介護職でも残業代は受け取れる!未払い残業代の計算方法と請求方法

  • 作成日

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    2023/10/19

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    2023/10/19

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目次

介護職でも残業代は受け取れる!未払い残業代の計算方法と請求方法
高齢化社会において、介護職に従事されている方が労働環境面で負担を強いられている実態があります。
そこには、介護職特有の事情や、介護という仕事の性質上必要となる作業などもあるでしょう。

しかし、仕事に対して適切な報酬が支払われるべきであるのは、介護職においても変わりません。

今回の記事では、介護職に従事されている方を念頭に置きながら、適切な残業代を計算し、雇用主に請求するための方法を考えていきましょう。

介護職の残業時間・残業代事情

全国労働組合総連合(全労連)では、「介護労働実態調査」という形で、介護労働者の実態についてのデータをまとめています。
これによると、1ヵ月の時間外労働は平均8.2時間、正規職員では平均10.2時間となっています。

ここでは、職員のうち25%の人が、残業代が支払われないサービス残業をしていると回答しています。
残業代が支払われない主な理由としては「自分から請求していない」、「請求できる雰囲気にない」、「支給されない業務や会議がある」といったものが挙がっています。

大人の体を持ち上げたりするなどの力仕事も多い現場であり、そうしたことからくる慢性的な人材不足も、こうしたサービス残業につながっているものと考えられます。

時間外労働の発生基準と、残業代の計算方法

時計
まず、法律で定められている時間外労働の発生基準と、割増賃金(いわゆる残業代)の計算方法について説明いたします。

(1)「法定労働時間」を超えた時間外労働には、法的に残業代が発生する

労働基準法第32条は、労働時間について、「1日8時間・1週40時間」を超えてはならないと定めています。 この労働時間の上限の枠のことを「法定労働時間」といいます。

1項 使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない。
2項 使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない。

引用:労働基準法第32条
ただし、常時10人未満の労働者を使用する特例事業(商業、映画・演劇業(映画の製作は除く)、保健衛生業、接客業)については、1週間あたりの法定労働時間が44時間とされています。
法律が定める「法定労働時間」に対し、会社が独自に定める労働時間のことを「所定労働時間」といいます。
そして、法定労働時間を超える労働時間を「時間外労働」と呼んでいます。

使用者は、労働基準法第36条に基づく労使協定を締結し、所轄の労働基準監督署に届け出ることにより、労働者に時間外労働や休日労働をさせることができるようになります。

時間外労働に対しては、会社は所定の割増率に基づく割増賃金を労働者に支払わなければなりません(労働基準法第37条)。これに対して、所定労働時間を超える残業を行ったとしても、それが法定労働時間の範囲内に収まるのであれば、通常賃金を支払えば足りるということになります。

(2)特殊な労働時間制と、「時間外労働」の発生基準

労働者が柔軟な働き方を実現できるように、法定労働時間の弾力的な運用が認められている労働形態もあります。
そのような場合でも、時間外労働が発生しうることには注意が必要です。

(2-1)フレックスタイム制

フレックスタイム制とは、一定の期間(「清算期間」と呼ばれます)を区切り、その期間なかで一定時間労働をすることとすれば、自由な時間に出勤・退勤できるという制度です。

フレックスタイム制を導入した場合には、清算期間における実際の労働時間のうち、清算期間における法定労働時間の総枠を超えた部分が時間外労働となります。
法定労働時間の総枠は、「1週間の法定労働時間(40時間)×清算期間の暦日数÷7日」という計算によって求められます。たとえば、清算期間が1ヵ月の場合、31日の月であれば「40×31日÷7」すなわち約177.1時間ということになります。

なお、清算期間が1ヵ月を超える場合には、1ヵ月ごとの労働時間が週平均50時間を超えてはならないとされているため、
  1. 1ヵ月ごとに、週平均50時間を超えた労働時間
  2. 1でカウントした時間を除き、清算期間を通じて、法定労働時間の総枠を超えて労働した時間
が、それぞれ時間外労働となります。

(2-2)裁量労働制

裁量労働制とは、業務の性質上、業務遂行に労働者の大幅な裁量を認める必要があるとされる一定の業務について、実際の労働時間に関係なく、一定の労働時間だけ働いたとみなす制度です。

裁量労働制には、「専門業務型裁量労働制」(労働基準法第38条の3)と「企画業務型裁量労働制」(同法第38条の4)の2種類があります。

裁量労働制の場合、労働したとみなされる時間数が法定労働時間(原則として1日8時間・週40時間)を超えている場合には、法定労働時間を超えて労働した部分が時間外労働となります。

(2-3)変形労働時間制

変形労働時間制は、実際の労働時間が法定労働時間(原則として1日8時間・週40時間)を特定の日または週において超えることがあっても、一定の単位期間の範囲内で平均した週の労働時間が法定労働時間を超えなければ違法とはならず、特定の日または週において法定労働時間を超えた部分についても時間外労働とはならないとする制度です。

変形労働時間制の場合、時間外労働となる時間数は、「1日単位の計算→週単位の計算→単位期間での計算」の順番で計算し、それらを合計することによって算出します。
  • 1日単位の計算:所定労働時間が「1日8時間を超える場合」は所定労働時間を超えて労働した時間、「1日8時間以下の場合」には8時間を超えて労働した時間
  • 週単位の計算:所定労働時間が「週40時間を超える場合」は所定労働時間を超えて労働した時間、「週40時間以下の場合」は週40時間を超えて労働した時間(1でカウントした時間を除く)
  • 単位期間の計算:対象期間における法定労働時間の総枠(40時間×対象期間の暦日数÷7)を超えて労働した時間(1、2でカウントした時間を除く)

(3)残業代の計算方法

割増賃金(残業代)は、「1時間あたりの賃金×対象の労働時間数×割増率」という計算式によって算出されます。

割増率については、労働基準法第37条が規定しています。
割増賃金は3種類
(※1)25%を超える率とするよう努めることが必要です。
(※2)中小企業については、2023年4月1日から適用となります。

介護業界に見られる「サービス残業」の典型ケース3つ

介護業界に見られる「サービス残業」の典型ケース3つ
一般に「サービス残業」とは、実際には労働をしているのに、勤務管理上の労働時間に計上されず、正当な割増賃金(残業代)が支払われない時間外労働・休日労働・深夜労働のことをいいます。

ここでは、介護業界にみられる、法律違反に相当する典型的なサービス残業のケースについて説明いたします。

(1)本来「労働時間」に含められるべきなのに、カウントされない

終業時間後と同様に、始業時間前でも、客観的に「労働時間」と認められる場合には残業代が発生します。

そこで、どのような時間が「労働時間」といえるかが問題となります。
労働基準法における「労働時間」とは、「使用者の指揮命令下に置かれたと客観的に評価できる時間」のことをいうとされています。

業務の準備行為などについても、「事業所内において行うことを使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされたとき」には、特段の事情がなく、社会通念上必要と認められるものである限り、労働基準法上の労働時間に該当するとされます。

これらは、2000年(平成12年)に最高裁判所による判決で示された定義であり、その後の判例等でも踏襲されて確立したものとなっています。
たとえば、以下のような時間は、一般的に労働時間とみなされています。
  • 業務時間外の記録作業・引き継ぎ作業・イベント準備作業・カンファレンス出席
  • 朝の業務開始前の準備時間
  • 夜勤における仮眠時間 ※仮眠している時間でも、要介護者に何か生じたときには即時の対応が業務上求められているものの、実態として即時対応が必要とされる事態の発生が皆無に等しい場合、労働時間としてみなされません。
  • 利用者送迎後の施設への帰路の時間

(2)「みなし残業代制(固定残業代制)だから残業代は出ない」と言われる

みなし残業代制(固定残業代制)が導入されている場合も、みなし残業代(固定残業代)に相当する残業時間を実際の残業時間が超過した場合は、使用者は超過時間分の割増賃金(残業代)を別途労働者に支払う義務があります。

みなし残業代に相当する残業時間が著しく高く設定されている場合(1ヵ月あたり90時間や100時間等)は、「働き方改革関連法」で厳格化された時間外労働の上限規制に抵触している可能性があるので、専門家に相談することをおすすめします。

(3)いわゆる「名ばかり管理職」である

労働基準法第41条2号の規定によって、管理監督者(「監督もしくは管理の地位にある者」)に対しては、労働基準法が定める労働時間・休憩・休日に関する規制の適用が除外されます。

そのため、使用者は時間外労働や休日労働に対して割増賃金の支払いをする義務がありません(深夜労働に対しては割増賃金を支払う義務があります)。

「管理監督者」とは、行政解釈によれば、「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者」のことをいうとされています。
またそれは、名称や肩書き、就業規則の定めのいかんにとらわれず、実態に即して客観的に判断されるべきであるとされます。

つまり、課長や部長等の肩書きが与えられていても、職務内容や勤務上の裁量等の点からみて管理監督者に相当する実態がない場合には、いわゆる「名ばかり管理職」の可能性があるということです。

具体的には、裁判例などでは、以下の点を考慮して、管理監督者該当性が判断されます。
  1. 経営者と一体性を持つような職務権限を有しているか(職務権限)
  2. 厳密な時間管理を受けず、自己の勤務時間に対する自由裁量を有しているか(勤務態様)
  3. その地位にふさわしい待遇を受けているか(待遇)
これらの実態がないとして管理監督者にあたらないと判断されれば、労働時間・休憩・休日に関する規制が、通常の労働者と同様に適用されることになり、時間外労働や休日労働に対する割増賃金の支払いも必要となります。

介護職でも残業代は受け取れる!未払い残業代の請求方法

未払いの残業代(割増賃金)がある場合、さかのぼって会社に請求できる場合があります。
その場合の請求方法について、説明いたします。

(1)残業代の消滅時効期間を確認する

過去にさかのぼって残業代を請求する場合には、まず、消滅時効期間に注意する必要があります。支払期日から一定の期間が経過すると、発生していたはずの賃金請求権が時効によって消滅してしまうためです。

従来、賃金請求権の消滅時効期間は、当該給与の支払期日から「2年」でしたが、2020年4月1日の労働基準法改正により、一般の債権と同様の「5年」に延長されました(労働基準法第115条)。
ただし、経過措置として、当面は「3年」の時効期間が適用されます。

「2年」と「3年」のどちらの時効期間が該当するかは、支払期日(給料日)の到来が改正法施行日以前か以後かによって定まります。
すなわち、2020年3月31日までに支払期日が到来する残業代については「2年」、2020年4月1日以降に支払期日が到来する残業代については「3年」の時効期間が適用されることになっています。
時効期間は、各支払期日(給料日)の翌日からスタートします。

弁護士に相談や依頼すると、こうした残業代の消滅時効期間の確認や、消滅時効期間の更新・完成猶予といった時効の完成を阻止するための法的手続きを行ってもらうことができます。

(2)残業実態の証拠を集める

労働時間は、原則として、客観的な記録が証拠となります。
労働時間を証明するための証拠として典型的なものはタイムカードです。また、タイムカード以外の資料であっても次のようなものが労働時間を証明する証拠となりえます。
  • Web打刻のスクリーンショット
  • タイムシートの写し
  • 出勤簿の写し など

(3)請求する

未払いとなっている残業代を請求するためには、まず使用者に直接申し入れるという方法があります。
適切な証拠を準備しておけば、請求に応じてもらえる可能性があります。

それでも支払ってもらえない場合や、話し合いに応じてもらえない場合などには、労働審判や訴訟といった法的手続を検討しましょう。

しかし、残業代の計算は複雑なものになりがちですし、的確な主張・立証も必要です。
そのため、未払い残業代の請求は、労働トラブルに精通した弁護士に相談・依頼することをおすすめします。
「自分の残業代がいくらくらい未払いになっているのか知りたい!」という方は、残業代かんたん計算ツールを利用してみてください。
あなたの未払い残業代を、簡単にチェックできます。
ただし、残業代かんたん計算ツールは簡易的な計算をするものです。実際の請求額とは異なることがありますのであらかじめご了承ください。

【まとめ】介護職でも残業代を受け取ることはできます。法律に基づいて適切に計算・請求をしましょう

今回の記事のまとめは以下のとおりです。
  • 介護職において、サービス残業などの違法な残業運営がなされている実態があります。
  • 「法定労働時間」を超えた時間外労働には割増賃金が発生します。これはフレックスタイム制などの変則的な労働時間制でも同様です。
  • 始業前や終業後に行う業務の準備行為なども労働時間に該当します。また、固定残業代制でも追加の残業代が出るケースはありますし、肩書のつく管理職だからといって残業代が出ないわけではありません。
  • 時効が完成しておらず、証拠を集めることができれば、未払い残業代の請求が認められる可能性があります。
サービス残業でお悩みの介護職の方は、弁護士や労働基準監督署などの公的機関へご相談ください。
また、未払い残業代の請求についてお悩みの方は、アディーレ法律事務所にご相談ください。

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この記事の監修弁護士

中央大学卒、アディーレ入所後は残業代未払いの案件をメインに担当し、2018年より労働部門の統括者。「労働問題でお悩みの方々に有益な解決方法を提案し実現すること」こそアディーレ労働部門の存在意義であるとの信念のもと、日々ご依頼者様のため奮闘している。東京弁護士会所属。

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