あなたは
「財産分与には時効があるから、早く財産分与した方がよい」
「離婚後2年を過ぎてしまった場合には財産分与をできない」
といったことを聞いたことはありませんか。
確かに、財産分与には「離婚後2年」という時効があり、離婚後2年以内に財産分与を行うのが望ましいでしょう。
しかし、離婚後2年が迫っている場合、離婚後2年が過ぎてしまった場合であっても、全く財産分与ができないというわけではありません。
この記事では、
- 財産分与とは
- 「時効」と「除斥期間」の違い
- 財産分与の期限
- 財産分与の期限が迫っている場合の対処法
- 財産分与の期限後の対処法
について、弁護士が詳しく解説します。
離婚後の財産分与を検討されている方、財産分与が済んでいないにもかかわらず、離婚から時間が経過してしまっている方、ぜひ参考にしてください。
慶應義塾大学卒。大手住宅設備機器メーカーの営業部門や法務部での勤務を経て司法試験合格。アディーレ法律事務所へ入所以来、不倫慰謝料事件、離婚事件を一貫して担当。ご相談者・ご依頼者に可能な限りわかりやすい説明を心掛けており、「身近な」法律事務所を実現すべく職務にまい進している。東京弁護士会所属。
財産分与とは?


財産分与とは、夫婦が婚姻期間中に協力して形成した財産を、離婚に伴って分与する制度のことをいいます(民法768条1項)。
財産分与制度により、夫婦の一方が他方に対して財産の分与を請求することができますので、財産分与請求権といったりもします。
民法第768条1項
引用:民法|e-Gov法令検索
協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
財産分与の対象となる財産とは?

財産分与の対象となる財産は、原則、婚姻中に夫婦が協力して形成した財産(共有財産)です。婚姻前に取得した個人所有の財産(特有財産)は財産分与の対象にはあたりません。

もっとも、共有財産は、共有名義の財産に限られるわけではありません。
次のように、どちらに属するか不明な財産は共有財産と推定されますし、夫婦一方の単独名義の財産であっても、夫婦が協力して形成した財産という実質があれば、財産分与の対象となると考えられています。
名義別財産 | 考え方 |
共有名義の財産 | 共有財産として、原則分与対象 |
どちらに属するか不明な財産 | 共有財産と推定される(民法762条2項) |
単独名義の財産 | 夫婦が協力して形成した財産という実質があれば分与対象となる |
財産分与は時効ではなく除斥期間が適用される

財産分与には「時効」ではなく「除斥期間」が適用されます。
「時効」と「除斥期間」の違いについて説明します。
(1)時効とは
「時効(消滅時効)」とは、一定の期間が過ぎると権利がなくなることをいいます。
もっとも、時効の場合には「完成の猶予」や「更新」といって、期間を延長することができました。
完成の猶予 | 完成猶予事由が生じた場合に、時効の完成が先延ばしにされること |
更新 | 更新自由が生じた場合に、時効の進行がリセットされ、また一から時効が進行すること |
(2)除斥期間とは
一方、「除斥期間」は、一定の期間が過ぎると権利がなくなることをいい、この点は「時効」と同じです。
しかし、除斥期間には、「完成猶予」も「更新」もありません。一定の期間が過ぎれば、権利がなくなってしまいます。
財産分与には、「時効」ではなく「除斥期間」が適用されますので、一定の期間が過ぎれば、財産分与を請求する権利はなくなってしまうことになります。
財産分与は離婚後2年以内に行う

財産分与の除斥期間は、「離婚の時から2年」とされています。
そのため、財産分与を離婚してから行う場合には、離婚してから2年以内に財産分与を行うべきでしょう。
なお、2年以内に協議や調停などで財産分与による財産を引き渡す権利が確定した場合には、その権利の期限は10年間になります。
この10年という期限は、「除斥期間」ではなく「時効」となりますので、「完成の猶予」や「更新」もすることができます。
離婚後2年が迫っている場合の対処法
財産分与が終了していないにもかかわらず、離婚後2年が迫っている場合は、どうすればよいのでしょうか。
家庭裁判所に財産分与調停を申立てる

財産分与が終了していないにもかかわらず、離婚後2年が迫っている場合には、家庭裁判所に財産分与請求調停(※)を申立てるのがよいでしょう。
離婚後2年以内に家庭裁判所に財産分与請求調停(※)を申立てた場合には、離婚後2年以内に財産分与が終了していなくても、調停(もしくは審判)が終了するまで財産分与を行うことができます。
※ 「財産分与請求調停」とは?
「財産分与請求調停」とは、家庭裁判所において、調停委員が夫婦双方から事情を聴いて、夫婦が協力して得た財産があるのか、どちらがどの財産を取得すべきかといった事情を把握しながら、双方の合意を目指した話し合いを進めていく手続です。
すでに離婚している場合には、顔を合わせて話し合いをすることに抵抗があるかもしれませんが、調停手続においては、夫婦それぞれが調停委員と話す形で進められ、夫婦それぞれが顔を合わせることなく話し合うこととなります。

話合いがまとまらず調停不成立となった場合には、自動的に審判手続が開始され、裁判官が、双方の事情を踏まえて審判をすることになります。
離婚後2年が過ぎてしまった場合でも財産分与ができるケース
離婚後2年が過ぎてしまったら、一切財産分与ができないというわけではありません。
離婚後2年が過ぎてしまった場合でも財産分与ができるケースがあります。
離婚後2年が過ぎてしまった場合でも財産分与ができるケースとは、次のとおりです。
- 相手方が任意に財産分与に応じるケース
- 相手方に隠し財産があったケース
(1)相手方が任意に財産分与に応じるケース

当事者が任意で財産分与に応じた場合には、離婚後2年が経過していたとしても、財産分与をすることは可能です。
もっとも、相手方と話合いが決裂し、調停や審判を行いたいと考えても、すでに「除斥期間」が到来しているため、調停や審判を行うことができないとことには注意が必要です。
(2)相手方に隠し財産があったケース

相手方に隠し財産があった場合には、離婚後2年が経過した後であっても、隠し財産の引き渡し(財産分与)が可能であるとされています。
例えば、財産があることを隠したまま、離婚後2年が経過した場合にも財産分与することができないとすると、財産分与したくないと側としては、なんとか財産を2年隠せば財産分与を逃れられることになってしまいます。
これでは、財産分与したくない側にあまりに都合の良い制度となってしまい、本来財産分与を受け取るべき人が損をしてしまう結果となってしまいます。
このため、相手方に隠し財産があった場合には、離婚後2年が経過した後でも、隠し財産について引き渡し(財産分与)を求めることができるとされています。
【まとめ】財産分与には「離婚後2年以内」に!離婚後2年過ぎても財産分与ができるケースも
今回の記事のまとめは次のとおりです。
- 財産分与とは、夫婦が婚姻期間中に協力して形成した財産を、離婚に伴って分与する制度のこと。
- 財産分与は時効ではなく除斥期間(時効とは違い、期間の延長はできない)が適用される。
- 財産分与が終了していないにもかかわらず、離婚後2年が迫っている場合には、家庭裁判所に財産分与請求調停(家庭裁判所において財産分与を話し合う方法)を申立てるのがおすすめ。
- 離婚後2年が過ぎてしまった場合でも財産分与ができるケース
- 相手方が任意に財産分与に応じるケース
- 相手方に隠し財産があったケース
財産分与でお困りの方は、弁護士にご相談ください。