方法と、婚姻届を提出して戸籍上は夫婦同姓となるものの通称として旧姓を名乗り続ける方法があります。
内縁関係を選択する場合、住民票上その関係が明確になるよう、住民票登録の際に続柄欄に「妻(未届)」、「未届けの妻」などと記載してもらうように申し出をするとよいでしょう。

夫婦別姓にすることによるデメリットとは

夫婦別姓を実現するために、内縁関係を選択した場合には次のようなデメリットがあります。

(1)子どもに関するデメリット

法律上の夫婦の間に生まれた子は「嫡出子(ちゃくしゅつし)」とされ、法律上の父子関係は当然に生じますが、内縁関係の男女の間に生まれた子(婚外子)は「非嫡出子」とされ、父子関係は法律上当然には生じません。

非嫡出子と、内縁の夫と間に法律上の父子関係を生じさせるためには、内縁の夫が別途認知をすることが必要となります。
非嫡出子は、認知されない限り、内縁の夫との法律上の父子関係がありませんので、法律上父親に扶養を求める権利はなく、父親の法定相続人ともなりません。

そして、子どもは母親の戸籍に入り、基本的に母親の姓を名乗ることになりますので、父親とは姓が異なることになります。
認知された子は、家庭裁判所に「子の氏の変更許可審判申立て」を行い、変更許可の審判がなされた後、役場へ父親の戸籍への入籍届を提出すると、父親の戸籍に入り、父親と同じ姓を名乗ることができます(母親の戸籍からは除籍されます)。
また、基本的に、子どもは母親の単独親権となります。父親が子どもを認知した後、協議のうえで親権者を父親に変更することはできますが、共同親権は認められません。共同親権は法律婚の夫婦にのみ認められており(民法第808条3項)、内縁関係には認められていないためです。

(2)相続に関するデメリット

内縁関係における夫婦は、お互いに法定相続人とはなりませんので、夫または妻が死亡しても、その配偶者は法定相続人として遺産を受け取ることができません。

子どもがいれば、子どもは母親の法定相続人となり、父親の認知を受けていれば、父親の法定相続人となります(民法第887条1項)。
子どもがいない場合には、直系専属(両親や祖父母)が法定相続人となり、直系専属が死亡している場合には兄弟姉妹が法定相続人となります(民法第889条1項)。

(3)税金の優遇がないなど公的サービスにおけるデメリット

内縁関係は、税法上は配偶者としては認められていませんので、所得税の配偶者控除や配偶者特別控除などの優遇は受けられません。
また、法律婚の配偶者が相続・贈与した場合に受けられる相続税・贈与税の各種特例や控除は、内縁関係では受けることはできません。

(4)住宅ローンを組めないなど家に関するデメリット

夫婦共働きの場合、夫婦でペア・ローンなどの住宅ローンを組むケースも多いのですが、内縁関係の場合には、法律婚の夫婦と同様のペア・ローンを組むことは基本的に難しいといわれています(金融機関によっては、可能な場合もあります)。

家族や夫婦向けの賃貸住宅について、賃貸借契約をする際にも、内縁関係の場合、審査の際に法律婚の夫婦よりも不利になる可能性があります。

(5)家族の証明が難しいことや世間体でのデメリット

社会的には、通常、姓の同一性で家族であるか否かを判断しているので、夫婦、父子の姓が異なる夫婦別姓の家族は、家族であることを姓により証明することが難しくなります。

また、法律上結婚していれば、法律上日常生活について夫婦間に代理権がありますので、配偶者の代理人として契約をすることができますが(民法第761条)、内縁関係ではこのような代理権はありません。
具体的には、病気やけがで意思表示できない場合に、代理人として手術や必要な処置について契約できないことがあります。

夫婦別姓にするうえで事前にやっておきたいこと

夫婦別姓の内縁関係を選択する前に、事前にやっておきたいこととして、相続の対策や子どもへの影響を考えておくこと、パートナーと意見をすり合わせておくことがありますので、次で詳しく説明します。

(1)相続の対策を考えておく

内縁関係の場合、夫や妻が亡くなっても、お互いにその法定相続人ではありませんので相続権がありません。
子どもがいれば、子どもが親の法定相続人となりますが、子どもがいない場合、夫婦が遺言書を残しておかないと、夫婦はお互いの遺産を相続することができず、それぞれの両親や兄弟姉妹が相続人として相続することになります。

したがって、内縁関係の夫や妻に財産を残すためには、遺言書を作成して遺贈したり、生前贈与をしたりして対策をとっておく必要があります。

また、一般的に、生命保険の受取人は戸籍上の配偶者と二親等以内の血族である法定相続人に制限されていますが、内縁関係でも生命保険の受取人とすることができる保険会社もあるようですので、生命保険を活用する方法もあります。

(2)子どもへの影響を考えておく

内縁関係の両親のもとに生まれた子どもは、親のどちらかと姓が異なることになります。
子どもが成長して物心つくようになれば、「なぜ親と名字が違うんだろう」、「なぜほかの親子はみんな名字が同じなんだろう」などと他人との違いに不安を覚えたり、他人にからかわれたりするかもしれません。

夫婦別姓により、子どもが不安に思っていないか、対外的に嫌な思いをしていないかなど、子どもの心情に配慮してしっかりとケアする必要があります。

(3)パートナーとしっかりと意見をすり合わせておく

法律婚をするか、内縁関係を選ぶかは、当事者で話し合って決めるべき問題です。
夫婦別姓を選択したい方は、当事者でよく話し合い、子どもや相続の問題、親族との関係、会社への報告などについても意見をすり合わせておくようにしましょう。

たとえば、一度内縁関係を選んでも、途中で法律婚する方もいますし、子どもに嫡出子としての法的地位を与えるために、妊娠発覚後法律婚をし、出産後離婚して内縁関係に戻る方もいます。

夫婦別姓はデメリットだけではない

内縁関係を選ぶことは、すでに紹介したようなデメリットが考えられますが、次のようなメリットもあります。

(1)姓が変わらないことによるメリット

何よりも、夫婦別姓を実現することができます。
「自分の姓に愛着がある」、「仕事の実績が旧姓に積み上げられているので姓を変更したくない」など、結婚により姓を変更したくない人にとっては、これまで通りの姓を維持することができます。
また、姓を変更すると、運転免許証、パスポート、銀行口座、保険などの各種手続が必要となりますが、このような煩雑な手続も不要です。

姓が変わりませんので、自分の姓で築いてきたキャリアの継続性も維持することができます。

(2)プライバシー面でのメリット

内縁関係の場合、結婚しても離婚しても、戸籍上の姓は変わらず、対外的な姓の呼称も変わりません。
したがって、結婚したことや離婚したことは戸籍に履歴として残りませんし、対外的にもわかりにくいので、プライバシー面でのメリットがあります。

(3)男女平等を実現できるメリット

法律婚する際に改姓をする人のおよそ96%が女性となっており(男性が改姓する割合はわずか4%)、事実上、婚姻の際に女性に対して改姓が強制されているともいえます。
もちろんなかには、改姓を希望する女性もいますが、夫の姓に変わることで、夫の従属物であるかのような気持ちになってしまい、自尊心を失い、精神的に不安定になる女性もいます。

内縁関係を選択し、夫婦別姓とすることで、自尊心を確保し夫婦平等を実現できるというメリットもあります。

【まとめ】夫婦別姓のメリットとデメリットを慎重に判断してよりよい選択を!

法律婚をせず、内縁関係を選択して夫婦別姓を実現することには、メリットとデメリットがあります。
どのような夫婦関係を築いていきたいのかを当事者でよく話し合って、メリットとデメリットを考慮したうえで、それぞれの夫婦にあった形を選択するようにするとよいでしょう。

内縁関係を選択する場合には、相続対策などを考えておく必要があります。
具体的にどのような遺言書を準備すべきか、遺言書の作成方法などについては、弁護士に相談することをおすすめします。

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この記事の監修弁護士

慶應義塾大学卒。大手住宅設備機器メーカーの営業部門や法務部での勤務を経て司法試験合格。アディーレ法律事務所へ入所以来、不倫慰謝料事件、離婚事件を一貫して担当。ご相談者・ご依頼者に可能な限りわかりやすい説明を心掛けており、「身近な」法律事務所を実現すべく職務にまい進している。東京弁護士会所属。

林 頼信の顔写真
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