「刑事事件の際に、よく『示談』って聞くけど、示談すれば罪が軽くなるの?」
刑事事件を起こしてしまったとき、通常は被害者と示談が成立するかどうかが、処分が決まるうえでの重要なポイントとなります。
示談が成立したことが、捜査機関や裁判所の判断に影響することもあるからです。
しかし、どのタイミングで示談すればよいのか、示談書にはどのようなことを記載すればよいのかなど、わからないことも多いでしょう。
そこで、今回の記事では刑事事件における示談の概要などについて弁護士が解説します。
この記事を読んでわかること
- 刑事事件における示談の影響
- 示談すべきタイミングや示談の流れ
- 示談書作成のポイント など
ここを押さえればOK!
示談成立により民事上の賠償責任はなくなりますが、刑事事件における責任が軽くなるとは限りません。
示談成立によって、早期に釈放されやすくなったり、不起訴処分になる可能性が高まったり、起訴後でも刑事処分が軽減される可能性が高まります。
一般的には早めに示談を行うべきであり、示談書には清算条項と宥恕条項を記載することがポイントになります。
被害者の感情に配慮したうえ、スムーズな示談成立を目指すためには、刑事事件を取り扱っている弁護士に依頼するとよいでしょう。
早稲田大学、及び首都大学東京法科大学院(現在名:東京都立大学法科大学院)卒。2012年より新宿支店長、2016年より債務整理部門の統括者も兼務。分野を問わない幅広い法的対応能力を持ち、新聞社系週刊誌での法律問題インタビューなど、メディア関係の仕事も手掛ける。第一東京弁護士会所属。
刑事事件における示談とは
示談とは、犯罪の被害者に対して加害者が金銭を支払い、民事上の賠償責任を果たすための話合いのことです。
示談金の内容としては、主にケガをさせた場合の治療費や、精神的苦痛に対する慰謝料などが考えられます。
示談の条件によっては、被害者が被害届を取り下げることや、被害者が加害者を許すという内容の意思表示をすることもあります。
そのため、示談が成立すると、民事上の賠償責任はなくなります。
また、捜査機関や裁判所の判断に一定の影響が生じる可能性はあるでしょう。
しかし、示談が成立したからといって、それだけで刑事事件における責任が軽くなるとは限りません。
「示談」と「和解」の違い
「示談」と同じような言葉に、「和解」がありますが、基本的に同じような意味だと考えてよいでしょう。
どちらも、「当事者同士がする紛争を解決する旨の合意」といった意味で用いられます。
示談によって期待できる4つの影響
被害者との示談が成立したことは、具体的にどのような影響を生じさせるのでしょうか。
具体的にいくつかご紹介します。
(1)被害届を取り下げてもらいやすくなる
すでに被害届が出されている場合、示談の条件に「被害届を取り下げること」を含めると、被害届を取り下げてもらうことができます。
被害届が取り下げられると、場合によっては捜査が終了したり、処分が軽くなったりする可能性があります。
犯罪にもよりますが、被害届が取り下げられていれば、少なくとも当事者間においては事件が解決しており、重い処分を下すべき必要性が減少しているといえる場合も多いからです。
ただし、被害届が取り下げられたという事実があれば、必ず処分が軽くなると決まっているわけではありません。
(2)早期に釈放されやすくなる
逮捕され、身体が拘束状態にある場合であっても、示談が成立することで早期に釈放される可能性が高くなります。
身体拘束が認められるためには、加害者が犯罪の証拠を隠滅するおそれや、逃亡するおそれがあるといえるかどうかが、重要な基準となっています。
この点、すでに示談が成立している状況であれば、今さら加害者が証拠を隠滅したり、逃亡したりするおそれは減少しているといえるため、釈放されやすくなるといえるでしょう。
もっとも、加害者が身体拘束を受けている場合、加害者本人が被害者と示談することは不可能なため、加害者の弁護士が示談交渉をすることになります。
(3)不起訴処分になる可能性が高まる
示談が成立していれば、不起訴処分になる可能性が高まると考えられます。
被害者との示談が成立しているという事実は、検察官が起訴か不起訴かを判断する際に考慮される重要な要素だからです。
後述しますが、特に、示談書のなかに「宥恕(ゆうじょ)条項」といって、被害者が加害者のことを許していることを示す条項が含まれていれば、不起訴処分が妥当だと判断される方向により傾きやすいといえます。
なお、不起訴になれば前科はつきません。
(4)起訴後も、刑事処分の軽減が期待できる
不起訴処分にはならず、起訴されてしまった場合でも、示談が成立しているという事実は加害者にとって有利に働く可能性があります。
たとえば、犯罪によっては略式起訴による罰金で済むことや、執行猶予付きの判決となることなどが考えられます。
あるいは、量刑を決める際に、加害者にとって有利な事情として考慮されることもあるでしょう。
執行猶予について詳しくはこちらの記事をご覧ください。
示談すべきタイミング
一般的には、示談は早ければ早いほどよいと考えられます。
これは、早く示談できていれば不起訴処分となる可能性があるからです。
また、起訴されてからでは、示談の効果が限定的になってしまうおそれがあります。
なお、逮捕・勾留による身体拘束を受けている場合、逮捕から最大23日以内に起訴・不起訴の判断がなされます。
もっとも、事件の内容や被害者の感情によっては、一概に早ければいいとは限りません。
たとえば、被害者のケガが重い場合や、強い被害感情が予想される性犯罪などの場合です。
早期の示談成立が望ましいとはいえ、被害者と合意できなければ示談はできません。
示談のタイミングは、具体的な状況や犯罪の性質に配慮したうえで判断すべきでしょう。
刑事事件における示談の流れ
示談の一般的な流れは、次のとおりです。
- 被害者の連絡先を入手
- 実際の示談交渉
- 示談成立
ただし、被害者の連絡先は、加害者本人には教えてもらえないのが一般的です。
また、弁護士が相手であっても、捜査機関が被害者の承諾なしに被害者の連絡先を伝えることはないと考えられます。
被害者が示談に向けた話合いに応じてくれそうであれば、示談の準備を進めます。
具体的に準備することは、たとえば次のとおりです。
- 示談金の用意
- 謝罪文の作成
- 示談金以外に誓約することがあればその内容(例:接触禁止) など
示談金をどれくらい用意できそうなのかによって、交渉内容や方針も変わってきます。
たとえば、相場より高い金額を支払ってでも早期解決を目指すのか、あまりお金を用意できないため、時間はかかっても真摯に謝罪して交渉を続けるか、などです。
示談書作成の2つのポイント
示談金の金額や支払方法のほか、示談書に記載すべきことには以下の2つがあります。
(1)清算条項
(2)宥恕条項
清算条項とは、当該示談において定めた内容のほかには、お互いに債権債務が存在しないことを確認するものです。示談金の再請求や再度の金額交渉を防止することを目的としています。
示談が成立し、示談書を作成する以上、清算条項は必ず記載されるものと考えられます。
宥恕条項とは、被害者が加害者のことを許していることを示すものです。
示談の内容によっては、「許す」といった内容だけでなく、「刑事処罰を望まない」と記載することもあります。
ただし、示談したからといって被害者は必ず宥恕(許すこと)しなければならないわけではありません。
示談金は受け取るけれども、宥恕はせず、示談書に宥恕条項は記載しないといった形の示談も存在します。
示談しなかった場合にはどうなる?
示談しなければ、示談が成立した場合よりも刑事処分が重くなってしまう可能性があります。
犯罪の内容にもよりますが、起訴・不起訴を判断する検察官は、一般的に被害者の処罰感情の大小や、賠償の事実の有無を非常に重視するからです。
また、起訴に至ったとしても、加害者が示談金(賠償金)を支払い、示談が成立している事実は、加害者にとって有利な事情になり得ることも、すでに述べたとおりです。
もちろん、示談の成立が必ずしも刑事処分における判断に影響するとは限りません。
それでも、加害者にとっては示談が成立しているに越したことはないでしょう。
刑事事件の示談を弁護士に依頼するメリット
それでは、刑事事件の示談を弁護士に依頼する代表的なメリットについて簡単にご紹介いたします。
(1)被害者の感情に配慮できる
加害者本人が示談交渉の相手になる場合、そもそも被害者が示談交渉のテーブルについてくれることすら難しい場合があります。
また、示談金の金額や、その他の条件についての提案を加害者本人が行う場合、被害者が反感を感じやすいと考えられます。それだけでなく、加害者と直接話すことに恐怖を感じる場合もあるでしょう。
その点、弁護士が代理人として示談交渉の窓口になれば、被害者の感情に配慮でき、スムーズに示談交渉をスタートさせやすいといえます。
(2)示談がまとまりやすくなる
被害者感情以外の点でも、弁護士に依頼すれば、スムーズな話し合いが期待できます。
やはり当事者同士の話合いだと、適切な示談の条件や示談書の記載・作成方法がわからず、示談交渉が長引いたり、記載内容についての無用なトラブルを招いたりしかねません。
(3)適正な金額での示談が期待できる
弁護士であれば、事件に応じた適正な金額を示談金として提示できます。
当事者同士だと、適正な金額がわからず、そうとは知らずに不当に高い金額を支払ってしまったり、逆に低い金額を提示したりして被害者の反感を買ってしまいかねません。
また、相場とされる金額は、たいてい被害者からすれば安いと感じるような金額であることが多いです。
しかし、専門家である弁護士が、提示額が法的に適正であることやその根拠を示せば、加害者本人が交渉に臨んだ場合よりも聞く耳を持ってもらえるでしょう。
【まとめ】示談成立は加害者に有利に働く可能性がある事情である
示談とは、犯罪の被害者に対して加害者が金銭を支払い、民事上の賠償責任を果たすための話合いのことで、必ずしも刑事処分についての判断に有利に働くとは限りません。
しかし、示談の成立が、起訴・不起訴の判断や、起訴後の量刑の判断に影響を及ぼすこともあります。
また、一般的に示談は早ければ早いほどよいですが、示談のタイミングは具体的な状況や犯罪の態様に配慮したうえで判断すべきです。
なお、被害者の感情に配慮するためにも、示談交渉は加害者本人ではなく弁護士が行ったほうが望ましいと考えられます。
早期の示談成立を目指し、法的に適切な内容の示談書を作成するためには、刑事事件を取り扱っている弁護士に相談・依頼するとよいでしょう。